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体育祭
第32話 夢?
しおりを挟む「……ん」
目が覚めた。
天井を見つめる。
「あれ……?」
おかしい。
今、何時だ?
スマホを確認する。
『10月25日(土) 5:47』
十月二十五日。
体育祭の日。
「……え?」
でも、確かに――
体育祭は、もう終わったはずだ。
騎馬戦に出て、応援団をやって、家に帰って、次の日の朝――。
「夢……?」
体を確認する。
タッキングは、したまま。
ブラジャーも、つけたまま。
つまり、まだ寝る前の状態。
「全部、夢だったのか……」
体育祭。
騎馬戦。
ピンク色のブラ紐。
水色のブラ紐。
そして、次の日の朝の――
勃起。
マスターベーション。
全部、夢。
「……」
でも。
下半身を確認する。
硬くなっている。
朝立ち。
男の朝特有の現象。
「……まじか」
夢の内容が、現実になっている。
いや、違う。
夢を見たから、こうなったのか。
それとも、こうなったから、夢を見たのか。
「どっちでもいい……」
問題は、今だ。
今日、体育祭がある。
騎馬戦に出なきゃいけない。
応援団もやらなきゃいけない。
でも、今――
この状態で。
「どうする……」
時計を見る。5時50分。
学校の集合は、8時半。
まだ、時間はある。
でも、この状態のまま学校に行けるわけがない。
タッキングをしていても、限界がある。
もし、興奮したら――
騎馬戦の最中に、もし――。
「……まずい」
考えたくなかった。
でも、現実だ。
しかし、この生活から、溜まりに溜まっていたものが自然に解消されることはないのは、二十六年の人生で分かっていた。
我慢しても、どこかで爆発する。
それなら――
今、ここで。
「……仕方ない」
ベッドから起き上がる。
ショーツを脱ぐ。
タッキングを解除する。
久しぶりに、解放された感覚。
「……」
鏡を見る。
胸は膨らんでいる。
でも、下半身は――
まだ、男のまま。
そして、硬くなっている。
「やるしかない……」
手を伸ばす。
-----
十分後。
全てが終わった。
「……はあ」
ティッシュで片付けて、シャワーを浴びる。
温かいお湯が、体を流れていく。
「これで、大丈夫……」
体育祭。
騎馬戦。
何とか、乗り切れる。
たぶん。
シャワーを出て、
体操服を着る。
鏡で確認する。
「……よし」
見た目は、完璧に女の子だ。
問題ない。
メイクをして、ウィッグをつける。
準備完了。
時計を見る。7時。
まだ、時間はある。
朝食を食べて、最終確認。
持ち物、OK。
メイク、OK。
タッキング、OK。
「……行くか」
家を出る。
-----
学校に着くと、すでに生徒たちが集まっていた。
「おはよー!」
「今日、頑張ろうね!」
みんな、元気だ。
私も、笑顔で応える。
「おはよう。頑張ろう」
桜井さんが、駆け寄ってきた。
「みゆきちゃん! 今日、絶対優勝しようね!」
「うん、頑張る」
「騎馬戦、応援してるから!」
「ありがとう……」
田中先生が、集合の合図を出した。
「はい、みんな集まって! 今日は体育祭です。ケガのないように、全力で頑張りましょう!」
「おー!」
みんなで、円陣を組む。
「二年A組、ファイトー!」
「オー!」
拳を合わせる。
そして――
体育祭が、始まった。
-----
午前中の競技。
100メートル走、障害物競走、玉入れ――。
応援団として、クラスメイトを応援する。
「頑張れー!」
「A組、ファイトー!」
センターで、踊る。
ポンポンを振る。
声を出す。
周りの生徒たちも、盛り上がっている。
「みゆきちゃん、すごい!」
「A組、最高!」
拍手と歓声。
でも、私の頭の中では――
午後の騎馬戦のことを考えていた。
夢で見た光景。
ピンク色のブラ紐。
水色のブラ紐。
乱れた体操服。
『大丈夫、興奮しない』
『大丈夫、さっき処理した』
『大丈夫……』
自分に言い聞かせる。
-----
昼休み。
お弁当を食べながら、深呼吸をする。
「みゆきちゃん、緊張してる?」
桜井さんが、心配そうに聞いてきた。
「ちょっとだけ……」
「大丈夫だよ。みゆきちゃん、運動神経いいし」
「うん……ありがとう」
でも、問題は運動神経じゃない。
問題は――
バレないかどうか。
興奮しないかどうか。
『大丈夫……』
もう一度、自分に言い聞かせた。
-----
午後。
騎馬戦の時間が、近づいてきた。
田中先生が、集合をかける。
「騎馬戦のメンバー、集まって!」
私も、チームメイトと一緒に集まる。
田村さん、鈴木さん、佐藤さん。
「よろしくね」
「よろしく」
四人で、手を合わせる。
そして――
騎馬を組む。
佐藤さんが、私の肩に足を乗せる。
重い。
温かい。
柔らかい。
「……」
集中する。
興奮しない。
女子高生として。
『佐伯みゆき』として。
「よーし、いくよ!」
佐藤さんの声。
ホイッスルが鳴った。
騎馬戦――
始まった。
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