29 / 155
第一章
令嬢来襲
しおりを挟む
「……えっと、つまりこの店に貴族の御息女がやって来ると言う事ですか?」
「そう。この店に上級貴族の御息女がやって来るという事じゃ」
ロンメル商店はいつもと変わらない日々を過ごしていた。
馴染みのハンターも増えて、それなりに充実した日々を送っていたサトにロンメルが朝になって急に突拍子もないことを言い出した。
「上級貴族の御息女が何でウチに? こう言ってはなんですが、うちの店にはそぐわないんじゃ……中央通りの大店の店ならともかく、ウチは裏通りの小さな店の一つですよ?」
「そのあたりは儂も疑問なんじゃが、商業組合からの連絡じゃからな。間違いはないじゃろ。それに心当たりがないでもないぞぃ」
ロンメルはそう言いながらサトをじっと見つめた。
「この間の《ハメルンの魔笛》。あれはジュリアン達がダンジョン内で発見し、教会に持ち込んだのは周知の事実じゃ。じゃが、持ち込む前に何処かで鑑定を受けたのではないかと噂になっておる」
「えっ! な、何でですか? だって、あれは持ち込む時にジュリアンさん達に……」
「あいつらは何も言っておらんよ。じゃが、普通のハンターならいきなり教会に持ち込む事などせん。何処かで鑑定を受けて、危険だと判断されてから教会に持ち込むのが普通なんじゃ。それに持ち込んだ際のジュリアンの説明もかなり専門的な内容だったからのぅ。疑惑が生まれても致し方ないわぃ」
「うっ……で、ですが、それと今回の件と何が関係あるんですか?」
「ジュリアン達の馴染みの店など調べればすぐに分かる。ましてや上級貴族家なら容易かろう。鑑定士の実力を確かめに来るのかもしれん。気をつけて対応せねば、万が一にもお前さんの《鑑定能力》がバレたら厄介じゃぞ?」
希少な能力である鑑定を持つ者が見つかれば、すぐに王家に連絡が行き、召還される可能性がある。
そうなれば一生王家に仕えることになり、王の敵対勢力からは暗殺の対象にもなる。
サトもロンメルもそれを危惧して能力の事を黙っていたのだ。
運が良いのか悪いのか《マーセルの魔導書》から得た知識のお陰で今までハンター達を相手に上手くやってこれたが、相手が上級貴族となると話は違う。
正確に鑑定すれば、《鑑定能力がバレなくても、貴族家のお抱え鑑定士として召集されるかもしれない。
かといって、見当外れな鑑定すれば不良店のレッテルを貼られるかもしれない。
サトにとってどちらにしても困った事になる。
サトの望みはロンメルに恩を返す事なのだから。
「それで……何をしに来られるんですか? その御息女は」
「鑑定依頼じゃよ。じゃが、一つだけ妙な事があるんじゃ。この公都ハメルンを治めるのはベンテンベルク公爵じゃが、御息女はすでに他家に嫁いでいて此処にはおらんはず。この公都におる他の上級貴族となるとアルヴォード伯爵家かライオット子爵家のしかないんじゃよ」
「じゃあ、そのどちらかの御息女って事ですか?」
「いや、アルヴォード伯爵家にもライオット子爵家にも御息女はおらんのじゃ」
「えっ? じゃ、じゃあ誰が……」
その時、裏通りが俄かに騒がしくなり、声が店内にまで聞こえてきた。
「考えておる時間はなさそうじゃな。まぁ、直接対峙するしかあるまい。お前さんも、くれぐれも粗相のないようにな」
「そ、そんな事言われても……」
2人は店の前に出て出迎えの準備をした。
しばらくして裏通りには不釣り合いな一台の豪華なケンタウロス車が店の前に停まった。
御者が扉を開けると先ずは妙齢のスタイル抜群の猫獣人のメイドが降りてきて、続いて1人の美しい女性が降りてきた。
貴族の女性には珍しく、ドレスではなくジュストコールにタイトなズボンを履いた引き締まった体型の端正な顔の美人。
しかし、その表情は険しく、美しさと相まって周囲に冷徹な印象を与えていた。
「ここが《ロンメル商店》か。思っていたより小さい店だな。本当にここが評判の店なのか?」
「そう。この店に上級貴族の御息女がやって来るという事じゃ」
ロンメル商店はいつもと変わらない日々を過ごしていた。
馴染みのハンターも増えて、それなりに充実した日々を送っていたサトにロンメルが朝になって急に突拍子もないことを言い出した。
