鑑定能力で恩を返す

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第一章

令嬢来襲

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「……えっと、つまりこの店に貴族の御息女がやって来ると言う事ですか?」

「そう。この店にの御息女がやって来るという事じゃ」

 ロンメル商店はいつもと変わらない日々を過ごしていた。
 馴染みのハンターも増えて、それなりに充実した日々を送っていたサトにロンメルが朝になって急に突拍子もないことを言い出した。

「上級貴族の御息女が何でウチに? こう言ってはなんですが、うちの店にはそぐわないんじゃ……中央通りの大店の店ならともかく、ウチは裏通りの小さな店の一つですよ?」

「そのあたりは儂も疑問なんじゃが、商業組合からの連絡じゃからな。間違いはないじゃろ。それに心当たりがないでもないぞぃ」

 ロンメルはそう言いながらサトをじっと見つめた。
 
「この間の《ハメルンの魔笛》。あれはジュリアン達がダンジョン内で発見し、教会に持ち込んだのは周知の事実じゃ。じゃが、持ち込む前に何処かで鑑定を受けたのではないかと噂になっておる」

「えっ! な、何でですか? だって、あれは持ち込む時にジュリアンさん達に……」

「あいつらは何も言っておらんよ。じゃが、普通のハンターならいきなり教会に持ち込む事などせん。何処かで鑑定を受けて、危険だと判断されてから教会に持ち込むのが普通なんじゃ。それに持ち込んだ際のジュリアンの説明もかなり専門的な内容だったからのぅ。疑惑が生まれても致し方ないわぃ」

「うっ……で、ですが、それと今回の件と何が関係あるんですか?」

「ジュリアン達の馴染みの店など調べればすぐに分かる。ましてや上級貴族家なら容易かろう。鑑定士の実力を確かめに来るのかもしれん。気をつけて対応せねば、万が一にもお前さんの《鑑定能力かんていスキル》がバレたら厄介じゃぞ?」

 希少な能力スキルである鑑定を持つ者が見つかれば、すぐに王家に連絡が行き、召還される可能性がある。
 そうなれば一生王家に仕えることになり、王の敵対勢力からは暗殺の対象にもなる。
 サトもロンメルもそれを危惧して能力の事を黙っていたのだ。
 運が良いのか悪いのか《マーセルの魔導書》から得た知識のお陰で今までハンター達を相手に上手くやってこれたが、相手が上級貴族となると話は違う。
 正確に鑑定すれば、《鑑定能力かんていスキルがバレなくても、貴族家のお抱え鑑定士として召集されるかもしれない。
 かといって、見当外れな鑑定すれば不良店のレッテルを貼られるかもしれない。
 サトにとってどちらにしても困った事になる。
 サトの望みはロンメルに恩を返す事なのだから。

「それで……何をしに来られるんですか? その御息女は」

「鑑定依頼じゃよ。じゃが、一つだけ妙な事があるんじゃ。この公都ハメルンを治めるのはベンテンベルク公爵じゃが、御息女はすでに他家に嫁いでいて此処にはおらんはず。この公都におる他の上級貴族となるとアルヴォード伯爵家かライオット子爵家のしかないんじゃよ」

「じゃあ、そのどちらかの御息女って事ですか?」

「いや、アルヴォード伯爵家にもライオット子爵家にも御息女はおらんのじゃ」

「えっ? じゃ、じゃあ誰が……」

 その時、裏通りが俄かに騒がしくなり、声が店内にまで聞こえてきた。
 
「考えておる時間はなさそうじゃな。まぁ、直接対峙するしかあるまい。お前さんも、くれぐれも粗相のないようにな」
 
「そ、そんな事言われても……」

 2人は店の前に出て出迎えの準備をした。
 しばらくして裏通りには不釣り合いな一台の豪華なケンタウロス車が店の前に停まった。
 御者が扉を開けると先ずは妙齢のスタイル抜群の猫獣人のメイドが降りてきて、続いて1人の美しい女性が降りてきた。
 貴族の女性には珍しく、ドレスではなくジュストコールにタイトなズボンを履いた引き締まった体型の端正な顔の美人。
 しかし、その表情は険しく、美しさと相まって周囲に冷徹な印象を与えていた。

「ここが《ロンメル商店》か。思っていたより小さい店だな。本当にここが評判の店なのか?」

 
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