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第一章
思い出
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アキラくんとの出会い。
ケガで陸上選手を諦め、勉強に専念しようと毎日図書室に通って、いま一つ乗り切れずにいた頃の自分に、突然声をかけてきたあの人。
名前と顔くらいは知っていた。
高校からの編入組で、一年生時は、いつも成績発表時のトップを争っていた人だから。
でも、それだけの人だった。話したこともない。
「葛城さん、勉強をやめて、ちょっと気分転換しないか?」
「えっ?」
その時は、なぜか言われるままに、勉強を中断し、彼について行った。
校舎の最上階にある図書室だが、彼は更に屋上に続く階段を上っていく。
「行き止まりですよ?」
階段下から見上げる私に
「と、思うでしょ。僕にはコレがある」
ニコリと笑ったアキラくんの表情にドキリとした時に、きっと自分は恋に落ちたと思っている。
いや、図書室で爽やかに微笑みかけられた時かも。
上条アキラくんは、高校から学園に編入した来た数少ない生徒。特待生らしいと聞いた。
中肉中背、顔は眉が太く引き締まり鼻筋も通っている。
濃い顔立ちは、今風のイケメンとは少し違うかもしれないが、整った顔で笑うと嫌味なく爽やかだ。
あとで聞いた話では、亡くなった彼のおばあちゃんは「ハンサムだねぇ、アキラは」といつも褒めてくれたそうだ。ハンサムとは、あまり聞かない言葉だが、昔のイケメンにいう言葉らしい。
確かに、たまに亡くなった著名芸能人の若いころの映画映像などで出てきそうな顔かもしれない。
それゆえか、妙齢のご婦人方にいつもウケがいいそうだ。
まあ、そんな事には、関係なく「素敵」とその時に彼を感じたことは事実だ。
我ながら遅いと思うが、"初恋"なんだったと思う。
彼には、がさつな男子の雰囲気がない。爽やかで優しく、シュッとしてる。
アキラくんは、屋上に続くドアをそのカギで明け、私を屋上に連れ出してくれた。
そこは、五月の青空がいっぱいに広がり、丹沢の山々の緑が綺麗に見渡せる。その先にあるのは富士山だ。
「わあ! こうなってたんだ。教室からの眺めとちがう! 別な場所に来たみたい。」
「そうでしょう! まだそんなに暑くないし、日が長くなってきているから、空はまだまだ青くてここで過ごすと、気持ちいいよ! 最近、たまに来るんだ」
美奈子とアキラは、ポツリポツリと、とりとめのない雑談をしながら、風景を眺めた。
美奈子は、久々に少し心が晴れたら気がした。
「今日は、ここに連れてきてくれてありがとう。
でも、どうしてカギを持っているの?」
「うん、二年になって生徒会を手伝っていてね。たまたま。生徒会室に合いカギがあるのを見つけたんだ。
で、拝借しているわけ」
「わっ、いけないんだ。特待生がいいの?」
「やっ、本当にたまにだよ」
「今日も、たまに?」
「いや……今日は違うよ」
「違う?」
「うん、葛城さんに、ここの景色を見せたくて」
「えっ、わたしのため?」
「ためって言うか、僕の自己満足だけど。最近葛城さんが元気がないからさ」
「そうかなぁ」
確かに、二年生になってから物足りない日々が続いているのは確かだ。
それは、毎日トレーニングと勉強に精を出していた日々と比べたら。
そして、4月の模擬試験は、散々な結果だったのも事実。美奈子の心情を慮って、教師も親も何も言わなかったが。
「あのさ、葛城さんが陸上競技をやめたのは知っている。不幸な事故で大変だったと思う。
そんな時に、こんな事を言うのはどうかと思うけど、僕と一緒に生徒会選挙に出てくれませんか?」
「えぇっ!? 」
私は、その日一番の驚きの声をあげた。
そして、わたしは生徒会副会長候補として、アキラくんと共に生徒会選挙に立候補し、二位に大差をつけて当選した。
聖愛学園の生徒会は、中高一貫のため中学から生徒会に携わった生徒が、そのまま高校でも活動する場合が
多く、異例ではあったが、二人の抜群の成績の良さ、アキラの爽やかさ、美奈子の学園のアイドルと言えるほどの知名度と美貌に敵う相手はいなかつた。
聖愛学園生徒会は、三年の一学期までの活動だ。二学期から次期生徒会にバトンタッチされる。
秋の体育祭の引継ぎの際、前生徒会長と備品の確認をしている時に、カギの管理について教えられた。
カギ箱は、会長と顧問の先生が持つらしい。
「あの、屋上のカギもそうですか?」
「そうよ。当たり前でしょ…… ははあ、あの件ね。
何があったか、彼は絶対に教えてくれないけど、五月ごろに真剣な表情で屋上のカギを借りにきたのよね。
普通は断るんだけど、なんか凄い圧力と情熱を感じて、渡しちっゃた。
もしかして、屋上でくどかれた? 」
「あっ、いえそういうわけでは。」
「屋上はね、半年に一度柵が壊れたりしていないか、生徒会が点検しているの。
今年の春、彼にも手伝ってもらったら、景色に感動してたなぁ」
「ふふっ、なんだそういわけか。あの時だけ、妙に軽そうに言うからおかしいと思った」
「えっ、何?」
「なんでもないです。ありがとうございます。それじゃ、こちらの……」
アキラくんの優しい気づかいがわかって、私の恋心の温度は一層上がった。
生徒会活動は楽しかった。最初は彼に導かれ、やがては対等なパートナーとして組織を動かした。
秋の文化祭では、「屋上開放」を短期間ながら実現させた。二人の思い出の場を、皆にも体験してもらいたかったのだ。
生活に張りの出た私は、勉強も捗り、アキラくんと常にトップ争いをし、全国模試でも上位に入るようになった。
三年生になり、アキラくんとのコンビが終わった夏、彼は高原のペンションに泊りがけのバイトに行ってしまった。
彼の家庭環境ゆえ、仕方のない事ではあったが、つまらない夏休みになった。
そんな八月の終わり、帰ってきたアキラくんから夏祭りの花火の誘いがあり、花火を見上げる中、私たちは恋人同士になった。
その夜、薄暗い神社の境内で、たどたどしいキスを交わした。二人ともファーストキスだった。
「ねぇ、あらためて、一緒の大学に行こうよ。美奈子がいれば、僕はずっと頑張れる」
「うん。W大の推薦、簡単じゃないけど、私たちなら大丈夫」
そのまま、順調に行くはずだった。多少の難関はあったけれど、推薦も決まって。
私が、後夜祭でワガママを言わなければ。
「ねぇねぇ、生徒会室で一年間一緒に過ごしたけれど、彼氏彼女としてはではなかったわ。
後夜祭をあそこの窓から眺めよっましょっ ! 」
あんなことを言って行かなければ、アキラくんが盛り上がっちゃうこともなく、浜田先生に監視カメラで見つかることもなかった。
ケガで陸上選手を諦め、勉強に専念しようと毎日図書室に通って、いま一つ乗り切れずにいた頃の自分に、突然声をかけてきたあの人。
名前と顔くらいは知っていた。
高校からの編入組で、一年生時は、いつも成績発表時のトップを争っていた人だから。
でも、それだけの人だった。話したこともない。
「葛城さん、勉強をやめて、ちょっと気分転換しないか?」
「えっ?」
その時は、なぜか言われるままに、勉強を中断し、彼について行った。
校舎の最上階にある図書室だが、彼は更に屋上に続く階段を上っていく。
「行き止まりですよ?」
階段下から見上げる私に
「と、思うでしょ。僕にはコレがある」
ニコリと笑ったアキラくんの表情にドキリとした時に、きっと自分は恋に落ちたと思っている。
いや、図書室で爽やかに微笑みかけられた時かも。
上条アキラくんは、高校から学園に編入した来た数少ない生徒。特待生らしいと聞いた。
中肉中背、顔は眉が太く引き締まり鼻筋も通っている。
濃い顔立ちは、今風のイケメンとは少し違うかもしれないが、整った顔で笑うと嫌味なく爽やかだ。
あとで聞いた話では、亡くなった彼のおばあちゃんは「ハンサムだねぇ、アキラは」といつも褒めてくれたそうだ。ハンサムとは、あまり聞かない言葉だが、昔のイケメンにいう言葉らしい。
確かに、たまに亡くなった著名芸能人の若いころの映画映像などで出てきそうな顔かもしれない。
それゆえか、妙齢のご婦人方にいつもウケがいいそうだ。
まあ、そんな事には、関係なく「素敵」とその時に彼を感じたことは事実だ。
我ながら遅いと思うが、"初恋"なんだったと思う。
彼には、がさつな男子の雰囲気がない。爽やかで優しく、シュッとしてる。
アキラくんは、屋上に続くドアをそのカギで明け、私を屋上に連れ出してくれた。
そこは、五月の青空がいっぱいに広がり、丹沢の山々の緑が綺麗に見渡せる。その先にあるのは富士山だ。
「わあ! こうなってたんだ。教室からの眺めとちがう! 別な場所に来たみたい。」
「そうでしょう! まだそんなに暑くないし、日が長くなってきているから、空はまだまだ青くてここで過ごすと、気持ちいいよ! 最近、たまに来るんだ」
美奈子とアキラは、ポツリポツリと、とりとめのない雑談をしながら、風景を眺めた。
美奈子は、久々に少し心が晴れたら気がした。
「今日は、ここに連れてきてくれてありがとう。
でも、どうしてカギを持っているの?」
「うん、二年になって生徒会を手伝っていてね。たまたま。生徒会室に合いカギがあるのを見つけたんだ。
で、拝借しているわけ」
「わっ、いけないんだ。特待生がいいの?」
「やっ、本当にたまにだよ」
「今日も、たまに?」
「いや……今日は違うよ」
「違う?」
「うん、葛城さんに、ここの景色を見せたくて」
「えっ、わたしのため?」
「ためって言うか、僕の自己満足だけど。最近葛城さんが元気がないからさ」
「そうかなぁ」
確かに、二年生になってから物足りない日々が続いているのは確かだ。
それは、毎日トレーニングと勉強に精を出していた日々と比べたら。
そして、4月の模擬試験は、散々な結果だったのも事実。美奈子の心情を慮って、教師も親も何も言わなかったが。
「あのさ、葛城さんが陸上競技をやめたのは知っている。不幸な事故で大変だったと思う。
そんな時に、こんな事を言うのはどうかと思うけど、僕と一緒に生徒会選挙に出てくれませんか?」
「えぇっ!? 」
私は、その日一番の驚きの声をあげた。
そして、わたしは生徒会副会長候補として、アキラくんと共に生徒会選挙に立候補し、二位に大差をつけて当選した。
聖愛学園の生徒会は、中高一貫のため中学から生徒会に携わった生徒が、そのまま高校でも活動する場合が
多く、異例ではあったが、二人の抜群の成績の良さ、アキラの爽やかさ、美奈子の学園のアイドルと言えるほどの知名度と美貌に敵う相手はいなかつた。
聖愛学園生徒会は、三年の一学期までの活動だ。二学期から次期生徒会にバトンタッチされる。
秋の体育祭の引継ぎの際、前生徒会長と備品の確認をしている時に、カギの管理について教えられた。
カギ箱は、会長と顧問の先生が持つらしい。
「あの、屋上のカギもそうですか?」
「そうよ。当たり前でしょ…… ははあ、あの件ね。
何があったか、彼は絶対に教えてくれないけど、五月ごろに真剣な表情で屋上のカギを借りにきたのよね。
普通は断るんだけど、なんか凄い圧力と情熱を感じて、渡しちっゃた。
もしかして、屋上でくどかれた? 」
「あっ、いえそういうわけでは。」
「屋上はね、半年に一度柵が壊れたりしていないか、生徒会が点検しているの。
今年の春、彼にも手伝ってもらったら、景色に感動してたなぁ」
「ふふっ、なんだそういわけか。あの時だけ、妙に軽そうに言うからおかしいと思った」
「えっ、何?」
「なんでもないです。ありがとうございます。それじゃ、こちらの……」
アキラくんの優しい気づかいがわかって、私の恋心の温度は一層上がった。
生徒会活動は楽しかった。最初は彼に導かれ、やがては対等なパートナーとして組織を動かした。
秋の文化祭では、「屋上開放」を短期間ながら実現させた。二人の思い出の場を、皆にも体験してもらいたかったのだ。
生活に張りの出た私は、勉強も捗り、アキラくんと常にトップ争いをし、全国模試でも上位に入るようになった。
三年生になり、アキラくんとのコンビが終わった夏、彼は高原のペンションに泊りがけのバイトに行ってしまった。
彼の家庭環境ゆえ、仕方のない事ではあったが、つまらない夏休みになった。
そんな八月の終わり、帰ってきたアキラくんから夏祭りの花火の誘いがあり、花火を見上げる中、私たちは恋人同士になった。
その夜、薄暗い神社の境内で、たどたどしいキスを交わした。二人ともファーストキスだった。
「ねぇ、あらためて、一緒の大学に行こうよ。美奈子がいれば、僕はずっと頑張れる」
「うん。W大の推薦、簡単じゃないけど、私たちなら大丈夫」
そのまま、順調に行くはずだった。多少の難関はあったけれど、推薦も決まって。
私が、後夜祭でワガママを言わなければ。
「ねぇねぇ、生徒会室で一年間一緒に過ごしたけれど、彼氏彼女としてはではなかったわ。
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