鑑定能力で恩を返す

第一章

真相

　店内を支配していた光が徐々に薄れ、普段と変わらない風景を取り戻していった。

「くっ、今のいったい……」

「あにゃあ……目ん玉が裏返ったかと思ったにゃ」

「年寄りには応えるのぅ……こ、これはっ！？」

　目を擦りながらゆっくり眼を開けた3人はカウンター上にある物を見て驚いた。
　呪詛の水晶玉は淡い光を放ち、神々しさすら感じさせる物に変わっていた。

「これは……凄いな……」

「これが前伯爵様が言われていたアルヴォード家に伝わる秘宝の真価だと思います。『呪詛の水晶玉』が転じて『祝福の水晶玉』です」

「先程とは違って清らかな魔力を感じるのぅ。これは先程まではなかった物ですじゃ。変わったと言うのは間違いないでしょう」

「見た目で違うのがわかるにゃ！　とっても綺麗にゃ！　さっきまで嫌な感じがしてたけど、今はとっても心地良いにゃ！」

　3人が見る水晶玉をサトも見る。
　すると、脳裏に言葉が浮かんでくる。

　《祝福の水晶玉》
　天然の水晶を球状に加工した物。
　呪いが祓われ、祝福に満ちており、持主に幸福をもたらす。
　相場300万ルーク。

「俺に出来るのはここまでです。これでミネルバァ様が次期伯爵と認められればいいのですが……」

「いや、これは素晴らしいものだ！　これで文句を言うやつなどいないだろう！　サト、よくやってくれた！」

「さすが私の夫になる男にゃ！　今すぐにでもこうびを……」

「後にしろ！　今は義祖父様おじいさまへの報告が先だ！　サト、ロンメル、悪いがこれで帰る。褒美は改めて渡すからな！　期待していろ！　行くぞ！　アメリア！」

「うにゃあ！　ちょっと！　尻尾、引っ張らないでほしいにゃ！　あ、あぁ！　ダメにゃぁぁあああああ！」

　ミネルバァはアメリアを引き摺りながら、慌てた様子で出て行った。
　店の外からは怒号にも似た声が響き、けたたましい音を立ててケンタウロス車が走り去っていくのが店内にいてもわかった。

「やれやれ、慌ただしい事じゃな。まぁ、伯爵家の門地を継げるかどうかがかかっておるから無理もない事かもしれんがのぅ」

「貴族の爵位を継ぐってそんなに大事なんですか？」

「迷い人であるお前さんにはわからんかもしれんが、伯爵といえば子爵家よりも上の上級貴族じゃからな。それだけ権力も強くなる。それにミネルバァ様にしてみれば、自分を買った憎き相手への意趣返しにもなるんじゃろうからな」

　現代日本では爵位はすでに廃止されており、漫画や小説の中の話でしかない。
　爵位を継ぐ事の重要性がサトに理解できないのも無理からぬ事だった。

「それより、驚いたわぃ。まさか、お前さんが高等技術である呪術を跳ね返す……《呪詛返し》じゃったか？　そんな事が出来るとはな。これも古代の叡智の力か？」

　尊敬の眼差しを向けるロンメルにサトは少し照れ臭そうにしながら、頭を掻きながら言った。

「《呪詛返し》なんて出来ませんよ」