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故意は水色、黄金色!? 2
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菜月は迷ってのろのろと手を上げ、ためしに頬をつねってみる。
何と間抜けな方法しか思いつかないのだろう――痛い。
「――――!」
そんな菜月をほっぽって青年は立ち上がって泥をはたくと地面に転がった帽子を取り上げて頭の上に戻した。
それから両手を確認してため息を落とす。
「ありゃ~、すっかり染まっちまったな……」
つぶやいて肩をすくめる青年の肌は――黄金色。
青年。否、黄金色のカッパは河野隆仁と名乗った。
「で、恩人のメガネ男子くんは? 中学生かな?」
「――女です。しかも高校生」
嫌な間を置いてそこはきっちりと修正する。
とたんバツがわるそうにそっぽを向いて頬を指先でかいた。
「せっかく俺の好みだったのに女の子とは残念だなぁ~」
「……わざとらしい」
目を眇めてじっとり睨む。あっそ、と小さく呟いて指先で頬をかいた。
「っていうか、なんのドッキリですか? まさか素人を驚かせて動画収入を得ようとか……なんて悪い人なんですか!」
「あん?」
よほど不本意だったと見える。声を潜めて、目を眇めた。
「で、どこにカメラを仕込んだんです? まさか隠し撮り? 趣味悪ぅ~」
「誰がだ。そんな趣味はない。オレは正真正銘のカッパだ」
威張ってどうする。
正真正銘、カッパは妖怪だ。
「そんなこと誰が証明するんです? カッパって体は緑色で髪はおかっぱで。頭に皿があって、背中には甲羅が。確か相撲とキュウリが好きで……」
「ちょい待て。理想と現実に誤解があるようだが、オレは甲羅を背負ってマッパで川辺をうろつくイカれた変態じゃねぇ」
「さ、皿は? どこに隠したんですか」
「そんなもんあるか、阿呆。そんな恥ずかしい恰好で外を歩けるかっ!」
「その顔で言いますか?」
「……公衆の面前で過度の露出はいかんだろ」
菜月が目を眇めるとバツが悪そうにつぶやいて視線を逸らせた。
(わたしだって、この状況を受け入れていることが信じられないわよ)
「だいたいそんなことを言い出したのはどこのどいつだ? オレは生まれて一度もそんな格好をしたことないぞ。名誉棄損で訴えてやる」
「知るわけないでしょ、わたしが生まれた時からカッパはそういうものです」
「ひでぇ、偏見だ。身体が緑色なのは濁った沼の水を飲んだせいだろうし、いくらカッパでもそんなモノを飲んだら病気になっちまう」
「つまり、身体の色は飲んだ水の色なんですね」
「そーいうことだな」
菜月の視線を感じたのだろう、肩を落としてうなだれた。
(だから、今はこの色なのか。イチゴミルクならピンクのカッパか?)
いらぬことを想像して現実逃避してみる。
「つまりだな、うっかり道の真ん中で干物になっちまうとこだったわけ。さすがにヤバいと思ったところでお嬢に助けてもらったってわけよ。命の恩人だ。ありがとな」
と、お年頃のお姉さまのハートを鷲掴みしそうな笑顔。
ただし、肌は綺麗な黄金色。ムードはぶち壊しである。
「……あり得ない」
機嫌よく笑う河野に真夏の太陽を仰いだ。
(なんだか……めまいがしてきた)
「で? お嬢はどうしてこんなところを歩いてるんだ?」
随分と遠回りして本題に戻った。
「実はこの先にある宿に用事がありまして」
「……ん。宿って、ミサキ旅館か? って盆の入りなのにどうしてここに? 一人旅ってことはそういうことか。辛いことがあったんだろうけど。詳しくは聞かねぇよ。ほれ、荷物を貸しな。案内してやるよ」
旅は道連れ世は情けだ、と菜月の荷物を取り上げて歩き出した。
「本当にカッパなんですか?」
慌てて背中を追いかけてそれに並んで問う。
「そんな嘘をついてどうすんだよ?」
確かに。
とっさに視線を泳がせて話題を探す。
そういえば気になる言葉がある。
「さっき言ってた尻子玉って何ですか?」
「尻子玉……そいつはいわゆる秘儀だ。気になるか?」
「まあ、そりゃ、多少は」
にやつく河野に眉根が寄る。なにか答えを間違っただろうか。
「菊に因果骨をナニするという秘儀だが。……もっと詳しく説明してほしいか?」
「は?」
「いっぺん正太郎に襲い掛かってみたんだが蹴り飛ばされて調伏されかけた。あいつは昼行燈のくせにガードが固くていけねぇ」
「ふうん。お嬢は男色の話に興味があんのかぁ」
にんまり笑う河野にすかさず頭を振る。やはり間違えた。
(興味などない。聞くんじゃなかった……話題を変えなきゃ)
「く、クチバシ、不便じゃありません?」
「当然、不便に決まってんだろ。まあ、虫刺されみたいなもんでそのうち元に戻る。なんせ煎餅もおにぎりも齧れねぇし。映画館にデートに行って盛り上がってもキスも出来ねぇ。そんなんあり得んわ」
カッパと人間の姿、どっちが元なのかという疑問は飲み込んだ。
「デートで映画館に行くんだ」
「コラ、偏見の目。地味に傷つくわ~。あやかしだってデートぐらいするぞ。人を驚かせるなんてのは時代錯誤だ」
「あやかし?」
「もしかして気づいてないのか、交番にもいただろう?」
「って、サルの交番ですか?」
「サル? あいつはサトリだ。今年の春に詐欺師を捕まえて巡査部長に昇格したばっか。心が読めるあいつに嘘はつけねぇよ」
なんとゴリラでもなかった。
菜月の舞い上がった心も読まれてしまったのだろうか。
「ムジーナも昔は蕎麦屋だったんだが、時代の流れに合わせてラーメン屋に転向してな。タヌキのオバちゃんの愛想でもってるようなもんだよ。店主が不愛想なのが客商売に向いてない」
不愛想なのはパーツが足りないせい。
彼のせいではない。
「で、オレは水道関連の会社を経営してるし、アキツの旦那の本業は境界守だ」
「キョウカイモリ?」
意味が分からず棒読みで聞き返した。
「そいつは新種のイモリか? 確かにサンショウウオぐらい珍しいかもしれんが。姑獲鳥の子であいつもあやかしみたいなもんだ」
「はあ……?」
鼻を鳴らした河野の説明は分からないワードが散りばめられている。
(ウブメって、ナニ?)
「あいつはあっちとこっちの閂みたいなもんだ。さすがに家の玄関に鍵がなかったら不用心だろ?」
「鍵がないのは不用心ですよね」
「――宿に用ってことは、旅路の途中なわけか」
しんみりとつぶやいた声によくわからないまま曖昧に頷いた。
「七七日が過ぎねぇと盆にも家に帰れねぇもんな。嬢ちゃんはつくづくツイてねぇな」
(カッパにびっくりさせられたのが一番ツイてないわよ!)
※すいません。レモンティーでこんな妄想を。( ̄▽ ̄;)
菜月は迷ってのろのろと手を上げ、ためしに頬をつねってみる。
何と間抜けな方法しか思いつかないのだろう――痛い。
「――――!」
そんな菜月をほっぽって青年は立ち上がって泥をはたくと地面に転がった帽子を取り上げて頭の上に戻した。
それから両手を確認してため息を落とす。
「ありゃ~、すっかり染まっちまったな……」
つぶやいて肩をすくめる青年の肌は――黄金色。
青年。否、黄金色のカッパは河野隆仁と名乗った。
「で、恩人のメガネ男子くんは? 中学生かな?」
「――女です。しかも高校生」
嫌な間を置いてそこはきっちりと修正する。
とたんバツがわるそうにそっぽを向いて頬を指先でかいた。
「せっかく俺の好みだったのに女の子とは残念だなぁ~」
「……わざとらしい」
目を眇めてじっとり睨む。あっそ、と小さく呟いて指先で頬をかいた。
「っていうか、なんのドッキリですか? まさか素人を驚かせて動画収入を得ようとか……なんて悪い人なんですか!」
「あん?」
よほど不本意だったと見える。声を潜めて、目を眇めた。
「で、どこにカメラを仕込んだんです? まさか隠し撮り? 趣味悪ぅ~」
「誰がだ。そんな趣味はない。オレは正真正銘のカッパだ」
威張ってどうする。
正真正銘、カッパは妖怪だ。
「そんなこと誰が証明するんです? カッパって体は緑色で髪はおかっぱで。頭に皿があって、背中には甲羅が。確か相撲とキュウリが好きで……」
「ちょい待て。理想と現実に誤解があるようだが、オレは甲羅を背負ってマッパで川辺をうろつくイカれた変態じゃねぇ」
「さ、皿は? どこに隠したんですか」
「そんなもんあるか、阿呆。そんな恥ずかしい恰好で外を歩けるかっ!」
「その顔で言いますか?」
「……公衆の面前で過度の露出はいかんだろ」
菜月が目を眇めるとバツが悪そうにつぶやいて視線を逸らせた。
(わたしだって、この状況を受け入れていることが信じられないわよ)
「だいたいそんなことを言い出したのはどこのどいつだ? オレは生まれて一度もそんな格好をしたことないぞ。名誉棄損で訴えてやる」
「知るわけないでしょ、わたしが生まれた時からカッパはそういうものです」
「ひでぇ、偏見だ。身体が緑色なのは濁った沼の水を飲んだせいだろうし、いくらカッパでもそんなモノを飲んだら病気になっちまう」
「つまり、身体の色は飲んだ水の色なんですね」
「そーいうことだな」
菜月の視線を感じたのだろう、肩を落としてうなだれた。
(だから、今はこの色なのか。イチゴミルクならピンクのカッパか?)
いらぬことを想像して現実逃避してみる。
「つまりだな、うっかり道の真ん中で干物になっちまうとこだったわけ。さすがにヤバいと思ったところでお嬢に助けてもらったってわけよ。命の恩人だ。ありがとな」
と、お年頃のお姉さまのハートを鷲掴みしそうな笑顔。
ただし、肌は綺麗な黄金色。ムードはぶち壊しである。
「……あり得ない」
機嫌よく笑う河野に真夏の太陽を仰いだ。
(なんだか……めまいがしてきた)
「で? お嬢はどうしてこんなところを歩いてるんだ?」
随分と遠回りして本題に戻った。
「実はこの先にある宿に用事がありまして」
「……ん。宿って、ミサキ旅館か? って盆の入りなのにどうしてここに? 一人旅ってことはそういうことか。辛いことがあったんだろうけど。詳しくは聞かねぇよ。ほれ、荷物を貸しな。案内してやるよ」
旅は道連れ世は情けだ、と菜月の荷物を取り上げて歩き出した。
「本当にカッパなんですか?」
慌てて背中を追いかけてそれに並んで問う。
「そんな嘘をついてどうすんだよ?」
確かに。
とっさに視線を泳がせて話題を探す。
そういえば気になる言葉がある。
「さっき言ってた尻子玉って何ですか?」
「尻子玉……そいつはいわゆる秘儀だ。気になるか?」
「まあ、そりゃ、多少は」
にやつく河野に眉根が寄る。なにか答えを間違っただろうか。
「菊に因果骨をナニするという秘儀だが。……もっと詳しく説明してほしいか?」
「は?」
「いっぺん正太郎に襲い掛かってみたんだが蹴り飛ばされて調伏されかけた。あいつは昼行燈のくせにガードが固くていけねぇ」
「ふうん。お嬢は男色の話に興味があんのかぁ」
にんまり笑う河野にすかさず頭を振る。やはり間違えた。
(興味などない。聞くんじゃなかった……話題を変えなきゃ)
「く、クチバシ、不便じゃありません?」
「当然、不便に決まってんだろ。まあ、虫刺されみたいなもんでそのうち元に戻る。なんせ煎餅もおにぎりも齧れねぇし。映画館にデートに行って盛り上がってもキスも出来ねぇ。そんなんあり得んわ」
カッパと人間の姿、どっちが元なのかという疑問は飲み込んだ。
「デートで映画館に行くんだ」
「コラ、偏見の目。地味に傷つくわ~。あやかしだってデートぐらいするぞ。人を驚かせるなんてのは時代錯誤だ」
「あやかし?」
「もしかして気づいてないのか、交番にもいただろう?」
「って、サルの交番ですか?」
「サル? あいつはサトリだ。今年の春に詐欺師を捕まえて巡査部長に昇格したばっか。心が読めるあいつに嘘はつけねぇよ」
なんとゴリラでもなかった。
菜月の舞い上がった心も読まれてしまったのだろうか。
「ムジーナも昔は蕎麦屋だったんだが、時代の流れに合わせてラーメン屋に転向してな。タヌキのオバちゃんの愛想でもってるようなもんだよ。店主が不愛想なのが客商売に向いてない」
不愛想なのはパーツが足りないせい。
彼のせいではない。
「で、オレは水道関連の会社を経営してるし、アキツの旦那の本業は境界守だ」
「キョウカイモリ?」
意味が分からず棒読みで聞き返した。
「そいつは新種のイモリか? 確かにサンショウウオぐらい珍しいかもしれんが。姑獲鳥の子であいつもあやかしみたいなもんだ」
「はあ……?」
鼻を鳴らした河野の説明は分からないワードが散りばめられている。
(ウブメって、ナニ?)
「あいつはあっちとこっちの閂みたいなもんだ。さすがに家の玄関に鍵がなかったら不用心だろ?」
「鍵がないのは不用心ですよね」
「――宿に用ってことは、旅路の途中なわけか」
しんみりとつぶやいた声によくわからないまま曖昧に頷いた。
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