「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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文化祭

第44話 採寸

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「じゃあ、バストから測るね」

桜井さんが、メジャーを私の背中に回した。

「息、吸って」

「……」

息を吸う。

メジャーが、胸の一番高いところに巻かれる。

桜井さんの手が、私の体に触れる。

柔らかい手。

女の子の手。

「はい、吐いて」

息を吐く。

「82センチ。アンダーは……」

メジャーが、胸の下に移動する。

「68センチ。じゃあ、Bカップだね」

「う、うん……」

他の女の子たちも、近づいてくる。

「私も測っていい?」

田村さんが、私の肩に手を置いた。

「肩幅、測るね」

「あ、うん……」

田村さんの手が、私の肩を撫でる。

確認するように。

「細いね、みゆきちゃん」

「そ、そう?」

次は、高橋さん。

「ウエスト、測るよ」

メジャーが、腰に巻かれる。

高橋さんの手が、私の脇腹に触れる。

「くすぐったい?」

「ちょ、ちょっと……」

「ごめんごめん」

笑い声。

次は、鈴木さん。

「ヒップも測らないとね」

「え……」

「大丈夫、すぐ終わるから」

メジャーが、お尻に巻かれる。

鈴木さんの手が、私のお尻に触れる。

「……!」

心臓が、跳ねる。

でも、鈴木さんは何も気づいていない様子。

「84センチ。いいプロポーションじゃん」

「あ、ありがとう……」

採寸は、続く。

腕の長さ。

足の長さ。

首回り。

肩から胸までの長さ――。

何人もの女の子たちが、私の体に触れてきた。

でも。

誰も、気づかなかった。

誰も、疑わなかった。

『これが、男の体だ』とは。

「……」

おそらく、男の体自体触ったこともないんだろう。

そもそも、先入観もないから。

目の前にいるのは、『佐伯みゆき』という女子高生。

男を触っているということを、誰も想像していない。

「よし、みゆきちゃんは終わり!」

桜井さんが、メジャーをまとめた。

「お疲れ様」

「あ……ありがとう」

ジャージを着る。

ホッとした。

何も、起こらなかった。

トイレでの会話で心配していたけど――

特に、何も仕掛けられなかった。

「次は、近藤さん!」

「は、はい……」

近藤さんが、前に出る。

彼女も、ジャージを脱ぐ。

体操服のシャツだけになる。

そして――

「……」

私は、目を疑った。

近藤さんの胸。

大きい。

かなり、大きい。

「じゃあ、測るね」

桜井さんが、メジャーを巻く。

「……93センチ」

「え……」

ざわつく。

「近藤さん、すごい……」

「着痩せしてたんだね……」

「Eカップ?」

「Fかも……」

女の子たちの声。

近藤さんは、顔を赤くしている。

「は、恥ずかしい……」

「いいなー、私もそれくらい欲しい」

「ほんとだよね」

笑い声。

でも、悪意はない。

ただ、羨ましがっているだけ。

近藤さんの採寸も、順調に進む。

ウエスト、ヒップ、腕の長さ――。

そして、終わった。

「よし! これで、二人分のサイズがわかったね」

桜井さんが、ノートにサイズを書き込んでいる。

「早速、メイド服作ろう!」

「家庭科部の子たちに、お願いしないとね」

「デザインも、考えないと」

女の子たちが、盛り上がっている。

私は――

ただ、呆然としていた。

『何も、起こらなかった』

トイレでの会話は、何だったんだ。

『次、どうする? 桜井ちゃん』

『まだ秘密。当日のお楽しみ』

文化祭で、何か仕掛けるって言っていたのに。

「……」

それとも、これからなのか。

油断させておいて、文化祭当日に――。

「みゆきちゃん、大丈夫?」

近藤さんが、心配そうに聞いてきた。

「あ……うん、大丈夫」

「採寸、お疲れ様」

「近藤さんも……」

近藤さんは、優しく微笑んだ。

着痩せしていて、実は大きな胸の持ち主。

そんな彼女が、何だか羨ましく思えた。

本物の女の子。

本物の体。

私は――

偽物だ。

タッキングして、ブラジャーをつけて、女の子のフリをしている。

「……」

体育倉庫を出る。

体育館の裏から、校舎へ戻る。

昼休みは、もうすぐ終わる。

「何事もなく、終わった……」

呟いた。

でも、心の底では――

まだ、不安が残っていた。

桜井さんたちは、何を企んでいるのか。

文化祭で、何が起こるのか。

答えは、まだわからない。

教室に戻ると、チャイムが鳴った。

午後の授業が、始まる。

でも、頭の中は――

採寸のことと、これから起こるかもしれないことで、いっぱいだった。

近藤さんの大きな胸のことを除いて、何事もなかった採寸。

でも、それは本当に――

『何事もなかった』のだろうか。

それとも、これは――

嵐の前の静けさなのだろうか。

答えは、文化祭当日にわかる。

あと、二週間後。

その日が、刻一刻と近づいていた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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