「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

文字の大きさ
40 / 80
文化祭

第40話 嵐の前の静けさ

しおりを挟む


午前中の授業は、問題なく終わった。

一限、国語。

二限、英語。

三限、数学。

四限、化学。

いつも通りの授業。

いつも通りのノートを取って、いつも通りに質問に答えて――。

何も、問題はなかった。

「今日の午後、採寸だよね」

昼休み、桜井さんが話しかけてきた。

「うん……」

「緊張してる?」

「ちょっとだけ……」

「大丈夫だよ。家庭科部の子たち、優しいから」

「そうなんだ……」

お弁当を食べながら、会話をする。

普通の昼休み。

普通の日常。

嵐の前の静けさだった。

-----

五限。

体育。

「今日は、バスケットボールをやります」

体育の先生の説明。

「更衣室で着替えてください」

みんな、更衣室へ向かう。

私も、一緒に。

ロッカーを開けて、制服を脱ぐ。

今日は――

黒いレースの下着。

美山理事長から届いた、特別な下着。

「……」

周りに気づかれないように、素早く体操服を着る。

制服は、丁寧にたたんで――

ロッカーの中の、所定の位置に置いた。

置いたはずだった。

ブラウス、スカート、靴下。

全部、きちんと重ねて。

ロッカーを閉めて、体育館へ向かう。

-----

バスケットボール。

チームに分かれて、試合形式。

ドリブル、パス、シュート――。

体を動かすのは、久しぶりだった。

体育祭以来。

「ナイスパス!」

「シュート!」

みんな、楽しそうだ。

私も、それなりに楽しんでいた。

体を動かすことで、採寸のことを一時的に忘れられる。

「佐伯さん、上手いね!」

「ありがとう……」

汗をかきながら、走り回る。

時間が、あっという間に過ぎていった。

-----

授業終了のホイッスル。

「はい、お疲れ様でしたー!」

体育の先生の声。

みんな、更衣室へ戻る。

私も、一緒に。

汗をかいた体操服を脱いで――

ロッカーを開ける。

そして――

「……え?」

制服がない。

ブラウスも、スカートも――

ない。

「あれ……?」

もう一度、ロッカーの中を確認する。

靴下は、ある。

靴は、ある。

カバンも、ある。

でも――

制服だけが、なくなっていた。

「おかしい……確かに、ここに置いたのに……」

周りを見渡す。

他のクラスメイトたちは、普通に着替えている。

誰も、気づいていない様子。

「落ち着いて……どこかに落ちたのかも」

ロッカーの下を確認する。

ない。

隣のロッカーを間違えた?

いや、これは私のロッカーだ。

番号も、名前も合っている。

「どこ……?」

焦りが、込み上げてくる。

制服がない。

制服以外は、全てそのままあった。

つまり――

誰かが、制服だけを持っていった?

「まさか……」

いたずら?

それとも、間違えて?

「みゆきちゃん、どうしたの?」

桜井さんが、声をかけてきた。

「あ……制服が、ない」

「え? ない?」

「うん……確かに、ここに置いたのに」

「ええ? どうしよう……」

桜井さんも、一緒にロッカーの中を確認してくれる。

「本当だ……ブラウスもスカートもない」

「どうしよう……」

他のクラスメイトたちも、気づき始めた。

「佐伯さんの制服がないって?」

「誰か間違えて持っていった?」

「でも、サイズ違うからすぐ気づくよね……」

ざわざわと、噂が広がる。

私は――

体操服のまま、立ち尽くしていた。

「とりあえず、先生に報告しよう」

桜井さんが、提案してくれた。

「うん……」

更衣室を出て、職員室へ向かう。

体操服のまま。

廊下を歩く。

周りの生徒たちが、不思議そうに見てくる。

「あれ? 体操服のまま?」

「制服は?」

視線が、痛い。

職員室に着いて、田中先生に事情を説明した。

「制服が、なくなった?」

「はい……更衣室のロッカーに置いていたのに」

「そんな……誰かが間違えて持っていったのかしら」

田中先生は、校内放送で呼びかけてくれた。

『二年A組の佐伯さんの制服が、更衣室でなくなりました。間違えて持っていった方は、職員室まで届けてください』

でも――

放課後になっても、誰も現れなかった。

「困ったわね……」

田中先生も、困っている様子。

「とりあえず、今日はジャージで帰ってもいいわ。明日、また探しましょう」

「はい……」

ジャージを借りて、家に帰る。

制服なしで。

-----

家に着いて、ジャージを脱ぐ。

黒いレースの下着が、現れる。

「……採寸、どうなるんだ」

今日の放課後、採寸の予定だったのに。

制服がなくなって、それどころじゃなくなった。

「誰が……」

いたずら?

偶然?

それとも――

「まさか、バレた?」

不安が、頭をよぎる。

誰かが、私の正体に気づいた?

だから、制服を隠した?

「いや、考えすぎだ……」

頭を振る。

でも、不安は消えない。

スマホを確認する。

桜井さんから、LINEが来ていた。

『みゆきちゃん、大丈夫? 明日、一緒に探そうね』

『うん、ありがとう』

返信する。

他に、高橋さんからも。

『採寸、明日に延期になったよ。制服、早く見つかるといいね』

『ありがとう』

また返信。

みんな、心配してくれている。

でも――

「制服、どこに行ったんだ……」

窓の外は、もう夕暮れ時だった。

制服がない。

明日、どうする?

予備の制服は――

ある。

美山理事長から、二着もらっていた。

「明日は、予備を着ていくしかないか……」

でも、なくなった制服は?

誰が持っていったのか。

なぜ、持っていったのか。

答えは、まだ見つからなかった。

不安を抱えたまま、私は夜を過ごした。

嵐の前の静けさは、終わった。

そして――

本当の嵐が、これから来るのかもしれない。​​​​​​​​​​​​​​​​
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...