噂のふたり

豆ちよこ

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ある男の懺悔 〜イジメっ子泣くの巻

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 腹に響く重低音が充満するフロアは薄暗く、レインボーカラーのレーザーライトが店内をチカチカと走る。
 この頃遊び場にしているゲイ向けのクラブで、俺は最近仲良くしているトモダチと安い酒を酌み交わしていた。

「は? 噂の二人? 何だそれ」
「オレのツレが通ってるガッコにさ、居るらしいんだ。その噂の二人ってのが」

 喧しい店内での会話はかなり大声を出さないと聞こえない。正直噂話をするには不相応だけど、周りもこっちの話なんか聞いちゃいないような連中の集まりだ。気にしちゃいない。

「何の噂なんだ? 面白いのか?」

 漸く二十歳を過ぎたばかり。遊びも幅も大きくなり良くも悪くも世界が広がった。
 高校を出て大学生になってからはとにかく遊んだ。目新しいもの、物珍しいもの、知らなかったこと。何でも面白かった。多少リスキーな事でも面白ければ手を伸ばした。
 男と寝ることを覚えたのもその延長だ。
 それを教えたトモダチがまた、何やら面白そうな話を持ってきた。

「さあ。なんでも有名なゲイカップルが居るって話だ」
「はあ? ……なぁんだ。そんな事かよ」

 つまんねぇ。それが最初の感想。
 だがそのトモダチのツレが現れてから、俺は俄然その噂の二人に興味が湧いた。

「ーーーえ? 島崎? その片割れって、島崎っていうのか?」
「何だ、冬樹。知り合いだったりするのか?」

 知り合いも何も、高校時代の宿敵だ。
 クソみたいに顔が良くて、俺より高い身長で、正義感が強くて硬真面目。その割に口が悪く腕っ節も強い。女はキャーキャーうるせぇし、男も憧憬の眼差しで見ていた。……中には違った視線を向けてる奴もいたな。
 思い出すとモヤモヤする事ばかりだ。クソッ。名前を聞いただけでムカつく。アイツのせいで俺は……。

「なぁ…。その島崎の彼氏って、どんな子?」

 逆恨みなのは解ってる。けど俺は島崎のせいでとんでもない後悔を抱える羽目になったんだ。その償いを今こそ晴らさせてやる。
 島崎の恋人を寝取ったら、さぞかし面白い事になるだろうな。
 俺の中で悪魔が囁いた。
 想像するだけでも愉快だぜ。願わくばその相手の男が俺の食指に刺さればいいがな。まぁ、どんな不細工だろうとこのゲームを止める気はないけど。
 あのクソったれに漸く復讐出来るんだ。

 俺は内心ほくそ笑み、トモダチのツレと共に島崎の噂の彼氏をこっそりと見に行く約束を交わした。






 

 島崎が在籍する大学は、腹立たしい事に俺が進学した学校よりも段違いに格が上だった。何しろ国公立だ。何でだよ!
 つくづく島崎という男は神経を逆撫でする野郎だ。人の劣等感を煽ってくる。しかも無意識に!それが一番腹が立つ!

「てかミッチー、頭いいんだな。ちょっと信じられないけど」
「ミッチーじゃなくてミツ! …然りげ無く失礼だよね、冬樹くんて。…友達少なそ」

 うるせー。余計なオセワだ。

「アンタのツレとはおトモダチだぞ」
「……エロい方の、だろ」

 片眉を上げただけでその話題を終えた。さすがに分が悪い。

「なぁ、島崎の相手ってどんな子?」
「ん~、可愛い…かな。ちょっと鈍いけど。見た目だけで言ったら地味? 埋もれ系?」

 ガッカリした。どうせ寝るなら見た目が可愛いタイプがよかった。……贅沢は言わないけど。

「てかさぁ冬樹くん。言っとくけどあの二人を引き裂こうとか、それだけはヤメてよ。ボクら周りの皆、あの二人を見守るのが楽しみなんだからね!変なチョッカイ掛けたら許さないからっ!」
「あー…はいはい。わかってる、って。見るだけ、見るだけだよ」

 なぁーんちゃってなぁ。ん、な訳ねぇだろ!あの島崎の絶望顔を見るためにチョッカイ掛けまくるに決まってんじゃねーか。
 俺の脳内で魔王が高笑いする。
 もうすぐだ。もうすぐあの時の俺と同じ気持ちをアイツに味わわせてやれる。
 見てろよ。絶対に泣かせてやるからなっ!!

