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2章/純白の白蛇
2章/純白の白蛇
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悪夢の中で自分を取り戻すまでは、夢の中の配役『キャラクター』を演じなければならない。
今夜見る夢でどんなキャラクターを演じ、どんな悪夢に落ちるのか、どんな狂気と苦痛が待っているのか、考えれば考えるだけ憂鬱になり、また無意味でもある。
目蓋を開けば思考は正常で『美里風太郎』のままだった。
窓の外からの日差しが差し込み、視線だけで追った時計は七時半を指していた。朝に起きるには遅いくらいの時間だ。
「はぁ……」
こんな世界のクソったれさに吐き出した溜息を積み重ねたら、きっとそれはオレの背丈を超えるほどだろう。
自分自身を確立して目が醒める。つまりこれは現実で、珍しく悪夢を見ない夜だったわけだ。
肝心の情報収集も何もできず、また日常はやってきた。
「明日は殺す。絶対……殺す」
朝目覚めて言う言葉がコレだ。我ながら人生が狂っているとしか思えない。
修学旅行の二日目の朝でルームメイトに聞かれた時は最悪な展開だったが……それはまた別の話だ。見慣れた天井を恨めし気に見たって今夜の悪夢が来る事に変わりは無い。
起き上がろうとして、左手が何かに挟まっている事に気付いた。ベッドと壁に手を挟んだのとは違う、生ぬるい温度があり湿気っている。猫や犬に触れたのとは違う、レザーソファーのような触り心地。
恐る恐る左手を確認すると、白髪の美女が隣に寝ていてオレの左手は胸元に突っ込んでいた。人肌の暖かさより冷たい爬虫類のような触り心地。
驚く事も何も無い。これが悪夢だ。現実のように見せかけた悪夢の設定。つまり『シナリオ』だ。シングルベッドに二人が寝ると狭く、今すぐベッドから蹴飛ばしてやりたいところだが相手が寝ているなら頭を叩き割るチャンスだ。
左手は胸の谷間に突っ込んだまま、右手で武器を呼び出す。
「召喚、パイクホルダー」
右腕に装着する手甲。形は騎士が付けるガントレットなのだが三本の杭が装着してある。攻撃を受けとめる事も射出する事もできる攻防両立の防具。この杭で頭を撃ち貫けば、悪夢はすぐに終わる。はずだった。
「武器が出ない? そんな馬鹿な……」
現実か、悪夢か、
自分自身が確立している朝。現実。
白髪の女がベッドにいる。夢。
パイクホルダーは召喚できなかった。
現実?
隣に美女が寝ていて左手は巨乳に挟まれている。
夢?
「これは夢? 現実? いや夢だ……現実であってたまるか! ならどうして武器が呼び出せない……」
可能性として、現実感に縛られた悪夢を見ているのだろうか? まだオレはキャラクターに縛られているのか? 重要なのはそこじゃない、今、ここから『逃げる』か『戦う』かだ。
その判断に気付くには少し遅かった。
「ふふ、ここは現実の鏡写しの場所さ、夢であり、また現実でもある」
女の目蓋は開かれ金色の瞳がオレを捉える。オレの体は蛇に睨まれた蛙のように固まった。ベッドに力づくで寝かされるとオレの手を谷間に突っ込んだまま馬乗りになり、オレは捕食される寸前まで来てしまった。
この状況を抜けだすにはどうすればいい。悪夢に見慣れたオレからすれば、女から心臓に一突きくらって死んで終わる。そういったパターンかもしれない。
「どうやら、楽しいお話をする雰囲気じゃなさそうだな、話のできる化け物は何体かいたが、ここまで会話のできる奴は初めてなんだけどな」
軽口の一つも叩いて時間を稼ぐ。このまま終わる訳にはいかない。
「さっきアタシの頭をブチ壊すつもりだったのによく言うねぇ。この前も火薬で吹っ飛ばそうとしたよねぇ~。それに化け物じゃなくて獏者さ。アタシはアンタと会話する為に、ここまで追い詰めたんだ。まずこの話を聞いてもらおうか。今、ここでアンタが死ねば、現実でもアンタは……死ぬ」
死、それは何度も体験している幻覚。
会話の頭に死の宣告をもってくるなんて、悪趣味もいいところだ。
しかしこの程度で動揺するほど場数を踏んでない。いつもの事だ。
「……そいつはハッタリだ。今まで夢の中で何度も死んだが、現実で死ぬ事なんて無い。夢の中で死んで現実で死ぬ事は絶対にない」
「確かに夢の中ならねぇ。でもここは夢の中じゃないんだ」
「つまらない冗談だ。ここは現実じゃない。お前がいる、それだけでこれは悪夢だ」
「ここはね、夢と人の魂が生まれては帰る場所。夢想構築の世界の『サシワタ』さぁ。人間が見る夢の奥にあり、あの世とも天国とも地獄とも呼ばれるところなのさぁ……」
ここは夢ではなく、夢の奥にある夢想世界? いや、そういう悪夢の設定だ。この女のペースに流されるな。自我をしっかりと持て! しかし、今のオレはキャラクターに縛られていない。出せるはずの武器が出ない。ここが現実でも夢だからだ。とも断言はできない。たが、結論を出すにはまだ早い。
「それを確かめる方法は無い」
「試してみるかい?」
「ああ、試させてもらう、お前の命でな! 来い、ブラストエッジ!」
胸の谷間に突っ込んでいる手から、叩き貫く翼剣を産み出す。
そのはずだったが、出てくる物は何も無い。
「アハハ、ここじゃアンタのエモノは出せない。アンタの生まれ育ちは現実で、悪夢のように無形の遊び場ではない。ここは『サシワタ』なのさぁ……アンタは何も出せない無力な子供なんだよ」
「セブンス・テイスト・ペッパーズ!」
何もできない。打つ手が無い。不敵に笑う白髪美女を前に恐怖する。
「さあ、覚悟はできたかなぁ?」
女の姿は霞みその姿が白蛇になる。
馬乗りになっていた体は蛇のとぐろに絡まれて身動きは取れない。開いた口は人間を丸飲みできる大きさに開く。蛇は下アゴの骨が左右に開き、どんな大きな物も飲みこむ事ができると聞いたが、まさか自分で体験することになるなんて……夢に思う事になった。
本当に死ぬかどうかはともかく、頭から喰われるなんて御免だ。顔をそむけ目を閉じることしかできない。
「ちゅ」
頬に何か当たる感覚はあったが、まだ喰われる様子はなかった。
……あまりにも長く、何も無いので。薄目を開けると、ニヤついた顔の美女がオレを見下していた。
コイツの顔はいつもニヤけているが、特にニヤ付いた顔だ。
「ま、これは手付金ってことで受け取っておいてちょ~だい」
手付金とはどういうことだかさっぱりわからないが、間違いなくオレは呆けた顔をしているだろう。
「ぷくく、まあ、そういう訳だからよろしくね? くっくっくっく……」
「……お前、オレを殺すんじゃないのか」
「まあ昨日は行ったけど、今日のアタシはアンタのことを殺すなんて、一度も言ってないよ? あははははは」
「はぁ、ソウデスカ」
死ぬ覚悟したオレが馬鹿みたいじゃないか。どっと疲れが溜まった。
「あははははは」
笑いを堪え切れなくなった美女が一仕切り笑いきるまで、仕方なく馬乗りにされたままでいた。馬乗りにされて伝わる体温が生々しくて、蛇なのか人なのかどちらを信じればいいのかわからなくなってきた。
「それで、オレに何の用があるんだ。化け物だか獏者だか知らないけど、オレは悪夢の中ではぶっ殺すこと以外考えたくない。殺すか殺されるかどっちかにしてくれ」
見下されたままオレは聞いた。人の上で跳ねるのをやめてもらいたい。
「ホント、短絡的だよねー。まあそれは置いといて、ちょっと外出てみようか。何せここだけの話じゃないんだからさァ。野外授業も悪くないだろ~学生さんよォ?」
オレは美女の誘いを断ることなく言われるがまま話に乗るしかなかった。武器も出ない今、悪夢と戦う方法は何一つない無力さも、有るか無いか分からない死も、一気に対処するには少しでも時間が欲しかった。
*
「さーてどっから説明しようかねぇ?」
ゾリ、ゾリ、ゾリ、ゾリ……。
大蛇がアスファルトの上を蛇行する。先日聞いた音はこの音だったようだ。
蛇の大きさは変幻自在で、この前のクレイモアの回避は小さな蛇になることで避けたのだろう。
現在、街の大通りを白い大蛇の頭の上にあぐらをかいて進行中。
悪夢用の戦闘服を作り出すことはできず、寝巻代わりのジャージのままだと心もとないので学校の制服に着替え防寒用のダッフルコートを着込んだ。
武器らしい武器は……こっそりと台所から包丁を引っ張り出して来たが、十メートル以上ある大蛇相手に刃渡り十センチ程度の包丁が役立つとは思えない。
コートの内側にいつでも引き抜けるように用意はしている。話に乗るはずが、大蛇の頭に乗るとはこれ如何にというものだ。
「寒いのぉ?」
「いや別に」
刃物の隠し心地が落ち着かないだけだ。ハサミを振り回すのと訳が違う。
「アタシは変温動物だから正直寒いのが苦手でね~。元は人間だったけどさぁ。あーそういや最近寒いよね~ホントやんなっちゃう」
「お前と世間話する気はない。とっとと授業を始めろ。お前らは一体何なんだ? オレが悪夢で戦ってきた化け物は、獏者ってのは一体何なんだ?」
「色々と種類はあるけど、少なくともアタシ達に肉体は無いってのは共通しているかな~。後はみーんなお腹をすかしているってこと?」
「人間を喰うのか」
「喰おうとする奴は喰おうとするけど、必要なのは人間の見る夢、夢を砕いてさらに食べやすくした夢のカケラ。アタシ達は夢のカケラを喰って生きる獏。獏者なのさぁ」
「じゃあ今までの悪夢は全て、オレの夢のカケラが目的なのか?」
「半分正解かな、獏者の中でも人間そのものを喰ったり捕獲したりして夢を生産させようとするヤツがいる。そこまでしないと胃袋が満たされないヤツを『大獏者』って呼ぶ。それに対して獏者を喰う獏者を『彷夢来』(サムライ)って呼んでる。大獏者を喰う彷夢来を『大彷夢来』と呼ぶ。人の夢を喰う訳でもなく、獏者を喰う訳でもなく、ただ人の夢に現れては獏者も彷夢来も殺す破壊者……獏者でも、大獏者でも、彷夢来でも、大彷夢来でもない、それが『零式』。つまりアンタさ」
獏者、大獏者、彷夢来、大彷夢来、そして零式。
オレが今まで見て来た悪夢は全て獏者か大獏者による食事の一環だった訳か。それと零式。これが悪夢を見続ける理由であり正体なのか? だとしたら、この零式をやめる事ができれば、オレは普通の夢を見る事ができるかもしれない。
「おっと、アタシは彷夢来さぁ。ただアンタが獏者を潰しまくっているから、ついカッと来て脅してやろうと思っただけなんだよ~。許してくれよぉ~。悪気だらけだったんだよぉ~。へっへっへっへっへ……」
この汚い笑い方をどうにかして辞めてもらいたいものだ。
「なるほど、話は大体わかった。後はオレか、お前か、どっちかが死ぬまで殺し合いをすればいい訳だな」
「ホントにアンタは零式だねぇ……。ここはサシワタで、今アンタが死ねば精神も死ぬんだよ? 夢の中なら精神は肉体に帰れるけど、ここは帰してくれない。バラバラになって消えちまうのさ。今はアタシの言う通りにしなってぇ。悪くしないからさぁ。……むしろ、後で気持ち良くしてやってもいいよぉ~。さっきも悪くはなかっただろう?」
さっきとは……考えるまでも無い。
「結構だ、オレはお前らから縁を切りたいんだ。二度と悪夢を見ない、普通の人になりたいんだ」
「ふうん、できるといいねぇ」
モノを含んだ言い方で、白蛇は鼻先で笑った。
「質問だ、白蛇お前がオレをこのサシワタに連れてきたのか?」
「それもまた半分正解だねぇ。アンタは自分の夢から抜け出して、誰かの夢に無意識に入っちまう。その無意識に入るのをアタシが防いだだけさぁ。いつ別の夢に入り込むかわからないから、アンタの手に絡みついて寝ながら待ってたってわけさ」
「なるほど」
意識して無表情でいるが、あの胸の中に手を突っ込んだのは無意識じゃなくてそういう意図があったのか。思い出すな、とりあえず今は別の事を考えろ!
「で、アタシから持ちかける契約はと~っても簡単。たったの二つ『獏者を倒して欲しい』『アタシは獏者を喰いたい』ってこと。
そっちの得することは何かって話なんだけど『アタシはアンタを警護する』『素早く獏者を見つけることができる』『アタシが警護している間、アンタは安眠ができる』どうだ? 簡単だろう?」
安眠。それはオレにとって口から手が出るほど欲しいものだ。日常の裏返しは悪夢ではなく、安眠が欲しい。
「すぐに判断はできない、お前の事が信用できないからな」
「もちろん、後で本格的に契約できればいい。今は仮契約ってことで……よろしくぅ~」
「それで、これからどうするんだ。話はこれで終わりか?」
「なぁ~に。さっそく一仕事してもらうだけさ~」
白蛇がオレを運んだ場所には空間に黒い亀裂のような物があった。誰かの家の寝室。それが人の眠っているはずの布団の上に不自然に生えている。
「しっかり捕まってろォ~。人の夢に堕ちるぞぉ~」
亀裂に触れると、その真っ暗な奈落に吸い込まれていく。
*
ここが夢の中か。
夢を夢だと気付き、自分自身を確立させるのには時間がかかり、また夢の中の住人としてキャラクター(役割)に逆らうので気力をかなり使う。気力がどれだけ残っているかで武器を呼び出すことも常識じゃ考えられない脚力を発揮するのにもかかわって来る。ゲーム内では無限の体力があっても、夢の中では自身の精神力の残量が悪夢との生死に大きく関わってくる。
今回、この白蛇の力を借りて入った『誰かの夢の世界』では、気力を一切使わずに自分自身を確立していた。
「どうだい、人の夢に入った気分はよぉ。アタシの目を貸してやる。どこが夢の中心点だかわかるだろぉ?」
「……アレか」
新入社員として働き始め数カ月たった『青年』が中心点だった。夜の飲み会の後、先輩と橋の下の屋台のラーメンを食べて仕事のやりがいを聞きながら、先輩と一緒にこの仕事を頑張ろうと、中心点が動いているのがわかる。
夢を見ている本人の『過去』を再現しているのだろうか。よくみると現代よりも物価は安く十何年と昔のようだ。今じゃクラシックカー呼ばわりされる車が橋の上を走っている。
これが人の見る夢。自分が見続ける狂気を孕んだ化け物が出る夢とは違う、温かみのある夢だった。オレは遠くから見守っているだけなのに、この夢がとても羨ましく思えた。見ているだけで何もかも伝わって来る。屋台のラーメンが美味くて、先輩と話すのが楽しくて、スープまで飲みほしてどんぶりを置くと、
屋台が半分に潰された。
隣に座っていたはずの先輩も潰され、人の形をしていなかった。轟音一つで、楽しかった夢は無残な惨状へと変わった。
「来たぞ~、獏者だ。それも人間を食わなきゃ腹が満たされない大漠者だ!」
屋台を叩き潰した鉄の塊は車のエンジンのように見えた。この夢に、獏者という異物が混じり込んだのが全身で理解できる。
屋台の近くの車の中に獏者が一匹隠れている。エンジンを吐き出したのは獏者の仕業だ。
オレは素早く髑髏の仮面を付けた。
先ほどのサシワタとは違い、夢の中では戦うことができる。いつもと変わらない悪夢の救済方法が使える。
ここからは傍観者ではなく『ナイト・ナイツ・ナイトメア』の主人公『ナイト』のキャラクターを演じる番だ。白蛇は小さくなると素早くオレの首に巻き付いた。束縛ではなく、行動を共にする為に。
「セブンス・テイスト・ペッパーズ」
武器の取り出しと同時に、監視していた高台から飛び降りる。
銃口から出たグレネード弾は車の窓を割り、車内で爆発する。四散する破片の中で大きな塊が不自然に姿を消した。すぐに仮面で獏者の位置を確認する。逃げてはいない、近くに姿を隠している。オレは事情を理解できていない夢の主人の側に近寄った。
「ここは危険だ。向こう側に行け、トンネルを抜けて逃げろ」
「い、一体何が、どうなって……先輩が!」
エンジンに押し潰され、静かに血の水たまりが広がって行く。いつも見ている悪夢そのものだ。
「これは悪い夢なんだ。オレを信じてくれ。死にたくはないだろ?」
グレネード弾をリロードし終える。未だ敵の位置は動かなかった。何か言いたそうな顔をしているが急展開に言葉が詰まっているのだろう。困惑と泣きそうな顔が混ざり恐怖に震えている。
「早く行け!」
怒鳴られてようやく青年はトンネルに向かって逃げ出した。獏者を炙りだすようにグレネード弾をばらまく。爆炎で辺りが明るくなり、炎の中に獏者の姿が一瞬だけ見えた。下半身は蜘蛛、上半身は人間の化け物だった。
「ありゃ? 外れだねぇ」
小さくなりマフラーのように首に撒き付いている白蛇が言う。
「今のは炙りだしだ、追いかけるぞ」
敵の数は一体のみ。防衛よりも追撃の方が早く終わる。敵は八脚の脚力を生かし、ビルの壁へ移り、さらに遠くへ逃げ出す。並大抵の脚力じゃ追いつかないだろう。
「違う、そうじゃなくて。アレは雑魚さ。アタシが狙っているのは赤錆色した蜘蛛さァ。その配下が今の子蜘蛛ってワケ」
「どっちにせよ、殺せばいいんだろう?」
「アンタの考えは単純でいいねぇ……まぁその通りなんだけどさ~」
「召喚、トータスホイール」
移動用の装備を呼び出す。両膝に銀の円盾が付いた脚甲で、機動力を上げる事ができる。膝に付いている円形の盾をくるぶしの位置に装着位置をずらす。盾のフチが地面に付き両足は浮く。ローラースケートの原理で路上を滑りだす。
「召喚、ブラストエッジ」
ジェットエンジンの付いた剣を頭上に構える。燃焼高圧圧縮された空気を吹き出し、その推進力で加速する。
「ひょえっ!」
「ちょっと黙ってな、舌噛むぞ」
人の足で八脚の蜘蛛を追いかけるのは無理があるが、ジェットエンジンの加速で追い付けない敵はいない。圭太のアイディアから生まれた戦闘剣技。
「ブラストエッジ、フルスロットル!」
ブラストエッジの出力を全開にし、距離を一瞬で詰める。蜘蛛が空中にいる瞬間は方向転換も避ける事もできない。そこがチャンスだ。
「サルベーション!」
着地の瞬間を狙って蜘蛛と人型の境目に剣を定める。
野球のバントのような構えだが、剣を振らなくとも胴体を真っ二つにするほどの加速が付いている。
剣が当たった瞬間に下半身は地面に残り上半身は再び空へと打ち上げられた。
停止するブレーキは付いていないので、代わりにパイクホルダーの杭を地面に突き刺し停止する。
「これは殺しじゃない。オレが生きる為の救済方法だ」
「どう見ても殺してるだろ~」
「セリフは気にするな。これでオレの役目は終わりでいいんだな」
「後の処理はアタシに任せな」
白蛇がオレの首から離れると巨大化する。地面に落ちている瀕死の獏者の上半身だけを丸飲みした。下半身の蜘蛛足には興味が無いようだ。
「ごっつぉさん。はい、これで本当に終わり。頭に乗りなァ」
下げた白蛇の頭に飛び乗る。その瞬間に時間が停まったような錯覚を受けた。音までも無くなった世界が砂時計の砂が落ちていくように崩壊し始める。
「外に出るよぉ~」
夢の中にできた亀裂に落下する。蛇の頭上から夢の外へ飛び出すのは、レールの無いジェットコースターに乗っているかのようだった。
*
「そろそろ朝だねぇ。アンタも自分の夢に帰さないとだ」
時間の感覚はわからないが、このサシワタの世界にも夕暮れがある。現実と昼夜逆転しているのだろうか。
「一つ教えてくれ。あの大獏者の目当てが人の夢だったのはわかるが、オレは毎日悪夢を見ていた。今、オレの見ている夢はどうなっているんだ。誰かが入ってきたりしないだろうな?」
「ああ、そういや説明してなかったねぇ。アンタは今も夢を見てるさ。ただ、アタシが延長コード代わりになってサシワタから他人の夢に入った。零式は無意識に他人の夢と結合するのさ。アンタの体そのものが夢ってわけよぉ~」
「それは夢が夢の中に入るってことなのか?」
「さぁ~? この世界のことを全部知ってるわけじゃ無いし、そういうことなんじゃ無いのぉ? でも今回、アタシのおかげで確実に獏者の背後を取れるのはいいだろぅ?」
「モノは考えようだろ。このサシワタでオレは無防備だ」
「そこはアタシが守ってやるさ。大船にのったつもりでいてくれよぉ~。あともう一つ、さっきの漠者は大漠者じゃなかったわ……あれは産まれた子供。本体は別にいる」
「なにそれじゃあァっ!?」
体に穴が開いた。
体から体温が流れ出て行くのがわかる。傷口から出る血が暖かくて、熱を失って冷たくなる。悪夢で何度も体験している、大量出血だ。
「……最後に一発くらっちまった……」
まずい、死ぬ。
「どこからだ!」
腹から蜘蛛の脚が付きぬけていた。背中を見ると、切り落とされた蜘蛛の脚が背骨をかすめるように腹を貫通していた。先ほど倒した蜘蛛の足だろうか。わからない。
「やられたって、どういう事だ? 近くに獏者の気配なんて無いぞ!」
夢から出てくる所を待ち伏せされていたのか?
