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3章/伊藤圭太の願い
3章/伊藤圭太の願い
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3章/伊藤圭太の願い
「……以上だ。これが今朝見た夢と、信自宅も無い現実だ」
場所は美術準備室の漫画研究部で時間は放課後。話を聞いているのは圭太と綾。いつもの場所いつもの時間いつものメンバー。まさしく日常への原点回帰である。異物が混じっていることを除けば。
「……いや、えっとだな」
いつもと変わらずメモ帳を片手に話を聞いていた圭太も、話の途中で理解を超えたのかペンが止まった。机に向かい絵を描いていた綾も途中から話を真剣に聞いていたが、今は額に手を当ててうなだれている。
「言いたい事はわかるさ、でもオレが見た夢をそのまま話したんだ。支離滅裂で滅茶苦茶で意味不明で理解不能なんていつもの事だろう? ただそれが、現実まで浸食してきただけだ……は、ははは……」
冷蔵庫から取り出した缶コーヒーは冷たさを保ったまま最後の一口を飲みほした。缶を金属ゴミの箱へ投げる。投げた缶は箱の中に吸い寄せられるように入り、軽い音が部屋に響く。
「そうじゃなくってさ! そうじゃなくって……お前は首に、その、白蛇巻いたまま……ずっと授業受けていたのかよ?」
圭太は興奮とは違う、青ざめた顔で事情を聞いてきた。オレの話しを信じるなら化け物を連れたまま学校に来たことになる。青ざめるのも当然だ。
「たぶんね」
授業中は鏡を見なかったので、今でも首に白蛇が巻き憑いているかもしれない。
「たぶんってお前な! なんでもっと早く言わないんだよ!」
「そんな事言ったって! オレだって鏡使わなきゃ見えないモノをどうやって他人に証明しろって言うんだよ? 親に言って『鏡越しにオレの首に何かついているか』ちゃんと確認してから学校来て、今の今まで誰一人として何も言わなかった。つまり幻覚幻想幻聴の、文字通りの夢物語りかもしれない! いつも通りの面白いネタになるだろ!」
「違う、そうじゃなくて、そうじゃないんだよ! 風太郎……お前はどうしてそんな平気な顔をしていられたんだよ……」
悪夢を見慣れていない普通の思考なら恐ろしい話なのかもしれない。だが、オレにそんな観念があったかどうか考え直すと、一つの結論に落ち着く。
「そんなこと考えても、どうしようもないだろ」
今まで見て来た夢の数々を、全部無かったことにしてやって来た。今更それが現実まで足を伸ばしてきても、見なかったことにする意外に対処法なんて無い。あったらとっくにやっているからだ。
「ごめん、私もう付いていけない」
席を立ったのは綾だった。荷物も持たず足早に準備室を出ようとする。
「ちょ、ちょっとまってくれ綾!」
オレは止めたりなんてしない。止めたのは圭太だった。
「前から思っていたけど、私はこんな頭のおかしなヤツの為に漫画なんて書きたくない。フィクションでもノンフィクションでも、どっちだったとしてもコイツの頭はイカれてる」
綾の鋭い眼つきが、さらに鋭さを増して突き刺すように睨む。感情が壊死仕掛けているオレじゃなければ身がすくむ思いだっただろう。オレは綾の反応は正しいと思うし、本来ならそう思うべきだ。
「捉え方は人それぞれで、僕は風太郎の夢ってイカしてるって思うけどな! そう結論を急ぐ必要はないだろう? まあ待てってば」
そりゃ無理があるんじゃないか? と思ったが黙って圭太の手腕を見守った。
「今まで、ナイト/ナイツ/ナイトメアが上手く行っていたのは三人がいたからだろ? 風太郎が夢を見て、僕がネタを見つけて整えて、綾が漫画にする。これは誰一人が抜けてできたものじゃないだろ?」
「圭太が話を考えて、私が漫画にするならやる。ねぇ、いつまで悪夢に縛られるの? いつまでこんな話を続ける気なの? 私たちが悪夢を期待するから風太郎が変な夢を見るって可能性は考えたことないの? 悪夢以外の題材で漫画でも小説でも作ろうとは思わないの? どうして風太郎に執着するの?」
見事なカウンターが決まる。確かにその通りで、悪夢を題材にしなくてもいいし、元より圭太と綾の二人で漫画を描いていた方が上手く行くだろう。さて、圭太はこれを返す事ができるだろうか?
「……じゃあ、綾は風太郎の悪夢を見捨てられるってのかよ! 今までどんな酷い悪夢を見て来たか知っているだろ!」
「ええ知っているわ。だからやっと気付いたの。この悪夢に終わりは無いし、いつまでも付き合っていられない。それに、風太郎は悪夢を見ることに何も感じなくなっているでしょう? もう手遅れよ」
「……それは、言っちゃダメだろっ!」
オレが原因で二人が喧嘩していると思うのなら、ちゃんと仲裁に入った方がいいだろう。しかし目の前で起きていることが、親友二人の喧嘩なのに仲裁する気は起きず、止めようという気も悲しい気持にもならなかった。ただ、いつか来るだろう崩壊が、今来ているような気がした。
圭太も言葉に詰まっていた。いつもなら黙って見ていることはできる。でも今回ばっかりはオレも話に入り込まなくちゃいけない気がする。
「なあ圭太、綾。お前らがケンカする理由が、正直よくわからん。オレは最初から一言も助けてくれなんて言ってない。それに、ここは漫画研究部なのであって、漫画を描くヤツがメインだ。綾が抜けるくらいならオレが抜ける。オレは漫画描けないからな。それに、圭太と綾の二人だけで描く漫画も見てみたいしな」
「風太郎、お前も何言ってるんだ! ナイト/ナイツ/ナイトメアはどうするんだよ」
「それこそオレがいたら終わらないだろ。圭太も綾も、誰一人としてオレの悪夢を終わらすことはできない……そうだろう?」
「まだゼロって決まった訳じゃない。それに、今回の悪夢で彷夢来と契約をしたんだろ? なら可能性はまだまだあるじゃないか!」
「……だからこそ、もうお終いなんだよ。何が真実なのかオレには分からなくなってきた。今まで見て来た悪夢が全部嘘じゃないなら……オレはもうここに来ない。後は任せた」
カバンを持ち、圭太の横を、綾の横をすり抜けて部屋を出た。何か言っていたかもしれないが聞こえないフリをして走る。
