ミニスカートとボク

あさき のぞみ

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第8話 堕ちる

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稼ぐ方法。
週末、土曜日の朝。
ベッドで目を覚ます。
考えた。
一晩中、考えた。
バイト?
でも、会社が終わってから、深夜まで働く?
体が持たない。
それに、時給1000円として。
週に3日、4時間働いても。
月に5万円弱。
足りない。
副業?
でも、何ができる?
スキルも、経験も、ない。
クラウドソーシング?
稼げるまで時間がかかる。
お金が、ない。
今すぐ、必要。
私は、女として稼ぐしかないという答えになった。
この体。
この顔。
これを、使う。
即金で入る。
満たされるもの・・・
あの、疼き。
生理が終わった後の、欲求。
それも、満たせる。
一石二鳥。
いや、違う。
これは、言い訳だ。
ただ、お金が必要なだけ。
スマホを開く。
検索。
「風俗 求人 即日払い」
たくさん、出てくる。
ピンクの、派手なサイト。
「高収入!日払いOK!」
「未経験歓迎!」
「体験入店で3万円保証!」
3万円。
1日で。
会社の日給より、高い。
私は、会社に行くことをやめた。
月曜日。
朝、上司にメールした。
『体調不良のため、本日お休みします』
火曜日。
『まだ体調が優れず、お休みします』
水曜日。
『すみません、もう1日お休みします』
木曜日。
電話がかかってきた。
上司から。
出なかった。
着信履歴。
3回。
メールが来た。
『美雪さん、大丈夫ですか?
心配しています。
連絡ください。』
返信しなかった。
そして、体験入店という形で風俗の仕事をはじめた。
土曜日の午後。
面接。
雑居ビルの3階。
ドアを開ける。
「いらっしゃい」
中年の男性。
店長。
「美雪さん、だね。写真で見たけど、本物の方が綺麗だね」
「ありがとうございます」
「未経験?」
「はい」
「大丈夫。教えるから。お客さん、喜ぶよ。このスタイルなら」
胸を見られる。
脚を見られる。
品定め。
「じゃあ、説明するね」
料金体系。
サービス内容。
NG項目。
頭に入ってこない。
ただ、一つだけ。
「体入は、3時間で3万円。どう?」
「やります」
即答した。
「よし。じゃあ、今日から。準備して」
案内された部屋。
シャワー。
下着に着替える。
店が用意した、セクシーなやつ。
黒いレースの、ブラとショーツ。
ガーターベルト。
網タイツ。
鏡を見る。
知らない女が、そこにいる。
いや、美雪だ。
でも、こんな格好の美雪。
初めて。
ノックの音。
「お客さん、来たよ」
深呼吸。
ドアを開ける。
部屋に入ってくる、男性。
40代くらい。
スーツ姿。
「わあ、本当に綺麗だね」
笑顔。
でも、目は。
体を舐め回すように見ている。
「初めてなんです」
「そうなの?じゃあ、優しくするよ」
男が、近づいてくる。
男が喜ぶことは分かっている。
元男だから。
何をされたら嬉しいか。
どこを触られたいか。
どんな風に見せればいいか。
全部、分かっている。
だから。
私は、演じた。
恥ずかしそうに、体を隠して。
でも、チラチラと見せて。
男の手が、伸びてくる。
肩に。
腰に。
胸に。
「綺麗だね……」
男の声。
荒い息。
私は、目を閉じた。
これが、仕事。
これで、お金を稼ぐ。
3時間後。
終わった。
シャワーを浴びる。
体を洗う。
男の匂いを、流す。
着替える。
店長に呼ばれる。
「はい、お疲れ様」
封筒を渡される。
中身を確認。
3万円。
現金。
本当に、3万円。
「どうだった?いける?」
「……はい」
「じゃあ、明日も来る?」
「来ます」
即答。
だって、お金が必要だから。
店を出る。
夜の街。
ネオンが、眩しい。
財布に、3万円。
重い。
でも、軽い。
これが、私の稼ぎ方。
女として。
体を、使って。
スマホを見る。
会社からの着信、5回。
メール、3通。
全部、無視。
もう、戻らない。
あの生活には。
マッチングアプリを開く。
メッセージが、たくさん。
でも、もう。
男を選ぶ必要はない。
お金を払ってくれる男が、来る。
店に。
そして、私は。
サービスをする。
ただ、それだけ。
家に帰る。
1Kの部屋。
ベッドに倒れ込む。
天井を見上げる。
これで、いいのか。
これが、正解なのか。
分からない。
でも。
お金は、手に入る。
生活は、できる。
サブスクも、払える。
それだけ。
それだけで、いい。
そう、自分に言い聞かせる。
スマホが震える。
通知。
『【重要】お支払いのリマインド
2月6日のお支払い:68,000円
あと2日です。』
財布を見る。
3万円。
あと、2日。
もう2回、働けば。
6万円。
足りる。
「大丈夫……」
呟く。
「大丈夫、払える」
でも、心の奥で。
何かが、壊れていく音がした。​​​​​​​​​​​​​​​​

