異世界で魔物と産業革命

どーん

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第4話 - アラクネさん

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俺たちは住処を後にし、川の上流へ向かってアラクネがいるであろう岩山を目指していた。

日は高くなり、正午くらいだろうか、随分歩いた。
ようやく、道半分というところか、この調子だと大変そうだな。

するとまめいが疲れた顔をしながら声を上げた。

「つかれたー!休憩しようよー!」

たしかに、朝エルフと別れてから歩き詰めだ。

「そうしようか...さすがに歩きっぱなしだな」

俺たちは川で水を口にし、木陰に腰を下ろした。
そういえば、アラクネとはどういう魔物だろうか?気性は荒いのかな...そもそも会話する余裕があるんだろうか...
急に不安になってきた...アドバイスを貰ったとはいえ何も考えて無さ過ぎたな

「アヌビス、アラクネには会ったことある?」
「うーん、ボクが食べる獣や魔獣以外はあまり関心を示したことがないなぁ」

食い意地のはった犬だ...
食べ物以外に興味はないのか、そもそも人間の調理が目当てのような犬だしな...
仕方ないか

「捕食対象ではないという事か」
「そうだねー、そもそも上半身が女の魔物なんて見たことがないから
縄張りが違うんだろうし、たぶん、数も多くないんじゃないかな」

うーむ、手がかりがなさすぎる、もっとあのエルフに聞いておけばよかった。
後悔しても仕方ない、いざとなったら逃げるしかないな...

ふとまめいの方に目をやると、まめいの口がうごいている

「まめい?」

まめいは振り向いた、何かを口に入れてもぐもぐと咀嚼している。

「おい、拾い食いはダメだろ...お母さんに言われなかったか?」

まめいは咀嚼しながら話し始めた

「この世界の食物の味とか調べてるのー、料理に何使えばいいかわからないでしょー」

体張りすぎだろ、口にモノいれたまま喋るな
まめいは口に入れたもの俺らの目に触れないところへ吐き出し、戻ってきた

「一応、飲み込まないようにしてる、毒があるかもしれないし、食べれるものなのかどうか、味見だけしてる」
「あ、ありがたいがリスク高すぎだろ...」
「こんな世界じゃ料理くらいしか楽しみがないしー私が役に立つのも料理くらいだしー」
「うーん、今まで毒のある食べ物はあったのか?」
「正直毒かどうかはわからないけど、刺激の強い食べ物はいくつかあった」
「刺激?」
「舌がビリビリするとか」
「それはやだな...、死なない程度に頼むぞ...」

アヌビスが話しかけてきた。

「彼女は毒に犯されたのかい?」
「いや、料理に使える素材を調べるために片っ端から食べてるんだってさ
どうにかならないかな」
「そういう事なら解毒魔術を使えるよ、毒のある獣や魔獣は少なくない
生きていくために必要な術だよ」
「おぉ、それはありがたいな、困った時はぜひ助けてほしい」
「おっけー、必要な時に教えて」

助かる、アヌビスは意外と万能だ。
しかしファンタジーなら回復魔術も欲しいところだ、いつか使えるようになるといいんだけど



そろそろ、旅を再開しよう。十分に休めた。
俺たちは川沿いに上流へ向かい、歩き始めた。

アヌビスと一緒だからか、道中危険な事は一度もなく岩山までたどり着いた
まだ日は高く元の世界で言うと2時か3時というところだというのに、岩山の周りの森は暗い
巨大な木が多く、空は見えないほどに生い茂り、じめじめしている。

クモの巣がちらほら見えるようになり、いよいよ縄張りに入ったというところだろうか

しかしアラクネの姿はまったくもって見当たらなかった。
やはり個体数が少ないのだろうか
このまま何の成果もなしに帰るのは避けたい、野宿の覚悟もしたほうがいいのだろうか

しばらく森を探索していると大きな白い塊が見えた
おそらく、クモの繭だ

アラクネのものなのか、他のクモの魔物のものかわからない
もしかしたらクモが糸でぐるぐる巻きにした捕食済みの獲物かもしれない...

調べようと、おそるおそる近寄ろうとすると、小さな物音が聞こえる...
上だ!

上へ目をやると上半身が女、下半身が蜘蛛の魔物が大きな木に垂直に立ち、こちらを見ている。
既に攻撃態勢に入っており、こちらへ魔術による攻撃を行ってきた

ぼんやりと光る光の玉を2~3個体の周りに浮かべ
1つずつ、高速で飛ばしてきた。

俺はとっさに繭から離れるように飛びのいた
光の玉は木にぶつかり、小さくはじけた
木はくぼみ、くらえばひとたまりもない威力であろうことがわかる

アラクネは繭の前に立ちはだかり、上半身の腕を広げ、また光の玉を作り出した

「私の子供たちに何をするつもりだ」

風を切るような音がした

アヌビスが間に割って入り、牙を向き、毛を逆立て、今までに聞いたこともないような声でうなりはじめた。

唸り声をあげるや否やアヌビスは飛び掛かりアラクネを踏み台にして木へ飛び移る
踏み台にされたアラクネはよろけ、アヌビスを標的に光の玉を飛ばし始めた

目で追うのが難しいほどの素早さでアヌビスは光の玉をかわし、アラクネの背後へ着地した
アヌビスの毛がざわざわと揺れ、大きく口を開けて吠えると
どこからともなく突風が吹き荒れ、アラクネは木へ叩きつけられた

