噂のふたり

豆ちよこ

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…の 〜友人、松前孝宏の独白

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 世の中には色んな人がいるもんだなぁ。

 大学生になってから一番最初に抱いた感想がそれだった。俺はなんて狭い世界で生きていたんだろう。世の中ってまだまだ知らない事がたくさんある。

 その二人を初めて見たのは確か入学式の後、オリエンテーションの時だった。

 やたら目立つ高身長のイケメンが、もの凄いおっかない顔して掴み上げていたのは、ちんまりとした地味な男。
 うわぁ…、大学生にもなってイジメかよ…。
 そんな印象を受けた場面だった。

 ところが、どうも様子がおかしいぞ、と思ったのはイケメンくんの怒鳴り声を聞いてからだ。


 『あんだけ酷く振ってやったのにまだ分かんねぇのかよっ!』


 ーーーん? ……んんん?

 
 『今度その顔見せたら、学校中にお前がホモだって言い触らすからなっ!』


 ーーー…、いやアンタ。それもう言い触らしちゃってるからっ!


 尻もちついて半べそのちんまり男の方はと言えば、ただひたすら『ごめんなさい、ごめんなさい』と繰り返すだけ。

 いやいやいや。キミももっと怒ったら?だいぶ注目の的になっちゃってるよ?

 そう心の中でツッコミを入れながらも彼等のやり取りの一部始終を見届けた。


 何この人達。ーーーオモシロッ!! 


 これが噂の二人に初遭遇した俺の感想。
 絶対こいつ等と仲良くしようっ! そう心に誓った。






 奇跡的に俺はちんまり男こと、佐倉波瑠くんと同じ学部だった。初授業で講義室に彼の姿を見つけた時は自分の運の良さに小躍りするくらい喜んだ。俺は思った。この大学生活はきっと楽しいものになる、ってな。

 佐倉は期待を裏切らない男だった。


「隣、座ってもいい?」

 そうさり気なく近付いた俺に、小さい肩を跳ね上げて「はっ、はははいぃぃっ!」と、陰キャ丸出しの吃り返しをしてくれた。もうこの時点で面白かった。笑いを堪えるのが大変で、鼻の穴が拡がったよね。

「名前、聞いてもいいかな? あ、俺は松前。松前孝宏」
「ささっ、ささ、さくらです」

「ささくら?」
「いい、いいえっ! さ、佐倉です」

 吃りすぎて何言ってるのかよく分からなかったけど、俺は持ち前のコミュ力で何とか名前を聞き出した。


「へぇ、波瑠って言うんだ。可愛い名前だね。波瑠ちゃん、て呼んでいい?」
「ぇ……、 あ…………。 ………はぃ」


 波瑠ちゃんは嫌そうにしていたが、でもダメとは言わなかった。その講義の間、ずっと波瑠ちゃんに根掘り葉掘り色々と聞き出した結果、胸ぐら掴みイケメンこと、島崎夏彦の事も聞き出せた。

「そっかぁ…、島崎くんにそんな事言われちゃったんだ。可哀想に」
「やっ、あれは僕が悪いので。 逆に島崎くんの方が可哀想なんですっ!」

 何でも島崎とは高校からの同級生で、佐倉は一年生の時から島崎を好きだったらしい。ひっそりこっそり見ているだけで満足していた波瑠ちゃんは、告るつもりはなかったのに卒業間近にそれがクラスの陽キャにバレてしまった。いじめられっ子波瑠ちゃんは陽キャ達に無理強いされて、結局告ることになったらしい。

「僕がもっと、自分の気持ちを隠せておければ、島崎くんにもあんな、あんな…、ぃ、嫌な思いをさせなくても済んだんです……」
「波瑠ちゃん……」

 わぁ…、この子健気だなぁ。まぁ、確かに迂闊な性格みたいだけど。だって俺の下手クソな誘導尋問に引っ掛かって、まんまと全てを白状しちゃってるし。……しかもそれにまだ気付いてないよね? うはっ、ウケる!

「だから僕が恨まれたり疎まれたりするのは当然で…。 あの、だから……っ、島崎くんの事、悪く言わないでください!」
「へ…? お、俺?」

 あれ? 何で俺が怒られてるの? 

 佐倉は本当に期待を裏切らない男だ。コントみたいなこのやり取りで、俺は佐倉波瑠がもの凄く気に入ってしまった。

「悪くなんて言わないよ。むしろ俺は、波瑠ちゃんの味方だからね! 応援するよ」

 上っ面なその言葉に佐倉は瞳を輝かせ、勢いよく俺の手を両手で握り締め、「松前くんはいい人です!」と頬を紅潮させて喜んだ。単純でお人好しで迂闊なホモだな、まったく。でもそんなところも気に入ったぞ!是非とも仲良くしておくれ!



 お相手の島崎夏彦とは、その後すぐに対面する機会に恵まれた。
 佐倉と意気投合(?)した俺は、ある日の昼休みに佐倉を誘って学食に向かった。そこそこ広い学食はたくさんの学生で溢れ返っていた。
 ようやく席を確保したまでは良かったが、そこに取り巻きを引き連れ現れた島崎くん。そんな島崎くんの姿を目敏く見付けた佐倉は慌てふためき、せっかく陣取りした席から逃げ出した。
 走り去ろうと二歩三歩、踏み出した所で派手に転んだ。そりゃもー、お笑い芸人も真っ青な見事な転びっぷりだった。

「い…、痛たたた……」
「は、波瑠ちゃん? だいじょぅ……」

「おいコラッ、テメェ! 何やってんだ!」

 ズカズカと大股で近付いて来る般若の形相の島崎くんに、俺の方がチビリそうになったね。
 イケメンの怒り顔ってマジ怖い。

「ヒィッ! あ、あ、ああのっ、ごめ、…」
「や、あのさ…っ、ーーー…、え?」

「人様に迷惑掛けてんじゃねぇっ! さっさと立て!この鈍亀っ!」
「ああぁぁっ! はいぃっ!」

 島崎は佐倉の両脇に手を差し入れて、目にも留まらぬ早業で転がっていたちんまり佐倉を立ち上がらせると、ギュンと音がしそうな勢いで俺に振り向き「大丈夫か?こいつが何か迷惑掛けなかった?」と聞いてきた。

「いや…、いやいや! 何も迷惑なんかしてないし!」
「そうか…。ならいいけど」

「あ、そうだっ! きみも一緒に飯食わない? そこに席も取ってあるし」

 俺は俺なりに気を遣ったつもりだった。あわよくばこの二人が引っ付いたら更に面白いだろうなぁ…、等と考えた事は秘密だが。

「いや。 俺はいい」
「えぇ、なんで? 知り合いなんだろ?」

「ーーーー……はあ?」

 うわっ、怖っ!

「あああぁ、あのっ! ぼ、僕はここで失礼するのでっ! 松前くんはどうぞ、お昼ごはんを食べてくださいっ!」
「えっ? あ、ちょっと、波瑠ちゃん!?」

「おいこらっ、待て!!」

 青褪めた顔で逃げ出す佐倉を呼び止めたのは島崎だった。
 いや、気が気じゃなかったね。だってさ、人がたくさんいる学食で、鉢合わせとはいえ顔を合わせちゃった佐倉の事を、島崎が宣言通り『こいつはホモです』なんて言うんじゃないかとハラハラしたんだ。
 ところが島崎は俺に向き直ると、持っていた鞄を預けてきた。

「悪いけどこれ、預かっといて。後で取りに来るから、あっちの連中と一緒にいてくれる?」
「へ? あ、…うん」

 引き連れていた取り巻き連中を親指でクイッと指差すと、徐ろに固まっていた佐倉の首根っこを掴み、引っ立てるように食堂から連れ出していった。

「あああ、ああの!? しし島崎く…、」
「うるせー!いいから来いっ!」

「や、え? ええぇ…………??」

 あれよあれよと言う間に食堂から姿を消した二人を呆気に取られて見送っていると、遠慮がちに「あのぉ……」と取り巻きの一人から声をかけられた。

「島崎なら、多分保健室に行ったんだと思うよ。その内あの子連れて戻って来ると思うから、俺らと一緒に待とうぜ」
「え…、っと。あー、はい。じゃあ…、そうさせて貰おっかな」

 何故に保健室? とは思ったが、だいぶ注目を浴びて目立ってたからボッチにはなりたくなくて、有り難くその申し出を受けることにした。
 20分もすると彼らは食堂に現れた。

「あああの、島崎くん。僕、もう歩けるから、」
「チッ! 荷物のくせに喋んじゃねぇ! おら、お前はここだ! 大人しく座っとけ!」

 小脇に抱えた佐倉を、俺と取り巻き達がキープした席の一番端っこに座らせた島崎くんは、そのまま俺から鞄を受け取ると、自分は佐倉の並びの反対側の端っこに鞄を置いて、財布だけを持ったまま颯爽と券売機に向かった。
 俺は佐倉の向かい側へ席を交換して貰い、どんなやり取りがあったのかを聞いてみる事にした。

「波瑠ちゃん、大丈夫? 何があったの?」
「ぅぅ…。ごめんなさい松前くん。僕、転んだ時に捻挫しちゃったみたいで」

 は? 大変じゃん!?

「え、マジ? 全然気付かなかった。…こっちこそごめん。大丈夫なの?」
「う…ううん。そんなに酷くはないみたいだし、保健室で湿布貼って貰ったから、大丈夫。………でも」

「でも…?」

「………また、島崎くんに、大迷惑をかけてしまいました。僕……、どうして……、ぅ……」

 半ベソ気味の佐倉は唇を噛み締めてこの世の終わりみたいな顔をした。
 いや、迷惑…ってキミ。こりゃどう見ても迷惑とかじゃなくて……。

「ほら、時間ねぇんだからさっさと食え!」

「ひゃいっっ!!」
「ぅおっ!?」

 ドン!と佐倉の前に卵丼の乗ったトレーを置いた島崎くんは、そのまま自分の分のカレーライスの皿とスプーンだけを器用に左手で持ったまま席につき、隣の取り巻きの男子学生と一言二言話しながら食事を始めた。

「………波瑠ちゃん。早く食べちゃいな」
「うぅ…、はぃ……、」



 この時の出来事を俺は一生忘れないだろう。
 こんなにも“激しい”思い遣りを目の当たりにしたのは初めてだ。
 俺の中で島崎夏彦の株が急上昇した。
 波留ちゃん。きみ、相当愛されてるよ。え? 気付いてないの⁉ マジ? 
 うはあぁぁ………、 オモシロッ!!!







「なぁ、島崎」

 あれから俺は島崎夏彦と友好を深めた。
 知れば知るほどこの島崎という男は面白い。

「あ? 何?」

 無自覚無意識無頓着でありながら、今日もまたこの男は“例のあの子”を必死に探す。

「左斜め後ろ約15メートル後方に、茶色のダッフルコートが歩いてるよ」

 だから俺はさ。ほんのちょっぴりこの二人を応援しちゃう訳よ。

「あ"あ"!? ……ん、だそりゃ」

 だって気に入ったんだよ。

「今朝のマフラー、回収しなくていいのか?……それにさ、ほら。波留ちゃん、また囲まれちゃってるし」
「ああ?? ………チッ! ったく、あの鈍臭ストーカー! また人様に迷惑かけてやがる!!」

 うん。そうそう。
 ほれほれ、早く行かないと。大事なあの子が他の誰かに取られちゃうぞっ!

 ちんまり波留ちゃん、あれで案外人気者だからねぇ。島崎も気が気じゃないだろ。
 え? 元イジメられっこ? そんなの過去の話でしょ。
 この学校じゃ有名人の片割れって評判よ?
 何しろ『噂のふたり』なんだから。


「おいこらッ、テメェ!! 何してんだ!!」

「ぴっ!!! ああぁぁ…、あのっ!!し、しし、島崎く……っ、ぅわあぁぁ!!」



 おっと。本日は縦抱きですかっ!!
 いやぁ。やっぱり熱いね、お二人さん!

 うん。末永く、お幸せに!!!
 
 

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