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17. 切り札使っちゃお
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僕は中央に進み出た。
「被害者のグラス底面に触れる機会は、通常の給仕には存在しません」
そして一呼吸置いてから言った。
「つまり――あの指紋は事前に採取したものを押し付けられた、細工にしか過ぎません」
オスカーが鼻で笑う。
「そのようなでっち上げはやめてくれないか?」
傍聴席から笑いと罵声。僕は一瞬だけ目を閉じて息を吐く。
この手段は、使いたくなかったんだけどなぁぁ。一度出せばもう後には引けない。
けど、もう迷っている時間はないね。
僕はセリーヌを見据えた。
「事件当夜、セリーヌ嬢は被告人カイ・ヴァン=ノクスを守るために行動したんです」
貴族たちが僕を信じられないような目つきで見る。
どっと法廷の空気が変わった。
「混乱の中、偏見をもった英雄族の剣が被告人に向けられそうになった時、彼女は現場を封鎖し、形式的拘束という形で命を守りました」
ヴィランの間でもざわめきが起きている。
オスカーの額に青筋が浮き出た。
「なっ…しっ、しかしそんなこと、そもそも動機が見当たらない!一体、なんのために英雄族がヴィランを救おうとするのだ!!」
「そんなのっ、僕が言う義理はありません!!!」
ぎゅーっと目をつむり、僕は言った。
僕の言葉に、セリーヌの肩がわずかに揺れた。頬に朱が差し、それを隠すように視線を落とす。
『くぶっ』
『あはははははは!!』
爆笑するヴィランの仲間たちと、はっとするカイが視界の隅に見えた。
「…本当、あの弁護人はお節介ね。まるで―――昔のわたくしみたいに…」
セリーヌはうつむいたままむっとして言った。
ぬ? 君と僕は似た者同士だったの?
カイとセリーヌ、君ら二人がほんとはどこで知り合ったのかは知らないけれど、恋路は応援するよ!!
僕はにっと笑った。くふふ、もう仕上げの時間かな?
僕は傍聴席に座るエリオットの方を見る。
「さらに――加工映像と捏造証拠。これらは貴族特有の高い魔術技術で作られている。その技術と動機を持ち合わせていた人物が調査により判明したのですが………エリオット卿。あなたの妹さんですね?」
この名を口にした瞬間、全ての視線が僕に突き刺さる。
その時、グルムは反対方向の席でにかっと笑った。
この情報は完全にグルム頼りだ。
朝、いつも気まぐれなグルムからようやく手に入れた最後の情報なのだ。
もし外せば僕はただの道化になる。
グルムを信じた僕は間違っていないか。
僕は少しだけ汗を流しながら、エリオットを見据えた。
「…っっ!!!」
視線が揺れ、椅子の上で貧乏ゆすりをするエリオット。
「――――はい、ビンゴ」
グルムは呟いた。
タイミングがやっと訪れたねっ。ここで僕の推測を披露しましょーかっ。
僕は、安堵で胸をいっぱいにしながら、法廷中央で手を広げて冷静に笑った。
「エリオット・グレイブ卿。まず、あなたはマチズの種子を聖封印庫から持ち出し、セリーヌ家の魔法痕跡を意図的に付着させた――
魔力痕跡は通常微細なのに、あえてくっきり残すことでセリーヌ嬢の犯人説を印象づけましたね?
聖封印庫のアクセス記録を改ざんしてその上、晩餐会の前に、セリーヌ嬢が準備で使用していたグラスの底面に触れさせる細工をして。
事件時にその底面部分を被害者のグラスに差し替え、指紋だけがあり得ない位置に残るようになったことが、ふふ、最大の汚点ですっ。
そしてそして、あなたはセリーヌが少年を助けた瞬間を「踏みつけている」ように加工し、貴族ネットワークに流布し、これで世論を先に掌握しました。
さらに――
あなたは、晩餐会で被告人カイ・ヴァン=ノクスを毒殺し、ヴィラン陣営を弱体化させることを計画しました。
ただし、毒は被害者が飲んでしまい、計画が半分だけしか成功しなかった…。
その混乱の中で、被告人カイとセリーヌ嬢を同時に容疑者に仕立て上げた――――以上のことから――
僕は独自に、そして極めて個人的に起訴する。
あなたこそが毒殺の首謀者であり、証拠捏造の張本人ですっ」
沈黙。
その後、裁判長の口がゆっくりと開いた。
「―――カイ・ヴァン=ノクス。セリーヌ・ド・グラディス。双方、無罪!!」
法廷が爆発的な歓声と怒号に包まれる。椅子から転げ落ちたエリオットの口元が、ひくっと引きつった。
スカッとしたヴィランたちが笑いながら、僕をずっとずっと見つめていたような気がした。