家まで全力で走った。バスに乗って通学している距離を止まることなく、心臓の悲鳴も脚が絡まりそうなのも無視して、もしかしたら信号すらも無視して走り抜けたかもしれない。
ただ闇雲に走った訳じゃない。走り疲れて寝るつもりだった。何も考えずに、ただ眠りたかった。
『お前さ~……馬鹿なのぉ?』
「っはーっはーあああ、くそったれが……」
心臓が暴れるどころか口から飛び出しそうなほど仕事をしている。学校から実家二階の部屋まで走り抜いた代償は大きく、部屋に到着するなり床にぶっ倒れた。
姿映しの大鏡から人型の白蛇が見下ろしている。オレはうつ伏せの体を仰向けに起こす事すらろくにできやしない。
『黙ってりゃ誰も気付かないって言ったのに、聞いてなかったのかぁ?』
「オレは嘘を吐くのが、下手クソ、でな。はぁはぁ……。アイツ、らに嘘、言えないんだよ……だから、これ以上、……はぁはぁ、巻き込めない」
『ふぅん、最強の零式と言われただけあって、後ろ盾があったとはねぇ。あの子らがアンタの悪夢をサポートしていたなら、今まで通りで何が悪いんだい?』
「オレが殺して来た獏者の数は千や二千なんて数字じゃない。もっと大きな数で、全部嘘でできた撃破数だと思っていた。……オレはアイツらのお陰で、ゲーム感覚で殺しまくっていた。じゃあ今は何だ? ゲームだと思って殺していたのは本物の化け物だったって知ったら、誰が協力するかよ……いいんだよ、げっほ……アレで」
『そこは友情って言葉でカバーできるんじゃないのかねぇ。一蓮托生とかさぁ』
まったくオレ達の関係を知らない白蛇が言ったからこそ今の一言が突き刺さる。
卵の殻に亀裂が入るのにも似た、自分の仮面が壊れるのがハッキリとわかった。オレは泣きたくなった。歯を食いしばって、胸の内に全てを飲み込みこらえる。
「ああ、今理解したよ。オレは怖くなって逃げ出したんだ。そんな友情ってものがあったからオレは怖くなって逃げ出したんだよ。オレは……綾と圭太を巻き込みたくないんだ。友達を失うくらいなら、自分から出ていく」
世の中をどれほど憎んで来ただろうか。自分だけが悪夢ばかり見て、周りは楽しそうに生きている。そこから救おうとしてくれた二人の友人を……自由にしたかった。オレの存在が二人を縛り付けているとしか考えてなかった。でも、実際は怖かっただけなんだ。
『うーむ、もしかしてアタシが原因かな~?』
「腹立つことに、何もかもオレが原因だ。お前は……まあいい、風呂に入ってくる」
暴れていた心臓も落ち着いて、汗だくの体にシャツが貼り付いて気持ち悪い。エアコンも付けない部屋は寒くこのままだと風邪をひきそうだった。
『お、そうかぁ……ふっふっふ~』
「何がおかしい」
鏡に映る白蛇は明らかに何かを隠している。ニヤニヤとした顔は見ていてあまりいいものじゃない。
『いいや~べつにぃ~』
白蛇が何に反応したのか、会話の前後を考えてみると。
「お前もしかして風呂まで付いて来る気か!」
『付いて来るも何も~、アタシはアンタの視界を共有しているんだよ~ん。鏡に写るアタシを自覚できても、アタシの視界を奪うことは、どうやったってできないさぁ~』
「つまり?」
『アタシはアンタの五感を共有しているだけさぁ。だからアンタのションベンの放物線からナニまで、ぜ~んぶ見えちゃうのさ~』
そんな話は聞いてない、プライベート筒抜けどころか、自分の弱みを見せて逆手に取ってくれと言わんばかりじゃないか! ……いや、すでに弱みは見せてしまっただろう。
「解約する。お前との契約を解約する! 今すぐ悪夢見て、お前をぶっ殺してオレの記憶を跡形も無く霧散させてやるっ!」
『ちょ、そんな怒るなってぇ~。アタシだって好きで見ている訳じゃないんだし、誰に見せつけるわけじゃないんだろ~? それよりもアタシと組んでおいた方が得さ! なぁ?』
「……はぁ、もう最悪だ」
人との距離を一歩離れた生活をしてきたのが逆に、誰よりも身近に、隣接よりも近い同化した生活が来るとは思うはずが無かった……。
これからの生活が上手くやっていけるか、不安だ。それはもちろん、圭太と綾を抜きにした生活というのも、含まれている。
--Take it easy. It becomes soft--
『何の音だ?』
「オレの携帯だよ」
体を起こしスマホを取り出す。通話の相手は圭太だった。ディスプレイに浮かんだ文字に、後ろめたさを感じたが拒絶する事ができず、応答を押してしまう。
「よかった、電話でないかと思ったよ」
突き放したのはオレの方なのに、無自覚な安心感が胸に突き刺さる。返そうとした言葉が咽喉に詰まって、何も言えなくなる。
「その、綾との話し合いは……まだ上手く行ってないんだ。あれから色々話したんだけどね。それは必ず解決する。だから、チーム・ナイト/ナイツ/ナイトメアは解散しないからな!」
「……」
圭太は現状を続けるつもりだった。そんなこと……しないで欲しい。
「なあ風太郎、お前が苦しんでいるのはオレも綾も知っている。お前は一度だって助けてくれなんて言った事はなかったよな。でも顔に書いてあるんだよ、助けてくれって。だからオレは助けてきた。綾もきっとそうだ。だから絶対、綾もまた仲間になってくれるからさ」
美里風太郎のことも、美里風太郎の見る悪夢のことも忘れて、綾と圭太の二人で恋人同士なり漫画を描くなりして欲しい。
「ほっといてくれ……オレは、そんなに強い人間じゃないんだ」
絞り出せる言葉は、これが精一杯だった。
「知ってるよ、風太郎も、綾も、もちろんオレも強い人間なんかじゃない。そっか、そこまで追い込まれてるとは思わなかった。うん、僕の誤算だ……だからっていうのも何だが【最終兵器】が、欲しくないか? これは必ず悪夢を断ち切ることができる。保証付きのものがあるんだ」
「それはどういうことなんだ?」
「夜九時に、学校のグラウンドの裏にある竹林に来てくれ。今まで黙ってたことも、話すべきなのかもしれない。待っているからな」
返事を待たず言うだけ言うと通話は切れた。
『行くんだろ~、お友達の所にぃ』
鏡に映る白蛇が言う。見透かしたような視線が癪に障った。
「行きたくない」
『大事な友達ならちゃんと話すべきさ~。逆にこう言った方がいいかなぁ? 現実を見ろ、悪夢はアタシが一緒に見てやる。……嗚呼~アタシってほんとイイヤツだなぁ~』
ニヒヒ、と笑う白蛇。人の痴情を全て見た上で後押しをしようとする。
「お前に言われるまでもない。これはオレたちチーム・ナイト/ナイツ/ナイトメアの問題なんだ。口出ししなくていい」
こんな言い方でしか白蛇に言葉を返せない。
『蛇には口しかないんだ。誰であろうとアタシの唯一の楽しみを奪えやしないよ~ん』
「ならお喋りが過ぎて、その口が縫い合わされない程度にしとけ。風呂入るが、他言無用だぞ」
『そうだね、楽しみはベッドの中に取っておこうかねぇ』
それだけ言い残すと鏡に映る白蛇は消えた。今写るのは汗だくで座り込むオレ一人だけになる。
*
伊藤圭太は待ち合わせの場所に時間よりも早く待っていた。
真っ先に目に付いたのは背中に背負っている棒状の物。これが圭太の言う最終兵器なのだろうか。バットでも入りそうな円柱の筒でジッパーの開閉で中身が取り出せるようだ。
指定された時間は九時で、こんな時間に外出すれば当然怪しまれる。だから無断で家を出てきた。
学校の裏の竹林は私有地で中に入った事は無い。噂じゃ幽霊が出るとか、管理人の爺さんがおっかないだとか、神隠しに遇うだとか、十人十色な噂がある。そんな調べれば調べるほど与太話ばかりが広がって行く竹林なのだが、深夜に行くとなれば昼間とは想像もつかない雰囲気を出していた。
「……ここに入るのか?」
「そうだ」
密集する竹林は、懐中電灯の光を遠くまで飛ばさせない。逆に言えば不規則な竹の壁の向こうに誰かいても、見つけにくい。逃げようとすれば竹林が邪魔で最大加速で逃げられないだろう。……という考えは悪夢を見過ぎで、どこから敵が襲ってくるのか考える常に怯えた発想だ。
竹林には踏み固められて作られた道がありS字を描いて奥へ続いていた。奥にあったのは神社にも似た建物。さい銭箱も無ければ神を呼ぶ鈴も無い。奉る神はいないのだろうか。
「竹林の奥にこんな建物があったのか」
「知っている奴は滅多にいないだろうな」
「じゃあお前はどうして知っているんだ?」
「この土地は伊藤家の物だからさ、先祖代々から受け継いでいる土地なもんでね……」
常設されている街灯の他に、竹林に点在する光源が辺りを照らす。ここにはオレと圭太の二人だけがいるはずなのだが、誰かに見られている気分だった。
「話をしよう、とても詰まらない話だ。才能の無かった人間と才能の有った人間の話だ」
オレではなく、夜の闇に聞かせるように圭太は言った。
「その昔、血脈で受け継がれる才能を持たずして生まれた少年がいた。少年に兄弟は無く、才能は受け継がれることは無かった。少年の父は死に、残ったのは記述のみの技術と秘儀だった。才能の無い少年は土地と技術と秘儀と、秘密を知る一握りの協力者を一色多に背負うことになった。才能が無くても次の世代に引き継がなければならない血脈があった」
背中に背負っていた棒状の物を降ろしファスナーを開ける。中から引き抜いたのは、日本刀だった。太刀と小太刀の二本。彷夢来、いや侍が持つ刀だった。
「何の因果か、才能だけを持った少年がいた。なぜそんな才能があるかもわからず、地獄のような日々を送って来た。誰も理解してくれないと嘆き、全てを塞ぎこんでいた。それでも才能は開花の時を待って、潰れることなくしぶとく生きていた」
圭太は抜刀し太刀を右手に肩に担ぐように持つ。左手に小太刀を突き出す。腰は落とし、目付きが据わる。この構えは圭太から教わったことがある。ナイト/ナイツ/ナイトメアのナイトが二刀流で闘うシーンでモデルをしたことがある。この構えは作りものじゃなかったのか?
「才能を持たない少年と才能を持つ少年は出会った。才能を持つ少年が苦しむのを見て、才能を持たない少年は……呪った」
火薬が爆ぜる音がする。咄嗟に音の方を向くと、緑の物体が圭太目掛けて飛んで来た。
「あぶない!」
緑の物体は圭太の持つ刀で叩き斬られた。テニスのラケットを振るかのように、ステップとスイング。右手の刀が斬ったのは短い竹槍のような物だった。斬撃後はすぐに元の構えに戻る。次の獲物を待っている。
「なんでコイツに才能があって、僕には才能が無いのか。訓練を押し付けられた少年は仕方なく技術を吸収する。決して実戦で使われることの無い、無駄な技術だ」
竹林から炸裂音が無数にする。飛んでくる竹やりは四つ。三つは圭太に向かって、一つはオレに向かって飛んでくる。すぐに竹が割れる音がする。飛来する四つの槍は、素早く圭太が叩き落とした。
「いつ才能だけの少年が死ぬか、才能の無い少年はずっと待っていた。才能も技術もあった彼の父は簡単に死んだ。だから、才能の有る少年も簡単に死ぬと思っていた。出し惜しみをしながらも少しずつ技術を与えて行った」
大きな破裂音がする。音は全方向から同時に鳴った。同時に、複数個竹やりが飛んできている。竹やりはどれも圭太によって叩き落とされ、足元に竹の残骸が広がる。周りは竹林、神社にも似た社、飛来する竹槍を二刀流で切り落とす圭太。オレは悪夢を見ているのだろうか? 疑いたくなるほど圭太の剣筋は鋭く正確、同じ条件で戦った場合に勝てるのか、自分に問い始めていた。
「才能を持つ少年は技術を吸収した。あろうことか、歴代の猛者を凌ぐほどの理解力と応用性、才能と技術が噛み合い、天才と呼ぶには十分な記録を残していた。……何故だ、何故死なない。才能が有るからか? 技術の提供が良かったからか? それとも運が良かったからか?」
恨めしい目で、圭太はオレを見た。
「やっと死ぬかと思ったら、サシワタの住人と契約して生き延びた。現実世界でも鏡越しに白蛇が見えるようになった? おいおい……契約は一子相伝の秘儀中の秘儀。それも彷夢来を従わせるのにどれだけ苦労をするか知らず、ただ成り行きで、あの『純白の白蛇』を従わせた? はっはっはっはっはっはっは! 想定外どころじゃない……お前は本っ当に、何者なんだよ!」
目付きに憎しみが宿る。憎悪、嫌悪、……夢の中でそんな感情に対峙したことはなかった。いつも化け物相手で、意味不明な恐怖ばかりを相手にしてきた。それが今……オレの友人の圭太が、刃物を持って憎しみを吐き出している。
