鑑定能力で恩を返す

第一章

押しかけ

「サト様？　何かありましたか？」

　外から聞こえ来る喧騒が気になってか、エレンも家から出てきた。
　同時に遠くから響き渡る重量感のある爆音と聞き慣れた声の二重唱デュエットが聞こえてきた。

「ウルァアアアアアアアア！」

「こ、この音と声は……ヤバいっ！　アレッシオだっ！　エレン！　早く中に入るんだ！　でないと砂だらけになるぞ！」

　サトは以前のアレッシオの登場シーンを思い出していた。
　雄叫びと土煙を巻き上げてドリフトパーキングしてくるアレッシオは最早脅威でしかない。
　サトは慌ててエレンの手を握り、家の中に連れ込んだ。
　しかし、慌てていたせいか扉を閉めたところでバランスを崩してしまった。
　2人が倒れ込むと同時に家の前に凄まじい爆音を奏でながらアレッシオが止まった。
　そして、今度はバンっと勢いよく何が開く音がする。
　
「旦那様ぁあああ！　お引越ししたと聞いて貴方のアメリアちゃんがやって来ま……って！　何しとんじゃぁあああああ！？」

　扉を開けて入ってきたのはアルヴォード女伯爵家に仕える猫獣人戦闘メイド、アメリア。
　その眼前にはエレンを押し倒すサトの姿があった。

「サト様……こんな所で恥ずかしいです……でも、サト様がここがいいと言うのでしたら私は……」

「いやいやいやいや！　エレンさん違うでしょ！？　バランス崩して倒れただけですからっ！」

「エレンさんだなんて……さっきみたいにエレンと呼んでくださいませ。それとサト様って意外と力が強いんですね。あんなに強く手を握られたのは初めてで、びっくりしちゃいました」

「いやいや……そ、それは嘘じゃないけど……あれは咄嗟に出ただけで……手、痛くなかった？」

「はい……大丈夫です……でも、たとえ傷が残っても私は構いませんよ。サト様なら……」

　ダンピールであるエレンは人族を遥かに超える美貌を持っている。
　その彼女が淑やかに振舞えば抵抗できる雄は少ないだろう。
　更にダンピールの固有能力スキルである魅了チャームが発動している。
　この固有能力はパッシブ能力であり、ダンピールの仕草が妖艶かつ魅力的に映るのもこの能力のせいである。
　サトは照れながらもエレンを見つめ、エレンもサトを見つめる。
　見つめ合う2人の時間は永遠に続くかと思われたが……。

「目を覚ますにゃぁあああ！」

　突然、サトの視界が暗闇へと変わる。
　顔に当たる感触は柔らかくて張りのある絶妙なものだった。
　そして鼻腔を刺激する芳しい匂い。
　サトは思い出す。
　以前にも同じ感触を味わったことを。
　そう、それはアメリアの豊満なる胸であった。