異世界で魔物と産業革命

どーん

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第39話 - 果たし状

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収穫祭が今年も近づいてきた

シルヴァンから魔王軍は撤退し、セドリオンが占領したことにより奴隷制はなくなった
元シルヴァン帝国にいた奴隷の獣人たちは新しい仕事を見つけたり、エミリエル女王の計らいで魔王城への移住などが支援され、魔王城の街にはまた人が増えた

ファンタジーの貴族は身分による軋轢が多く描写され悪者として描かれがちだが、エミリエル女王は魔王からすれば賢王に見える

体よく奴隷の魔王領への移住支援という体裁で獣人たちを減らし、シルヴァンの痩せた土地で問題になりがちな食料問題を軽減しつつ、移住を支援していた
先の対談でも俺の意見は支持していたし、もしかすると戦争をしたくない人なのかもしれないな

同じ志だといいんだけど

今年の収穫祭にはエミリエル女王も招待してみよう、断るかな?まぁ断るだろうけど



収穫祭、有力者親睦会場

いつも通り一通り有力者たちと挨拶を終えると見慣れない人影がある

「玄人殿、お久しぶりですね」

どこかで聞いたような声に振り向くとエミリエルがいた
数人の護衛を付けているがここでは飾りに過ぎない、護衛達は冷や汗が止まらないようだ

「おお、来ないと思ってた」
「せっかくのお誘いですし、ここでしかできないお話がありそうですので」

そういうとエミリエルはテーブルに着いた
会合の時は女王っぽかったが、今日は印象が違う、お忍びという事だろうか

「招待しておいてなんだけど、大丈夫なのか?魔王と仲良くして」
「お気遣い痛み入ります、先の会合で既にルクフォントデューには目をつけられておりましたので、今更気にすることではないかと思い、参上いたしました」
「そ、それは申し訳ないな」
「私自身で決めた事ですので、それに我らは魔物と呼んでおりませんが古い友人が来ると聞いて参りました」

エミリエル女王以外に人間を招待した覚えはないが...?
フリートが俺の横に座った

「玄人、元気にしておるか」
「フリート、急にどうしたんだ」

エミリエルがフリートに挨拶をする

「竜皇さま、エミリエルでございます」
「おう、大きくなったな!女王は慣れたか?」
「お恥ずかしながら玉座に座るだけ、というのは未だに慣れません」

フリートは感慨深そうに頷いている
俺は驚きながらフリートに質問した

「知り合いだったのか」
「うむ、しばらく前からだがな」

エミリエルが返答した

「竜の寿命に比べればしばらく、ですが王国が始まってから続いていると聞いております」

という事はもう数百年は経ってそうだな

「会合の最後に玄人殿に指摘されたお話は心に響きました」

フリートが俺に質問する

「ほう、玄人が説法を。何を言うたんじゃ?」
「魔王が説法なんてするわけないだろ。人も魔物も変わらんとは言ったけど」
「なるほどな、根本の話しか」

エミリエルが話し出す

「そう、意識の底に在るものは人も魔物も変わりません、人が弱いだけ。
増えすぎた人が強くなってしまい、その他種族の権利を認めていないのが問題です」
「なるほどな、確かに。まだ早いというのは人の意識の話しか」
「人が他を人と同列として見ない、まさに玄人殿の仰る傲慢が戦争の原因と考えております」

フリートが口を挟む

「戦争など人しかせぬからな、同族と争う事は魔物もあるが人ほど派手にはやらん」
「そうですね、数が増え、強くなってしまった人はその傲慢にもう気づかなくなってしまいました」

女王は俺と近い気がする、この人と協力すれば戦争は減らせるかもしれないと思ったのは間違いなさそうだ

「女王は戦争反対派なのか?」
「どちらでもありません、私は器であり、ただの象徴です、より強い権力者の言葉を代弁するだけの飾りでございます」
「なるほど、女王としてはということか、個人としてはどうなんだ?」
「竜と幼い頃から触れ合う事で魔物と人の距離に疑問はもちました、今語れるのはそれくらいです」

エミリエルは悟られないよう、護衛達に目を向け、伏せた
なるほど、護衛の前であまり俺たちに肩入れできないか

あまり深い話しをしすぎるのは良くないな、俺はフリートに任せて席を立った

力をつければ交易でなんとかなると思っていたのは浅はかだったな
人と魔物たちの距離は思っていたより遠そうだ
それでもエミリエル女王のような人もいる事がわかったのが今回の収穫かな



収穫祭が終わり、冬になった

庭で子供たちが遊んでいる姿を眺めているとリリアナが来た

「玄人さま、面白いものが届きましたよ」
「ん?俺に?なんだろう」

勇者、ユートからの手紙だった

===== 果たし状 =====

地竜亡き山の麓で待つ

       ユート

==================

あいつ思ってたより頭弱そうだな、魔王がこんなんで出ていくか
だいたい日時書いてないじゃん

これもしかするとずっと待ってるのか?
そう思うと可哀想になってきた...
どこから送ってきたんだろう、手紙が届くまでの日数とかあるだろう

しょうがない...今日だけ、一度だけ顔出してみるか



ワイバーンに乗って以前勇者と戦った場所へ来た
平野を軽く見渡して見る

牛の魔獣や鹿の魔獣などがぽつぽつと見える
しばらく観察していると、人影っぽいのが目に入る

「まさかねぇ」

人影は手を振り始めた

「ホントにいた」

俺はワイバーンを勇者の近くへ寄せ、降りると勇者と相対する。一人で来ているようだ
そういえば勇者も異世界人、元の世界風の冗談でも言ってからかうか

「ごっめ~ん、待った?」
「いや~俺もついたばかりだよ~」

ノリノリだな~

「え~どれくらい待った~?」
「三日」

急に真顔になる勇者、俺も真顔になった
ほんとに可哀想だったな、俺は頭を掻きながら話す

「あんな果たし状とか初めて受け取ったぞ、王があんなんで普通出てこないからな」
「目の前にいるだろ」

これが特大ブーメランというやつか
俺は咳払いをして質問した

「そういえばお前も転生者なんだってな」
「お前も?ってことはあんたもか」
「そうだな、同じ世界の人間同士だろ、仲良くしないか?」
「それは、できないな」

なんだよ、つれないな
ため息をつきながら質問した

「あっそ。で、何の用だよ」

ユートは剣を構えた

「会合で魔物たちにも家族がいるって言ってただろ、だから、ここで決着をつける」

俺は呆れかえった

「お前こないだ4人で勝てなかっただろ?学んでないのか」
「俺は一人の方が戦えるんだよ!黙って構えろ」

俺はあからさまにいやそうな顔をする

「モブキャラのセリフじゃねーか」
「黙れ!こちらから行くぞ!」

ユートは剣に手を当て、雷魔術を付与すると大振り気味に剣を振る、すると巨大な雷の刃となって襲い掛かってくる

俺は障壁で雷を防ぎ、転移魔術で距離をとった

(本気か?なんでこんな不利な戦いをやるんだ)

続けてユートは剣を空に向け、呪文を唱えると足元に術式が展開される
剣を俺に向けると、無数の光の剣が上空から降り注いでくる

ドドドド ドドドドドッ

慌てて避けるも、数が多い、障壁を駆使しながら何とか捌いていると、隙をついてユートが走りこんでくる
ユートは振りかぶり、剣を振り下ろす。俺は杖で剣を受け止めた

「本当に一人の方が強いんだな」
「勇者なんでね」

そういうとユートは盾を構え、体当たりで俺を吹き飛ばした
俺が着地する前に剣を空へ掲げ、大きな動作で振り下ろすと今度は巨大な光の剣となって降りかかる

さすがに空中では避けられない
俺は転魔術でユートの後方へ転移する、さらに杖を向け、熱線を放つとユートの肩に直撃した
ユートは少しよろけると、盾を構えた、並みの魔物なら穴が開く魔術だがさすがに勇者というところだろうか、無傷だ

少し楽しくなってきた俺はユートに話しかけた

「ハハ、勇者よ、我が元へ来い。そうすれば世界の半分をやろう」

ユートはニヤリとしながら返答する

「俺はそのゲームで “いいえ” を選択したんだ」

俺は杖を空に掲げ、無数の火の玉を作り出した後、杖を勇者へ向ける
すると、火の玉は一斉に勇者へ向かっていく

シュゥゥゥゥゥゥ ドドド ドド ドドドドド

ユートは盾を構えながら突進してくる
俺は杖を手放し、宙へ浮かせる
左手に氷の魔力、右手に火の魔力、杖に雷の魔力を込めた
左手をかざし、大きな氷の槍を投げつける

勇者は横へ飛んで避ける、そこへ大きな火の玉を投げ込むも勇者は盾で受け止めた
これで体制を崩し、盾を使わせた、俺はトドメに杖に込めた雷魔術を使い上空から大きな雷を勇者に浴びせる

直撃した勇者は小さな叫び声を上げてゴロゴロと地面を転がった
しばらく観察してみたが勇者は大の字のまま動かない

(熱線に耐えるようなやつがこれで死んだのか?うさんくさいな)

俺は勇者の近くへ歩み寄ると、勇者は無表情で空を眺めていた

「もう終わりでいいのか?」
「一度に三つの魔術を無詠唱で使うのは反則だろ」
「魔王なんでな」
「クソッ」

ユートは寝転んだまま話し始めた

「なぁ、元の世界へ戻る方法って知ってるか?」

そういえば、普通そうなるよな、なんで気にならなかったんだろう

「いや、わからん」
「俺は召喚されたときに魔王を倒せば帰れるって聞いたんだ」
「それは初耳だな」
「...そうか」

ここに来てからそんな話一度も出たことない、そもそもあるのか...
しばらく沈黙が続いたが、ユートが話し始める

「セドリオン貴族国家がなくなったのは聞いたか?」
「は?知らん、なんでだ」

ユートは上体を起こすと、あぐらをかいて話し出した

「魔王城に行ったらしいって噂があって、教皇が異教徒として宣言したんだ。女王がいない間に城では謀反が起きて、女王は帰ると同時に捕まって火刑にされたって話しだ。今はルクフォントデューがセドリオンだった国を支配下に置いてるよ」

目の前が真っ暗になる

「うそだろ...俺のせいだ...」
「ん?お前何したんだ?」

俺は自分の軽率な行動を悔いた
俺が、もっと気遣えばよかった...彼女の立場をもっと意識すればこんなことには
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