アラクネは「ううっ」という小さな声と共に地面へ崩れ落ちる
すかさず、アヌビスはとびかかり、アラクネの両腕を前足で押さえ、アラクネの顔をその大きな口で挟みこんだ。
アヌビスが顎に力を入れ、アラクネの顔が歪むのがわかる。

「や、やめて!降参!!助けて!!!!」

これはまずい!アラクネが死ぬ!!!!!
俺は声を張り上げ、アヌビスを静止した。

「アヌビス!やめろ!!」

それを聞いたアヌビスは目を一瞬こちらに向け、アラクネの顔から口は離したものの、アラクネを睨みつけ、恐ろしい声で唸り続けている。

アラクネは泣きそうな声で懇願し始めた。

「た、助けて...まだ生まれてもいない子供たちがいるの...」

俺はアラクネの元へ駆け寄り、話しかけた

「二人とも落ち着いてくれ、アラクネ、もう攻撃の意思はないか?」

アラクネは目の前にアラクネ自身を押さえつけているアヌビスにひどくおびえ、小さく何度もうなずいた。

「アヌビス、離してやってくれないか」

アヌビスは数歩後ろへ下がり、俺の横に立ち、唸るのをやめた
アラクネは起き上がりもせず、顔を手で覆い、泣き始めた。

「うぅぅぅ...人の家にいきなり上がり込んで何するのよぅ...」

さすがの俺も罪悪感を感じる
まめいは俺とアヌビスのずっと後ろで目を丸くし、大きな木の陰から半身を晒しながらがたがたと震えつつ、声を上げている

「女の子を泣かすなー!変態どもー!」

本当に申し訳ない...

「ごめん...敵意はなかったんだ。アラクネが織物の達人だと聞いて
織物を分けてくれないかと思って訪れただけなんだけど...
興味本位でつい、不用意に近づいてしまった」

「うぅ...うぅう...えっ...えっ...」

完全に俺が悪者である。
これが人間相手なら完全に強盗だ、正座しながら待とう。



しばらくしてアラクネが落ち着き、話をすることができた。

俺たちのいきさつを話し、エルフとの取引に織物が利用できることを伝えた。
すると、アラクネは思いのほか食い気味に話を聞いてくれた。

「エルフとの取引に私の織物が使えるの?」
「そうらしい、エルフ自身がそう言ってくれたんだ。」
「そういう発想は無かったわ、面白そう。ねぇ、どんなものと交換できるのかしら?」
「それはまだ取引の場が設けられていないからわからない、まずはアラクネ製の布が必要で、それを見てもらってから、交換する場が設けられると思うよ。」

どうやらアラクネは半身が人なだけあって、人間とも会話が可能なようだ
まめいは最初こそ震えあがっていたが、徐々に慣れてきたのか、いつの間にかアラクネを囲んで話に参加している。

「石鹸とかあるかなー?お風呂入りたいよぉ」

そういえばここに来てから風呂に入っていない、そろそろ頭もかゆい

「そうだなぁーお湯はなくても、水でいいから体洗いたいなぁ」

アラクネは少し考え、質問をしてきた

「その取引、私にも利益はあるかしら?魔物と人が会話するなんて考えたこともなかった。その取引自体は貴方にしかできないでしょうし、私が協力するメリットが無いわ」
「うーん、そういわれれば確かに...エルフの持ち物でアラクネが欲しいものがあればいいんだけど」
「それはあるかもしれないけど、今のままでも困ってはいないし、わざわざそうする必要がないもの」
「うーん、そうだなぁ...それなら俺たちと一緒に暮らさないか?」
「え?なぜ?」
「見たところ一人で子供たちを守っているんだろう?、俺たちと一緒に暮らせるならきっとアヌビスが守ってくれると思うんだ。」
「そ、それは...天敵がいないわけではないし、あ、ありがたいけど...」

アラクネはおそるおそる、アヌビスの方へ目をやり、すぐに目を伏せ、震え始めた。
当然の反応だ

アヌビスはゆっくりと横になり、話し始めた

「ボクはこの人間たちが攻撃されないなら構わないよ。
アラクネの子供たちも守るよ。」

アラクネはパッと明るい表情を見せたが、すぐに不思議そうな表情で質問をしてきた

「あなたほど強いなら子供たちも安全だし、正直、すごくうれしいけど、なぜそこまでできるの?私と貴方たちは関わる理由がないのよ」

アヌビスはあくびをしながら眠たそうに話し続ける

「この人間たちの生活が潤うという事は、食事の種類が増えるんだ。
つまりうまいものがたくさん食べれる。エルフの食べ物も気になるなぁ」

食い意地が理由か...まぁ、それでお互い利益が一致しているなら今はこのままでいい
アラクネは少し安心したように笑みがこぼれた

「ふふっ、私も食べていいかしら?」

これは...!話がまとまりそうだ!このまま押し切りたい!

「お、もちろん、みんなで食べよう。来てくれる気になった?」
「そうね、悪くない条件だわ、私は子供たちを育てるのに安全な巣作りができる
犬さんはご飯がいっぱい食べれる
人間の貴方たちは生活が潤うのよね?みんな利益があるなら断る理由はないわ」

「決まりだ!アラクネも今日から家族だな。」
「ありがとう、正直生きた心地がしなかったけど...」
「それは..悪かった...」
「ふふふ、でもいいわ、今よりもいい環境が手に入るんだもの」
「これからよろしく。」
「ええ、よろしく」
「そうと決まれば移動しよう!」

俺たちは新しい生活のため意気揚々と住処への帰路へ着いた
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