異世界で魔物と産業革命

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第23話 - 人間との戦争

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冬が終わりを告げ始めた

リリアナ達は魔道塔という建物を作り、そこに住んでもらうことになった
リリアナ達が技術提供してくれた術式魔術というものは便利なもので
紙や物に書いた術式を魔力を込めることで発動させる起動式の魔術だった
その他時間を決めて発動できるものなどがあり、自動化が捗る

会話に関してはさすがに魔物たちと会話は難しかったが亜人を通してうまくやっており、ある程度馴染んでくれている、種族などへの差別意識が少ない人達で街の住民たちからも評判はよく、うまくやっていけそうだ

冬の間、リリアナからシルヴァン帝国の情報を聞くことができた

シルヴァン帝国
 王制国家 現国王はセオドルフ
 領土拡張意欲が高い
 亜人は奴隷として扱い、人と同じように扱わない
 魔物は調教が可能なら役畜と同じように扱うが不可能なら処分する
 農作が難しい土地柄で主食は魚と肉だが、食料事情は芳しくない
 交易で主に食料を調達しているが交易として利用できる資源が少ないため資源のある領土を強く求めている

領土的には一番広いらしいが冬が長く、地盤は岩が多く含まれ農作は絶望的なのだとか
それでいて交易資源が乏しく、交渉が不利になりやすいため侵略を行う事が多いそうだ

人間の住む大陸には5つの国があり、現状最も好戦的な国らしい

シルヴァン帝国に派遣されている魔導士の報告では
この大陸を侵略して作物を得る領土を獲得することが大きな支持を集めていて
春になれば大規模な侵略を始める事が決定している

侵略する部隊は1,000人ほどの規模
国全体の総戦力は10,000人程度という情報だ

隣接している国はセドリオン貴族国家
平野での騎馬戦が強い国家らしく、こちらは総戦力8,000人ほど
隣国を警戒しながらこちらへ派兵というところか

これを撃退すれば交渉のテーブルへ引きずりだせるかもしれない
ただし、こちらの戦力は街の戦闘員で600、魔導士たちが70
数的不利なので俺も出撃することになった

また、街は城塞へと作り変えるべく計画が進んでいる
壁を高くし、ダンジョンの障壁が破られた場合を考慮する

また、家も城へと作り変える
今のままでは攻め込まれた瞬間勝負が決まってしまう可能性があるからだ

それに、ティルは身重、まめい、ミミなど非戦闘員が逃げる時間を稼げないのも問題だ
街の外へ避難する秘密の脱出経路も必要になるだろう

これは術式魔術の “転移” を利用する、一方通行にすることで敵に利用されることもない
地下シェルターも同様だ、人間が魔物たちの街を見てどう思うだろうか?
住民として税でも徴収するのか?言葉が通じないんだ、間違いなく殲滅されるだろう

街が崩壊したらそれぞれ各地に散らばり、生き延びてほしい

しかし、改修は時間がかかる、どう頑張っても完成は来年になるだろう
そのため、今回の派兵は森の東にある平原で行うことになった



春が来た、シルヴァン帝国は聞いていた通り進軍を開始している
敵の兵隊はおおよそ聞いていた通り1,000人程度、ちょっと多いかもしれない

おそらく非戦闘員も含まれるからだろう
兵站管理要員と思われる

このままではあと10日ほどで戦闘予定の平原へ到着するという報告を得た

家で地図を広げていると、ティルが不安げに話しかけてくる

「玄人、無事に帰ってきて」

俺は少し困った顔をしながら返事をした

「戦争なんて初めてだからな、不安はあるけど、必ず帰ってくるよ」

まめいもやってきた

「なー、玄人は人間なんだから、話しはできないのかー?」
「相手が欲しがっているのは土地だ、話しただけで解決しないだろうね
それこそ相手の国の人間が十分に食べれる量を
俺たちの食料がなくなっても与え続けるくらいの事しないと今のままではダメだ」
「そっかぁ、悪いやつなのかぁ」

まめいはしょんぼりする

「まぁ、これを撃退できれば相手も交渉する気になるさ」

まめいは顔をあげ、不安そうに話す

「うまくいくといいなぁ」
「そうだな」

みんな不安だろうな、俺もそうだし、これほどの規模の戦争はみんな初めてだろう」


10日が過ぎ、予定通り東の平原で魔物軍とシルヴァン帝国軍が相対した

俺は白旗を持たせた鬼人族の使者を3人ほど送った
書簡を持たせ、ここは魔物たちの領土であることと、このまま帰れば戦闘はしないことを伝えるためだ

使者がシルヴァン帝国軍へ到着したという報告を受けてから10分ほど経っただろうか
3人分の継承の光を受け取った、俺は自分の甘さに腹が立った

その後、信じられない報告が入ってきた
敵は軍の最前線で縛り上げた使者を一人ずつ殺したという

俺はどす黒い怒りに包まれた
俺たちは紳士的に接し、礼節を示した
にもかかわらず、相手は俺たちを最初から畜生としか見ていないのだ

自軍の兵士たちも同様に怒りに満ちた表情で俺の号令を待っている

「一人残らず殲滅せよ!」

俺は立ち上がり、開戦の合図を口にした

兵士たちは怒号を上げ、魔物軍は前進を始める
こちらは魔物軍だ、一人あたりの戦闘力は人間より上、数は違うが戦えるだろう

...

開戦から1時間ほど経ったろうか、前線は大混戦となり
もはや敵と味方を判別するのも難しい

次々と継承の光を受け取るたびにどす黒い怒りが込み上げてくる
仲間を巻き込むような大きな魔術は使えないため俺はぐっとこらえながら戦況を見守っていた

戦況は魔物軍が優勢だ
敵の数は残り500ほど、半数は減った
魔物軍は400ほど残っている

このまま行けば相手も撤退するだろう
決して損害は少なくないが、魔物軍の力を見せつけなければ交渉が難しくなる

このまま敵の心が折れるのを待とう

すると、戦況が変わった
継承の光を受け取る間隔が早くなっている

何事かと思い、俺は前線の様子を報告させた

すると、敵軍が英雄と思われる人物を中心に戦略を組み替えたようで
敵の被害が少なくなり、魔物軍の被害が一方的に増えているとのこと

俺は撤退の号令を出した
味方の撤退を助けるべく、アヌビスと共に風の魔術で支援する

これ以上犠牲を増やせば次の侵攻で街が守れなくなる
俺とアヌビスの広範囲魔術で流れを変えたい

少なくとも敵の英雄を排除しなければ

魔物軍が魔術の範囲から十分に離れたことを確認すると
アヌビスは目が赤く光り、全身の毛を逆立て天高く遠吠えをする

大きな竜巻を呼び起こした

竜巻はシルヴァン帝国軍の横から次々と兵士たちを巻き上げる
だが大きな被害を与えることができなかった

竜巻は発生してすぐに消えてしまったのだ

「玄人、敵にも魔術師がいるぞ」

--- 戦況 ---
シルヴァン帝国軍 350
魔物軍 350

その可能性はあった、まさかアヌビスの魔術をこんなにも早く打ち破るとは

もしかすると魔術師も英雄クラスか?
今度は俺が攻撃をしかけてやる

俺は両腕を天高くかかげ、はるか上空に高密度の炎の塊を作り出した
それは5年前、村を守るために作り出した時の炎にくらべ5倍は大きく、はるか上空にあるにも関わらず焼けるような熱を感じた

シルヴァン帝国軍が焦り、混乱しているのが見える

俺は両腕を敵の軍へ向けた
するとゆっくりと炎の塊が進み始める

シルヴァン帝国軍が走り始め、散り散りになり、兵士たちはもう統率が難しそうだ
俺の魔力の大部分を注いだ、これで終わってほしい
敵軍の中心に炎の塊がたどり着く寸前、大きな障壁が現れ炎の塊を受け止めた
炎の塊はそれ以上前進できず、少しずつ小さくなっていく

このままでは敵軍に被害が与えられない
俺は水を炎の中へ転移させ、水蒸気爆発へと変えた

すさまじい轟音と共に炎の玉は爆発し
あたりは身を焦がすような熱風に包まれる
草原の草は一帯が燃え上がり、逃げ遅れた敵軍の兵士達はもがきながら倒れていく

だが、敵の英雄と思われる人物が3人、小さな障壁を展開して生き残っていた

--- 戦況 ---
シルヴァン帝国軍 200
魔物軍 350

敵の兵士数はかなり減った、もう魔物軍の方が優勢だ
だが俺の魔力はもうほとんど残っていない

虚脱感が強く、同じ魔術はもう使えないだろう
すると、巨大な術式が敵の英雄の足元に現れた

地面が割れ、地中から巨大な水柱がいくつも現れる
水は英雄たちの頭上に集まり、竜のような形を成した

竜は勢いよく魔物軍の方へ向かっていく
俺は残った魔力を全て障壁に変え、水の竜を食い止めた

3つに分けて張った巨大な障壁をふたつ、貫いて水の竜は消えていった

俺の魔力はもう残っていない、めまいや動悸がとまらない
立っているのもやっとだ

だんだんと目の前が暗くなる



俺は家の自室で目を覚ました

「ここは...戦場はどうなった!!!」

俺は飛び起きた
するとアヌビスが側の床に寝転んでいた
俺が起きたことに気づくと、頭をおこし、話し始めた

「玄人、戦争はボクたちが勝った、ゆっくり休みなよ」

俺は体の力が一気に抜けてベッドへ倒れこんだ

アヌビスにあの後の事を聞くと、俺は戦闘中に気を失って倒れたらしい
それと同時に敵軍は撤退を開始
英雄たちもそれに合わせて帰ったそうだ
おそらく俺たちの魔術に対抗したであろう英雄の魔導士も力尽き運ばれていったとか

ひとまず、魔物軍の力を示すことができた
だが交渉は絶望的だ

使者を惨殺するような連中だ、今後シルヴァン帝国に対して外交的な手段を用いるのは部下を失う覚悟が必要だろう

オークターヴィル魔道国家を通じてシルヴァン帝国の動向に気を配り
今後どうすべきか考えていこう
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