鑑定能力で恩を返す

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第二章

女のプライド

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「ちょっと! どうなってるのよ!? エレンちゃん!」

 中身を一気に呷ったグラスを机に叩きつけるように置いたリサは、涙を浮かべた眼でエレンに迫った。
 うるうるとした瞳に上目遣い、同性の、しかも実の母親のドキッとする仕草に心底腹が立つエレン。
 その様子を見ていた他の3人の心中も当然穏やかではなかった。

「どうなってるって私に言われても……」

「だって、エレンちゃん! この私がかなり本気で堕としにかかったのよ!? なのに全然効果ないんだから!」

「旦那様は鈍ちんだからにゃ……それにしても、フラれたってどういう意味にゃ?」

「あのね、猫ちゃん。私は自慢だけどとってもモテるのよ。普通の男だったら一目見たら恋に落ちて、語りかけたら愛に溺れるくらいにね。それなのにあの人ったら全く堕ちないの! こんなのフラれたも同然でしょ!?」

「嫌味なほど自分に自信を持ってますね、エレンさんのお母様は」

「だが、言われて納得出来るのが腹立たしいがな。しかし、サトは何故エレンの母殿に靡かないのだろう」

「私への愛ゆえににゃ!」

「万年発情猫娘は黙ってなさい。正直、私にもわかりません。母は誘惑、魅了、蠱惑といったものに非常に長けています。本人の言うように普通だったら同性でも危険なんです。でも、サト様には効果がなかった……」

 エレンの言葉にその場にいた全員が各々の思考を巡らせた。
 しかし、誰一人として結論を出せないまま沈黙だけが続いた。

「一つだけ……可能性がないわけじゃないわ」

 グラスに注いだ酒を一気に飲んだ後のリサの呟きに全員の視線が集まる。

「お母さん、その可能性って?」

「すでに誰か心に決めた人がいる場合よ。その人に対する愛情が深いから私の魅力が伝わりにくいって事はあるわ」

 その言葉に一気にテンションが上がる4人。
 ある者は卑猥な妄想を加速させ、ある者は頬を赤らめて俯き、ある者は平静を装いながら机の下でガッツポーズをし、ある者は頭の中で人生設計を進めていった。
 4人はそれぞれの悦びを噛み締めていた。

「他にも異性に興味がないって線もあるわね」

 飲み続け、ボトルを2本空けたリサの言葉に4人のテンションは一気に下がった。
 『あり得る』サトはロンメルに対して非常に強い恩義を感じており、彼のためであれば己の能力をフル活用する事も厭わない。
 またロンメルもサトを大事にしている。
 そこから導き出される答えは……。
 その時、4人の内の1人が光明を見出したかのように、堰を切ったように話始めた。

「お母さん、それはない! だって、前に私が裸で迫った時ちゃんとサト様は反応してたもん! それにロンメル様もそれをお認めに……」

 過去の出来事を思い出して、エレンは一気に話たが、三方向からの冷たい視線に口の動きが自然と止まった。

「……裸で迫ったにゃ?」

「ちゃんと反応してた、だと?」

「エレンさん……今夜はじっくり話し合う必要があるようですね?」

 たらたらと冷汗を流すエレンは藁にもすがる思いで母を見たが、そこには酔い潰れ机に伏して寝ている母の姿があるだけだった。
 この後、根掘り葉掘り事情を聞かれたエレンが解放されたのは朝日が昇り始めた頃だった。
 
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