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体育祭
第35話 決勝戦
しおりを挟むホイッスルが鳴った。
決勝戦、開始。
「いくよ!」
佐藤さんの声。
でも――
相手も、動かない。
私たちも、動かない。
お互いに、様子を伺っている。
慎重に。
「……」
下半身の痛みに耐えながら、私は必死に騎馬を支える。
早く終わってくれ。
早く――。
「まだ動かないね……」
佐藤さんが、呟く。
三十秒経過。
一分経過。
お互いに、まだ攻めない。
どちらも、攻めようとせずに――。
ホイッスルが鳴った。
「はい、時間切れ! 延長戦に入ります!」
先生の声。
「……延長?」
「三分間の延長だって。その間に決着つかなかったら、判定になるって」
田村さんが、説明してくれた。
「あと三分……」
耐えられるか。
いや、耐えるしかない。
「よし、もう一回!」
また、騎馬を組む。
佐藤さんが、私の肩に乗る。
「くっ……」
痛みが、走る。
ホイッスルが鳴った。
延長戦、開始。
そして――
相手の騎馬が、動き出した。
一年B組。
攻めてくる。
「来た!」
佐藤さんが、構える。
騎馬同士が、ぶつかる。
「うわ!」
体が揺れる。
押し合う。
引っ張り合う。
私たちは、守りに徹した。
待った。
相手の攻撃を、耐える。
佐藤さんが、相手の動きを見ている。
「今だ!」
カウンター。
佐藤さんが、相手の帽子に手を伸ばす。
「きゃあ!」
相手も、必死に守る。
つかみ合いになった。
体操服を掴む。
引っ張る。
押す。
騎馬が、大きく揺れる。
「頑張って!」
田村さんと鈴木さんが、声を出す。
私も、必死に支える。
下から、戦況を見守りたかった。
でも、バランスを保つために、顔を上げる。
そして――
見えた。
相手の騎手。
一年生の女の子。
体操服のシャツが、引っ張られて――
乱れている。
肩がずれている。
紐だけでない。
ブラカップそのものが、見えている。
白いブラジャー。
Bカップくらい。
「……!」
目を逸らそうとした。
でも、視界に入ってしまった。
そして――
下半身に、また血が流れ込んでくる。
「ダメだ……」
これ以上、ダメだ。
もう、限界――。
とその時。
大きく、ホイッスルの音が響いた。
ピピピピーーーッ!
「はい、勝負あり!」
先生の声。
「え……?」
「A組の騎手、落ちました! B組の勝ち!」
「……!」
佐藤さんが、地面に倒れていた。
いつの間にか、バランスを崩していたらしい。
「あ……ごめん、みんな」
佐藤さんが、申し訳なさそうに言う。
「大丈夫、頑張ったよ」
田村さんが、手を差し伸べる。
結果、私たちは負けた。
準優勝。
「お疲れ様でしたー!」
相手チームと、握手をする。
「いい試合だったね」
「うん、お疲れ様」
笑顔を作る。
でも、内心は――
『助かった……』
正直、そう思った。
もし、あのまま続いていたら――
バレていたかもしれない。
「みゆきちゃん、すごく頑張ってたね!」
桜井さんが、駆け寄ってきた。
「準優勝、おめでとう!」
「あ、ありがとう……」
「でも、本当に疲れたでしょ? 顔色悪いよ?」
「うん……ちょっと」
「休んでて。もうすぐ閉会式だから」
「うん……」
その場に座り込む。
水を飲む。
深呼吸をする。
下半身は――
まだ、硬い。
でも、もう騎馬戦は終わった。
あとは、閉会式だけ。
「……何とか、終わった」
呟く。
でも、まだ油断できない。
閉会式が終わるまで。
家に帰るまで。
まだ、『佐伯みゆき』として、振る舞わなきゃいけない。
「……」
空を見上げる。
青い空。
夕方が、近づいている。
長い一日だった。
本当に、長い一日だった。
-----
閉会式。
各クラスの順位発表。
二年A組は、総合三位。
「やったー!」
みんな、喜んでいる。
私も、拍手をする。
笑顔を作る。
でも、早く帰りたい。
早く、この窮屈さから解放されたい。
「それでは、解散です! 気をつけて帰ってください!」
校長先生の言葉。
ようやく、終わった。
「みゆきちゃん、お疲れ様!」
「また月曜日ね!」
クラスメイトたちと、別れる。
一人で、校門を出る。
駅へ向かう。
電車に乗る。
家に帰る。
ドアを開けて、中に入る。
「……ただいま」
誰もいない部屋に、呟く。
制服を脱ぐ。
いや、体操服を脱ぐ。
ショーツを脱ぐ。
タッキングを解除する。
「……はあ」
ようやく、解放された。
硬くなったまま、何時間も耐えていた。
痛い。
苦しい。
でも、ようやく終わった。
シャワーを浴びる。
温かいお湯が、体を流れていく。
「……疲れた」
本当に、疲れた。
シャワーを出て、タオルで体を拭く。
鏡を見る。
胸が膨らんでいる体。
Bカップになった胸。
でも、下半身には――
まだ、男の部分がある。
「俺は……何なんだ」
呟く。
女子高生として過ごして。
でも、まだ男の欲望がある。
まだ、男の体がある。
「……」
ベッドに倒れ込む。
疲れた。
肉体的にも、精神的にも。
報告書を書く気力もなかった。
「明日、書こう……」
目を閉じる。
体育祭。
騎馬戦。
あの光景。
全部、頭の中に焼き付いている。
「……」
いつの間にか、眠りに落ちていた。
長い一日が、ようやく終わった。
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