「上級貴族の御息女が何でウチに? こう言ってはなんですが、うちの店にはそぐわないんじゃ……中央通りの大店の店ならともかく、ウチは裏通りの小さな店の一つですよ?」
「そのあたりは儂も疑問なんじゃが、商業組合からの連絡じゃからな。間違いはないじゃろ。それに心当たりがないでもないぞぃ」
ロンメルはそう言いながらサトをじっと見つめた。
「この間の《ハメルンの魔笛》。あれはジュリアン達がダンジョン内で発見し、教会に持ち込んだのは周知の事実じゃ。じゃが、持ち込む前に何処かで鑑定を受けたのではないかと噂になっておる」
「えっ! な、何でですか? だって、あれは持ち込む時にジュリアンさん達に……」
「あいつらは何も言っておらんよ。じゃが、普通のハンターならいきなり教会に持ち込む事などせん。何処かで鑑定を受けて、危険だと判断されてから教会に持ち込むのが普通なんじゃ。それに持ち込んだ際のジュリアンの説明もかなり専門的な内容だったからのぅ。疑惑が生まれても致し方ないわぃ」
「うっ……で、ですが、それと今回の件と何が関係あるんですか?」
「ジュリアン達の馴染みの店など調べればすぐに分かる。ましてや上級貴族家なら容易かろう。鑑定士の実力を確かめに来るのかもしれん。気をつけて対応せねば、万が一にもお前さんの《鑑定能力》がバレたら厄介じゃぞ?」
希少な能力である鑑定を持つ者が見つかれば、すぐに王家に連絡が行き、召還される可能性がある。
そうなれば一生王家に仕えることになり、王の敵対勢力からは暗殺の対象にもなる。
サトもロンメルもそれを危惧して能力の事を黙っていたのだ。
運が良いのか悪いのか《マーセルの魔導書》から得た知識のお陰で今までハンター達を相手に上手くやってこれたが、相手が上級貴族となると話は違う。
正確に鑑定すれば、《鑑定能力がバレなくても、貴族家のお抱え鑑定士として召集されるかもしれない。
かといって、見当外れな鑑定すれば不良店のレッテルを貼られるかもしれない。
サトにとってどちらにしても困った事になる。
サトの望みはロンメルに恩を返す事なのだから。
「それで……何をしに来られるんですか? その御息女は」
「鑑定依頼じゃよ。じゃが、一つだけ妙な事があるんじゃ。この公都ハメルンを治めるのはベンテンベルク公爵じゃが、御息女はすでに他家に嫁いでいて此処にはおらんはず。この公都におる他の上級貴族となるとアルヴォード伯爵家かライオット子爵家のしかないんじゃよ」
「じゃあ、そのどちらかの御息女って事ですか?」
「いや、アルヴォード伯爵家にもライオット子爵家にも御息女はおらんのじゃ」
「えっ? じゃ、じゃあ誰が……」
その時、裏通りが俄かに騒がしくなり、声が店内にまで聞こえてきた。
「考えておる時間はなさそうじゃな。まぁ、直接対峙するしかあるまい。お前さんも、くれぐれも粗相のないようにな」
「そ、そんな事言われても……」
2人は店の前に出て出迎えの準備をした。
しばらくして裏通りには不釣り合いな一台の豪華なケンタウロス車が店の前に停まった。
御者が扉を開けると先ずは妙齢のスタイル抜群の猫獣人のメイドが降りてきて、続いて1人の美しい女性が降りてきた。
貴族の女性には珍しく、ドレスではなくジュストコールにタイトなズボンを履いた引き締まった体型の端正な顔の美人。
しかし、その表情は険しく、美しさと相まって周囲に冷徹な印象を与えていた。
「ここが《ロンメル商店》か。思っていたより小さい店だな。本当にここが評判の店なのか?」
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転移! 幼女の女神が世界を救う!?
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
アイは鮎川 愛って言うの
お父さんとお母さんがアイを置いて、何処かに行ってしまったの。
真っ白なお人形さんがお父さん、お母さんがいるって言ったからついていったの。
気付いたら知らない所にいたの。
とてもこまったの。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる