鑑定能力で恩を返す

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第一章

絶叫説教

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 サトはカウンターの椅子に縮こまって座っていた。
 いや、と言うほどが正しいだろう。
 自身の前に仁王立ちする美女の威圧感でサトは動けなくなっていたのだから。

「まったく! こんな若くて可愛い娘を見て『お婆ちゃん』ですって!? 貴方! そんなデリカシーのない事でどうするんですかっ!」

「いや、その……すいません……」

 説教はループし、その度にサトの謝罪もループしていた。
 絶世の美女がすぐ側にいる事は男としては嬉しい限りだが、しかし説教となると話は別である。
 サトには怒られて喜ぶ趣味はないし、どちらかと言えば怒られるのが好きではなかった。
 そんな彼に救いの手を差し伸べるのはいつも嗄れた声の持ち主だった。

「お嬢さんや。そのくらいにしといてやってくれんかのぅ。仮にも貴女の呪いを解いたのは此奴じゃ。それを加味してもらえんか?」

「あっ……そ、そうですね。つい、カッとなってしまって、失礼しました。その……助けていただいてありがとうございます」

 ロンメルの仲裁で我を取り戻したのか、美女は一歩下がってから深々とサトに礼をした。
 その不自然なほどの優雅な様は、先程まで怒られて萎んでいたサトすらも魅了した。

「…………」

「これ、サトや。何をボケッとしておる。お前さんが謝罪を受け入れねば、お嬢さんは頭を上げられんじゃないか」

「ハッ! す、すいません! あまりにも綺麗で少し見惚れてました。謝罪を受け入れます。どうかお顔をあげてください」

 美女はスッと頭を上げるとその美貌に相応しい微笑をたたえた。
 
「ありがとうございます。恩人に対して叱責するなど、本当に申し訳ありませんでした。私の名はエレンと申します。恩人に対して真名を名乗らぬ無作法を重ねてお詫び致します」

「真名……ですか?」

「真名とは魔族の魂の名前じゃ。それを知る事はその魔族を支配する事を意味するのじゃよ……絶対に口に出すな」

 ロンメルは最後の言葉は小声で話した。 
 それはサトが鑑定により既に真名を知っている事を悟られぬためである。
 例え真名を知ろうともサトがエレンに対して何の命令をしない限り、その効果は発動しない。
 だから知らぬフリをしろとのロンメルの忠告である。

「本当に申し訳ありません。本来であれば貴方様の生が終えるまでこの御恩に報いて当然なのですが、暫しの猶予をいただきたいのです。私に呪いをかけた男に復讐するまで」

「ふ、復讐って……」

「私に呪いをかけた男は遠くジラノフ帝国の宮廷魔術師の1人です。もう既にこの世の者ではないかもしれませんが、必ずや奴の正体を暴き、魂に永劫の呪いをかけてやるのです!」

 エレンの抑えきれない怒りにサトは気圧された。
 そして気圧された心はサトの意識を緩ませ、余計な事を口にさせた。

「ネストログナが死んでいても呪いをかけられるものなのですか?」

「えっ? な、何故貴方がその名前を……」

「あっ……」

 ロンメル商店内にまた穏やかならざる空気が流れ始めた。
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