2日目。
日曜日。
店に入ると、店長が笑顔で迎えた。
「美雪ちゃん、すごい人気だよ」
「え?」
「昨日のお客さん、レビュー書いてくれてさ。もう予約が3件入ってる」
3件。
体験入店じゃないから、料金が違う。
「1件、1時間で1万5千円。指名料が5千円。君の取り分は、合計で1万円ね」
1万円×3件。
3万円。
昨日と同じ。
「あと、フリーのお客さんも来ると思うよ」
予想通り。
昨日の体験入店の3倍の客が来た。
指名3件。
フリー6件。
合計9件。
何もしていないのに・・・・・・。
いや、何もしていないわけじゃない。
体を、差し出した。
男たちの欲望を、満たした。
笑顔で、喘いで、感じているフリをして。
元男だから分かる。
男が、何を求めているか。
どう演じれば、満足するか。
完璧に、こなした。
シャワー。
サービス。
また、シャワー。
繰り返し。
終わった時には、夜の11時。
「はい、お疲れ様」
店長が、封筒を渡す。
中身を確認する。
1日で9万円。
9万円。
手が、震える。
会社で1週間働いても、稼げない金額。
1日で。
「明日も来る?」
「来ます」
即答。
3日目。
月曜日。
本来なら、会社に行く日。
でも、私は店にいた。
「今日も予約いっぱいだよ」
店長の言葉。
その通りだった。
昨日と同じ。
いや、もっと多い。
指名4件。
フリー7件。
合計11件。
体が、悲鳴を上げる。
でも、止められない。
笑顔を、作る。
声を、出す。
男たちが、喜ぶ。
お金が、入る。
夜。
「今日もすごかったね」
店長が、封筒を渡す。
9万円が入った。
2日間で、18万円。
体験入店の3万円を合わせて。
21万円。
3日間で。
財布が、重い。
スマホを見る。
2月6日。
今日だ。
支払日。
銀行アプリを開く。
残高:112,000円(給料の残り)
手持ち現金:210,000円
コンビニに行く。
ATMで、現金を入金。
7万円。
残高:182,000円
これで。
引き落としは、問題なくできた。
帰り道。
コンビニで、弁当を買う。
ついでに、デザートも。
プリン。
いつもは我慢していた、高いやつ。
450円。
でも、今は買える。
部屋に戻る。
弁当を食べる。
プリンを食べる。
甘い。
美味しい。
財布を開ける。
まだ、14万円ある。
68,000円は払った。
家賃も、払った。
光熱費も、通信費も、食費も、問題ない。
むしろ。
余る。
スマホを開く。
『TS Body Subscription Service』
そして、新たなサブスクを加えても問題ないだろう。
スクロールする。
『おすすめオプション』
・ヘアケアセット 月2,000円
・スキンケアセット 月3,000円
・ワードローブ定期便 月10,000円
・ボディメンテナンスプラン 月8,000円
・美容院予約代行サービス 月5,000円
全部、魅力的。
髪は、傷んできた。
毎日、ドライヤーで乾かして。
セットして。
ケアが、必要。
肌も。
乾燥してる。
化粧のノリが、悪い。
服も。
同じものばかり着てる。
お客さんに、飽きられるかもしれない。
生活費を除いても・・・・・・。
計算する。
月の収入(風俗):
週3日×4週=12日
1日9万円として、108万円。
いや、控えめに見積もって。
週3日×1日7万円=21万円
月84万円。
支出:
家賃:60,000円
現在のサブスク:68,000円
光熱費:10,000円
通信費:10,000円
食費:30,000円
合計:178,000円
収入840,000円ー支出178,000円=662,000円
66万円、余る。
新しいオプション、全部足しても。
2,000+3,000+10,000+8,000+5,000=28,000円
月額96,000円になっても。
全然、余裕。
指が動く。
『ヘアケアセット 月2,000円』
チェック。
『スキンケアセット 月3,000円』
チェック。
『ワードローブ定期便 月10,000円』
チェック。
『ボディメンテナンスプラン 月8,000円』
チェック。
『美容院予約代行サービス 月5,000円』
チェック。
『確定しますか?』
タップ。
処理中……
『ありがとうございます!
現在のご契約内容:
・スタンダードプラン 8,000円
・特別会員 2,000円
・メイクレンタル(フルオーダー) 3,000円
・生理体験プラン(プレミアム) 50,000円
・生理サポートパック 5,000円
・ヘアケアセット 2,000円
・スキンケアセット 3,000円
・ワードローブ定期便 10,000円
・ボディメンテナンスプラン 8,000円
・美容院予約代行サービス 5,000円
月額合計:96,000円
※次回請求日:3月1日※』
画面を見つめる。
月額、96,000円。
でも、払える。
余裕で、払える。
風俗で、稼げば。
ベッドに横になる。
体が、痛い。
今日だけで、11人。
11人の男。
でも。
これで、美雪は完璧になれる。
髪も、肌も、服も、体も。
全部、磨かれる。
もっと綺麗になる。
もっと、稼げる。
スマホが震える。
会社からのメール。
『美雪さん
連絡が取れません。
心配しています。
明日、出社できますか?
できない場合、人事と相談が必要になります。
田中』
削除。
もう、関係ない。
あの世界は。
今の私は。
美雪は。
風俗嬢。
それだけ。
目を閉じる。
体の奥に、まだ。
男たちの感触が残っている。
気持ち悪い。
でも、慣れる。
慣れるしかない。
お金のために。
この生活のために。
この体のために。
明日も、店に行く。
また、男たちが来る。
また、お金が入る。
それでいい。
それだけでいい。
そう、自分に言い聞かせながら。
私は、眠りに落ちた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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