鑑定能力で恩を返す

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第二章

没落貴族

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 うっかり鑑定能力かんていスキルで得た情報を口に出してしまったサトに、男は抜き身の剣を向けている。
 サトは冷汗を流しながら己の迂闊さを悔やんでいた。
 何か弁解しなければ。
 そう思って必死に頭を働かせるが、良い考えは全く浮かんで来ず、焦るばかりでサトには沈黙する事しか出来なかった。
 だが、その様子を見て男は納得したように頷いた。
 
「ふむ。さすがは噂の鑑定士だな。最早掠れてしまっている我が家の紋章に気付いた洞察力、そして紋章学の知識。その力は王家の筆頭鑑定士にも匹敵するだろう」

「……は?」

 一人で納得した様子の男に、サトは呆気にとられた。
 男はサトに向けた剣の垂直にして鍔が見えるように差し出した。
 鍔の中央には色褪せた盾と獅子の紋章が描かれた宝石が埋め込まれていた。

「私はルドルフ。かつてはこの王国で伯の字を賜っていたベーデガー家の者である。まぁ、今はしがないハンターだがな」

「は、伯の字……し、失礼しました!」

 サトは頭を下げた。
 伯の字を賜っていたという事は、ルドルフは伯爵だったという事である。
 伯爵といえば普通であれば地方領主にあたり、王都や公都においては筆頭家臣、代官に値する上級貴族だ。
 ミネルヴァが継いだアルヴォード伯爵家も元々は公都ハメルンにおいて執政官を勤めてきた名家である。
 上級貴族への無礼は即座に不敬罪が適用されて、その場で死刑になる事もよくある事だった。
 必死に謝るサトにルドルフは笑みを浮かべていた。
 
「構わぬ。頭を上げよ。既に没落して久しい。最早過去の栄光にしか過ぎぬ」

「あ、ありがとうございます」

 サトはゆっくり顔を上げた。

「しかし、惜しいものよ。お主のような者がおれば、私は今も伯爵だったのかもしれん。時は残酷よなぁ」

「えっ? それはどういう……」

「かつて、私がまだ貴族であった頃の話だ。王侯貴族の饗応の際、誤ってその一族にとっての禁忌食物を出してしまったのだ。私を陥れようとする者による罠だった。結果として王侯貴族達の不興を買い、社交会を追われた我が家は廃爵された。あの時、お主のような識者が側に居れば、あのような狡賢い謀略など看破出来たのかもしれんなぁ」

 ルドルフは過去の話と言ったが、その表情には悔しさが滲み出ていた。
 貴族が平民に落とされる事は最大の恥と言われており、貴族から嘲笑されて平民からは蔑まれる。
 その原因が他者の汚いと陰謀なせいともなれば悔しくないわけがない。
 それを思ってか、サトは心が締め付けられるような思いがした。
 
 

 

 
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