13 / 102
第一章
見られていた逢瀬
しおりを挟む
H駅を出ると友介は、ふとバスだと身バレがあるが、タクシーならよいかと思いつき、美奈子に声をかけようと後ろ姿を追った。
「あれ?」美奈子は、H駅から路線バスで帰るはずがバスターミナルに向かわない。
(買い物なら、かえって都合がよいな)
後に続いて少し歩くと、美奈子は青いコンビニに入って行った。
追って店内に入ろうとして、友介は気づいた。
店内のレジカウンターにいるのは、北条アキラだ。
そういうことだったのだ。
美奈子は、店内をぶらぶらしながら、時にアキラと視線を合わせている。
友介は、少し離れ、遠目から青いコンビニを監視することにした。
暫くすると美奈子が外に出てきてスマホをいじっている。
ほどなく私服に着替えたアキラが現れ、二人は自然に手つないで雑踏に消えた。
もう、それを追う気にはなれなかった。
(ハハ、そういわけか。なんか一日デートして、勝手に楽しんでいい気になっていてバカだな、ボクは。
こんなキモイ脅迫中年と、ミナちゃんがデートを楽しむわけないじゃないか....
最初からわかっていたことだ)
(まあいいさ、そういう事ならアキラくんと会う時には、ボクの許可を取るという約束を破った償いをしてもらうだけだ)
「今日はおつかれさま」
「おつかれさま」
「そいえば、クラゲカレーの味聞いてない」
「クラゲ入ってた?」
「カレー味でわからぬ」
「ところでさ、デート楽しかった?」
「意外と楽しかったですよ」
「アキラくんとのデートだよ?」
「え」
「青いコンビニから手つないでデート」
「つけてたの」
「たまたま」
「サイテー」
「約束破る人こそサイテー」
「は」
「アキラと会うのは許可必要」
「あ」
「明日朝9時、A市〇×1丁目18-1 403号室」
「なにこれ」
「来ればわかる」
「ここかなぁ?……」
美奈子は、指定の住所に立った。入口のセキュリティもない古いマンションだ。
今日はカーディガンにワンピースと、かわいらしい服装をしている。
先生の怒りを少しでも和らげるためだ。
ポストを確認すると、「403 浜田」とある。
やはり浜田先生の自宅の様だ。
少しホッとしつつも、
美奈子は不安を抱えながら、エレベーターで4階にあがった。
403号室の前で呼び出しボタンを押そうとすると、
ガチャリ、ドアが開く。
先生だ。
「さっ、入って」
有無を言わせず、美少女は独身中年教師の部屋へと招き入れられた。
「おはよう。いやあ、昨日は参ったよ。
せっかくの楽しい彼女との一日を最後に台無しにされちゃってさ。」
「そういうわけでは。あの……」
「最初から、ボクとのデートはアキラくんのシフトが終わるまでの時間潰しだったというわけだね。まんまやとやられたよ」
「えっ、そんな、そんなつもりはなくてたまたま……」
「そうとも知らずに、ボクは結構楽しんでしまってね。
いやーっ、モテない男は、ちょっと優しくされるとつけあがるからさ。
気味悪かったでしょ、ニコニコしてて」
「そんなことないです。私も結構楽しかった……ホントです」
「無理しなくていいよ。口直しのデートの方が、何倍も楽しかったでしょ。
それにしても、ミナちゃん可愛い顔して、ひどい仕打ちするなぁ。
ボクはストーカーだし、脅迫する悪者だし、この程度は仕打ちのうちに入らないか。ごめーん」
友介が、妙に饒舌にまくしたてるのが不気味だ。
「そういうわけじゃ」
「まあいいや、今日はもう、一日おうちデートに付き合ってもらうって決めたから。
約束を破ったわけだから、償いもしてもらわないとね」
「おうちデート?」
その不気味な響きに美奈子は不吉なものを感じた。
「そう、このマンションは古いからさ、いま両隣が空き室なんだ。だから、少々声を出しても問題ない。
存分におうちデートを楽しめるわけ」
何をするのだろうか。
「わたし、帰ります」