裁判長の声が高らかに法廷に響き、僕は清々しい気分でふっと目を瞑った。少し力が抜けてから、じわじわと清涼な空気に包まれて、かすかに笑った。
「被害者のグラス底面に触れる機会は、通常の給仕には存在しません」
そして一呼吸置いてから言った。
「つまり――あの指紋は事前に採取したものを押し付けられた、細工にしか過ぎません」
オスカーが鼻で笑う。
「そのようなでっち上げはやめてくれないか?」
傍聴席から笑いと罵声。僕は一瞬だけ目を閉じて息を吐く。
この手段は、使いたくなかったんだけどなぁぁ。一度出せばもう後には引けない。
けど、もう迷っている時間はないね。
僕はセリーヌを見据えた。
「事件当夜、セリーヌ嬢は被告人カイ・ヴァン=ノクスを守るために行動したんです」
貴族たちが僕を信じられないような目つきで見る。
どっと法廷の空気が変わった。
「混乱の中、偏見をもった英雄族の剣が被告人に向けられそうになった時、彼女は現場を封鎖し、形式的拘束という形で命を守りました」
ヴィランの間でもざわめきが起きている。
オスカーの額に青筋が浮き出た。
「なっ…しっ、しかしそんなこと、そもそも動機が見当たらない!一体、なんのために英雄族がヴィランを救おうとするのだ!!」
「そんなのっ、僕が言う義理はありません!!!」
ぎゅーっと目をつむり、僕は言った。
僕の言葉に、セリーヌの肩がわずかに揺れた。頬に朱が差し、それを隠すように視線を落とす。
『くぶっ』
『あはははははは!!』
爆笑するヴィランの仲間たちと、はっとするカイが視界の隅に見えた。
「…本当、あの弁護人はお節介ね。まるで―――昔のわたくしみたいに…」
セリーヌはうつむいたままむっとして言った。
ぬ? 君と僕は似た者同士だったの?
カイとセリーヌ、君ら二人がほんとはどこで知り合ったのかは知らないけれど、恋路は応援するよ!!
僕はにっと笑った。くふふ、もう仕上げの時間かな?
僕は傍聴席に座るエリオットの方を見る。
「さらに――加工映像と捏造証拠。これらは貴族特有の高い魔術技術で作られている。その技術と動機を持ち合わせていた人物が調査により判明したのですが………エリオット卿。あなたの妹さんですね?」
この名を口にした瞬間、全ての視線が僕に突き刺さる。
その時、グルムは反対方向の席でにかっと笑った。
この情報は完全にグルム頼りだ。
朝、いつも気まぐれなグルムからようやく手に入れた最後の情報なのだ。
もし外せば僕はただの道化になる。
グルムを信じた僕は間違っていないか。
僕は少しだけ汗を流しながら、エリオットを見据えた。
「…っっ!!!」
視線が揺れ、椅子の上で貧乏ゆすりをするエリオット。
「――――はい、ビンゴ」
グルムは呟いた。
タイミングがやっと訪れたねっ。ここで僕の推測を披露しましょーかっ。
僕は、安堵で胸をいっぱいにしながら、法廷中央で手を広げて冷静に笑った。
「エリオット・グレイブ卿。まず、あなたはマチズの種子を聖封印庫から持ち出し、セリーヌ家の魔法痕跡を意図的に付着させた――
魔力痕跡は通常微細なのに、あえてくっきり残すことでセリーヌ嬢の犯人説を印象づけましたね?
聖封印庫のアクセス記録を改ざんしてその上、晩餐会の前に、セリーヌ嬢が準備で使用していたグラスの底面に触れさせる細工をして。
事件時にその底面部分を被害者のグラスに差し替え、指紋だけがあり得ない位置に残るようになったことが、ふふ、最大の汚点ですっ。
そしてそして、あなたはセリーヌが少年を助けた瞬間を「踏みつけている」ように加工し、貴族ネットワークに流布し、これで世論を先に掌握しました。
さらに――
あなたは、晩餐会で被告人カイ・ヴァン=ノクスを毒殺し、ヴィラン陣営を弱体化させることを計画しました。
ただし、毒は被害者が飲んでしまい、計画が半分だけしか成功しなかった…。
その混乱の中で、被告人カイとセリーヌ嬢を同時に容疑者に仕立て上げた――――以上のことから――
僕は独自に、そして極めて個人的に起訴する。
あなたこそが毒殺の首謀者であり、証拠捏造の張本人ですっ」
沈黙。
その後、裁判長の口がゆっくりと開いた。
「―――カイ・ヴァン=ノクス。セリーヌ・ド・グラディス。双方、無罪!!」
法廷が爆発的な歓声と怒号に包まれる。椅子から転げ落ちたエリオットの口元が、ひくっと引きつった。
スカッとしたヴィランたちが笑いながら、僕をずっとずっと見つめていたような気がした。
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