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体育祭
第34話 また、トイレへ。
しおりを挟む「ちょっと、また……トイレ」
立ち上がる。
フラフラと。
「みゆきちゃん、本当に大丈夫?」
桜井さんが、心配そうに聞く。
「大丈夫……ちょっと、お腹が……」
嘘をついた。
「そっか……気をつけてね」
「うん……」
また、校舎へ向かう。
廊下を歩く。
足が、震えている。
トイレに入る。
個室に、駆け込む。
ドアを閉めて、鍵をかける。
「……はあ、はあ」
ショーツを下ろす。
タッキングを確認する。
まだ、硬い。
全然、収まっていない。
「ダメだ……」
どうする。
どうする。
考えている時間も、窮屈さは変わらない。
むしろ、どんどん悪化している。
痛い。
苦しい。
「くそ……」
水道へ行って、水を飲む。
冷たい水。
喉を通る。
でも――
ダメだ。
全然、効果がない。
下半身は、まだ硬いまま。
個室に戻る。
時計を見る。
あと、七分。
七分後、決勝が始まる。
「どうする……」
このまま出たら、絶対バレる。
騎馬を組んだ時、チームメイトが気づくかもしれない。
いや、気づく。
絶対、気づく。
でも。
ここで、でも。
今からなら――。
「……」
手が、震える。
処理する?
ここで?
学校のトイレで?
決勝の直前に?
「でも……」
他に、方法がない。
このまま出ることはできない。
棄権する?
それも怪しまれる。
二回戦まで出ておいて、決勝を棄権するなんて。
「……」
時計を見る。
あと、六分。
「どうする、どうする……」
悩む。
でも、答えは――
もう、決まっていた。
「……やるしかない」
個室に入る。
ドアを閉める。
鍵をかける。
ショーツを下ろす。
タッキングを解除する。
硬くなったものが、解放される。
「……」
手を伸ばす。
でも――
『ここで、本当にやるのか?』
躊躇する。
学校のトイレ。
体育祭の最中。
みんなが外で待っている。
こんな場所で。
こんなタイミングで。
「……でも」
他に、選択肢がない。
時計を見る。
あと、五分。
「……」
もう、迷っている時間はない。
やるしかない。
決意して――
でも、その時。
トイレのドアが開く音。
「……!」
誰か、入ってきた。
足音。
複数人。
「疲れたー……」
「決勝、頑張ろうね」
女子高生たちの声。
個室の外。
すぐそこ。
「……」
手を止める。
息を殺す。
動けない。
「ねえ、A組の佐伯さん、すごくない?」
「うん、可愛いし運動神経もいいよね」
私の話をしている。
「でも、なんか疲れてそうだったね」
「二回戦の後、顔色悪かったもんね」
「大丈夫かな……」
心配してくれている。
「……」
申し訳ない。
こんなところで、こんなことを――。
「あ、もうすぐ決勝始まるよ。戻ろう」
「うん」
足音が、遠ざかっていく。
ドアが閉まる。
静寂。
「……はあ」
息を吐く。
時計を見る。
あと、三分。
「無理だ……」
時間がない。
こんな短時間で、処理できるわけがない。
しかも、さっき誰か入ってきて、集中が途切れた。
「どうする……」
タッキングをし直す。
痛みに耐えながら。
ショーツを履く。
鏡を見る。
顔色が、悪い。
汗が、額に浮かんでいる。
「……行くしかない」
このまま。
この状態で。
決勝に出るしかない。
トイレを出る。
廊下を歩く。
校庭へ。
「みゆきちゃん!」
桜井さんが、駆け寄ってきた。
「もうすぐ決勝だよ。大丈夫?」
「……うん」
嘘をついた。
全然、大丈夫じゃない。
でも、もう引き返せない。
チームに合流する。
「みゆきちゃん、お待たせ!」
田村さんが、笑顔で迎えてくれた。
「ごめん……」
「大丈夫。じゃあ、最後、頑張ろうね!」
「……うん」
また、騎馬を組む。
佐藤さんが、私の肩に足を乗せる。
その瞬間――
「くっ……」
痛みが走る。
下半身の窮屈さが、限界に達している。
「みゆきちゃん?」
「だ、大丈夫……」
笑顔を作る。
必死に。
先生が、笛を持って立っている。
「それでは、決勝戦を始めます!」
『もう、終わらせよう』
『早く、終わらせよう』
そう思った。
ホイッスルが鳴った。
決勝戦――
始まった。
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