美奈子は、咄嗟に踵を返そうとする。
「おっと、償いもしないで帰るのは、ダメだよぉ? 」
後ろから、友介に抱き留められる。
「それに、今日は見せたいものがあるんだ」
嫌な予感しかしないが、何だろうか。
美奈子は、ここで逃げても、結局は生徒会室の写真がある以上、悪あがきでしかないと、無理に納得した。
(仕方ない……)
「さあ、まずはクツを脱いで、こちらへ」
友介の部屋は、どうやら2DKのようで。リビングへ通された。
もうひと部屋は、寝室だろう。
リビングは、雑然としていた。壁にはびっしり本とDVDが棚に並び、フィギュアの類だろうか、ガラスのショーケースが見える。入りきらなかった本やDVD・ゲーム機などは片隅に積まれたままだ。
部屋の中心には大型テレビと、それを見るためか低いソファーが向かいに鎮座して、面積を占有している。
「見ての通りのオタク部屋。学園に就職した時から借りてるから、ここなんか20年分のオタクグッズの山さ。最近は電子書籍に切り替えたから、本があまり増えないのが救いかな。
適当に座ってよ。
と言っても、このソファーしか空間ないか」
オタ友教師は、早口でまくしたてる。
美奈子は、ため息を小さくついてソファーにちょこんと座る。
「コーヒー? 紅茶?」
「紅茶ですけど、私やりますよ」
「そうかい? 女の子にお茶淹れてもらうなんて、20年間一度も
なかったから、お願いしようかな」
「はい」
美奈子は、本心は友介に淹れてもらうのをソファで待つのが居心地が悪かったためだが、いそいそとダイニングに向かう。
ダイニングは、大急ぎで洗ったようで、食器が濡れた状態で積まれていた。
「いやあ、さすがにマズイかと今朝、久々に洗ったんだ。
で、紅茶は確かここに……」
「ありがとうございます。あっ!」
「ん?どうかした?」
「これ、カビてます」
「そっ、そうか。これ買ったの最近だと思ったけど……」
「消費期限三年前です」
「うっ、そうだったか。じゃあ、コーヒーなら」
「こちらは一年前ですね」
「ふぅっ、じゃっ、じゃあ、ペットボトルのお茶にしよう。これなら先週買ったばかりだし」
ダンボールから、まとめ買いした『へーい、お茶』を出す。
「はぁっ、せっかくミナちゃんにお茶を淹れてもらう夢が」
「いつの間に夢になったんですか? 」
ペットを開けて、美奈子はひと口飲んだところで、"見せたいもの"
が気になったが、とりあえずキモ友先生が食いつきそうな別な話題を振ってみる。
「大きなテレビですね」
「うん! これはね、4Kテレビで、SANYのBシリーズ。
48インチでは最高峰の画質を誇るんだ。
テレビ放送だけじゃなくて、ネット動画も高画質で……」
(しまった。全然わからないし。興味もない)
友介はオタク特有の知識の開陳が終わらなければ、喋り止まらないようだ。
「……というわけで。芝浦のRシリーズではなく、こいつにしたんだよ」
「スゴイデスネー」
やっと終わった。
「あれ?」美奈子は、H駅から路線バスで帰るはずがバスターミナルに向かわない。
(買い物なら、かえって都合がよいな)
後に続いて少し歩くと、美奈子は青いコンビニに入って行った。
追って店内に入ろうとして、友介は気づいた。
店内のレジカウンターにいるのは、北条アキラだ。
そういうことだったのだ。
美奈子は、店内をぶらぶらしながら、時にアキラと視線を合わせている。
友介は、少し離れ、遠目から青いコンビニを監視することにした。
暫くすると美奈子が外に出てきてスマホをいじっている。
ほどなく私服に着替えたアキラが現れ、二人は自然に手つないで雑踏に消えた。
もう、それを追う気にはなれなかった。
(ハハ、そういわけか。なんか一日デートして、勝手に楽しんでいい気になっていてバカだな、ボクは。
こんなキモイ脅迫中年と、ミナちゃんがデートを楽しむわけないじゃないか....
