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21話

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今日は魔物に占領された領土の解放に向かう事になった

学園の従魔厩舎で馬車に旅の荷物を積み込んでいるとベルゼが物珍しそうに観察してくる。慌ただしく右往左往するルーシー派をしばらく眺めた後ベルゼはルーシーが一人になった頃を見計らって話しかけてきた

「ジーク、何してるんですか?」
「ここではルーシーだ。バレると学園追い出されるんだからお前も気をつけろ」
「はぁ、なんでそんなことしてるんです?」
「何も知らずに来たのかよ…俺は父王が繰り広げた伝説に残る大戦を再現したいの。俺も伝説に名を連ねたいの。だから勇者鍛えてるんだよ」

ベルゼは困っているとも不思議そうな表情ともとれないような複雑な表情をしながら質問を続ける

「大戦なんてジー…オホン、ルーシーならそんなことしなくてもくしゃみするだけで人間なんて全滅させられるでしょう」
「それじゃ困るんだよ!俺は父王が繰り広げたような激しく熱い戦闘を繰り広げたいの!そのためにはライバルがいるんだよ!魔界のやつらじゃなくて。勇者が必要なの!」

ベルゼは腕を組んで考える

「ふーむ、よくわからない努力をされてますなぁ」
「ベルゼ、お前もここに来たならラミア派を鍛えろ。魔物を殺して素材を神殿に捧げさせると勇者たちは強くなる。お前もラミア派が素材を手に入れられるよう手伝え」
「えぇぇ…完全にタダ働きじゃないですか。私早く魔王城に戻って王の間でふんぞり返ってたいです」

ルーシーはベルゼを睨みつける

「それ俺の椅子なんだが?魔王城と共にお前の手下も塵にしてやろうか」

ベルゼは腰を低くすると手をこすりながら冷や汗交じりにへりくだって話す

「へへ…冗談に決まってるじゃないですかやだなぁ…でもタダ働きというのはちょっと…」

ゴゴゴゴゴゴゴ

ルーシーの怒りのまなざしがベルゼに突き刺さる
ルーシーの目が赤く輝き濃密な魔力がルーシー周辺の空間を歪めるほどに圧縮されていく
ベルゼは背筋を伸ばし、両腕を体の脇にぴったりと貼り付け元気よく返事をする

「はい!私ベルゼ誠心誠意ルーシー様に尽くさせていただきます!」



ベルゼは振り向くと逃げるように去って行った

その場を後にしたベルゼは心の中で考える

(くそー!あいつのせいで魔王城に帰れないのになんで手伝わなきゃいけないのか!甚だ不愉快です!)
※自分のせいです
(こうなったら勇者たちを鍛えて私の権能 “傲慢” が魔王の力を上回るまでやってやろうじゃありませんか!)



ルーシー派が馬車に食料を積み終えた頃、ルーシーはカーラに質問した

「今回の敵の領土に住んでる魔物の情報とかある?」
「うん、今回は私たちが生まれる前から魔物の領土になってたとこでね、記録によるとラミアが大量に現れて当時参加していた英雄クラスの勇者が全滅、そのあとも引退するまで取り返せなかったんだって。まぁ今もある魔物の領土はそういうのばっかりだけど」
「前回ダンジョンでお前たちが締め上げられてたやつか。もうそろそろ倒せるようになっているといいな?」
「う…きっと大丈夫だよ!」

アンテがのぼせた顔をしながら話しに交じってくる

「うふふぅ、ラミアの締まった体に美しい鱗。締め上げられたときの力強さは忘れられませんねぇ。わたくし、強引にこの人のモノにされちゃうぅって思っちゃいましたぁ」
「ちょっと黙っててくれる?」

学園を出て地図を確認してみるとおよそ1週間ほどの移動になりそうだった
街道で繋がっており、途中に村や街もなく。特に問題は起きないだろう



ラミア領

ラミアが支配したエリアにたどり着いた
ルーシーは敵の数を調べるべく、一人でうろついていたラミアを捕え情報を引き出そうと縛り上げた

ルーシーは身動き取れないように縛り上げたラミアに話しかける

「おい、お前たちが支配した領土にどれくらいの魔物がいるんだ?」
「シャー、こんなことしてここから生きて帰れると思うなよ!」
「はいはい、小物のお約束のセリフはいいから、答えろ」

ルーシーはラミアの鱗を一枚ずつ剥がしていく

「いたたた!地味に痛いからやめて!」
「さっさと答えろ!」(ブチィッ!)
「いだぁ!うぅぅ…今はエキドナ様が勢力の中心となってラミアを育てていて、ラミアクイーンが4体ほど、それぞれにラミアガーディアンが50ほど、ラミアクイーンがエキドナ様の神殿を守るように周囲に集落を築いて護衛してますぅ…」

カーラが驚いて質問する

「え!?魔物も街を作るの?記録にはラミアしかいなかったみたいに書かれてるけど…」
「ふん!あたい達だって指導者が居れば従うし勢力を拡大するために文化を形成するんだよ!勇者ごときがエキドナ様に敵うわけないだろ!はやく拘束を解け!」
「うーん…思ってたより深刻な状況だなぁ…ルーちんどうする?」

ルーシーが返答する

「一匹残らず殺して素材にする」
「あ、はい」

ルーシーは現状を整理するように考え込む

エキドナか…上半身は美女、下半身は蛇、翼をもつ。ケルベロスやヒュドラなども従える上位の悪魔だ。正直魔王の目を閉じるより大変な作業になるだろう
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