夢に入るのを見られていて、夢から出たのも見られていた?
すぐに攻撃して来ないのはかなり遠くから攻撃しているからか?
いや、足を投げて来たということは足を回収したはず……だから同じ夢の中にいたはずだ。
「とにかく逃げろ白蛇……気配が無くても、まだ、どこかで見ている奴がいる……」
どこへ逃げるのかわからないまま大蛇になった白蛇の頭にしがみ付く。
ハッキリしない意識の中で異物が腹に突き刺さった気持ち悪さに吐き気がする。ただ言えるのは、白蛇は極力頭を揺らさないように、それでいてできる限りの速さで地下通路に隠れた。
白蛇は頭を傾け、オレを地面に滑り落とした。もう少し優しく降ろして欲しかったが、手も足も無い蛇に頼むのが無謀というものだ。
「……引き抜いてくれ。止血は自分でする」
「わかった」
白蛇が蜘蛛の足の付け根に噛みつき、オレはその場に踏ん張る。体が引かれるのを堪えて突き刺さった脚を引き抜く。脚の節が引っ掛かり、傷口が掘り返される。
「うぁああああああッ!」
耐えられない激痛に悲鳴を上げる。それよりも止血が先だ。気合と根性だけでダッフルコートを脱ぎ、体の穴を塞ぐように縛る。この程度でどうにかなる怪我じゃないが、歯を食いしばり体に食い込むほどキツく縛る。
「痛い、よね……」
「ったりめーだろ、クソがッ……」
オレを中心に巻いていたとぐろは消えて、白蛇が人型になる。オレを丸飲みするなら蛇のままの方が楽に飲みこめるはずだが、着物に血が付くのも構わずに膝枕をしてくれた。
「どうしたんだよ、お前、オレのこと喰いたかったんだろ? 今がチャンスだぜ」
「違う、そうじゃない、そうじゃないんだよ……アタシは、違うんだ! こんなはずじゃなかったんだ、なのに……どうしてこんなことに……どうして……」
「無駄だ、諦めろ。戦うしかない……終わりが来るまで」
戦うと誓ったのは親友の二人がいたから。その二人との思いでが浮かんでは消える。
圭太とのオモチャを初めて貸してもらった時、綾が初めて絵を描いた時、圭太が武器を考えた時、それを綾が絵にして描いた時、その武器を夢で作った時、二人に上手く作れたと話して喜んだ時、オレの見た夢を何かに作り変えたいと圭太が言った時、私が漫画を描くと綾が言った時……。
オイオイ、これは走馬燈ってヤツか? 思ったよりも楽しい事ばっかりだな。殺し殺された悪夢なんてまるで嘘のようだ。
「風太郎、今、アタシの魂を……」
目の前が見えなくても彼女が泣いているのがわかる。
もう何を言っているのか分からないが、気持ちだけで十分だ。気にする事はない、慣れているんだ……そう、死ぬのには慣れているんだ。
これは悪夢だから……ちゃんと、目が醒める……はずだ。
もし、本当に死ぬとしても、こんな美人に看取られるなら、悪くないさ。
*
ゲームオーバー。
貴方の人生は終わってしまいました。
なんて表示が出る訳でもなく、朝がやって来た。
そりゃそうだ、夢の中で殺されたって死ぬ訳ないじゃないか。
脅しをくらって用心したにも関わらず、油断して体を貫かれたのは確かだ。
しかし……生きている、生きているんだ。夢の中で死んだからといって現実で死ぬ訳がない。何度も何十回も経験した事だ。
「…………まったくヌルい夢……だったのか?」
ベッドから出て体を確認する、当然腹に穴なんて開いてない。どこか体が痺れる訳でもなく異常は全く見つからない。
もっと酷い悪夢なら体がバラバラになるか強酸に溶かされるか、体が押し潰れるまで海の底に落とされるとか、そんなのと比べたら大穴があいて死ぬなんて軽い方だ。
服を着替えて朝食を喰って学校に行って、午前中に悪夢の内容を整理して、できれば昼休みに圭太と綾に夢の内容を話して、いつもの悪夢だったと話しをしたい。
朝が来れば日常で、太陽がある内は悪夢を怖れる必要はない。
しかし、ふと白蛇の顔が思い浮かんだ。あの涙している顔は本物だったのだろうか。
夢の中だけの虚像で、オレの事を心配して泣いてくれたのは無意味で無価値な現象に過ぎなかったのだろうか。
無駄だ、諦めろ。戦うしかない。
ナイト/ナイツ/ナイトメアのナイトはそう言うだろう。実際、悪夢ではなく現実にいる以上無駄な考えだ。
「悪夢の続きが見られたら、この嘘吐きめ! ってぶっ殺してやるんだがな」
そうだ、それくらいの強い意志で悪夢に立ち向かわなければならない。嫌でも次の悪夢が来る。それまでに日常で英気を養っておこう。
『嘘じゃね~よ。こんのボケがぁ……』
聞いた事のある声に体中の体温が奪われゾッとする。
真冬並みの寒さを上回る悪寒だった。
この声を聞き間違える訳が無い、声はどこからか聞こえて来た。
貧血にも似た足取りで、今の声を聞かなかった事にして、日常の着替えを開始する。
寝巻代わりのジャージから制服に着替えて、母親が用意する朝食を食べ登校する。これがオレの大切な朝だ。
悪夢の中の声が現実に聞こえるほど、頭が狂ってしまったはずがない。
今のは空耳だ。制服に着替えネクタイをしようと等身大を映し出す鏡の前に立つ。
学校指定のネクタイは、一年生が赤、二年生が青、三年生が黄色のラインの入った物。今、オレの首に、腕に巻き付いているのは、白。
「……う、ぁあ? うぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
白蛇がそこにいた。
悪夢の中で見た白蛇がそのまま、俺の首に巻き付いていた。
『いつから朝の挨拶は絶叫になったんだ? 起きたらおはよう、だろぉ?』
「う、嘘だ! お前は、悪夢だ! 悪夢が現実に来るんじゃねぇ!」
『ちょっとぉ、命の恩人に対して言う事がそれかい?』
白蛇の口がニヤリとつり上がる。
今すぐ首に巻き付いた蛇を床に叩きつけようとするが……蛇は鏡に映っているだけで、オレの首に巻き付いているのは学校指定の赤いラインの入ったネクタイだけだった。
とうとう悪夢が、現実にまで浸食してきた最初の日だった。
今夜見る夢でどんなキャラクターを演じ、どんな悪夢に落ちるのか、どんな狂気と苦痛が待っているのか、考えれば考えるだけ憂鬱になり、また無意味でもある。
目蓋を開けば思考は正常で『美里風太郎』のままだった。
窓の外からの日差しが差し込み、視線だけで追った時計は七時半を指していた。朝に起きるには遅いくらいの時間だ。
「はぁ……」
こんな世界のクソったれさに吐き出した溜息を積み重ねたら、きっとそれはオレの背丈を超えるほどだろう。
自分自身を確立して目が醒める。つまりこれは現実で、珍しく悪夢を見ない夜だったわけだ。
肝心の情報収集も何もできず、また日常はやってきた。
「明日は殺す。絶対……殺す」
朝目覚めて言う言葉がコレだ。我ながら人生が狂っているとしか思えない。
修学旅行の二日目の朝でルームメイトに聞かれた時は最悪な展開だったが……それはまた別の話だ。見慣れた天井を恨めし気に見たって今夜の悪夢が来る事に変わりは無い。
起き上がろうとして、左手が何かに挟まっている事に気付いた。ベッドと壁に手を挟んだのとは違う、生ぬるい温度があり湿気っている。猫や犬に触れたのとは違う、レザーソファーのような触り心地。
恐る恐る左手を確認すると、白髪の美女が隣に寝ていてオレの左手は胸元に突っ込んでいた。人肌の暖かさより冷たい爬虫類のような触り心地。
驚く事も何も無い。これが悪夢だ。現実のように見せかけた悪夢の設定。つまり『シナリオ』だ。シングルベッドに二人が寝ると狭く、今すぐベッドから蹴飛ばしてやりたいところだが相手が寝ているなら頭を叩き割るチャンスだ。
左手は胸の谷間に突っ込んだまま、右手で武器を呼び出す。
「召喚、パイクホルダー」
右腕に装着する手甲。形は騎士が付けるガントレットなのだが三本の杭が装着してある。攻撃を受けとめる事も射出する事もできる攻防両立の防具。この杭で頭を撃ち貫けば、悪夢はすぐに終わる。はずだった。
「武器が出ない? そんな馬鹿な……」
現実か、悪夢か、
自分自身が確立している朝。現実。
白髪の女がベッドにいる。夢。
パイクホルダーは召喚できなかった。
現実?
隣に美女が寝ていて左手は巨乳に挟まれている。
夢?
「これは夢? 現実? いや夢だ……現実であってたまるか! ならどうして武器が呼び出せない……」
可能性として、現実感に縛られた悪夢を見ているのだろうか? まだオレはキャラクターに縛られているのか? 重要なのはそこじゃない、今、ここから『逃げる』か『戦う』かだ。
その判断に気付くには少し遅かった。
「ふふ、ここは現実の鏡写しの場所さ、夢であり、また現実でもある」
女の目蓋は開かれ金色の瞳がオレを捉える。オレの体は蛇に睨まれた蛙のように固まった。ベッドに力づくで寝かされるとオレの手を谷間に突っ込んだまま馬乗りになり、オレは捕食される寸前まで来てしまった。
この状況を抜けだすにはどうすればいい。悪夢に見慣れたオレからすれば、女から心臓に一突きくらって死んで終わる。そういったパターンかもしれない。
「どうやら、楽しいお話をする雰囲気じゃなさそうだな、話のできる化け物は何体かいたが、ここまで会話のできる奴は初めてなんだけどな」
軽口の一つも叩いて時間を稼ぐ。このまま終わる訳にはいかない。
「さっきアタシの頭をブチ壊すつもりだったのによく言うねぇ。この前も火薬で吹っ飛ばそうとしたよねぇ~。それに化け物じゃなくて獏者さ。アタシはアンタと会話する為に、ここまで追い詰めたんだ。まずこの話を聞いてもらおうか。今、ここでアンタが死ねば、現実でもアンタは……死ぬ」
死、それは何度も体験している幻覚。
会話の頭に死の宣告をもってくるなんて、悪趣味もいいところだ。
しかしこの程度で動揺するほど場数を踏んでない。いつもの事だ。
「……そいつはハッタリだ。今まで夢の中で何度も死んだが、現実で死ぬ事なんて無い。夢の中で死んで現実で死ぬ事は絶対にない」
「確かに夢の中ならねぇ。でもここは夢の中じゃないんだ」
「つまらない冗談だ。ここは現実じゃない。お前がいる、それだけでこれは悪夢だ」
「ここはね、夢と人の魂が生まれては帰る場所。夢想構築の世界の『サシワタ』さぁ。人間が見る夢の奥にあり、あの世とも天国とも地獄とも呼ばれるところなのさぁ……」
ここは夢ではなく、夢の奥にある夢想世界? いや、そういう悪夢の設定だ。この女のペースに流されるな。自我をしっかりと持て! しかし、今のオレはキャラクターに縛られていない。出せるはずの武器が出ない。ここが現実でも夢だからだ。とも断言はできない。たが、結論を出すにはまだ早い。
「それを確かめる方法は無い」
「試してみるかい?」
「ああ、試させてもらう、お前の命でな! 来い、ブラストエッジ!」
胸の谷間に突っ込んでいる手から、叩き貫く翼剣を産み出す。
そのはずだったが、出てくる物は何も無い。
「アハハ、ここじゃアンタのエモノは出せない。アンタの生まれ育ちは現実で、悪夢のように無形の遊び場ではない。ここは『サシワタ』なのさぁ……アンタは何も出せない無力な子供なんだよ」
「セブンス・テイスト・ペッパーズ!」
何もできない。打つ手が無い。不敵に笑う白髪美女を前に恐怖する。
「さあ、覚悟はできたかなぁ?」
女の姿は霞みその姿が白蛇になる。
馬乗りになっていた体は蛇のとぐろに絡まれて身動きは取れない。開いた口は人間を丸飲みできる大きさに開く。蛇は下アゴの骨が左右に開き、どんな大きな物も飲みこむ事ができると聞いたが、まさか自分で体験することになるなんて……夢に思う事になった。
本当に死ぬかどうかはともかく、頭から喰われるなんて御免だ。顔をそむけ目を閉じることしかできない。
