前世で一流弁護士の僕は推し様とともに世界を変えてみせます!〜なんで僕が溺愛不可避なの〜

ホノム

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1. 僕のヴィラン解放宣言っ!

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「レオンにいちゃん!起きて」

「うーん、うーぅぅぅん、僕はきみのことぉ、ほんとにほんとにほめてるのぉっ~~~っ!」

「にいちゃん、打ち上げの後だからって!お寝坊はだめだよぉ!」

 はっ!!
 僕は目をばちっと開けた。

 耳に柔らかな光のざわめきが入り込んだ。
 木製フレームのシングルベッドにて僕はぐっと起き上がり、何か信じられない思いで辺りを見回した。
 机の上には法学書、手書きのメモ、ヴィラン族に関する調査書が山積みになっている。ベッド脇の床には読みかけの本や裁判記録が積み重なり、時々崩れている。

 壁際の棚には前世の記憶から書き起こしたこの世界の資料や裁判資料のノートが混在する。その部屋の紙と木の匂いが僕に落ち着きを与えた。瞼を開けると、南窓からの陽光が紙と木の匂いと共に流れ込んでくる――現実だ。ここは『僕』の自室――ほっとため息をついた。

 そうだ。

 僕は同僚が勧めてくれた『蒼き誓約と王子の夜明け』という、この世界にどういうわけか転生したんだった。
 ゲームの中になぜ転生しているのかはもはや永遠の謎とも言えるけれど、僕はこの世界に存在しているのだから、認めないわけにはいかないな。

 末っ子の弟アランは心配そうにベッドにいる僕を見つめた。僕を起こすために叩き続けたのか息が切れている。

「なんだアランかぁ」

「どうしたのにいちゃん――」

「うあ!?」
 僕はそこではっと思い出した。

 大事なことを忘れてた……!

「そーいえば、今日朝からヴィランたちのアジトで契約更新手続きするんだったぁ!!」

 僕は元気いっぱいに起き上がり、弟の頭を撫でくりまわしてから―――部屋の左側にある立てかけ時計の針を見た。
「っ」
 僕の身体が石みたくカチンコチンに硬直する。
 アランが僕のことをびっくり仰天といった顔で見つめている。
「にいちゃん…!?」

 やばいこれ絶対遅刻するやつ。



 ◇



 その後、アジトである塔の玄関前に広がる石畳スペースにて。楕円形の広場で、塔の正面扉から20メートルほど奥行きがある。

 僕は正門から目一杯助走をつけた。
 なんでこんなにヴィランのアジトって玄関前が駐車場みたく広いんだ!!

 僕は焦り全速力で走ったせいか―――
「ふぅあ!?」

 やっと玄関目前の距離で、3回ほど大転倒をぶちかました。
「うう…いたいっ」

 そこで、複数人の足音が聞こえた。

「――おやおや、大丈夫かい?」

「もう!お前はほんとドジだなぁ…」

「バカなのどうにかならないんですか?助走つけすぎですよ」

「うおぉ!」
 僕の前にライラさんとアヅミ、ウィリアムが立っていた。アヅミはいつもどおりの呆れ顔で、ほか二人は笑いをこらえきれない様子で咳払いをした。

「あんたら覚えてろぉ……」
 僕は地べたに這いつくばったままこの世の終わりみたいに呪詛をこぼした。

「……怪我は?」
 僕の前にそっとしゃがみこんで現れた人物がいた。
「…?」
 その距離の近さに、僕は一瞬だけ呼吸が止まった。

「カイ、さん」

 カイは眠たそうな目で僕を見つめる。推しが顔の真ん前にいる。

「えあ、無いです無いですっ。近いです離れろ」

「お前って辛辣だったんだな…」

 カイはめんどくさそうにしながらも、僕の手を引いてくれた、が―――

「あれ?僕立ち上がったんだけど。手、離して?」
「……」

 一向に離してくれないのはなんでだぁ!?

 カイは相変わらずだるそうに眠たい目で僕の手を繋いだまま歩くだけだ。
 やばい、手汗と脈の速さがカイに伝わってしまう。やばいやばい…!
 脳が勝手に心拍数を数え始めて、もうまともに歩けそうにない。

 ライラさんが「…なるほど、その手があったか」と呟いた声が聞こえた。アヅミとウィリアムは悔しそうにしている。
 いや、なんでだよ。
 僕は意味がわからず首をひねった。



 前世の夢を久々に見た。かつての同僚よ、僕は元気でやってるよ!
 さ、今日からどう行動してみせようか。セリーヌの言葉がいつまでも耳に残っているので、僕の中でぜひ果たしたいのだ。



 アジトで手続きを終えた後、僕はヴィランたちを集めた。
 ロビー中央はドーム型で、青白い魔力の光脈が天井を走り、弱く脈動している。


 深紅のソファには待っていてくれたゼオスさんがにこやかに座っている。
 黒革の長椅子にカイとウィリアムは腰掛け、ライラさんはお茶を用意している。アヅミは壁に寄っかかって腕を組んだ。

 そして僕はというとお菓子が置かれた低めの黒檀テーブルの横を通ってからステンドグラスの前に立った。

 窓の方を向いたまま僕は息を吸う。
 推しのためだけじゃなく、この世界を前世でできなかった分変えるために――

「奴隷を、この国から無くしませんかっ。もちろんヴィラン族も含めて!」

 僕はくふっと笑って振り返り、ヴィランたちに告げた。

 ライラさんの手が一瞬止まり、カイは片眉を上げる。ゼオスさんは笑みを深め、アヅミは静かに腕を組み直した。
 僕の言葉に、広いロビーの空気がわずかに凍る。青白い魔力の光脈が、まるで心臓の鼓動を真似るかのように一度だけ強く脈動した。

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