推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム

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18. とある二人の恋の行方

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 その後の夜。
 盛大に打ち上げが行われていたが、僕はまだ参加せずに人気のない裁判所の中庭に向かった。
 夕暮れの光が泉の表面を揺らし、橙と金のきらめきが波紋に溶けていく。花びらは吐息みたいにゆっくりと沈んでいった。
 周囲には誰もおらず、ベンチに座ったセリーヌと立ったままの僕が向かい合う姿勢になった。
 そこで僕はぎこちなくセリーヌに聞いた。

「……あの、セリーヌ様。カイさんを守ってたことばらしちゃいました」

「…気づいてたのね」

 セリーヌは肩を落とす。

「すっすいませ―――」

 セリーヌは僕の言葉を遮り視線をそらした。

「カイのこと、どう思ってるの?」

 一瞬何を言おうか僕は迷い、目を上下させた。推しとは言えないからなぁ…――

「どうって……依頼人として笑顔にしたいな、とは思ってますけどっ」

 セリーヌは苦笑しながら立ち上がった。

「そう。……じゃあ、泉の件より先に、わたくしがカイを守った理由。あなたはもうどうせ察しているだろうけど、話してもいいかしら」


 水たまりに自分の顔を映すセリーヌ。そういえば昨日は少し雨が降っていたっけ。
 僕が頷くとセリーヌはゆっくりと話し出して上を仰いだ。

「わたくしは氷血令嬢を演じた。そうすれば、わたくしの周りの者も、わたくしに近づこうとはしない。だって公爵令嬢として命を狙われることがままある中、そうしなければ保てなかった……でも、その仮面がカイに誤解を植え付けたのよね」

 沈黙。小さい泉に花びらが落ちる音が聞こえた気がした。セリーヌは微笑みながら続けた。

「……でも、カイは〝あの時〟と同じ瞳をしていた」

 セリーヌは小さく息を吐いた。

「泥だらけで、でも真っ直ぐで……。たぶん、あの頃から――」


 言葉が一瞬、泉の水音に溶けた。
「好きだったのよ」


 僕は静かに聞く。

「私、あの頃の自分が嫌いだった。おせっかいで、自分だけで何もできないくせに必死に笑って……。だから、レオン。あなたがわたくしを樹海庭で守ろうとした時――まるであの頃のわたくしを見ているみたいで、つい苛立ったわ」

 少し沈黙の間があり、水音だけが響く。セリーヌはこちらを向いた。

「でも、あなたの裁判の時の言葉で気づいた。……私自身のカイへの気持ちを」


 ―――『そんなのっ、僕が言う義理はありません!!!』


 僕は自分が言ったことを思い出して息を呑んだ。セリーヌは僕にくるりと背を向ける。

「わたくしが樹海庭の泉に足を運んでいた理由は…古来からヴィランの儀式が行われていた泉で、カイやその周りのヴィランの平和を願ってのことだったの。………笑ってしまうわよね。氷血令嬢がそんなことをしていたなんて」

「いや笑いませんよ。むしろ、します」
 僕は真顔だ。

「……」

 セリーヌは僕の言葉になぜかまた沈黙する。今度は少し長かった。

「??」

「……本当に、あなたは変な所で鈍感ね」
「へぇっ?」
 思わず間抜けな声が出た。

「…っふふ、わたくしこそ、あなたを応援するわ。これだけは言っておくけれど…今皆があなたに夢中なのよ。せいぜいこれから頑張って頂戴」

 セリーヌは初めて無邪気にふふふっと笑う。

「どどど、どういう…」

 僕の焦った声をまたもや遮ってセリーヌは言葉を続けた。

「…わたくしがいま、そんなあなたに一番伝えたいことがある。それは―――



 あなたなら、世界を変えられる」


 まるで呪いのようにその声は泉の奥にまで沈んで、僕の胸の奥でずっと波紋を作り続けた。不思議と嫌じゃないのはなんでだろうな。

「…ありがとござますっ。そうしますっ、かならず、かならず変えて、僕がこの世界をこれから、限りなく平和に近づけてみせましょうっ!」


 僕は大きな声を上げた後、びしっと敬礼をしてからいつものようににこにこ笑った。セリーヌが呆れた顔をしているけれど、そこには安堵も混ざってる気がするな。

「……ふふ、これならカイもあなたに任せられるわ――」

 セリーヌは切なげに笑った。
 んええ?
「なんて言いました?」

 セリーヌはなんでもない、とでも言いたげに首を振る。

 とそんな時。


「おーーぃ!」
 ドタドタと乱れた足音が中庭を揺らす。

「うおっ!?」
 僕は驚いて声を上げる。

 ほろ酔いのアヅミだった。
 花びらを踏み散らしながらアヅミは、僕に構わず突進してきた。

「ぐはっっ」
「おーい、レオンぅ!宴お前参加しねぇのぉ!?」
「痛いなぁ…もう!今行くよっ!」

 もう。アヅミは酔った時手がつけらんないな。
 僕は頭をかいてため息を付く。推しだからそれも可愛いけどさ!

「あと、カイ様が呼んでるぅぅ…」
 アヅミはふにゃふにゃ笑いながら僕に向かって言った。

「なんだってぇ!」
 僕はひゅんっと飛び上がった。

 推しに呼ばれてしまった!カイが僕を呼ぶなんて何があった!?
    


  
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