異世界で魔物と産業革命

どーん

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第5話 - 初めての交易

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俺たちは新しい家族、アラクネを迎えて住処にたどり着いた
一日で往復できたとは言えもうすっかり日も暮れている
疲れ果てた俺たちは簡単に食事を済ませ、次の日を迎えた

目が覚めるといい匂いがする
まめいが肉を焼いているようだ

俺は起きて伸びをすると、軽めの運動をしながら外へ出た。

「よく寝たー、もう昼前か」

まめいが機嫌よさそうに肉を焼いている

「ふんふん~♪」

アラクネは住処上へある木に卵を移したようだ
新しい住処が気に入ってくれたのか、機嫌いいように見える

アヌビスは肉が焼けるのを今か今かと待ちわびている
食い意地はご機嫌のようだ

まめいと言葉が通じなくても、力の弱いまめいに合わせて
まめいが捌ける範囲の小さいえものをもってくる
いつの間にかお互いを気遣う関係ができていてなごむ

昨日の今日なのでさすがにエルフはまだ来ていないが
交易品と交換するための材料を集めなければならない
アラクネに織物をいくつか作れるように依頼してみよう

「アラクネー!頼みたいことがあるんだ、降りてきてくれないかー?」

アラクネは木の上からするすると下りてきて俺の目の前へやってきた

「どうかしたかしら?」
「交易品の件で」
「そうね、エルフさんはいつ頃来るのかしら?」
「まだわからない、明日かもしれないし、10日後かもしれない」

アラクネは少し考える素振りを見せたあと、話し出した。

「交易品に必要な織物って、どんなものがいいかしら?」

そういえば、商品として渡すものについてまったく考えていなかった
うーむ...どうしたものか、アラクネは服も作れたりするんだろうか?
おそらく、交易品として、という意味であれば日本の反物が商品として使えるとおもう
加工済みのものより、あちらの好みに合わせて加工できる素材の方がありがたいかもしれない、それに反物であればアラクネも生産効率があがるだろう

「反物ってわかるかな?」

アラクネは不思議そうな顔をしている
当然わからないよな...元の世界の、まして日本の知識だ
こちらの世界ではなんというのかわからない...だが百聞は一見にしかず
絵を書いて説明すればいい

俺は地面に簡単な絵を書いて説明した
横幅1メートルほどの、大きなロールだ

それを見てアラクネは理解できたようだ

「なるほど、これなら簡単。一日に2本は作れるわ」

一日2本か、俺たちが使う分も含めると安定して生産してもらいたいし
あまり無理して体調崩すような事もしてもらいたくない
これくらいで満足しよう

「わかった、無理のない範囲でお願い」
「ええ、任せて!」

アラクネは両手を上げて張り切っている。
それにしても...服がほしい...アラクネも上半身が裸なのは目の保養になるがちょっとな..

「アラクネ、ついでで申し訳ないんだけど、服なんて作れるかな?」
「服?貴方たちが着ているものでいいの?」
「そう、それにアラクネも着てほしい...いくら魔物とはいえ...一応...な」
「うーん、作ったことはないけど、やってみるわ
あなたが着ているものを借りてもいいかしら?参考にしたいの」

なるほどそうきたか、そりゃそうか、サンプルが必要だもんな
上は何とかするとして、下も脱ぐ方がいいのか...

結局、上下を渡して俺は住処の奥で小さくなって過ごした

翌日

さすがに裸のままで寝るのはつらい...
アラクネに進捗を聞こう

「アラクネー!進捗どうですかー!?」

こういうと進捗ダメです!って言われそうな気がしたけど元の世界の話だ
こんなネタさすがにアラクネにはわからんだろう
そもそも進捗なんて単語がわからんだろう

するとアラクネが木の上からするすると降りてきた

「できてるわ、思ったより簡単な作りね、これなら予備も含めて少しずつ蓄えていけるわ」

思っていたより仕事が早い
衣服上下と反物1ロールが出来ていた。

さっそく新しい衣服に袖を通してみると素晴らしい着心地だ
シルクのような肌ざわり、暑くもなく、風はしっかりと受け止めてくれる上に涼しい
着色は後で考えるとしても布としての品質がすごく高い、これはエルフも気に入るだろう

「これは...すごい!すごくいいね!」
「ふふふ、ありがたいわ」

アラクネは嬉しそうに微笑んだ

それを見ていたまめいがアラクネと話しはじめた
なぜかこそこそしている

気になったのでこっそり覗いてみる事にした
...なるほど...下着か...たしかに必要だ、俺も後で頼もう
気が回らなかったな、そしてこれはきっとセクハラだろうな...
ま、いいか、もう見ちゃったし、気づかれてないだろ

布は生活をものすごく向上させた。
具体的には衣類もそうだが持ち運びが可能になった
持ち運ぶこと自体は布がなくてもできたが、布を風呂敷のように使い、運搬量が増えたのだ
その他、水浴び後に体を拭いたり、汚れた皿を拭いたりなどなど生活に欠かせなくなった

また、獣の皮などをアラクネがなめすことを知っていた
革製品まで手に入ったのは嬉しい誤算だ
織物に精通していると聞いていたけどここまでとは、交易が非常に楽しみだ

...3日後...

