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文化祭
第51話 そして…
しおりを挟む家に帰り着いたのは、午後六時を過ぎていた。
「ただいま……」
誰もいない部屋に、呟く。
カバンを置いて、ソファに倒れ込む。
「……はあ」
疲れた。
肉体的にも、精神的にも。
メイド服を一日中着て、接客して――。
そして、あのカメラ。
「どうしよう……」
頭を抱える。
着替えている姿が、録画されている。
下着姿が、映っている。
それが、写真販売で――。
「まずい……」
でも、どうすればいい?
学校に報告する?
『準備室にカメラが仕掛けられていて、着替えを盗撮されました』
そう言えば、調査してくれるだろう。
でも――
映像を見られる。
私の体を、確認される。
そうしたら――
バレる。
タッキングしている体。
シリコンパッドの胸。
全て、バレる。
「報告できない……」
スマホを手に取る。
美山理事長に、相談するべきか。
でも、何と言えばいい?
『着替えを盗撮されました』
『でも、報告できません』
『なぜなら、バレるから』
「……」
メールを打ち始める。
でも、途中で手が止まる。
何を書けばいいのか。
わからない。
その時。
スマホが震えた。
着信。
美山理事長からだった。
「……!」
電話に出る。
「もしもし……」
「斎藤さん。お疲れ様でした」
美山理事長の、落ち着いた声。
「今日の文化祭、拝見しました」
「あ……ありがとうございます」
「メイド服……少し、心配しました」
「はい……」
「何か、ありましたか?」
「……」
言うべきか。
言わないべきか。
「斎藤さん?」
美山理事長の声が、少し心配そうになった。
「……実は」
意を決して、全てを話した。
準備室のカメラ。
着替えている姿が録画されていたこと。
削除できなかったこと。
桜井さんに取られてしまったこと。
写真販売で公開されるかもしれないこと。
全て。
「……そうですか」
美山理事長は、静かに聞いていた。
「それは、大変ですね」
「どうすれば……」
「まず、落ち着いてください」
美山理事長の声が、優しい。
「対策を考えましょう」
「対策……?」
「ええ。写真販売は、いつですか?」
「確か……来週の月曜日から、一週間」
「わかりました。それまでに、何とかします」
「何とか……って」
「学校に、理事長として働きかけます」
美山理事長は、続けた。
「『着替え中の写真は、プライバシーの観点から販売しない』という方針を、学校に提案します」
「で、できるんですか?」
「できます。理事長ですから」
「……」
少し、安心した。
「ただし」
美山理事長の声が、少し厳しくなった。
「もし、すでに桜井さんたちが別の形でデータをコピーしていたら――」
「……」
「それは、防げません」
心臓が、冷たくなった。
「でも、公式な販売は阻止できます。それだけでも、リスクは減らせます」
「ありがとうございます……」
「斎藤さん」
「はい」
「あと、一ヶ月半です」
美山理事長の言葉。
「十二月末で、この取材は終わります」
「……はい」
「それまで、耐えてください」
「……」
耐える。
あと、一ヶ月半。
「大丈夫です。あなたなら、できます」
美山理事長の言葉が、心に染みる。
「わかりました……頑張ります」
「ええ。何かあれば、すぐに連絡してください」
「はい」
電話が切れた。
「……」
ソファに、また倒れ込む。
あと、一ヶ月半。
十二月末まで。
それまで、『佐伯みゆき』として生きる。
それまで、耐える。
「……」
窓の外は、もう真っ暗だった。
文化祭は、終わった。
でも、問題は終わっていない。
桜井さんたちの仕掛け。
あのカメラのデータ。
そして――
まだ、何か隠されているかもしれない。
「……」
報告書を書く気力もなかった。
ベッドに倒れ込む。
目を閉じる。
明日は、日曜日。
休みだ。
でも、月曜日になれば――
また、学校に行かないといけない。
桜井さんと、顔を合わせないといけない。
「……」
不安を抱えたまま、私は眠りについた。
そして――
この物語は、まだ続く。
あと、一ヶ月半。
『佐伯みゆき』としての日々が。
運命の日まで――。
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