「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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文化祭

第50話 準備室に仕掛けられていたもの

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「いらっしゃいませー!」

笑顔で、お客さんを迎える。

メイドカフェが、始まった。

次々と入ってくるお客さん。

生徒、保護者、地域の人々。

「メイドさん、可愛いね!」

「写真撮ってもいい?」

「紅茶、お願いします」

注文を受けて、紅茶を運ぶ。

スコーンを運ぶ。

ケーキを運ぶ。

「ありがとうございます」

何度も、何度も――

笑顔を作る。

でも、心の中では――

不安でいっぱいだった。

短いスカート。

深いスリット。

強調された胸。

お客さんの視線が、気になる。

特に、男性客。

保護者や地域の人々の中には、男性もいる。

その視線が――

私の体を、見ている。

「……」

でも、我慢する。

笑顔を保つ。

メイドさんとして。

近藤さんも、同じ。

彼女の大きな胸に、視線が集まっている。

でも、彼女も笑顔で接客している。

頑張っている。

-----

その時。

私たちは知らなかった。

準備室に――

カメラが置かれていたことを。

記録用として、各クラスに貸与されたカメラ。

文化祭の様子を撮影するための、公式のカメラ。

それが――

準備室の、棚の上に置かれていた。

レンズが、着替えをしている私たちの方を向いて。

録画ボタンが、押されて。

-----

制服を脱ぐ私。

メイド服を着る私。

ブラジャーが見える瞬間。

太腿が見える瞬間。

近藤さんも、同じ。

彼女の大きな胸。

下着姿。

全て――

カメラに映っていた。

録画されていた。

-----

そんなことも知らずに。

私たちは、メイドカフェを続けていた。

「いらっしゃいませー!」

笑顔で。

必死に。

-----

午前十時。

ようやく、美山理事長が来てくれた。

「理事長!」

田中先生が、慌てて迎える。

「こんにちは。各クラスを回らせていただいています」

美山理事長は、落ち着いた様子で教室に入ってきた。

そして――

私と目が合った。

一瞬。

彼女の目に、心配の色が浮かんだ。

私のメイド服を見て。

露出の多さを見て。

でも、すぐに表情を戻した。

「素敵なカフェですね」

「ありがとうございます!」

高橋さんが、嬉しそうに答える。

美山理事長は、教室をゆっくりと見て回った。

内装。

メニュー。

そして――

私と近藤さんを、もう一度見た。

「メイドさん、とてもお似合いですよ」

優しく、微笑んだ。

でも、その目は――

『大丈夫?』

そう言っているようだった。

私は、小さく頷いた。

『大丈夫です』

そう、伝えるように。

美山理事長は、紅茶を注文して、しばらく座っていた。

見守ってくれている。

それだけで、少し安心した。

-----

午後。

文化祭は、盛況だった。

メイドカフェにも、次々とお客さんが来る。

「疲れたね……」

休憩時間。

近藤さんが、呟いた。

「うん……」

二人で、廊下の隅に座る。

足が、痛い。

ずっと立ちっぱなしだった。

「でも、もう少しで終わるね」

「うん……あと二時間」

文化祭は、午後四時まで。

もう少し。

もう少しで、終わる。

「頑張ろう」

「うん……」

二人で、立ち上がる。

そして、また教室に戻った。

-----

午後四時。

「終了です! お疲れ様でした!」

田中先生の声。

ようやく、文化祭が終わった。

「やったー!」

「お疲れー!」

女子高生たちが、喜んでいる。

私と近藤さんも――

ホッとした。

「お疲れ様、みゆきちゃん」

桜井さんが、笑顔で近づいてきた。

「すごく頑張ってたね」

「あ……ありがとう」

「写真、たくさん撮れたよ」

「写真……?」

「うん。記録用のカメラで。後で、写真販売するから」

桜井さんは、カメラを手に持っていた。

学校から貸与された、公式のカメラ。

「色んな場面、撮れたよ。楽しみにしててね」

そう言って、桜井さんは去っていった。

その笑顔が――

何か、意味ありげだった。

「……」

嫌な予感がした。

でも、疲れすぎていて、深く考えられなかった。

「着替えよう……」

近藤さんと一緒に、準備室へ向かう。

メイド服を脱いで、制服に着替える。

「やっと終わったね……」

「うん……」

二人で、準備室を出る。

その時。

棚の上に、何かがあった。

「……ん?」

カメラ。

記録用のカメラが、もう一台。

棚の上に置かれている。

レンズが――

着替える場所の方を向いて。

「……!」

心臓が、跳ねた。

「これ……」

近藤さんも、気づいた。

「まさか……」

カメラを手に取る。

電源を入れる。

録画履歴を確認する。

そこには――

『11月15日 8:25~8:40』

録画されていた。

朝、私たちが着替えた時間。

「……嘘」

再生ボタンを押す。

画面に映ったのは――

制服を脱ぐ私。

下着姿の私。

メイド服を着る私。

そして、近藤さんも。

全て、映っていた。

「……!」

言葉が、出ない。

「誰が……」

近藤さんの声が、震えている。

答えは、わかっていた。

桜井さんたち。

朝、私たちが来る前に――

カメラを仕掛けた。

録画ボタンを押して。

そして、私たちが着替えるのを――

撮影した。

「削除しないと……」

慌てて、削除ボタンを押そうとした。

でも――

『このデータは保護されています』

画面に、表示される。

削除できない。

パスワードがかかっている。

「くそ……!」

「どうしよう……」

近藤さんが、泣きそうな顔をしている。

「大丈夫……このカメラ、持っていこう」

「で、でも……」

「バレないように、持ち出す。そうすれば――」

その時。

ドアが開いた。

「あれ? カメラ、あった?」

桜井さんだった。

「準備室に置き忘れちゃって……あ、それだ!」

桜井さんが、私の手からカメラを取った。

「ありがと! 探してたんだ」

「ちょ、ちょっと待って!」

「ん? どうしたの?」

桜井さんは、にっこりと笑った。

「このカメラ……中身、見た?」

「見て……ない」

嘘をついた。

でも、バレている。

「そっか。良かった」

桜井さんは、カメラを持って出て行った。

「じゃあね! 写真販売、楽しみにしててね!」

ドアが閉まる。

「……」

私と近藤さんは――

その場に立ち尽くしていた。

写真販売。

文化祭が終わってから。

そこに――

私たちの着替えている姿が。

「どうしよう……」

近藤さんが、呟いた。

「……わからない」

私も、答えられなかった。

どうすればいい。

誰に相談すればいい。

美山理事長?

近藤?

それとも――

「……」

答えは、まだ見つからなかった。

でも、一つだけ確かなことがあった。

桜井さんたちの仕掛けは――

まだ、終わっていない。

これから、始まるのだ。

窓の外は、もう夕暮れ時だった。

文化祭は、終わった。

でも、私の試練は――

まだ、続いていく。​​​​​​​​​​​​​​​​
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