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第一章
種明かし
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サトの鑑定能力の精度の高さにロンメルは危機感を募らせ、顔色を悪くしていた。
「ロンメルさん? 大丈夫ですか?」
「ん? あ、ああ。すまんのぅ。年寄りはたまにボッーとするでな。気にせんで続けてくれ」
「は、はぁ。まぁ、それで呪いをかけた人物と渡した人物が異なるのであれば、渡した人物、つまり前伯爵様からすれば呪いを解いて欲しいんじゃないかと思ったんです。秘宝である水晶玉から呪いを解く事こそが彼の言う『秘宝の真価』だったんじゃないかって」
「なるほどな。呪われた物を所持するのは貴族としてあってはならん事じゃが、家宝であれば簡単に捨てるわけにもいかんからのぅ。カミル様も悩まれんたじゃろうなぁ」
「ええ、それで俺は呪いを解く方法を探しました。さすがに鑑定ではわかりませんでしたからね」
「探したという事は、古代の叡智からか? 伝説の魔導師マーセルは呪術にも精通しておったんじゃな」
「まぁ、そうなんですけど……実は呪術って思っていたより凄い物じゃなくて、簡単に解けちゃったんです」
「なんと? では、あの訳のわからない詠唱とこの蝋燭、それにその人型の紙で呪いを解いたのではないのか?」
ロンメルの言葉にサトは照れながらカウンターに置いたままの蝋燭と紙の燃え滓を片付け始めた。
「あれはミネルバァ様達に呪いを解いたと思わせるためのパフォーマンスというか、鑑定能力を隠すための芝居だったんです。実は呪いって術者がバレた時点で解けてしまうんです。つまり、俺が鑑定でクサーヴァーが術者だと断定した時点でもう呪いは解けていたんですよ」
「な、なんじゃ、そんな簡単な事で解けるのか? いや、待てよ。そう簡単でもないか。サトであれば鑑定でわかるが、他の者なら呪いをかけた人物なんぞ特定しようもないからのぅ。疑わしいだけでは駄目だとすれば容易ではないか」
「そうですね。特定できないと意味がないそうです。だから昔から鑑定能力持ちは呪術師の天敵だったそうです。それで話を戻しますが、その後が大変だったんですよ。この事実を鑑定能力を隠したまま、どうミネルバァ様達に伝えるかです」
「うーん、そうじゃな。ただ『呪いは解けました』と言ってもミネルバァ様は信用なさらんじゃろうからな」
「でしょう? そこで色々考えた結果があの芝居だったんです。みなさんが言い争っている間に紙を人型に切って、そこに果汁で術者の名前を書いておきました。それを希少アイテムと偽った蝋燭の火で炙って文字を出したんですよ」
「あれはあぶり出しか? なんとも古典的な方法を……じゃあ、あの詠唱はなんだったんじゃ?」
「あれは俺の元いた世界でのまじない言葉ですよ。信憑性が出るかと思いましてね」
「あれもハッタリか。しかし、また次に呪いを解いてくれと言われたらどうするんじゃ?」
「もう蝋燭が無いから無理だと言い張りますよ。あくまで呪いが解けたのはあのダンジョン産の希少アイテム《破邪の霊火》のおかげという事でね」
「ふむ、確かにダンジョン産の希少アイテムと言えば通らなくもないかのぅ。ダンジョン産の品物は同じ物が何個も出るとは限らんからなぁ。となると、最後の光もペテンか?」
ロンメルの言葉にサトはカウンターの下から魔石を取り出した。
「なるほど、光の魔石か。一気に魔力を流し込んで瞬間的に強く光らせたわけか。やれやれ、儂も騙されたわぃ」
「すいません。説明する間もなくて。とりあえず、これが説明の全てです。まずかったですか?」
「いや、大丈夫じゃろう。あぶり出しなんぞ昔の子どもの遊びじゃしな。燃えてしまって証拠もない。それに実際に呪いが解けたんじゃ。細かい事まで気にはせんじゃろう。要はミネルバァ様が次期伯爵となれば問題ないわい」
ロンメルの言葉通り、ミネルバァは細かい事は気にしていなかった。
いや、気にする暇すらなかったのである。
数日後、公都ハメルンに次期アルヴォード伯爵はミネルバァ・フォン・アルヴォードである事が発表されたからである。