 ツレの男、ミツに着いて構内をうろうろとしながら俺は噂の片割れを想像した。地味で埋もれ系…って。すげぇ残念タイプなんだろうな。そんなんがあの島崎の相手かと思ったら、それはそれで愉快すぎる。パッと見てあんまりの不細工だったら写真でも撮って、面白可笑しく昔の仲間に風潮して回ってもいいかもしれない。その時は寝取るのだけは止めといてやろう。その代わり思いっきり笑い者にしてやるがな!

 そんな愉快な妄想をしつつ辺りを見渡すと、人混みの中にチラッと目を惹く人物を見付けた。

「……マジ?」

「え…、 何か言った?」

 そいつは相変わらずおっとりとした雰囲気で俺の視線を釘付けにする。
 何であいつが…? 頭が良いのは知ってたけど、まさか島崎と同じ大学に居るなんて。

「……追って、来たのか」

「なに? さっきからブツブツと。気持ち悪いよ」

 やっぱり忘れちゃいなかったんだ。そうだよな。あの時あんなに泣いてたもんな。……クソッ!
 そんなに島崎が好きかよ!佐倉!

「何でだよっ! ちくしょー!」
「ぅわ、何だよ急に!? こわっ」

 俺だってずっと見てたんだ!島崎さえ現れなきゃ、あんなに拗れなくて済んだものを…。
 ああ…もぉ!!思い出すと腹が立つ!

 多分一目惚れだったんだ。
 入学式でその姿を目にした時から、俺は佐倉が気になって気になって仕方なかった。
 小柄で白い肌。くりんとした大きな目。つやっつやの真っ黒い綺麗な髪。さくらんぼみたいな可愛らしい唇。サイズ感の合ってない制服は萌え袖になって、ほっそりとした綺麗な指先がチラ見えしてる。
 佐倉波瑠は俺の好みどストライクな見た目だった。ぶっちゃけ男だろーが気にもならないくらい無茶苦茶タイプ。その上中身も俺の庇護欲をガンガン煽ってくるようなド天然。小動物並の気の小ささにおっとりとした喋り方。たまに見せる笑顔は後光が射して見えた。
 まさに天使そのもの!!

 どうにか近付いて側に居たくて、結構積極的に話し掛けた。
 自慢じゃないがコミュ力の高さは自負してたし、顔だってそれなりにイケてる。某アイドル事務所に所属してた事もあるし、当然女の子にはモテた。童貞なんか中1で捨てたし自分をよく魅せる術も持ってる。
 だから佐倉も絶対俺を気に入る筈だと思ってた。最初は無理でもその内、口説いて口説いて口説き捲くって、俺のものにする気満々だったんだ。
 でも、そんな俺のドヤっぷりが仇になった。周りの取り巻き連中もよくなかったかもしれない。良くも悪くも似たり寄ったりな連中だった。

 初めて話し掛けた時から佐倉はビビリ捲くってた。そりゃもぉ警戒心の塊か、ってくらい。そんな所も可愛くてしょーがなかったけど!
 とっくに調べて知ってた名前を尋ねた時なんて、吃りながら『さささ…ささ佐倉、はは波瑠で…っし』カミカミで応えてくれた。あれはめっちゃ可愛かった!抱き着いて捏ねくり回してやろうかと思ったくらいグッときた。我慢したけど。
 それからも何かにつけ佐倉を弄り回しては、おどおどした所が可愛くて、ビクビクする姿に萌えた。
 だが周りの取り巻き連中は別の意味で佐倉を見てた。誂い甲斐のある面白いオモチャ。ムシャクシャした時のサンドバッグ。多分そんなところだろう。
 まったく…あの可愛さに気付かないなんて、と腹立たしい気持ちもあったが、アイツの可愛さを他の連中に知られるのも業腹で、俺は見てみぬ振りをしていた。どんな形でも佐倉の意識の中に俺が居れば問題ない。そう思って口説くチャンスが来るのを待っていたんだ。

 なのに…。

 秋の球技大会の日。何時ものように佐倉を誂って楽しんでいた俺達の前に、あの憎っくき島崎が現れた。

『つまんねー事してんじゃねーよ。…ガキか』

 そう宣い

『お前も、やられっ放しでいいのかよ』

 なんて佐倉に発破をかけて去った。

 あの時の佐倉の目。島崎の背中を見送る視線に芽生えた熱。
 ずっと佐倉を見てた俺ならわかる。あの瞬間、佐倉は島崎に恋心を抱いたんだ。

 ドロドロとした黒い澱が胸に詰め込まれたような最悪な気分だ。
 その時以来、佐倉は俺から逃げ回った。少ないが一緒にいる仲間も見付けた。あの小動物みたいなあいつの、それが精一杯の抵抗だったんだろう。
 増々俺の中に黒い澱が溜まっていく。
 佐倉が逃げれば逃げるほど、俺以外の誰かに笑いかけるたび、それはどんどん膨らんで増々俺は佐倉に執着していった。
 だけどどうやっても佐倉に俺の想いは通じない。そりゃそうだ。俺は最初から間違えた。あんなに怖がりのビビリ佐倉に陽キャマウント取り続けたんだ。だけど今更どう変えりゃいい? 周りの連中に馬鹿にされるのも下手なプライドが許さない。
 儘ならない想いにくだらないプライドが被さって俺は拗らせた。佐倉を見るたびに思い知らされる。あいつの視界に俺は居ない。居るのは何時だってあの似非ヒーローの島崎夏彦だ。

 可愛さ余って憎さ百倍とはよく言ったもんだよ。

 俺がこんなに好きになってやったのに、お前は他の奴に懸想して。
 だったら…。
 お前も俺と同じ気持ちを味わえ。
 島崎にその憎たらしい気持ちを伝えてフラレちまえ。
 うんと傷付けばいいんだ。打ちのめされてボロボロになってくれ。
 そうしたら、俺が優しく慰めてやるよ。

『何、お前。島崎の事好きなの?』

 その言葉は速効性のある毒だった。
 何時も佐倉を弄り倒していた連中は直様それに食い付いた。誂い囃し立て半ば脅かすようにして佐倉を断頭台に押し上げる。
 あれよあれよと言う間に島崎を呼び出し佐倉をけし掛け舞台は整った。

『島崎くんが好きです』

 物陰から様子を伺っていた俺達にもその震えるか細い声は届いた。

 その瞬間、言いしれぬ痛みが俺の胸を刺す。
 無理矢理言わされた言葉じゃない。佐倉は本心でその言葉を口にした。
 真っ赤な顔を俯けながら膝も肩もぷるぷると震わせ、今にも泣き出しそうな切ない顔で…。

 泣きたいのはこっちだ!
 何で好きな子の告白シーンを黙って見守らなきゃならない!?
 どんな罰ゲームだよ!!

『気持ち悪りぃんだよっ、二度とその面見せんなっ!』

 怒り心頭で佐倉を罵倒し去っていく島崎。予想通りの展開。周りの連中はゲラゲラと高笑いを始めた。
 後に引けない俺も一人、仄暗い笑いを張り付け佐倉に言った。

『今回はハルちゃんも頑張ったしなぁ。それに免じて、“佐倉波瑠はホモ”って噂だけにしといてやるよ』

 それでまたボッチになれ。孤独に苛まれズタボロになれよ。
 そしたらその後、俺が責任持って慰めてやる。

 ごめんなさいごめんなさいと顔をクシャクシャにして泣き喚く佐倉を見て、馬鹿にしたように笑う取り巻き達。その影に隠れて俺は、とんでもない間違いを犯したような不安にかられていた。
 佐倉はそれまでどんなに誂っても、どんなに弄り回しても、こんなに泣き喚く事は無かった。精々困り顔で小さな拒絶の言葉を吐くくらいだった。それなのに…。

『あーあ、サクラちゃん。そんなに島崎くんにフラレて悲しいの? …何なら、俺らが慰めてやろうか』

 取り巻きの一人がそう言いながら蹲り泣き続ける佐倉の肩に手を掛けた。

『おい止せよ! …お前らまでホモだと思われたいのか?』
『いっ、痛…っ!』

 その手を捻り上げるように引き剥がしたのは、ただ単に俺以外の誰にも佐倉に触るなという独占欲からだ。

『……ぐず、…も、もう、僕に…ぐず……か、構わないでよ!』

 涙と鼻水でクシャクシャになった顔で俺達を睨み付け、叫ぶようにそう言うとそのまま佐倉は走り去った。

『何だあれ? ギャハハハ』

 周りが爆笑する中、俺だけは激しい後悔に苛まれていた。
 佐倉が泣きながら口にした『ごめんなさい』の意味。あれは俺達に対してじゃない。……島崎に向けた謝罪の言葉だ。

 好きになって“ごめんなさい”
 告白なんかして“ごめんなさい”
 嫌な気持ちにさせて“ごめんなさい”

 今更気付いた。
 佐倉は絶対に俺を見ない。見る訳がない。
 佐倉にとって大切な人、島崎に傷を負わせた俺を許すはずがない。

 俺は最初から間違えてた。
 本当に好きなら、大事に想うなら。
 そっと寄り添い優しくすればよかったんだ。
 怖がりなあの子を無理矢理振り向かそうと、兎に角視界に入ろうと躍起になった挙げ句、ただただその柔らかい心を傷付けただけだった。




「ぅ…、く…」

「え"っ!? やだ何!? 何で泣くの!? 怖っ!!」

 あの後卒業式までの間、俺はもう佐倉にちょっかい掛けるのを止めた。仲間内で少しでも佐倉の話題を出されると『何お前、ホモ?』と嘲笑しながら牽制した。もう二度と誰かに…俺に、佐倉が傷付けられたりしないように。

「好きだったんだ…ょ…、ホントに…、」

「は…はぁ!? ちょっと……マジで大丈夫?」

 今ならわかる。あの時の佐倉の悲しい気持ち。
 好きな相手にフラれ、剰えそれを笑いの種にされた。嘸かし辛かっただろう…、悔しかっただろう…。
 あれから3年近く経った。俺も少しは大人になった。こうして久々に見た佐倉は、あの頃とちっとも変わってない。相変わらず可愛い。
 恋心…って、色褪せないんだな。
 お前もまだ、島崎を想ってるのか? …噂になるくらいの恋人がいるらしいじゃないか。そんな辛い恋なんて捨てちまえよ。

「……今度こそ、俺が幸せにしてやりたい」

「待って待って!! え!? いったいどうしちゃったの? ふ、冬樹くんっ?」

 そうだよ! 俺が佐倉を幸せにしてやればいいんだよ!
 あの時の事は謝るから、今度こそ俺を見てくれ。あの頃のガキだった俺じゃなく、今の俺をどうか!

「は…、ハルたん!!」

「ぁあ"!?」

 茶色のダッフルコートに一目散に駆け寄った。
 今度こそちゃんと気持ちを伝えるんだ!
 好きだ…って!付き合って欲しい…って!!

「ハルたん! お、俺っ!」
「ヒッ! ぅえ!?? なな…なな何!? えっ!? …っ、!」

「覚えてる!? 俺のこと! 藤田だよ、藤田冬樹!」
「ふ…っ、ふじっ、たくん!!? 」

 掴んだ肩は想像通り薄っぺらくて頼りない。うわ可愛っ!! こんなに間近にハルたん見るの初めてかも! 何このおっきな目。キラキラじゃん! ほっぺもぷくぷく! やべぇ!!滾る!!

「高校ん時はごめんねー? まさかこんな所で再会出来るなんて俺ちょーツイてる!」
「ああぁぁばばばば…、っ!」

 そうそう!これこれ!!このオドオドしたところが堪んなく嗜虐心を唆るんだよなぁ!!
 あばあば言っちゃってマジかわいーなぁ、もぉ!

「なになにぃ~? ハルたんも俺と再会出来て嬉しいのぉ? だよなぁ、俺とハルたんの仲だもんなぁ」
「ひひいぃぃ…っっ!!」

 やばっ!思わず抱き着いちゃった!
 この腕の中にすっぽり収まる感じ!いいね~、妄想通りだ!!
 しかも何かいい匂いするぅー!わぁ、舐め回してぇ!!

「ちょ、ちょっと冬樹くん!? 何してんの!?やめろよ、嫌がってるからー!!」

 ミツが騒ぐが知ったこっちゃねえ。
 あぁ…もう離さない!これ、俺のっ!!

「なぁ、ハルたん。俺さぁ、あれからずっとハルたんのこと、忘れた日なんてなかったよ?」
「ぁうぁうぁうう"ぅぅ!!!」

「こ、こらっ!離れ、ろってば!!」

 ちょこんと付いてる可愛らしい耳元に、そっと囁くように好きだと告げよう。

「俺さ…」 
「いいぃぃ……ゃ、やめ……っ」


「おいコラ、テメェ!! また何やらかした!!」


 バリッと腕の中から愛しい存在が引き剥がされた。
 っんに、すんだこの野郎!!

「ん、だテ…、…… メ……っ!」

「ったく! いい加減にしろ!人様の迷惑も考えろっていつも言ってんだろーーがっ!!」
「はっ!、はひぃぃっ!! ずび…、ずびばじぇ…んんっっ!」
 
 ダッフルコートを軽々と担いだその男は、恐ろしい勢いで俺に向き合い頭を下げた。

「すまなかった。…この愚図が手を煩わせたみたいだ。回収するから、どうか許してやってくれ」

「……へ、? あ、……ぅ、ん」
「島崎くんごめんね! こ、この人ちょっと頭オカシイだけだから! は、波留ちゃんを叱らないであげて!?」

「ーーー……ぁあ"?」

「「ヒィッ!!」」

 ミツの言葉に般若の顔で振り返った島崎に思わず悲鳴が出た。
 な…何こいつ。昔から圧の強いヤツだとは思ってたけど、こんなにおっかない顔した事あったったけ? え? ハルたん大丈夫なの?

「コイツは俺の周りをうろちょろ嗅ぎ回る悪質なストーカーだ。そのクセ愚図でトロいからすぐに周りに迷惑を掛けるとんでもねぇ野郎だ。あんたらも気をつけろよ」

「あ、あ! そ、そうだね! うん、気をつけるよ!ごめんね、島崎くんの手を煩わせて。その、もう連れてっていいから」
「な…っ! おい、ちょっと待て! 島崎…、お前。ハルたんに何する気だ!」

 このまま連れ去らせてたまるかっ!

「はあ? なんだ、その気色悪い呼び方は。…てか、アンタ誰だ?」
「おいっ! 忘れたのか!? 藤田だ、藤田!同じ高校だったろ!」

「え…っ!? 冬樹くん、この二人と知り合いだったの!?」

 俺と島崎は高校3年間、ずっと同じクラスだった。…まぁ、一方的に毛嫌いしてたから大した交流はなかったが。それでも3年間同じ教室で顔を突き合わせたんだ。忘れるはずがな……

「知らねーな。…何組?」

「「え……」」

 嘘だろ……。

「ああぁぁの、島崎くん……。ほ、本当に、覚えて、ないの?」
「……知らねぇ。藤田なんて居たか?」

 島崎に縦抱きされたままのハルたんは、信じられないものを見るように島崎の顔を覗き込んだ。
 うぉいっ!近い!!近すぎっ!!そんなに顔を近づけちゃダメっ!!

「何だ…。お前知ってるのか?」
「ほぇ!? …んゃ、え…っとぉ、そのぉ……」

 ハルたんがチラッと俺の顔を見た。やだ可愛い!もっと見て!
 喜色を浮かべる俺を島崎にも見られた。…お前には見られたくねぇ!俺はハルたんのきゃわわなお顔だけが見たいんだ!

「あー…もういいっ!」
「うにゅっ!?」

「ん、…なっ!!?」
「きゃ!」

 俺に向けたハルたんのぷにぷにほっぺをむんずと掴んだ島崎は、そのまま自分の方へと振り向かせ肩口へとハルたんの後頭部押し付けた。完全に俺からの視線をシャットアウトしやがった。
 何すんだよ!!ハルたんがフガフゴ言ってるじゃねーか!!
 
「うはっ!今日はツイてる!」

 隣のミツが俺の背中を、バシバシ叩きながら嬉しそうに呟いた。いてーよ!やめろ!
 外野もキャーキャー騒がしい。
 俺は目の前の光景が信じられず、間抜けにもぽかんと口を開けて呆けていた。
 何だ……これ。

「まぁ、藤田の事は覚えてねーけど、悪い事は言わねぇ。コイツの事はもう忘れろ。あんま近付かねぇ方が身の為だぞ」

「う………っ」

 最後に物凄い脅しとも取れる牽制をかまし、ダッフルコートのハルたんを縦抱きにしたまま「じゃあな」と去って行った。
 最後までハルたんの後頭部から島崎の手が外れることはなかった。


「俺は………、何を見せられたんだ」

「ちょっと冬樹くん!!アンタやるなぁ! 当て馬キャラ!? クッソ萌えたんだけど!」
「は…? へ?」

「いやキミ、いい仕事したぜ!ありがとう!!」
「んぇ、えぇ…?」

「今朝からあの二人ヤバくない!? もー!このままくっついちゃえばいいのにぃ!」
「やだぁ!あの二人はあのもだもだ感がいいんじゃない!?」

 な……、何なんだ…。これはいったい……。

「やぁ、キミ。中々面白い展開にしてくれてありがとう! あ、俺松前。松前孝宏っていいます。あの二人の友人でーす。 もしかしてキミ、高校時代波留ちゃんをイジメてた人? ほーんとキミ、グッジョブだよ!この調子でどんどん島崎を煽ってやって? よろしくねー!」

「は…? な、何だ、って? え…?」

 突然現れて訳の解らない事を捲し立てて手を振り去って行く男を見送ると、ミツがガシッと腕を掴んで叫んだ。

「いやーぁー!! 松前様ぁー!! ミツにも話し掛けて欲しかったーーっ!!」
「はぁあ!!?」
 
 ギュウギュウと馬鹿力で掴まれた腕が痛い。
 オイ!お前無駄に力が強いんだよっ!!

「もおっ!冬樹くんズルい! 松前様に話し掛けられるなんて羨ましい! おまけにあの噂の二人の知り合いだったなんて!聞いてないよ!?」
「な…っ!」

 まさか……。
 島崎の噂の彼氏……って。
 俺のハルたんだったのーーーっ!?

「……う、そ だろ」
「もぉもぉもぉ!! ズルいズルいぃ!」

 喚くミツを腕に振り下げたまま、俺は放心するしかなかった。









 腹にズンズンと響く重低音。
 レーザーのレインボーカラー。
 騒がしいクラブの片隅で今日も俺は安酒を煽る。

「もー、フッキー。そんなに落ち込まないの!ね!? その内フッキーにも可愛い彼氏が出来るよ? ほら、元気だそ!」
「まったく…。そんなに好きだったらイジメなんかしなきゃよかっただろ。どこの小学男子だよ。自業自得だ、バカ」

「ずび…っ、わか…て…んょ……、ずび…、そん、なの…ぅう……ずび…」

 エロいおトモダチとそのツレのミツに慰められて、失恋の悲しみに打ち拉がれていた。

「どんなにフッキーが波留ちゃんを好きでもさ、あの噂の二人は引き剥がせないよ? なんたってボクらみぃーんな、あの二人の味方だもん。…ごめんね」
「……ん…、も。いぃ…、ずび…、は、ハルたんが、ずび…、し…幸せ…なら…うぅ……」

 酒に呑まれ泣き言を言ってる内に本当に涙が出て止まらなくなった。
 好きだったんだ。……本当にハルたんが好きだったのに、くだらないプライドと子供染みた照れ隠しで最悪の結末を迎えてしまった。
 バカだ、俺。本当にバカだ……。

「でも…ぐずっ、す、すぎだったんだよおぉぉ…うわあぁぁぁぁあああん」

「はぁ…。ホント、バカ…」
「えぇ…フッキー。……ダサ」

 くそーーっ!!
 島崎のぶああぁーーかぁっ!!!
 俺のハルたんを泣かしたら、許さないからなぁぁぁ!!!
 うわああぁぁぁぁああん!!!






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