待ちわびたエルフがやってきた、人数は3人になり、小さな鞄をそれぞれ背負っている
アラクネの事を教えてくれたエルフが歩み寄り、名乗ってくれた

「やぁ、生きてたね。」
「おかげさまで、アラクネがここに来てくれることになったよ」

俺たちは握手を交わした
アラクネがここにいるという言葉を聞いて、他のエルフたちがざわめき始めた

「な?言っただろう、この方は魔物と会話し、一緒に暮らしているんだ」

他のエルフたちは物珍しそうに俺を見ている

「すまないね、自己紹介もまだしてなかったな
私はソロン・クルー、エルフの斥候だ」
「俺は井手 玄人、見ての通り、変わり者の人間だ」

挨拶を済ませ、お互いの品を並べ、品定めが始まった
俺たちはアラクネの反物4本とハンカチサイズの布をいくつか
そしてアラクネになめしてもらった革を広げた

交易というには商品数が少なくて非常に心もとない...

エルフたちは生活用品と武器をいくつかもってきてくれた。
塩をはじめとする調味料をいくつか
そして食器類、ナイフや短めの剣、石鹸や香水まである

まめいが調味料と石鹸に興味深々だ
これで食べ物の品質もあがってくれるとこの交易は大成功だな

そして足元を見られるかと思ったがエルフたちはアラクネの織物に興奮している

「玄人!これはすごいぞ!我々の王室でさえこれほどの品質の布はない!」
「そ、そんなに興奮するとは、気に入ってくれたなら嬉しいよ」
「正直なところここまでのものとは思わなかった、ぜひ取引してほしい」

エルフたちは宝物でも見つけたかのようなはしゃぎようだ
だがエルフたちの製品も相当なものだ、彼らにとっては当たり前に使うものかもしれないが
どれを見ても精巧で品質が高いのがわかる、我々のような原始人と取引するのが信じられないほどだ

いったいどれくらいの物量と交換できるだろうか...

「今だしている布類は全部取引として使えるものだ、これでどれなら交換できるかな」

エルフたちはハッと我に返り、もってきたものを全てこちらへ差し出した

「これら全てでも足りないくらいだ、他にも欲しいものがあったら次回持ってくる
次も取引してくれるかい?」

驚いた、そんなにいいものなのか...
アラクネには一番おいしいごはんをあげないといけないな

「もちろん、今回は交流の証として、こちらのものも全て渡すよ」
「本当にいいのか?この反物1つで武器や防具一式揃う価値はあるぞ」
「そ、そんなにか...だったらなおのこともってってくれよ、今後ともひいきにしてほしい」
「も、もちろんだ!だが一方的にこちらが利益を得るだけなんて我々のプライドが許さない
次回はこれらに見合うものを必ず持ってくる、それと、今日もらう分に見合う品数も必ず揃えよう、他には何が欲しい?」

思いのほか感謝されすぎて怖い、途中でほつれたりしないでくれよ...
とはいえ好意はありがたく受け取ろう

「そうだね、紙やペン、医療品、あとは石鹸と香水ももっと欲しい」
「お安い御用だ」

アヌビスが近づいてきて、不満そうに話しかけてきた

「エルフが食べるご飯についても教えてもらいなよ」

食い意地センサーが働いたようだ

「あ、それと、エルフが食べる食物と、そうだな料理に使う本なんてあるかな?」
「わかった、食物は保存の関係で少し保存が効くものになるが、本は一冊あればいいだろう」

アヌビスは機嫌よさそうに離れていく

エルフたちとの話はまとまった、我々の特産品は素晴らしい価値を秘めていた
エルフたちは意気揚々と荷物をまとめ、次は10日後に来ると約束をし、去って言った
次回も喜んでくれるといいな

...

昼過ぎになり、俺たちは石鹸と香水を堪能すべく
川へ行き、水浴びを楽しんだ、いつの間にかまめいは水着なんてものを作ってもらっている

「あれ、まめい。いつの間に水着なんて」
「へへー!いいだろう!おやつと交換したんだ!」
「おやつ?そんなの知らないぞ、まだあるのか?」
「ハッハッハ、作って五秒で消えるに決まっている、欲しければ “交易” するんだな!」

高らかに勝ち誇った顔でマウントを取ってきた

「ハァ!?覚えたばかりの言葉使いやがって!!石鹸も香水も渡さねーぞ!」
「それはダメだー!、おやつと交換してくれー!!!」

お互い水をかけあい、談笑しながら帰路についた

それにしてもしたたかな娘だ、ちゃっかり自分の分だけ作ってもらっている
話す相手が増え、日々楽しそうにしているのでいいけれど
数日前まで生贄、脱出したものの原始人、そんな境遇からすると人間らしくなった

住処に帰ると、見慣れない生物がいた
まめいや俺が食べたものの残りものを食べているようだ
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