「ちゅ」
頬に何か当たる感覚はあったが、まだ喰われる様子はなかった。
……あまりにも長く、何も無いので。薄目を開けると、ニヤついた顔の美女がオレを見下していた。
コイツの顔はいつもニヤけているが、特にニヤ付いた顔だ。
「ま、これは手付金ってことで受け取っておいてちょ~だい」
手付金とはどういうことだかさっぱりわからないが、間違いなくオレは呆けた顔をしているだろう。
「ぷくく、まあ、そういう訳だからよろしくね? くっくっくっく……」
「……お前、オレを殺すんじゃないのか」
「まあ昨日は行ったけど、今日のアタシはアンタのことを殺すなんて、一度も言ってないよ? あははははは」
「はぁ、ソウデスカ」
死ぬ覚悟したオレが馬鹿みたいじゃないか。どっと疲れが溜まった。
「あははははは」
笑いを堪え切れなくなった美女が一仕切り笑いきるまで、仕方なく馬乗りにされたままでいた。馬乗りにされて伝わる体温が生々しくて、蛇なのか人なのかどちらを信じればいいのかわからなくなってきた。
「それで、オレに何の用があるんだ。化け物だか獏者だか知らないけど、オレは悪夢の中ではぶっ殺すこと以外考えたくない。殺すか殺されるかどっちかにしてくれ」
見下されたままオレは聞いた。人の上で跳ねるのをやめてもらいたい。
「ホント、短絡的だよねー。まあそれは置いといて、ちょっと外出てみようか。何せここだけの話じゃないんだからさァ。野外授業も悪くないだろ~学生さんよォ?」
オレは美女の誘いを断ることなく言われるがまま話に乗るしかなかった。武器も出ない今、悪夢と戦う方法は何一つない無力さも、有るか無いか分からない死も、一気に対処するには少しでも時間が欲しかった。
*
「さーてどっから説明しようかねぇ?」
ゾリ、ゾリ、ゾリ、ゾリ……。
大蛇がアスファルトの上を蛇行する。先日聞いた音はこの音だったようだ。
蛇の大きさは変幻自在で、この前のクレイモアの回避は小さな蛇になることで避けたのだろう。
現在、街の大通りを白い大蛇の頭の上にあぐらをかいて進行中。
悪夢用の戦闘服を作り出すことはできず、寝巻代わりのジャージのままだと心もとないので学校の制服に着替え防寒用のダッフルコートを着込んだ。
武器らしい武器は……こっそりと台所から包丁を引っ張り出して来たが、十メートル以上ある大蛇相手に刃渡り十センチ程度の包丁が役立つとは思えない。
コートの内側にいつでも引き抜けるように用意はしている。話に乗るはずが、大蛇の頭に乗るとはこれ如何にというものだ。
「寒いのぉ?」
「いや別に」
刃物の隠し心地が落ち着かないだけだ。ハサミを振り回すのと訳が違う。
「アタシは変温動物だから正直寒いのが苦手でね~。元は人間だったけどさぁ。あーそういや最近寒いよね~ホントやんなっちゃう」
「お前と世間話する気はない。とっとと授業を始めろ。お前らは一体何なんだ? オレが悪夢で戦ってきた化け物は、獏者ってのは一体何なんだ?」
「色々と種類はあるけど、少なくともアタシ達に肉体は無いってのは共通しているかな~。後はみーんなお腹をすかしているってこと?」
「人間を喰うのか」
「喰おうとする奴は喰おうとするけど、必要なのは人間の見る夢、夢を砕いてさらに食べやすくした夢のカケラ。アタシ達は夢のカケラを喰って生きる獏。獏者なのさぁ」
「じゃあ今までの悪夢は全て、オレの夢のカケラが目的なのか?」
「半分正解かな、獏者の中でも人間そのものを喰ったり捕獲したりして夢を生産させようとするヤツがいる。そこまでしないと胃袋が満たされないヤツを『大獏者』って呼ぶ。それに対して獏者を喰う獏者を『彷夢来』(サムライ)って呼んでる。大獏者を喰う彷夢来を『大彷夢来』と呼ぶ。人の夢を喰う訳でもなく、獏者を喰う訳でもなく、ただ人の夢に現れては獏者も彷夢来も殺す破壊者……獏者でも、大獏者でも、彷夢来でも、大彷夢来でもない、それが『零式』。つまりアンタさ」
獏者、大獏者、彷夢来、大彷夢来、そして零式。
オレが今まで見て来た悪夢は全て獏者か大獏者による食事の一環だった訳か。それと零式。これが悪夢を見続ける理由であり正体なのか? だとしたら、この零式をやめる事ができれば、オレは普通の夢を見る事ができるかもしれない。
「おっと、アタシは彷夢来さぁ。ただアンタが獏者を潰しまくっているから、ついカッと来て脅してやろうと思っただけなんだよ~。許してくれよぉ~。悪気だらけだったんだよぉ~。へっへっへっへっへ……」
この汚い笑い方をどうにかして辞めてもらいたいものだ。
「なるほど、話は大体わかった。後はオレか、お前か、どっちかが死ぬまで殺し合いをすればいい訳だな」
「ホントにアンタは零式だねぇ……。ここはサシワタで、今アンタが死ねば精神も死ぬんだよ? 夢の中なら精神は肉体に帰れるけど、ここは帰してくれない。バラバラになって消えちまうのさ。今はアタシの言う通りにしなってぇ。悪くしないからさぁ。……むしろ、後で気持ち良くしてやってもいいよぉ~。さっきも悪くはなかっただろう?」
さっきとは……考えるまでも無い。
「結構だ、オレはお前らから縁を切りたいんだ。二度と悪夢を見ない、普通の人になりたいんだ」
「ふうん、できるといいねぇ」
モノを含んだ言い方で、白蛇は鼻先で笑った。
「質問だ、白蛇お前がオレをこのサシワタに連れてきたのか?」
「それもまた半分正解だねぇ。アンタは自分の夢から抜け出して、誰かの夢に無意識に入っちまう。その無意識に入るのをアタシが防いだだけさぁ。いつ別の夢に入り込むかわからないから、アンタの手に絡みついて寝ながら待ってたってわけさ」
「なるほど」
意識して無表情でいるが、あの胸の中に手を突っ込んだのは無意識じゃなくてそういう意図があったのか。思い出すな、とりあえず今は別の事を考えろ!
「で、アタシから持ちかける契約はと~っても簡単。たったの二つ『獏者を倒して欲しい』『アタシは獏者を喰いたい』ってこと。
そっちの得することは何かって話なんだけど『アタシはアンタを警護する』『素早く獏者を見つけることができる』『アタシが警護している間、アンタは安眠ができる』どうだ? 簡単だろう?」
安眠。それはオレにとって口から手が出るほど欲しいものだ。日常の裏返しは悪夢ではなく、安眠が欲しい。
「すぐに判断はできない、お前の事が信用できないからな」
「もちろん、後で本格的に契約できればいい。今は仮契約ってことで……よろしくぅ~」
「それで、これからどうするんだ。話はこれで終わりか?」
「なぁ~に。さっそく一仕事してもらうだけさ~」
白蛇がオレを運んだ場所には空間に黒い亀裂のような物があった。誰かの家の寝室。それが人の眠っているはずの布団の上に不自然に生えている。
「しっかり捕まってろォ~。人の夢に堕ちるぞぉ~」
亀裂に触れると、その真っ暗な奈落に吸い込まれていく。
*
ここが夢の中か。
夢を夢だと気付き、自分自身を確立させるのには時間がかかり、また夢の中の住人としてキャラクター(役割)に逆らうので気力をかなり使う。気力がどれだけ残っているかで武器を呼び出すことも常識じゃ考えられない脚力を発揮するのにもかかわって来る。ゲーム内では無限の体力があっても、夢の中では自身の精神力の残量が悪夢との生死に大きく関わってくる。
今回、この白蛇の力を借りて入った『誰かの夢の世界』では、気力を一切使わずに自分自身を確立していた。
「どうだい、人の夢に入った気分はよぉ。アタシの目を貸してやる。どこが夢の中心点だかわかるだろぉ?」
「……アレか」
新入社員として働き始め数カ月たった『青年』が中心点だった。夜の飲み会の後、先輩と橋の下の屋台のラーメンを食べて仕事のやりがいを聞きながら、先輩と一緒にこの仕事を頑張ろうと、中心点が動いているのがわかる。
夢を見ている本人の『過去』を再現しているのだろうか。よくみると現代よりも物価は安く十何年と昔のようだ。今じゃクラシックカー呼ばわりされる車が橋の上を走っている。
これが人の見る夢。自分が見続ける狂気を孕んだ化け物が出る夢とは違う、温かみのある夢だった。オレは遠くから見守っているだけなのに、この夢がとても羨ましく思えた。見ているだけで何もかも伝わって来る。屋台のラーメンが美味くて、先輩と話すのが楽しくて、スープまで飲みほしてどんぶりを置くと、
屋台が半分に潰された。
隣に座っていたはずの先輩も潰され、人の形をしていなかった。轟音一つで、楽しかった夢は無残な惨状へと変わった。
「来たぞ~、獏者だ。それも人間を食わなきゃ腹が満たされない大漠者だ!」
屋台を叩き潰した鉄の塊は車のエンジンのように見えた。この夢に、獏者という異物が混じり込んだのが全身で理解できる。
屋台の近くの車の中に獏者が一匹隠れている。エンジンを吐き出したのは獏者の仕業だ。
オレは素早く髑髏の仮面を付けた。
先ほどのサシワタとは違い、夢の中では戦うことができる。いつもと変わらない悪夢の救済方法が使える。
ここからは傍観者ではなく『ナイト・ナイツ・ナイトメア』の主人公『ナイト』のキャラクターを演じる番だ。白蛇は小さくなると素早くオレの首に巻き付いた。束縛ではなく、行動を共にする為に。
「セブンス・テイスト・ペッパーズ」
武器の取り出しと同時に、監視していた高台から飛び降りる。
銃口から出たグレネード弾は車の窓を割り、車内で爆発する。四散する破片の中で大きな塊が不自然に姿を消した。すぐに仮面で獏者の位置を確認する。逃げてはいない、近くに姿を隠している。オレは事情を理解できていない夢の主人の側に近寄った。
「ここは危険だ。向こう側に行け、トンネルを抜けて逃げろ」
「い、一体何が、どうなって……先輩が!」
エンジンに押し潰され、静かに血の水たまりが広がって行く。いつも見ている悪夢そのものだ。
「これは悪い夢なんだ。オレを信じてくれ。死にたくはないだろ?」
グレネード弾をリロードし終える。未だ敵の位置は動かなかった。何か言いたそうな顔をしているが急展開に言葉が詰まっているのだろう。困惑と泣きそうな顔が混ざり恐怖に震えている。
「早く行け!」
怒鳴られてようやく青年はトンネルに向かって逃げ出した。獏者を炙りだすようにグレネード弾をばらまく。爆炎で辺りが明るくなり、炎の中に獏者の姿が一瞬だけ見えた。下半身は蜘蛛、上半身は人間の化け物だった。
「ありゃ? 外れだねぇ」
小さくなりマフラーのように首に撒き付いている白蛇が言う。
「今のは炙りだしだ、追いかけるぞ」
敵の数は一体のみ。防衛よりも追撃の方が早く終わる。敵は八脚の脚力を生かし、ビルの壁へ移り、さらに遠くへ逃げ出す。並大抵の脚力じゃ追いつかないだろう。
「違う、そうじゃなくて。アレは雑魚さ。アタシが狙っているのは赤錆色した蜘蛛さァ。その配下が今の子蜘蛛ってワケ」
「どっちにせよ、殺せばいいんだろう?」
「アンタの考えは単純でいいねぇ……まぁその通りなんだけどさ~」
「召喚、トータスホイール」
移動用の装備を呼び出す。両膝に銀の円盾が付いた脚甲で、機動力を上げる事ができる。膝に付いている円形の盾をくるぶしの位置に装着位置をずらす。盾のフチが地面に付き両足は浮く。ローラースケートの原理で路上を滑りだす。
「召喚、ブラストエッジ」
ジェットエンジンの付いた剣を頭上に構える。燃焼高圧圧縮された空気を吹き出し、その推進力で加速する。
「ひょえっ!」
「ちょっと黙ってな、舌噛むぞ」
人の足で八脚の蜘蛛を追いかけるのは無理があるが、ジェットエンジンの加速で追い付けない敵はいない。圭太のアイディアから生まれた戦闘剣技。
「ブラストエッジ、フルスロットル!」
ブラストエッジの出力を全開にし、距離を一瞬で詰める。蜘蛛が空中にいる瞬間は方向転換も避ける事もできない。そこがチャンスだ。
「サルベーション!」
着地の瞬間を狙って蜘蛛と人型の境目に剣を定める。
野球のバントのような構えだが、剣を振らなくとも胴体を真っ二つにするほどの加速が付いている。
剣が当たった瞬間に下半身は地面に残り上半身は再び空へと打ち上げられた。
停止するブレーキは付いていないので、代わりにパイクホルダーの杭を地面に突き刺し停止する。
「これは殺しじゃない。オレが生きる為の救済方法だ」
「どう見ても殺してるだろ~」
「セリフは気にするな。これでオレの役目は終わりでいいんだな」
「後の処理はアタシに任せな」
白蛇がオレの首から離れると巨大化する。地面に落ちている瀕死の獏者の上半身だけを丸飲みした。下半身の蜘蛛足には興味が無いようだ。
「ごっつぉさん。はい、これで本当に終わり。頭に乗りなァ」
下げた白蛇の頭に飛び乗る。その瞬間に時間が停まったような錯覚を受けた。音までも無くなった世界が砂時計の砂が落ちていくように崩壊し始める。
「外に出るよぉ~」
夢の中にできた亀裂に落下する。蛇の頭上から夢の外へ飛び出すのは、レールの無いジェットコースターに乗っているかのようだった。
*
「そろそろ朝だねぇ。アンタも自分の夢に帰さないとだ」
時間の感覚はわからないが、このサシワタの世界にも夕暮れがある。現実と昼夜逆転しているのだろうか。
「一つ教えてくれ。あの大獏者の目当てが人の夢だったのはわかるが、オレは毎日悪夢を見ていた。今、オレの見ている夢はどうなっているんだ。誰かが入ってきたりしないだろうな?」
「ああ、そういや説明してなかったねぇ。アンタは今も夢を見てるさ。ただ、アタシが延長コード代わりになってサシワタから他人の夢に入った。零式は無意識に他人の夢と結合するのさ。アンタの体そのものが夢ってわけよぉ~」
「それは夢が夢の中に入るってことなのか?」
「さぁ~? この世界のことを全部知ってるわけじゃ無いし、そういうことなんじゃ無いのぉ? でも今回、アタシのおかげで確実に獏者の背後を取れるのはいいだろぅ?」
「モノは考えようだろ。このサシワタでオレは無防備だ」
「そこはアタシが守ってやるさ。大船にのったつもりでいてくれよぉ~。あともう一つ、さっきの漠者は大漠者じゃなかったわ……あれは産まれた子供。本体は別にいる」
「なにそれじゃあァっ!?」
体に穴が開いた。
体から体温が流れ出て行くのがわかる。傷口から出る血が暖かくて、熱を失って冷たくなる。悪夢で何度も体験している、大量出血だ。
「……最後に一発くらっちまった……」
まずい、死ぬ。
「どこからだ!」
腹から蜘蛛の脚が付きぬけていた。背中を見ると、切り落とされた蜘蛛の脚が背骨をかすめるように腹を貫通していた。先ほど倒した蜘蛛の足だろうか。わからない。
「やられたって、どういう事だ? 近くに獏者の気配なんて無いぞ!」
夢から出てくる所を待ち伏せされていたのか?
夢に入るのを見られていて、夢から出たのも見られていた?
すぐに攻撃して来ないのはかなり遠くから攻撃しているからか?
いや、足を投げて来たということは足を回収したはず……だから同じ夢の中にいたはずだ。
「とにかく逃げろ白蛇……気配が無くても、まだ、どこかで見ている奴がいる……」
どこへ逃げるのかわからないまま大蛇になった白蛇の頭にしがみ付く。
ハッキリしない意識の中で異物が腹に突き刺さった気持ち悪さに吐き気がする。ただ言えるのは、白蛇は極力頭を揺らさないように、それでいてできる限りの速さで地下通路に隠れた。
白蛇は頭を傾け、オレを地面に滑り落とした。もう少し優しく降ろして欲しかったが、手も足も無い蛇に頼むのが無謀というものだ。
「……引き抜いてくれ。止血は自分でする」
「わかった」
白蛇が蜘蛛の足の付け根に噛みつき、オレはその場に踏ん張る。体が引かれるのを堪えて突き刺さった脚を引き抜く。脚の節が引っ掛かり、傷口が掘り返される。
「うぁああああああッ!」
耐えられない激痛に悲鳴を上げる。それよりも止血が先だ。気合と根性だけでダッフルコートを脱ぎ、体の穴を塞ぐように縛る。この程度でどうにかなる怪我じゃないが、歯を食いしばり体に食い込むほどキツく縛る。
「痛い、よね……」
「ったりめーだろ、クソがッ……」
オレを中心に巻いていたとぐろは消えて、白蛇が人型になる。オレを丸飲みするなら蛇のままの方が楽に飲みこめるはずだが、着物に血が付くのも構わずに膝枕をしてくれた。
「どうしたんだよ、お前、オレのこと喰いたかったんだろ? 今がチャンスだぜ」
「違う、そうじゃない、そうじゃないんだよ……アタシは、違うんだ! こんなはずじゃなかったんだ、なのに……どうしてこんなことに……どうして……」
「無駄だ、諦めろ。戦うしかない……終わりが来るまで」
戦うと誓ったのは親友の二人がいたから。その二人との思いでが浮かんでは消える。
圭太とのオモチャを初めて貸してもらった時、綾が初めて絵を描いた時、圭太が武器を考えた時、それを綾が絵にして描いた時、その武器を夢で作った時、二人に上手く作れたと話して喜んだ時、オレの見た夢を何かに作り変えたいと圭太が言った時、私が漫画を描くと綾が言った時……。
オイオイ、これは走馬燈ってヤツか? 思ったよりも楽しい事ばっかりだな。殺し殺された悪夢なんてまるで嘘のようだ。
「風太郎、今、アタシの魂を……」
目の前が見えなくても彼女が泣いているのがわかる。
もう何を言っているのか分からないが、気持ちだけで十分だ。気にする事はない、慣れているんだ……そう、死ぬのには慣れているんだ。
これは悪夢だから……ちゃんと、目が醒める……はずだ。
もし、本当に死ぬとしても、こんな美人に看取られるなら、悪くないさ。
*
ゲームオーバー。
貴方の人生は終わってしまいました。
なんて表示が出る訳でもなく、朝がやって来た。
そりゃそうだ、夢の中で殺されたって死ぬ訳ないじゃないか。
脅しをくらって用心したにも関わらず、油断して体を貫かれたのは確かだ。
しかし……生きている、生きているんだ。夢の中で死んだからといって現実で死ぬ訳がない。何度も何十回も経験した事だ。
「…………まったくヌルい夢……だったのか?」
ベッドから出て体を確認する、当然腹に穴なんて開いてない。どこか体が痺れる訳でもなく異常は全く見つからない。
もっと酷い悪夢なら体がバラバラになるか強酸に溶かされるか、体が押し潰れるまで海の底に落とされるとか、そんなのと比べたら大穴があいて死ぬなんて軽い方だ。
服を着替えて朝食を喰って学校に行って、午前中に悪夢の内容を整理して、できれば昼休みに圭太と綾に夢の内容を話して、いつもの悪夢だったと話しをしたい。
朝が来れば日常で、太陽がある内は悪夢を怖れる必要はない。
しかし、ふと白蛇の顔が思い浮かんだ。あの涙している顔は本物だったのだろうか。
夢の中だけの虚像で、オレの事を心配して泣いてくれたのは無意味で無価値な現象に過ぎなかったのだろうか。
無駄だ、諦めろ。戦うしかない。
ナイト/ナイツ/ナイトメアのナイトはそう言うだろう。実際、悪夢ではなく現実にいる以上無駄な考えだ。
「悪夢の続きが見られたら、この嘘吐きめ! ってぶっ殺してやるんだがな」
そうだ、それくらいの強い意志で悪夢に立ち向かわなければならない。嫌でも次の悪夢が来る。それまでに日常で英気を養っておこう。
『嘘じゃね~よ。こんのボケがぁ……』
聞いた事のある声に体中の体温が奪われゾッとする。
真冬並みの寒さを上回る悪寒だった。
この声を聞き間違える訳が無い、声はどこからか聞こえて来た。
貧血にも似た足取りで、今の声を聞かなかった事にして、日常の着替えを開始する。
寝巻代わりのジャージから制服に着替えて、母親が用意する朝食を食べ登校する。これがオレの大切な朝だ。
悪夢の中の声が現実に聞こえるほど、頭が狂ってしまったはずがない。
今のは空耳だ。制服に着替えネクタイをしようと等身大を映し出す鏡の前に立つ。
学校指定のネクタイは、一年生が赤、二年生が青、三年生が黄色のラインの入った物。今、オレの首に、腕に巻き付いているのは、白。
「……う、ぁあ? うぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
白蛇がそこにいた。
悪夢の中で見た白蛇がそのまま、俺の首に巻き付いていた。
『いつから朝の挨拶は絶叫になったんだ? 起きたらおはよう、だろぉ?』
「う、嘘だ! お前は、悪夢だ! 悪夢が現実に来るんじゃねぇ!」
『ちょっとぉ、命の恩人に対して言う事がそれかい?』
白蛇の口がニヤリとつり上がる。
今すぐ首に巻き付いた蛇を床に叩きつけようとするが……蛇は鏡に映っているだけで、オレの首に巻き付いているのは学校指定の赤いラインの入ったネクタイだけだった。
とうとう悪夢が、現実にまで浸食してきた最初の日だった。
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