「……っていうのはどうだ?」
「へっ?」
「次のストーリーの内容さ。ライバルキャラが言うようなセリフだろ? こういう読者に危機感を与えるような展開こそ望ましいだろ?」
身構えていただけに、普段の口調で圭太が話し調子が狂う。両手に持つ刃は冷たく光を放っている。
「驚かせるなよ、心底ビビったぞ」
圭太は右手に持っている長い刀を地面に突き刺した。
「さあ、やってみろよ」
「いや無理だろ! 今のをいきなりやれって言われてできるもんじゃないだろ!」
「そりゃそうだ。まずはそこらへんに生えている竹を切ってみるだけでいいんだよ。そんな簡単に超えられちゃ困るさ、ここまでできるのに十年かかったんだからな」
「十年か。さっきの話は本当なのか?」
伊藤圭太の父は他界していた。亡くなってから……確かに十年だった。
「風太郎には風太郎の悪夢物語があるなら、ボクにはボクの悪夢物語があるんだよ。……取れよ」
地面に突き刺さった刀を引き抜く。圭太は片手で軽々と振っていたが、片手で支えられる重さじゃなかった。持ち上げる事ができても剣の先が重くて手首にかかる荷重はキツく、手が震える。両手でしっかり持ってようやく刀が安定した。
同じ長さの鉄パイプを握るのとも、木材と段ボールで作った大剣とも違う、刀の握り心地と重さ。
「これが日本刀か」
「僕が持てば歴史ある日本刀だが、お前が持てば妖刀になるだろうな。鋭い牙って書いて鋭牙って呼ばれてる。ボクの持ってる方は毒牙さ」
刀を振ってすらいないのに指先が麻痺してくる。力を入れていないのに、手に吸い付くように刀を握っている。
「な、なんだこれ。どうなってんだよ」
刀を手放そうとしても指が離れない、自分の意思とは無関係に強く刀を握り締める。
「指が! 腕も、言うことを聞かない!」
「ははは、記述通りだ……」
腕の感覚も無くなり、体中の感覚があっという間に無くなる。意識だけが頭に残り、人形の体に魂を入れられたかのように、視線すら動かす事ができない。
「やれやれだねぇ、黙って聴いていれば……ま~ったくやんなっちゃうねぇ~」
圭太でもない、誰かが言う。開いたのは自分の口だった。声も口調も自分のものじゃない。聞いたことのある声。この声はつい最近知ったばかりだ。
「お初にお目にかかります『純白の白蛇』様」
圭太は小太刀を脇に起き、片膝を付いて右手の親指を地面に付けた。
「黙れ下郎が」
白蛇の口調は今までに無い、鋭い言葉。オレができなかった片手で刀を持ち一閃する。斬撃が圭太の首を狙うが、圭太は素早く短い刀を取り、斬撃を受ける。
「人間とはこうも醜い生き物か! 何も知らぬ友人を騙し、私利私欲の為に生贄にするとは恥知らずにも程がある! この場で切り捨ててやろうか!」
白蛇が激昂した理由がわからない。
「本物だ……本物の『純白の白蛇』だ! 初めてサシワタの住人に会えた! あっはっはっはっはっは! 人の魂を喰らい、悪魔を宿す妖刀! 本当だったんだ!」
圭太は小太刀で太刀を押し返し、オレの胸に掌底を叩き込むと自ら距離を開けた。オレの体は簡単に攻撃を避け、体の調子を確かめている。
「風太郎、聞こえるか? 僕はお前に頼って来た。サシワタの住人を殺す為にお前を利用して来たんだ……でも僕はずっと、ずうっとだ! 僕自身の手で、サシワタの住人を殺してみたかったッ!」
左回りに走り出した圭太、死角へ周り込むのが目的ではなく徐々に距離を詰めている。オレの体を乗っ取った白蛇も刀を構え直す。白蛇は刀の振り方を知っている。圭太の事を切り捨てる気だ。なんとかして止めないとこのままだと大変なことになる。
「……やめろぉ! 二人ともやめてくれ」
一時的に体の主導権を取り返したが、その隙を狙って圭太は踏み込んで来た。容赦のない踏み込みは、一瞬で距離を詰める。
「くっ! 戯けが!」
白蛇に主導権が移った時に圭太は斬撃を出していた。刀を振る余裕は無い。それでも白蛇の技量は卓越していて、数センチの歩幅ずらしをしただけで切っ先を避け、完全に懐に潜り込んでいる圭太に膝蹴りを繰り出す。突っ込んで来た勢いもあり、蹴り返された圭太は受け身を取れずに地面に体を投げ出す。
「ぐぁ……くっそ……」
膝蹴りが溝内に入ったのか、圭太はすぐに立ち上がれない。白蛇が余裕の足取りで歩みより刀を振り上る。抵抗しようとしても、刀は今にも振り降ろされそうだった。
「確かに、刀を振り続け渇望もある。だが実戦に出た事のない動きだ哀れよのぉ……。それにサシワタの住人を殺す? そんな事に血脈も才能も必要ない。人は誰も夢を見る。こんな容易い事に気付かぬ者に、まさかこの妖刀が渡るとはな……長生きはするものだが、呆れ果てた使い道だな」
しかし、白蛇は圭太を殺すことなく刀を降ろした。
「アタシと共に歩め、風太郎。ならばこの下郎の力を借りずとも平穏を与えよう……もしお前がこの下郎を選ぶなら妖刀を折ろう。さすれば下郎も狂気に堕ちることはないが、安寧は無いぞ。……選べ」
白蛇は刀を地面に突き刺し手放す。体の主導権はオレに戻って来る。考えるまでもなく、倒れている圭太に走り寄った。
「大丈夫か圭太! お前がそんなことを考えていたなんて知らなかった。いつも自分のことしか考えてなかった……そんな悩みがあったなんて知らなかったんだ!」
「いいんだよ。僕も風太郎も自分の為に戦ってきた。そうだろう? 僕は風太郎を殺すつもりはない、でも、風太郎を殺さないと白蛇は殺せない」
圭太は学校で見せる笑顔で言った。
「だから僕を選ばないでくれ……風太郎」
それは、悪夢に溺れた美里風太郎のセリフのはずだったのに、逆に言われるとこんなに寂しいものだったのか。
圭太が欲しかったのは才能と敵。圭太にとって白蛇を内包した美里風太郎は、初めて目の前に現れた敵。
「ああ、そうか、ならオレもそう思っていたところだ。……だから白蛇を選ぶよ」
刀を折らなかった。刀を折れば元に戻れるのか? いや違うはずだ。圭太はオレと同じように世界を呪っていた。この呪いがどれほど苦しい物なのか知っている。
だから、圭太を選ぶ事ができない。このまま、この竹林を出て家に帰るだけだ。振り返らないまま帰った。
