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第二章 王子様の家庭教師
第24話
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アンリ様をこてんぱんにした噂は魔法省中にあっという間に広まった。
中でも魔術師団内では、「天使・クリスティー嬢から婚約者を奪おうとする酷い姉」という、恐らく妹が蒔いたであろう不名誉な噂が飛び交っていた。
「研究棟の奴のまぐれだろ! 勝負!」
「クリスティー嬢の仇!」
「たのもーっ!」
なので次の日から代わる代わる魔術師団員たちがクリスティーの仇討ちにやって来た。
全員返り討ちにしていると、今度は自分の力を試したいと言って、道場破りのような人までやって来るようになった。
☆
「はははっ! 魔法騎士団でも、ミュリエルと手合わせしたいって奴いっぱいいるぜ?」
「……勘弁してよ」
いつもの裏庭。グレイがアドの試験対策に来て早々、そんな話を聞いて私は机に突っ伏した。
アドからもらった魔法石には相当の魔力がこめられているようで、おかげで助かっている。
「アドの試験対策もあるのに、邪魔されて迷惑なんですけど。あっ! むしろ、魔術師団の奴ら、それが目的!?」
ガタッと立ち上がり、拳を握った私にアドが真剣に言う。
「俺は、お前の戦い方、勉強になってる」
「へっ!?」
意外な言葉にアドを凝視する。
「んだよ、お前の目線、詠唱のタイミング、魔法陣の構築の仕方、無駄がなくて参考になるんだよ」
凝視する私の視線を逸らして、アドは少し照れ臭そうに言った。
そ、そんなこと思ってくれてたなんて!
(嬉しい!!)
アドの邪魔にだけはなりたくなくて、早急に魔術師たちを追っ払っていたけど、それが役に立っていたなんて!
ニコニコとアドを見ていると、呑気なグレイが爆弾を落とす。
「でも殿下は見てるだけで助けないんですねー」
ピシッ、とアドが固まる。
「殿下もミュリエルのこと、大事? なんですよね? 俺なら守ってやるけどなー」
「グ、グレイ!」
グレイは何にも考えないで言っているのだろう。アトが怖い顔で震えていた。
「グレイ! 私がアドに手出ししないでって言ったの! あの時のアンリ様との勝負がまぐれだって思われるのが嫌だったから!」
アドは「俺が守ってやるから安心しろ」と言ってくれたのに、それを断ったのは私だ。
「あ、そーなんだ。確かに、殿下に守られたらミュリエルの名誉に傷が付くよなー。魔法騎士団でもミュリエルの魔法を見たいって噂で持ちきりだからさー。魔術師団の奴らも今はミュリエルのこと見直してるみたいだし?」
私の説明にグレイはあっけらかんと笑って言った。
確かに、クリスティーの仇討ちがほとんどだった魔術師たちは、日に日に力試しで訪れる人が多くなっている。
(嬉しいような、複雑なような?)
雲の上の存在である、魔法騎士団でまで噂されていると知って恥ずかしい。
「……俺に守られて泣いてるような女じゃないんだよ、俺の家庭教師は!」
「うんうん、そうだよなー!」
アドの言葉にグレイはニコニコと返す。
ふわふわとしたグレイにアドはがっくりとしているようだった。
「アド、私のために色々ありがとね」
私に自信を取り戻させてくれて、その誇りさえ守ろうとしてくれている教え子に、私は心から感謝した。
「……感謝しているのは俺だ、ミュリエル」
そう言って顔を上げたアドの顔が凛々しくて、どきりとしてしまう。出会ったばかりの頃も、大人っぽいなとは思った。でも――――
(いつもの間にこんな「男の人」の顔をするようになったの……)
アドは確実に成長しているのだ。魔法も、心身も。
「さて! ミュリエルの戦い方を見て学んだ殿下には、次のステップに移りましょうか!」
パン、と手を叩いたグレイにハッとする。
「次のステップぅ?」
少し不服そうにグレイに目を向けたアドが怪訝そうに言った。
「そう! 魔法騎士団の試験は、一対一の実技試験と、現役の魔法騎士と組んで二対二でやる実技、どっちもやるんだ」
グレイの説明に、私もアドも口をポカンと開ける。
「……聞いてねえぞ」
「私、てっきり実力を見るための一対一だとばかり……」
「魔法騎士団は連携して戦うからな! 一緒に戦える奴かってのも重要なんだ。だからこっちの方は試験内容、開示されてないけどな~」
あっけらかんと笑ってグレイが言った。
「ちょ、ちょ、それ、私たちに教えて良いの!?」
「えー? 現役の魔法騎士団に聞けば誰でも知りうる内容だろ? 俺も兄貴から聞いたし。それに、聞いた所で簡単に対策出来る奴なんていないだろ? ミュリエル以外はなっ!」
焦る私に、グレイがさらっと凄いことを言った。
そもそも、魔法騎士団に聞ける環境なんて、グレイくらいだ。お兄様が騎士団長なのだから。
「う……確かに、グレイから魔法騎士団の戦い方を聞いてから考えてはいたけど、試験を突破してからのことだと……」
うぐっ、となる私にグレイは呑気に笑う。
「大丈夫、だいじょーぶ! 殿下とミュリエルなら出来るってー!」
「当然だ。聞かれないと答えられないことを教えてくれたお前のためにもやってみせるさ」
グレイの言葉にアドが不敵に笑って言った。
聞かれないと答えちゃいけない――――?
