鑑定能力で恩を返す

KBT

文字の大きさ
59 / 155
第一章

激突する者達

しおりを挟む
 公都ハメルンから馬で3時間ほどの場所にはナハル平野が広がっている。
 街道からも外れたこの地はかつては古戦場であり、今も錆びた武器や鎧の破片が所々に落ちている。
 昼間はゴブリンやオークといった魔物達が徘徊し、夜にはスケルトンやゾンビといったアンデッド達が出没するこの平野に立ち入る人は少ない。
 普段は物静かなナハル平野に今日は爆音と衝撃音が響き渡っていた。

「うにぁあああ! 猛獣の爪撃ビーストクロー!」

 アメリアの赤く光る爪が振り下ろされると大地に3本の溝が深く刻まれる。

血塗られた雨ブラッディレイン!」

 エレンが魔法の詠唱を終えると雲ひとつない快晴の中をドス黒い雨が降り注いで、大地に針のように突き刺さっていく。
 アメリアもエレンも互いの技と魔法を交わしながら、激しい戦いを繰り広げていた。

 なぜこうなったのか?
 それは4時間前に遡る。
 エレンとサトが親しくしていると思ったアメリアが激昂し、アメリアに言い寄られて困っているサトを見てエレンが激昂した。
 そして、2人は互いにサトの必死の説得に応じず、一触即発状態になった時に静観していたミネルバァが間に入った。

『公都内で騒ぎを起こすのは許さん。戦いたいなら他所でやれ』

 そう言ってアルヴォード家自慢のケンタウロス車を使ってナハル平野まで2人を連れてきたのだった。
 ちなみにこのケンタウロス車を引くケンタウロス。
 名前をアレッシオと言い、公都最速を自負する暴れケンタウロスである。
 彼にかかれば片道3時間のナハル平野も2時間で着く。
 つまり、アメリアとエレンは2時間も戦い続けているのだった。

「2人ともタフだな。あのエレンとか言うダンピール、アメリアと互角に戦うとは驚いた。お前の奴隷と聞くが、私に譲る気はないか?」

「そう言われましても……っていうか、止めなくていいんですか? もう2時間近く戦ってますよ? 2人とも結構ボロボロになってますし、止めないと……」

「無理だな。アメリアもそうだが、あのエレンも話で納得するようなタイプではなさそうだ。こういう時はとことんやらせるに限るんだよ。それに悪いが私はあの中に入る勇気はない。止めたければお前が行けばいい」

 そう言って顎で2人の方を指すミネルバァ。
 サトもゆっくり視線を向ける。

「うにゃぁあああああ! この泥棒ヴァンパイアめっ! チマチマと魔法撃ってにゃいで拳で語ってこいにゃ!」

「にゃあにゃあと煩いですよ! この発情猫! 貴女こそもっと優雅に闘えないんですかっ!」

 罵り合い、怒号を吐き散らしながら2人の戦いは激しさを増していく。
 爪で裂かれ、衝撃で抉られ陥没し、魔法によって焼かれて焦げた大地に最初の面影はない。
 平野にいたゴブリンやオーク達も2人の最初の一撃の巻き添えで既に素材が取れないほどの状態で大地に転がっている。
 それを見たサトはその場から動けなかった。

「悪いことは言わないからやめておけ。それに死ぬようなにはならんから、黙って見ておくがいいさ」

 ミネルバァの達観した言葉にサトは何も言い返せず、激闘を繰り返す2人を見つめることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移! 幼女の女神が世界を救う!?

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
アイは鮎川 愛って言うの お父さんとお母さんがアイを置いて、何処かに行ってしまったの。 真っ白なお人形さんがお父さん、お母さんがいるって言ったからついていったの。 気付いたら知らない所にいたの。 とてもこまったの。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...