--初めて、夜が来ることよりも、明日が来る事が怖くなった。
「……以上だ。これが今朝見た夢と、信自宅も無い現実だ」
場所は美術準備室の漫画研究部で時間は放課後。話を聞いているのは圭太と綾。いつもの場所いつもの時間いつものメンバー。まさしく日常への原点回帰である。異物が混じっていることを除けば。
「……いや、えっとだな」
いつもと変わらずメモ帳を片手に話を聞いていた圭太も、話の途中で理解を超えたのかペンが止まった。机に向かい絵を描いていた綾も途中から話を真剣に聞いていたが、今は額に手を当ててうなだれている。
「言いたい事はわかるさ、でもオレが見た夢をそのまま話したんだ。支離滅裂で滅茶苦茶で意味不明で理解不能なんていつもの事だろう? ただそれが、現実まで浸食してきただけだ……は、ははは……」
冷蔵庫から取り出した缶コーヒーは冷たさを保ったまま最後の一口を飲みほした。缶を金属ゴミの箱へ投げる。投げた缶は箱の中に吸い寄せられるように入り、軽い音が部屋に響く。
「そうじゃなくってさ! そうじゃなくって……お前は首に、その、白蛇巻いたまま……ずっと授業受けていたのかよ?」
圭太は興奮とは違う、青ざめた顔で事情を聞いてきた。オレの話しを信じるなら化け物を連れたまま学校に来たことになる。青ざめるのも当然だ。
「たぶんね」
授業中は鏡を見なかったので、今でも首に白蛇が巻き憑いているかもしれない。
「たぶんってお前な! なんでもっと早く言わないんだよ!」
「そんな事言ったって! オレだって鏡使わなきゃ見えないモノをどうやって他人に証明しろって言うんだよ? 親に言って『鏡越しにオレの首に何かついているか』ちゃんと確認してから学校来て、今の今まで誰一人として何も言わなかった。つまり幻覚幻想幻聴の、文字通りの夢物語りかもしれない! いつも通りの面白いネタになるだろ!」
「違う、そうじゃなくて、そうじゃないんだよ! 風太郎……お前はどうしてそんな平気な顔をしていられたんだよ……」
悪夢を見慣れていない普通の思考なら恐ろしい話なのかもしれない。だが、オレにそんな観念があったかどうか考え直すと、一つの結論に落ち着く。
「そんなこと考えても、どうしようもないだろ」
今まで見て来た夢の数々を、全部無かったことにしてやって来た。今更それが現実まで足を伸ばしてきても、見なかったことにする意外に対処法なんて無い。あったらとっくにやっているからだ。
「ごめん、私もう付いていけない」
席を立ったのは綾だった。荷物も持たず足早に準備室を出ようとする。
「ちょ、ちょっとまってくれ綾!」
オレは止めたりなんてしない。止めたのは圭太だった。
「前から思っていたけど、私はこんな頭のおかしなヤツの為に漫画なんて書きたくない。フィクションでもノンフィクションでも、どっちだったとしてもコイツの頭はイカれてる」
綾の鋭い眼つきが、さらに鋭さを増して突き刺すように睨む。感情が壊死仕掛けているオレじゃなければ身がすくむ思いだっただろう。オレは綾の反応は正しいと思うし、本来ならそう思うべきだ。
「捉え方は人それぞれで、僕は風太郎の夢ってイカしてるって思うけどな! そう結論を急ぐ必要はないだろう? まあ待てってば」
そりゃ無理があるんじゃないか? と思ったが黙って圭太の手腕を見守った。
「今まで、ナイト/ナイツ/ナイトメアが上手く行っていたのは三人がいたからだろ? 風太郎が夢を見て、僕がネタを見つけて整えて、綾が漫画にする。これは誰一人が抜けてできたものじゃないだろ?」
「圭太が話を考えて、私が漫画にするならやる。ねぇ、いつまで悪夢に縛られるの? いつまでこんな話を続ける気なの? 私たちが悪夢を期待するから風太郎が変な夢を見るって可能性は考えたことないの? 悪夢以外の題材で漫画でも小説でも作ろうとは思わないの? どうして風太郎に執着するの?」
見事なカウンターが決まる。確かにその通りで、悪夢を題材にしなくてもいいし、元より圭太と綾の二人で漫画を描いていた方が上手く行くだろう。さて、圭太はこれを返す事ができるだろうか?
「……じゃあ、綾は風太郎の悪夢を見捨てられるってのかよ! 今までどんな酷い悪夢を見て来たか知っているだろ!」
「ええ知っているわ。だからやっと気付いたの。この悪夢に終わりは無いし、いつまでも付き合っていられない。それに、風太郎は悪夢を見ることに何も感じなくなっているでしょう? もう手遅れよ」
「……それは、言っちゃダメだろっ!」
オレが原因で二人が喧嘩していると思うのなら、ちゃんと仲裁に入った方がいいだろう。しかし目の前で起きていることが、親友二人の喧嘩なのに仲裁する気は起きず、止めようという気も悲しい気持にもならなかった。ただ、いつか来るだろう崩壊が、今来ているような気がした。
圭太も言葉に詰まっていた。いつもなら黙って見ていることはできる。でも今回ばっかりはオレも話に入り込まなくちゃいけない気がする。
「なあ圭太、綾。お前らがケンカする理由が、正直よくわからん。オレは最初から一言も助けてくれなんて言ってない。それに、ここは漫画研究部なのであって、漫画を描くヤツがメインだ。綾が抜けるくらいならオレが抜ける。オレは漫画描けないからな。それに、圭太と綾の二人だけで描く漫画も見てみたいしな」
「風太郎、お前も何言ってるんだ! ナイト/ナイツ/ナイトメアはどうするんだよ」
「それこそオレがいたら終わらないだろ。圭太も綾も、誰一人としてオレの悪夢を終わらすことはできない……そうだろう?」
「まだゼロって決まった訳じゃない。それに、今回の悪夢で彷夢来と契約をしたんだろ? なら可能性はまだまだあるじゃないか!」
「……だからこそ、もうお終いなんだよ。何が真実なのかオレには分からなくなってきた。今まで見て来た悪夢が全部嘘じゃないなら……オレはもうここに来ない。後は任せた」
カバンを持ち、圭太の横を、綾の横をすり抜けて部屋を出た。何か言っていたかもしれないが聞こえないフリをして走る。
家まで全力で走った。バスに乗って通学している距離を止まることなく、心臓の悲鳴も脚が絡まりそうなのも無視して、もしかしたら信号すらも無視して走り抜けたかもしれない。
ただ闇雲に走った訳じゃない。走り疲れて寝るつもりだった。何も考えずに、ただ眠りたかった。
『お前さ~……馬鹿なのぉ?』
「っはーっはーあああ、くそったれが……」
心臓が暴れるどころか口から飛び出しそうなほど仕事をしている。学校から実家二階の部屋まで走り抜いた代償は大きく、部屋に到着するなり床にぶっ倒れた。
姿映しの大鏡から人型の白蛇が見下ろしている。オレはうつ伏せの体を仰向けに起こす事すらろくにできやしない。
『黙ってりゃ誰も気付かないって言ったのに、聞いてなかったのかぁ?』
「オレは嘘を吐くのが、下手クソ、でな。はぁはぁ……。アイツ、らに嘘、言えないんだよ……だから、これ以上、……はぁはぁ、巻き込めない」
『ふぅん、最強の零式と言われただけあって、後ろ盾があったとはねぇ。あの子らがアンタの悪夢をサポートしていたなら、今まで通りで何が悪いんだい?』
「オレが殺して来た獏者の数は千や二千なんて数字じゃない。もっと大きな数で、全部嘘でできた撃破数だと思っていた。……オレはアイツらのお陰で、ゲーム感覚で殺しまくっていた。じゃあ今は何だ? ゲームだと思って殺していたのは本物の化け物だったって知ったら、誰が協力するかよ……いいんだよ、げっほ……アレで」
『そこは友情って言葉でカバーできるんじゃないのかねぇ。一蓮托生とかさぁ』
まったくオレ達の関係を知らない白蛇が言ったからこそ今の一言が突き刺さる。
卵の殻に亀裂が入るのにも似た、自分の仮面が壊れるのがハッキリとわかった。オレは泣きたくなった。歯を食いしばって、胸の内に全てを飲み込みこらえる。
「ああ、今理解したよ。オレは怖くなって逃げ出したんだ。そんな友情ってものがあったからオレは怖くなって逃げ出したんだよ。オレは……綾と圭太を巻き込みたくないんだ。友達を失うくらいなら、自分から出ていく」
世の中をどれほど憎んで来ただろうか。自分だけが悪夢ばかり見て、周りは楽しそうに生きている。そこから救おうとしてくれた二人の友人を……自由にしたかった。オレの存在が二人を縛り付けているとしか考えてなかった。でも、実際は怖かっただけなんだ。
『うーむ、もしかしてアタシが原因かな~?』
「腹立つことに、何もかもオレが原因だ。お前は……まあいい、風呂に入ってくる」
暴れていた心臓も落ち着いて、汗だくの体にシャツが貼り付いて気持ち悪い。エアコンも付けない部屋は寒くこのままだと風邪をひきそうだった。
『お、そうかぁ……ふっふっふ~』
「何がおかしい」
鏡に映る白蛇は明らかに何かを隠している。ニヤニヤとした顔は見ていてあまりいいものじゃない。
『いいや~べつにぃ~』
白蛇が何に反応したのか、会話の前後を考えてみると。
「お前もしかして風呂まで付いて来る気か!」
『付いて来るも何も~、アタシはアンタの視界を共有しているんだよ~ん。鏡に写るアタシを自覚できても、アタシの視界を奪うことは、どうやったってできないさぁ~』
「つまり?」
『アタシはアンタの五感を共有しているだけさぁ。だからアンタのションベンの放物線からナニまで、ぜ~んぶ見えちゃうのさ~』
そんな話は聞いてない、プライベート筒抜けどころか、自分の弱みを見せて逆手に取ってくれと言わんばかりじゃないか! ……いや、すでに弱みは見せてしまっただろう。
「解約する。お前との契約を解約する! 今すぐ悪夢見て、お前をぶっ殺してオレの記憶を跡形も無く霧散させてやるっ!」
『ちょ、そんな怒るなってぇ~。アタシだって好きで見ている訳じゃないんだし、誰に見せつけるわけじゃないんだろ~? それよりもアタシと組んでおいた方が得さ! なぁ?』
「……はぁ、もう最悪だ」
人との距離を一歩離れた生活をしてきたのが逆に、誰よりも身近に、隣接よりも近い同化した生活が来るとは思うはずが無かった……。
これからの生活が上手くやっていけるか、不安だ。それはもちろん、圭太と綾を抜きにした生活というのも、含まれている。
--Take it easy. It becomes soft--
『何の音だ?』
「オレの携帯だよ」
体を起こしスマホを取り出す。通話の相手は圭太だった。ディスプレイに浮かんだ文字に、後ろめたさを感じたが拒絶する事ができず、応答を押してしまう。
「よかった、電話でないかと思ったよ」
突き放したのはオレの方なのに、無自覚な安心感が胸に突き刺さる。返そうとした言葉が咽喉に詰まって、何も言えなくなる。
「その、綾との話し合いは……まだ上手く行ってないんだ。あれから色々話したんだけどね。それは必ず解決する。だから、チーム・ナイト/ナイツ/ナイトメアは解散しないからな!」
「……」
圭太は現状を続けるつもりだった。そんなこと……しないで欲しい。
「なあ風太郎、お前が苦しんでいるのはオレも綾も知っている。お前は一度だって助けてくれなんて言った事はなかったよな。でも顔に書いてあるんだよ、助けてくれって。だからオレは助けてきた。綾もきっとそうだ。だから絶対、綾もまた仲間になってくれるからさ」
美里風太郎のことも、美里風太郎の見る悪夢のことも忘れて、綾と圭太の二人で恋人同士なり漫画を描くなりして欲しい。
「ほっといてくれ……オレは、そんなに強い人間じゃないんだ」
絞り出せる言葉は、これが精一杯だった。
「知ってるよ、風太郎も、綾も、もちろんオレも強い人間なんかじゃない。そっか、そこまで追い込まれてるとは思わなかった。うん、僕の誤算だ……だからっていうのも何だが【最終兵器】が、欲しくないか? これは必ず悪夢を断ち切ることができる。保証付きのものがあるんだ」
「それはどういうことなんだ?」
「夜九時に、学校のグラウンドの裏にある竹林に来てくれ。今まで黙ってたことも、話すべきなのかもしれない。待っているからな」
返事を待たず言うだけ言うと通話は切れた。
『行くんだろ~、お友達の所にぃ』
鏡に映る白蛇が言う。見透かしたような視線が癪に障った。
「行きたくない」
『大事な友達ならちゃんと話すべきさ~。逆にこう言った方がいいかなぁ? 現実を見ろ、悪夢はアタシが一緒に見てやる。……嗚呼~アタシってほんとイイヤツだなぁ~』
ニヒヒ、と笑う白蛇。人の痴情を全て見た上で後押しをしようとする。
「お前に言われるまでもない。これはオレたちチーム・ナイト/ナイツ/ナイトメアの問題なんだ。口出ししなくていい」
こんな言い方でしか白蛇に言葉を返せない。
『蛇には口しかないんだ。誰であろうとアタシの唯一の楽しみを奪えやしないよ~ん』
「ならお喋りが過ぎて、その口が縫い合わされない程度にしとけ。風呂入るが、他言無用だぞ」
『そうだね、楽しみはベッドの中に取っておこうかねぇ』
それだけ言い残すと鏡に映る白蛇は消えた。今写るのは汗だくで座り込むオレ一人だけになる。
*
伊藤圭太は待ち合わせの場所に時間よりも早く待っていた。
真っ先に目に付いたのは背中に背負っている棒状の物。これが圭太の言う最終兵器なのだろうか。バットでも入りそうな円柱の筒でジッパーの開閉で中身が取り出せるようだ。
指定された時間は九時で、こんな時間に外出すれば当然怪しまれる。だから無断で家を出てきた。
学校の裏の竹林は私有地で中に入った事は無い。噂じゃ幽霊が出るとか、管理人の爺さんがおっかないだとか、神隠しに遇うだとか、十人十色な噂がある。そんな調べれば調べるほど与太話ばかりが広がって行く竹林なのだが、深夜に行くとなれば昼間とは想像もつかない雰囲気を出していた。
「……ここに入るのか?」
「そうだ」
密集する竹林は、懐中電灯の光を遠くまで飛ばさせない。逆に言えば不規則な竹の壁の向こうに誰かいても、見つけにくい。逃げようとすれば竹林が邪魔で最大加速で逃げられないだろう。……という考えは悪夢を見過ぎで、どこから敵が襲ってくるのか考える常に怯えた発想だ。
竹林には踏み固められて作られた道がありS字を描いて奥へ続いていた。奥にあったのは神社にも似た建物。さい銭箱も無ければ神を呼ぶ鈴も無い。奉る神はいないのだろうか。
「竹林の奥にこんな建物があったのか」
「知っている奴は滅多にいないだろうな」
「じゃあお前はどうして知っているんだ?」
「この土地は伊藤家の物だからさ、先祖代々から受け継いでいる土地なもんでね……」
常設されている街灯の他に、竹林に点在する光源が辺りを照らす。ここにはオレと圭太の二人だけがいるはずなのだが、誰かに見られている気分だった。
「話をしよう、とても詰まらない話だ。才能の無かった人間と才能の有った人間の話だ」
オレではなく、夜の闇に聞かせるように圭太は言った。
「その昔、血脈で受け継がれる才能を持たずして生まれた少年がいた。少年に兄弟は無く、才能は受け継がれることは無かった。少年の父は死に、残ったのは記述のみの技術と秘儀だった。才能の無い少年は土地と技術と秘儀と、秘密を知る一握りの協力者を一色多に背負うことになった。才能が無くても次の世代に引き継がなければならない血脈があった」
背中に背負っていた棒状の物を降ろしファスナーを開ける。中から引き抜いたのは、日本刀だった。太刀と小太刀の二本。彷夢来、いや侍が持つ刀だった。
「何の因果か、才能だけを持った少年がいた。なぜそんな才能があるかもわからず、地獄のような日々を送って来た。誰も理解してくれないと嘆き、全てを塞ぎこんでいた。それでも才能は開花の時を待って、潰れることなくしぶとく生きていた」
圭太は抜刀し太刀を右手に肩に担ぐように持つ。左手に小太刀を突き出す。腰は落とし、目付きが据わる。この構えは圭太から教わったことがある。ナイト/ナイツ/ナイトメアのナイトが二刀流で闘うシーンでモデルをしたことがある。この構えは作りものじゃなかったのか?
「才能を持たない少年と才能を持つ少年は出会った。才能を持つ少年が苦しむのを見て、才能を持たない少年は……呪った」
火薬が爆ぜる音がする。咄嗟に音の方を向くと、緑の物体が圭太目掛けて飛んで来た。
「あぶない!」
緑の物体は圭太の持つ刀で叩き斬られた。テニスのラケットを振るかのように、ステップとスイング。右手の刀が斬ったのは短い竹槍のような物だった。斬撃後はすぐに元の構えに戻る。次の獲物を待っている。
「なんでコイツに才能があって、僕には才能が無いのか。訓練を押し付けられた少年は仕方なく技術を吸収する。決して実戦で使われることの無い、無駄な技術だ」
竹林から炸裂音が無数にする。飛んでくる竹やりは四つ。三つは圭太に向かって、一つはオレに向かって飛んでくる。すぐに竹が割れる音がする。飛来する四つの槍は、素早く圭太が叩き落とした。
「いつ才能だけの少年が死ぬか、才能の無い少年はずっと待っていた。才能も技術もあった彼の父は簡単に死んだ。だから、才能の有る少年も簡単に死ぬと思っていた。出し惜しみをしながらも少しずつ技術を与えて行った」
大きな破裂音がする。音は全方向から同時に鳴った。同時に、複数個竹やりが飛んできている。竹やりはどれも圭太によって叩き落とされ、足元に竹の残骸が広がる。周りは竹林、神社にも似た社、飛来する竹槍を二刀流で切り落とす圭太。オレは悪夢を見ているのだろうか? 疑いたくなるほど圭太の剣筋は鋭く正確、同じ条件で戦った場合に勝てるのか、自分に問い始めていた。
「才能を持つ少年は技術を吸収した。あろうことか、歴代の猛者を凌ぐほどの理解力と応用性、才能と技術が噛み合い、天才と呼ぶには十分な記録を残していた。……何故だ、何故死なない。才能が有るからか? 技術の提供が良かったからか? それとも運が良かったからか?」
恨めしい目で、圭太はオレを見た。
「やっと死ぬかと思ったら、サシワタの住人と契約して生き延びた。現実世界でも鏡越しに白蛇が見えるようになった? おいおい……契約は一子相伝の秘儀中の秘儀。それも彷夢来を従わせるのにどれだけ苦労をするか知らず、ただ成り行きで、あの『純白の白蛇』を従わせた? はっはっはっはっはっはっは! 想定外どころじゃない……お前は本っ当に、何者なんだよ!」
目付きに憎しみが宿る。憎悪、嫌悪、……夢の中でそんな感情に対峙したことはなかった。いつも化け物相手で、意味不明な恐怖ばかりを相手にしてきた。それが今……オレの友人の圭太が、刃物を持って憎しみを吐き出している。
「……っていうのはどうだ?」
「へっ?」
「次のストーリーの内容さ。ライバルキャラが言うようなセリフだろ? こういう読者に危機感を与えるような展開こそ望ましいだろ?」
