鑑定能力で恩を返す

第一章

貴族の当たり前

「せ、政略結婚のため？　金で買った娘？」

「なんと……アルヴォード伯爵家には御息女はおられなかったと思っておりましたが、そのような事があったとは……」

　サトとロンメルは驚いたが、ミネルバァは戯けるように肩をすくめただけだった。

「まぁ、大して珍しい話でもない。貴族にはよくある事だ。アルヴォード伯爵には娘がいなかったからな。政略結婚のためには娘を用意するところから始めなければならない。それが私だったと言うだけの事だ」

「でも、やり方が汚いですよねぇ。御実家のヴァイデンフェラー家の事業を失敗させてそこに漬け込むなんて！」

　アメリアが顔を顰めて言うのをミネルバァは軽く手で制した。

「言うな。今にして思えば、我が家に近づいて来た時に警戒すべきだったのだ。私を養女するために我が家の事業をわざと頓挫させて、その負債を負うとはな。文字通り随分と高く買われたものだ」

「酷い話だ……」

　話を聞いて、サトは怒りに顔を歪ませたが、ミネルバァはキョトンとしていた。

「知らないのか？」

「ミネルバァ様。サトは公都に来てまだ間もないのです。知らなくて当然ですじゃ」

「そうなのぉ？　なら、御主人様のことも知らないんだぁ」

　サト以外の3人は酷い話であるにも関わらず、悔しそうな表情を一切していなかった。

「え？　あの……ど、どういう事ですか？」

「サト、アルヴォード伯爵は半年前に事故で妻子共に亡くなっておるのじゃ。今は前アルヴォード伯爵、つまり、亡くなった伯爵の父上が当主となっておられるが、すでに御高齢なのじゃ」

「はぁ……」

　ロンメルの説明にもサトはピンと来ずに首を傾げた。

「わからんか？　高齢である前伯爵が亡くなれば、爵位は誰に回ってくると思う？」

「それは……えっ！　まさかっ！」

　サトの驚きにミネルバァは胸を張った。

「その通りだ。養女とはいえ、私はアルヴォード伯爵家の娘だ。前伯爵……義祖父様おじいさまが亡くなれば、私がアルヴォード女伯爵となるのだ！」

「ええええっ！　そんなの良いんですかっ！」

「良いも悪いも仕方ないのよねぇ。だって、縁組したのは亡くなった伯爵自身でぇ、勝手に死んだのも伯爵だもん。他の親族が横やり入れる筋合いもないのよねぇ」

「アメリアの言う通りだ。私を出世の道具にしようとして、逆に伯爵家の家督を譲る事になるとはな。伯爵も愚か……いや、私にとっては素晴らしい義父様おとうさまと言うべきだな」

「そ、それは……け、結構な事でございますね」

　サトはなんと表現していいかわからず、曖昧な答えを返すだけに留めた。
　しかし、ミネルバァはその返しを上手いと感じたのか笑みを浮かべた。

「結構か。なるほど、良い言い回しだ。だが、流石に順風満帆とはいかないのだ。今回この店に来たのも、試させてもらった事もその件に関係があるのだが、本当に鑑定してもらいたいのはコレなんだ」

　そう言うと、ミネルバァは布に包まれた握り拳大程の物をカウンターの上に置いた。