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文化祭
第43話 ため息を飲み込んで
しおりを挟む授業が終わって、休み時間。
トイレから戻ると――
「あ、みゆきちゃん!」
桜井さんが、満面の笑みで話しかけてきた。
「昨日、採寸できなかったよね」
「……うん」
「今日こそ、しようよ!」
心臓が、バクバクと鳴る。
さっき、トイレで聞いた声。
『次、どうする? 桜井ちゃん』
『まだ秘密。当日のお楽しみ』
あの声の主が、今目の前にいる。
優しい笑顔で。
「み、みゆきちゃん?」
「あ……うん、そうだね」
笑顔を作る。
ため息を飲み込んで。
「良かった! じゃあ、昼休みにやろう」
「昼休み……?」
「うん。放課後だと、家庭科部の子たち忙しいから」
「そ、そうなんだ……」
「場所なんだけどね」
桜井さんが、周りを見回して、声を小さくした。
「更衣室だと、他の子たちもいて落ち着かないでしょ?」
「う、うん……」
「だから、もっと静かな場所がいいかなって」
「どこ……?」
「体育館裏の、体育倉庫!」
「……体育倉庫?」
「そう。誰もいないであろう場所だし」
桜井さんは、にっこりと笑った。
「そこなら、風も防げるし、誰も来ることはないだろうし」
「……」
嫌な予感がした。
誰もいない場所。
密室。
そこで、採寸。
「どうする……」
心の中で、呟く。
断ったら、怪しまれる?
でも、行ったら――
何かされる?
「みゆきちゃん?」
桜井さんが、不思議そうに私を見ている。
「あ……うん、いいよ」
断れなかった。
断る理由が、思いつかなかった。
「やった! じゃあ、昼休みに体育倉庫で! 近藤さんにも伝えとくね」
「う、うん……」
桜井さんは、嬉しそうに近藤さんの席へ向かった。
私は――
席に座ったまま、動けなかった。
「どうすれば……」
昼休み。
体育倉庫。
採寸。
『何か、仕掛けられる?』
トイレでの会話が、頭をよぎる。
『文化祭で、何か仕掛けるって言ってたけど……』
『もしかして、採寸の時に?』
「……」
スマホを確認する。
美山理事長からの返信は、まだない。
どうする。
このまま、行く?
それとも――
「みゆきちゃん」
突然、声をかけられた。
振り返ると、近藤さんだった。
「あ……近藤さん」
「昼休み、採寸だって」
「う、うん……」
近藤さんは、少し不安そうな顔をしていた。
「私も、ちょっと緊張してて……」
「そ、そうなんだ……」
「一緒に頑張ろうね」
「……うん」
近藤さんは、優しく微笑んだ。
彼女は、桜井さんの仲間じゃないはずだ。
トイレでの会話には、彼女の声はなかった。
『近藤さんなら、信頼できる?』
でも、わからない。
誰が敵で、誰が味方なのか。
もう、わからない。
-----
昼休み。
チャイムが鳴った。
「じゃあ、行こうか!」
桜井さんが、立ち上がった。
他にも、数人の女の子たちがついてくる。
高橋さん、田村さん、鈴木さん――。
「採寸、手伝うね!」
「メジャー、持ってきたよ」
みんな、笑顔。
でも――
トイレでの会話が、頭から離れない。
『この中に、共犯者がいる?』
教室を出て、廊下を歩く。
体育館へ向かう。
そして、体育館の裏側へ。
体育倉庫。
古い建物。
窓は小さくて、中は薄暗い。
桜井さんが、鍵を開けた。
「ここ、鍵開いてるんだよね。便利」
ガチャリ。
ドアが開く。
中は――
薄暗くて、埃っぽい。
マットや、跳び箱や、ボールが積まれている。
「ちょっと暗いけど、窓開けるね」
桜井さんが、小さな窓を開けた。
光が、少し入ってくる。
「よし、これでいいかな」
私と近藤さんは、倉庫の中に入った。
他の女の子たちも、続く。
ドアが閉まる。
カチャリ。
鍵は――
かけられていない。
でも、ここは体育館の裏。
誰も来ない。
「じゃあ、採寸始めよう!」
桜井さんが、メジャーを手に取った。
「みゆきちゃん、まず上着脱いでもらえる?」
「え……?」
「採寸だから、体のラインがわかる方がいいでしょ?」
「あ、う、うん……」
ジャージのジャケットを脱ぐ。
体操服のシャツだけになる。
黒いレースのブラジャー。
透けていないか、確認する。
大丈夫、透けていない。
「じゃあ、測るね」
桜井さんが、近づいてくる。
メジャーを持って。
笑顔で。
でも、その笑顔が――
今は、恐ろしく見えた。
「……」
私は、ため息を飲み込んで――
採寸を、受けることにした。
何が起こるのか。
わからない。
でも、もう逃げられない。
桜井さんの手が、私の体に触れた。
メジャーが、胸に巻かれていく。
そして――
何かが、始まろうとしていた。
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