身構えていただけに、普段の口調で圭太が話し調子が狂う。両手に持つ刃は冷たく光を放っている。
「驚かせるなよ、心底ビビったぞ」
圭太は右手に持っている長い刀を地面に突き刺した。
「さあ、やってみろよ」
「いや無理だろ! 今のをいきなりやれって言われてできるもんじゃないだろ!」
「そりゃそうだ。まずはそこらへんに生えている竹を切ってみるだけでいいんだよ。そんな簡単に超えられちゃ困るさ、ここまでできるのに十年かかったんだからな」
「十年か。さっきの話は本当なのか?」
伊藤圭太の父は他界していた。亡くなってから……確かに十年だった。
「風太郎には風太郎の悪夢物語があるなら、ボクにはボクの悪夢物語があるんだよ。……取れよ」
地面に突き刺さった刀を引き抜く。圭太は片手で軽々と振っていたが、片手で支えられる重さじゃなかった。持ち上げる事ができても剣の先が重くて手首にかかる荷重はキツく、手が震える。両手でしっかり持ってようやく刀が安定した。
同じ長さの鉄パイプを握るのとも、木材と段ボールで作った大剣とも違う、刀の握り心地と重さ。
「これが日本刀か」
「僕が持てば歴史ある日本刀だが、お前が持てば妖刀になるだろうな。鋭い牙って書いて鋭牙って呼ばれてる。ボクの持ってる方は毒牙さ」
刀を振ってすらいないのに指先が麻痺してくる。力を入れていないのに、手に吸い付くように刀を握っている。
「な、なんだこれ。どうなってんだよ」
刀を手放そうとしても指が離れない、自分の意思とは無関係に強く刀を握り締める。
「指が! 腕も、言うことを聞かない!」
「ははは、記述通りだ……」
腕の感覚も無くなり、体中の感覚があっという間に無くなる。意識だけが頭に残り、人形の体に魂を入れられたかのように、視線すら動かす事ができない。
「やれやれだねぇ、黙って聴いていれば……ま~ったくやんなっちゃうねぇ~」
圭太でもない、誰かが言う。開いたのは自分の口だった。声も口調も自分のものじゃない。聞いたことのある声。この声はつい最近知ったばかりだ。
「お初にお目にかかります『純白の白蛇』様」
圭太は小太刀を脇に起き、片膝を付いて右手の親指を地面に付けた。
「黙れ下郎が」
白蛇の口調は今までに無い、鋭い言葉。オレができなかった片手で刀を持ち一閃する。斬撃が圭太の首を狙うが、圭太は素早く短い刀を取り、斬撃を受ける。
「人間とはこうも醜い生き物か! 何も知らぬ友人を騙し、私利私欲の為に生贄にするとは恥知らずにも程がある! この場で切り捨ててやろうか!」
白蛇が激昂した理由がわからない。
「本物だ……本物の『純白の白蛇』だ! 初めてサシワタの住人に会えた! あっはっはっはっはっは! 人の魂を喰らい、悪魔を宿す妖刀! 本当だったんだ!」
圭太は小太刀で太刀を押し返し、オレの胸に掌底を叩き込むと自ら距離を開けた。オレの体は簡単に攻撃を避け、体の調子を確かめている。
「風太郎、聞こえるか? 僕はお前に頼って来た。サシワタの住人を殺す為にお前を利用して来たんだ……でも僕はずっと、ずうっとだ! 僕自身の手で、サシワタの住人を殺してみたかったッ!」
左回りに走り出した圭太、死角へ周り込むのが目的ではなく徐々に距離を詰めている。オレの体を乗っ取った白蛇も刀を構え直す。白蛇は刀の振り方を知っている。圭太の事を切り捨てる気だ。なんとかして止めないとこのままだと大変なことになる。
「……やめろぉ! 二人ともやめてくれ」
一時的に体の主導権を取り返したが、その隙を狙って圭太は踏み込んで来た。容赦のない踏み込みは、一瞬で距離を詰める。
「くっ! 戯けが!」
白蛇に主導権が移った時に圭太は斬撃を出していた。刀を振る余裕は無い。それでも白蛇の技量は卓越していて、数センチの歩幅ずらしをしただけで切っ先を避け、完全に懐に潜り込んでいる圭太に膝蹴りを繰り出す。突っ込んで来た勢いもあり、蹴り返された圭太は受け身を取れずに地面に体を投げ出す。
「ぐぁ……くっそ……」
膝蹴りが溝内に入ったのか、圭太はすぐに立ち上がれない。白蛇が余裕の足取りで歩みより刀を振り上る。抵抗しようとしても、刀は今にも振り降ろされそうだった。
「確かに、刀を振り続け渇望もある。だが実戦に出た事のない動きだ哀れよのぉ……。それにサシワタの住人を殺す? そんな事に血脈も才能も必要ない。人は誰も夢を見る。こんな容易い事に気付かぬ者に、まさかこの妖刀が渡るとはな……長生きはするものだが、呆れ果てた使い道だな」
しかし、白蛇は圭太を殺すことなく刀を降ろした。
「アタシと共に歩め、風太郎。ならばこの下郎の力を借りずとも平穏を与えよう……もしお前がこの下郎を選ぶなら妖刀を折ろう。さすれば下郎も狂気に堕ちることはないが、安寧は無いぞ。……選べ」
白蛇は刀を地面に突き刺し手放す。体の主導権はオレに戻って来る。考えるまでもなく、倒れている圭太に走り寄った。
「大丈夫か圭太! お前がそんなことを考えていたなんて知らなかった。いつも自分のことしか考えてなかった……そんな悩みがあったなんて知らなかったんだ!」
「いいんだよ。僕も風太郎も自分の為に戦ってきた。そうだろう? 僕は風太郎を殺すつもりはない、でも、風太郎を殺さないと白蛇は殺せない」
圭太は学校で見せる笑顔で言った。
「だから僕を選ばないでくれ……風太郎」
それは、悪夢に溺れた美里風太郎のセリフのはずだったのに、逆に言われるとこんなに寂しいものだったのか。
圭太が欲しかったのは才能と敵。圭太にとって白蛇を内包した美里風太郎は、初めて目の前に現れた敵。
「ああ、そうか、ならオレもそう思っていたところだ。……だから白蛇を選ぶよ」
刀を折らなかった。刀を折れば元に戻れるのか? いや違うはずだ。圭太はオレと同じように世界を呪っていた。この呪いがどれほど苦しい物なのか知っている。
だから、圭太を選ぶ事ができない。このまま、この竹林を出て家に帰るだけだ。振り返らないまま帰った。
--初めて、夜が来ることよりも、明日が来る事が怖くなった。
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