それと町外れの古びた館が全焼し、焼け跡から1人の遺体が見つかったそうだが、それはアルヴォード家の次期当主発表の影に隠れ、誰の記憶にも残る事はなかった。
「ロンメルさん? 大丈夫ですか?」
「ん? あ、ああ。すまんのぅ。年寄りはたまにボッーとするでな。気にせんで続けてくれ」
「は、はぁ。まぁ、それで呪いをかけた人物と渡した人物が異なるのであれば、渡した人物、つまり前伯爵様からすれば呪いを解いて欲しいんじゃないかと思ったんです。秘宝である水晶玉から呪いを解く事こそが彼の言う『秘宝の真価』だったんじゃないかって」
「なるほどな。呪われた物を所持するのは貴族としてあってはならん事じゃが、家宝であれば簡単に捨てるわけにもいかんからのぅ。カミル様も悩まれんたじゃろうなぁ」
「ええ、それで俺は呪いを解く方法を探しました。さすがに鑑定ではわかりませんでしたからね」
「探したという事は、古代の叡智からか? 伝説の魔導師マーセルは呪術にも精通しておったんじゃな」
「まぁ、そうなんですけど……実は呪術って思っていたより凄い物じゃなくて、簡単に解けちゃったんです」
「なんと? では、あの訳のわからない詠唱とこの蝋燭、それにその人型の紙で呪いを解いたのではないのか?」
ロンメルの言葉にサトは照れながらカウンターに置いたままの蝋燭と紙の燃え滓を片付け始めた。
「あれはミネルバァ様達に呪いを解いたと思わせるためのパフォーマンスというか、鑑定能力を隠すための芝居だったんです。実は呪いって術者がバレた時点で解けてしまうんです。つまり、俺が鑑定でクサーヴァーが術者だと断定した時点でもう呪いは解けていたんですよ」
「な、なんじゃ、そんな簡単な事で解けるのか? いや、待てよ。そう簡単でもないか。サトであれば鑑定でわかるが、他の者なら呪いをかけた人物なんぞ特定しようもないからのぅ。疑わしいだけでは駄目だとすれば容易ではないか」
「そうですね。特定できないと意味がないそうです。だから昔から鑑定能力持ちは呪術師の天敵だったそうです。それで話を戻しますが、その後が大変だったんですよ。この事実を鑑定能力を隠したまま、どうミネルバァ様達に伝えるかです」
「うーん、そうじゃな。ただ『呪いは解けました』と言ってもミネルバァ様は信用なさらんじゃろうからな」
「でしょう? そこで色々考えた結果があの芝居だったんです。みなさんが言い争っている間に紙を人型に切って、そこに果汁で術者の名前を書いておきました。それを希少アイテムと偽った蝋燭の火で炙って文字を出したんですよ」
「あれはあぶり出しか? なんとも古典的な方法を……じゃあ、あの詠唱はなんだったんじゃ?」
「あれは俺の元いた世界でのまじない言葉ですよ。信憑性が出るかと思いましてね」
「あれもハッタリか。しかし、また次に呪いを解いてくれと言われたらどうするんじゃ?」
「もう蝋燭が無いから無理だと言い張りますよ。あくまで呪いが解けたのはあのダンジョン産の希少アイテム《破邪の霊火》のおかげという事でね」
「ふむ、確かにダンジョン産の希少アイテムと言えば通らなくもないかのぅ。ダンジョン産の品物は同じ物が何個も出るとは限らんからなぁ。となると、最後の光もペテンか?」
ロンメルの言葉にサトはカウンターの下から魔石を取り出した。
「なるほど、光の魔石か。一気に魔力を流し込んで瞬間的に強く光らせたわけか。やれやれ、儂も騙されたわぃ」
「すいません。説明する間もなくて。とりあえず、これが説明の全てです。まずかったですか?」
「いや、大丈夫じゃろう。あぶり出しなんぞ昔の子どもの遊びじゃしな。燃えてしまって証拠もない。それに実際に呪いが解けたんじゃ。細かい事まで気にはせんじゃろう。要はミネルバァ様が次期伯爵となれば問題ないわい」
ロンメルの言葉通り、ミネルバァは細かい事は気にしていなかった。
いや、気にする暇すらなかったのである。
数日後、公都ハメルンに次期アルヴォード伯爵はミネルバァ・フォン・アルヴォードである事が発表されたからである。
それと町外れの古びた館が全焼し、焼け跡から1人の遺体が見つかったそうだが、それはアルヴォード家の次期当主発表の影に隠れ、誰の記憶にも残る事はなかった。
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