最初からわかっていたことだ)
(まあいいさ、そういう事ならアキラくんと会う時には、ボクの許可を取るという約束を破った償いをしてもらうだけだ)
「今日はおつかれさま」
「おつかれさま」
「そいえば、クラゲカレーの味聞いてない」
「クラゲ入ってた?」
「カレー味でわからぬ」
「ところでさ、デート楽しかった?」
「意外と楽しかったですよ」
「アキラくんとのデートだよ?」
「え」
「青いコンビニから手つないでデート」
「つけてたの」
「たまたま」
「サイテー」
「約束破る人こそサイテー」
「は」
「アキラと会うのは許可必要」
「あ」
「明日朝9時、A市〇×1丁目18-1 403号室」
「なにこれ」
「来ればわかる」
「ここかなぁ?……」
美奈子は、指定の住所に立った。入口のセキュリティもない古いマンションだ。
今日はカーディガンにワンピースと、かわいらしい服装をしている。
先生の怒りを少しでも和らげるためだ。
ポストを確認すると、「403 浜田」とある。
やはり浜田先生の自宅の様だ。
少しホッとしつつも、
美奈子は不安を抱えながら、エレベーターで4階にあがった。
403号室の前で呼び出しボタンを押そうとすると、
ガチャリ、ドアが開く。
先生だ。
「さっ、入って」
有無を言わせず、美少女は独身中年教師の部屋へと招き入れられた。
「おはよう。いやあ、昨日は参ったよ。
せっかくの楽しい彼女との一日を最後に台無しにされちゃってさ。」
「そういうわけでは。あの……」
「最初から、ボクとのデートはアキラくんのシフトが終わるまでの時間潰しだったというわけだね。まんまやとやられたよ」
「えっ、そんな、そんなつもりはなくてたまたま……」
「そうとも知らずに、ボクは結構楽しんでしまってね。
いやーっ、モテない男は、ちょっと優しくされるとつけあがるからさ。
気味悪かったでしょ、ニコニコしてて」
「そんなことないです。私も結構楽しかった……ホントです」
「無理しなくていいよ。口直しのデートの方が、何倍も楽しかったでしょ。
それにしても、ミナちゃん可愛い顔して、ひどい仕打ちするなぁ。
ボクはストーカーだし、脅迫する悪者だし、この程度は仕打ちのうちに入らないか。ごめーん」
友介が、妙に饒舌にまくしたてるのが不気味だ。
「そういうわけじゃ」
「まあいいや、今日はもう、一日おうちデートに付き合ってもらうって決めたから。
約束を破ったわけだから、償いもしてもらわないとね」
「おうちデート?」
その不気味な響きに美奈子は不吉なものを感じた。
「そう、このマンションは古いからさ、いま両隣が空き室なんだ。だから、少々声を出しても問題ない。
存分におうちデートを楽しめるわけ」
何をするのだろうか。
「わたし、帰ります」
美奈子は、咄嗟に踵を返そうとする。
「おっと、償いもしないで帰るのは、ダメだよぉ? 」
後ろから、友介に抱き留められる。
「それに、今日は見せたいものがあるんだ」
嫌な予感しかしないが、何だろうか。
美奈子は、ここで逃げても、結局は生徒会室の写真がある以上、悪あがきでしかないと、無理に納得した。
(仕方ない……)
「さあ、まずはクツを脱いで、こちらへ」
友介の部屋は、どうやら2DKのようで。リビングへ通された。
もうひと部屋は、寝室だろう。
リビングは、雑然としていた。壁にはびっしり本とDVDが棚に並び、フィギュアの類だろうか、ガラスのショーケースが見える。入りきらなかった本やDVD・ゲーム機などは片隅に積まれたままだ。
部屋の中心には大型テレビと、それを見るためか低いソファーが向かいに鎮座して、面積を占有している。
「見ての通りのオタク部屋。学園に就職した時から借りてるから、ここなんか20年分のオタクグッズの山さ。最近は電子書籍に切り替えたから、本があまり増えないのが救いかな。
適当に座ってよ。
と言っても、このソファーしか空間ないか」
オタ友教師は、早口でまくしたてる。
美奈子は、ため息を小さくついてソファーにちょこんと座る。
「コーヒー? 紅茶?」
「紅茶ですけど、私やりますよ」
「そうかい? 女の子にお茶淹れてもらうなんて、20年間一度も
なかったから、お願いしようかな」
「はい」
美奈子は、本心は友介に淹れてもらうのをソファで待つのが居心地が悪かったためだが、いそいそとダイニングに向かう。
ダイニングは、大急ぎで洗ったようで、食器が濡れた状態で積まれていた。
「いやあ、さすがにマズイかと今朝、久々に洗ったんだ。
で、紅茶は確かここに……」
「ありがとうございます。あっ!」
「ん?どうかした?」
「これ、カビてます」
「そっ、そうか。これ買ったの最近だと思ったけど……」
「消費期限三年前です」
「うっ、そうだったか。じゃあ、コーヒーなら」
「こちらは一年前ですね」
「ふぅっ、じゃっ、じゃあ、ペットボトルのお茶にしよう。これなら先週買ったばかりだし」
ダンボールから、まとめ買いした『へーい、お茶』を出す。
「はぁっ、せっかくミナちゃんにお茶を淹れてもらう夢が」
「いつの間に夢になったんですか? 」
ペットを開けて、美奈子はひと口飲んだところで、"見せたいもの"
が気になったが、とりあえずキモ友先生が食いつきそうな別な話題を振ってみる。
「大きなテレビですね」
「うん! これはね、4Kテレビで、SANYのBシリーズ。
48インチでは最高峰の画質を誇るんだ。
テレビ放送だけじゃなくて、ネット動画も高画質で……」
(しまった。全然わからないし。興味もない)
友介はオタク特有の知識の開陳が終わらなければ、喋り止まらないようだ。
「……というわけで。芝浦のRシリーズではなく、こいつにしたんだよ」
「スゴイデスネー」
やっと終わった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる