転生の魔女~せっかく王女に生まれ変わったのに、無双しすぎてまた魔女って言われちゃいそうです~

十森メメ

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第1章 ゼノビア王国編

プロローグ

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「なんで、こんなことに……」

 私、エマ・ヴェロニカとその仲間たちは死の淵に立たされていた。

 意識が薄れ、すでに体力は限界を超え、魔力も底が見えている。

「私が、なんとかしなくちゃ……」

 この状況を打開する糸口を見つけなければ、私たちの命運もここまでだ。

 このまま黙って死を受け入れるわけにはいかない。だが、思考が言う事を聞いてくれない。

 なぜこんな状況になっているのか。そんな事ばかりが脳内を駆け巡っていた。


 伝説の秘宝『アトムスの罪』

 それを手に入れるため、私たちはここまでやってきたのだ。

 通称、ラストダンジョン。正式名称、深淵の牢獄しんえんのろうごく

 絶対攻略不可能と言われたそのダンジョンの最下層に眠る秘宝を手に入れ、冒険者として最高の栄誉を得るため、私と3人の冒険者たちはともに協力し、ここまでやって来た。

 秘宝までの道のりは困難を極めていた。見たことのない魔物との戦い、考えられないようなトラップの数々。そして、このダンジョンで無残にも散っていった死屍累々の冒険者たち。

 今まで攻略してきたダンジョンとは比較にならない難易度だったが、不屈の精神と、仲間たちとの熱い友情でなんとかここまで辿り着いたのだ。

 ラストダンジョン 最下層 地下70階。

 そこは地下とは思えないほど広大な空間と、そしてその最奥には秘宝が眠っているであろう宝箱の存在を確認できた。同時に、それを守る魔人の存在も私たちの視界には入っていた。

 そして、その魔人こそが、この状況を作り出した張本人だった。


「……決断しなきゃ」

 私たちは魔人との戦いで、もはや修復不可能な状況まで追い込まれていた。

 これまで誰も手に入れることができなかった伝説の秘宝『アトムスの罪』。ようやくここまで辿り着き、もう少しでそれを手に入れられるという直前まできていたのに、どうやらその願いは叶いそうもない。

 というよりも、人類には到底不可能だろう。

 あの魔人は異常だ。理不尽だ。不条理だ。物理法則を完全無視した超魔人。あんな存在《もの》がこの世にいること自体が反則だ。

「……くっ」

 状況は絶望的だった。あらゆる角度から予測不能な攻撃が飛んでくる。絶対防御魔法を展開し、すでに意識を失っている3人の仲間たちを守りながら耐えてはいるが、魔力はもう底を尽き始めている。このままでは耐えきれない。

「テオ、ヴァルゴ、セレス……」

 そうつぶやく私の脳裏に、これまで共に冒険をした仲間たちの記憶がよみがえってくる。

 テオドール・スターボルト。私を冒険に誘ってくれて、世界が広いことを教えてくれた本当に素晴らしい人。強く、賢く、時には冷徹で、鋭い、とても一言では言い表せない大切な人。

 ヴァルゴ・ロイヤルシード。亡国の責任を一身に背負った心優しき元王族の戦士。いつも私をやさしく見守り、時には身をもって助けてくれた、父のような人。

 セレス・ヘスペリデウス。5大国の一つヘスペリデウス神国の聖女だったが、冒険心が捨てきれず、国を捨てたおてんば娘。いつもぶつかっていたけど、自身の身を守る戦い方とか色々教えてもらった、姉のような人。

「ぐぉおおおおおお!!」

 魔人の攻撃がさらに勢いを増す。私の展開する超硬度の防御魔法が悲鳴を上げている。

 涙をこらえ、顔をゆがませる私。これまでともに冒険してきた最高の仲間たち。どんなに困難な状況でも、くじけず、めげず、前を向いて乗り越えてきた数々の冒険の日々が走馬灯のように蘇ってくる。

 限界が近いと感じる。このままでは、確実に死ぬ。

 でも、私はあきらめない!

 自分はどうなっても構わない!でもせめて仲間たちだけは、必ず救ってみせる!

「……見えた!」

 敵の攻撃が一瞬緩んだその刹那を、私は見逃さない。防御魔法を瞬間的に解除し、同時に倒れた3人を包み込む魔法陣を展開する。

 命を削った最後の魔法。

 そして、叫ぶ!

「転移魔法・テレポート!」

 瞬間、青白い強烈な閃光が暗く淀んだ洞窟の最下層一帯を照らし尽くした。テオドールが私になにか言いかけていた気がしたが、それも刹那。私以外の3人は、テレポートによって一瞬でその場から姿を消していた。

 全ての魔力が尽き、抜け殻となった私は、その場に倒れこむことしかできなかった。

「……ああ」

 幸せだったのか。辛かったのか。うれしかったのか。悲しかったのか。

 感情が倒錯する。

 走馬灯は……さっき見たからもうないみたいだ。これは死ぬなと自覚する。不思議と絶望感はないが、何となく寂しさはある。

 そういえば、ああ、そうだ。大事なことを忘れていた。結局私はずっと魔法オタクをやっていただけで、人並の人生は歩んでこなかった。魔法に生き、魔法に死ぬ。それだけ。

 時には天才すぎて、魔女などと呼ばれながらも生きてきた短い人生。嫌なことも多かったが、充実はしていたと思う。

 ただ……。

「テオドール、私はあなたのことが……」

 その言葉を最後に私、エマ・ヴェロニカは18年という短い生涯に幕を閉じた……。


 ……かと思った瞬間、急に意識が戻る。

 戻ったのはいいが、自分を自覚できない。感覚が明らかにおかしい。目を開いているはずなのに、視界がぼんやりしている。状況が全く把握できず、混乱している。

 ただ、なぜだろう。すごく、泣きたい。泣き叫びたい!

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「おめでとうございます!サビーナ様!元気な女の子です!」

 すでに泣いていた。……おぎゃあ?私、そんな泣き方していたかな?

 ていうか、私、死んだと思うんだけど。ここは、一体……。

「あなたの名前はティア!ティア・ゼノビアよ!」

 圧倒的母性とあふれる幸福感に包まれていた。

 ここは天国?いや、現実だろう。少し冷静になってきた。わかる。私にはわかる。まさかこんなことになるなんて!

「おぎゃあ!」

 とりあえず、今は泣き続けよう。皆を驚かせてはいけない。理解した状況を整理するため、これから確認しなければいけないことはたくさんあるけれど、今だけは、命の誕生を祝うこの瞬間を一緒に味わおうと思う。

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 そう。今日は私の2回目の誕生日。

 天才魔術師エマ・ヴェロニカがティア・ゼノビアに生まれ変わった記念すべき日。

 転生記念日だ。
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