鑑定能力で恩を返す

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第一章

落ち着ける場所

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「いやいやいやいやいやいや! 無理ですって! 俺にダンジョンなんて!」

 サトは精一杯、無礼にならない範囲で最大限の拒否を示した。
 サトには現代知識におけるダンジョンを想像した。
 ダンジョン
 魔物が跋扈すること果てしない迷宮。しかし、そこには莫大な財宝が眠っているとされており、一攫千金を目指す冒険者達が挑戦し、ある者は富と名声を、ある者は死を得る場所。
 それがダンジョンである。
 サトもゲームではした事がある。
 ダンジョンに潜り、迷宮の奥地で希少なアイテムを手に入れたり、大型の魔物を討伐して素材を得たりした事はある。
 しかし、それはあくまでゲームの世界だからだ。
 それが現実となればサトには行く勇気はない。
 
「私とて平民を公務に巻き込むなど不本意だが、民の安全とアルヴォード家の名誉が懸かっているのだっ! 身の安全は保証するから頼む!」

「し、しかし……」

 頑なに拒否するサトを必死に説得するミネルバァはサトの普段と違った服装に気がついた。

「そうは言ってもやる気十分ではないか。その格好似合っているぞ」

 言われてサトは自分の姿を見た。
 市で仕入れた装備を着た今の姿は格好だけ見れば一流のハンターでだった。
 例え中身が伴わなくとも。

「いや! こ、これは……」

「うにゃあ! いい感じにゃよ! 旦那様! 大丈夫っ! 私が側にピッタリ引っ付いて守ってあげるからにゃ!」

「それには及びません! サト様が行くなら私も行きます。サト様には私以外は指一本たりとも触れさせません! 貴女はせいぜい鼻を利かせておきなさい」

「なんにゃと! お前だって魔法使いなら索敵魔法くらい使えるにゃろ! 旦那様の警護は私がするにゃ!」

「いいえ! 私がサト様をお守りします!」

 アメリアとエレンはまた口論を始めていた。
 その状況に辟易するミネルバァの前にロンメルが立ち、頭を下げた。

「ミネルバァ様。貴女様の申し出に異議を唱えることをお許しください。今の状況ではダンジョン改は無理でございます」

「ロンメル? それはどういう意味か?」

「先程アメリア殿が言われておりましたが、ダンジョンに入るには様々な能力が必要となります。索敵能力や戦闘能力はもちろん必要ですが、最も必要なのは経験です。それが無くてはダンジョンの奥には行けません」

「そ、それは確かにそうだが……」

「それに人数もです。大人数で行けば補給の心配が出ますので……ここにいる5人以外にもあと3人は必要です」

「3人か……」

 ミネルバァはロンメルの言葉が的を得ている事はわかっている。
 しかし、現実的な問題としてミネルバァにはアメリア以外に信の置ける者はいなかった。
 アルヴォード家の血縁者ではないミネルバァが当主となった事に不信感を抱く使用人もいるため、屋敷内にはダンジョンで背中を預けるに足る人材はいないのである。
 だからこそ、ミネルバァはロンメル商店ここに来たのだ。
 元ハンターのロンメル、アメリアと同等の戦闘能力を持つエレン。
 そして優れた鑑定眼を持つサト。
 ミネルバァにとって今は屋敷よりも此処の方が落ち着ける場所だった。
 
 
 
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