心配になった私がグレイを見ると、いつもの調子でニコニコ笑う彼が言った。
「俺、殿下とミュリエルには試験を突破して欲しいから」
中でも魔術師団内では、「天使・クリスティー嬢から婚約者を奪おうとする酷い姉」という、恐らく妹が蒔いたであろう不名誉な噂が飛び交っていた。
「研究棟の奴のまぐれだろ! 勝負!」
「クリスティー嬢の仇!」
「たのもーっ!」
なので次の日から代わる代わる魔術師団員たちがクリスティーの仇討ちにやって来た。
全員返り討ちにしていると、今度は自分の力を試したいと言って、道場破りのような人までやって来るようになった。
☆
「はははっ! 魔法騎士団でも、ミュリエルと手合わせしたいって奴いっぱいいるぜ?」
「……勘弁してよ」
いつもの裏庭。グレイがアドの試験対策に来て早々、そんな話を聞いて私は机に突っ伏した。
アドからもらった魔法石には相当の魔力がこめられているようで、おかげで助かっている。
「アドの試験対策もあるのに、邪魔されて迷惑なんですけど。あっ! むしろ、魔術師団の奴ら、それが目的!?」
ガタッと立ち上がり、拳を握った私にアドが真剣に言う。
「俺は、お前の戦い方、勉強になってる」
「へっ!?」
意外な言葉にアドを凝視する。
「んだよ、お前の目線、詠唱のタイミング、魔法陣の構築の仕方、無駄がなくて参考になるんだよ」
凝視する私の視線を逸らして、アドは少し照れ臭そうに言った。
そ、そんなこと思ってくれてたなんて!
(嬉しい!!)
アドの邪魔にだけはなりたくなくて、早急に魔術師たちを追っ払っていたけど、それが役に立っていたなんて!
ニコニコとアドを見ていると、呑気なグレイが爆弾を落とす。
「でも殿下は見てるだけで助けないんですねー」
ピシッ、とアドが固まる。
「殿下もミュリエルのこと、大事? なんですよね? 俺なら守ってやるけどなー」
「グ、グレイ!」
グレイは何にも考えないで言っているのだろう。アトが怖い顔で震えていた。
「グレイ! 私がアドに手出ししないでって言ったの! あの時のアンリ様との勝負がまぐれだって思われるのが嫌だったから!」
アドは「俺が守ってやるから安心しろ」と言ってくれたのに、それを断ったのは私だ。
「あ、そーなんだ。確かに、殿下に守られたらミュリエルの名誉に傷が付くよなー。魔法騎士団でもミュリエルの魔法を見たいって噂で持ちきりだからさー。魔術師団の奴らも今はミュリエルのこと見直してるみたいだし?」
私の説明にグレイはあっけらかんと笑って言った。
確かに、クリスティーの仇討ちがほとんどだった魔術師たちは、日に日に力試しで訪れる人が多くなっている。
(嬉しいような、複雑なような?)
雲の上の存在である、魔法騎士団でまで噂されていると知って恥ずかしい。
「……俺に守られて泣いてるような女じゃないんだよ、俺の家庭教師は!」
「うんうん、そうだよなー!」
アドの言葉にグレイはニコニコと返す。
ふわふわとしたグレイにアドはがっくりとしているようだった。
「アド、私のために色々ありがとね」
私に自信を取り戻させてくれて、その誇りさえ守ろうとしてくれている教え子に、私は心から感謝した。
「……感謝しているのは俺だ、ミュリエル」
そう言って顔を上げたアドの顔が凛々しくて、どきりとしてしまう。出会ったばかりの頃も、大人っぽいなとは思った。でも――――
(いつもの間にこんな「男の人」の顔をするようになったの……)
アドは確実に成長しているのだ。魔法も、心身も。
「さて! ミュリエルの戦い方を見て学んだ殿下には、次のステップに移りましょうか!」
パン、と手を叩いたグレイにハッとする。
「次のステップぅ?」
少し不服そうにグレイに目を向けたアドが怪訝そうに言った。
「そう! 魔法騎士団の試験は、一対一の実技試験と、現役の魔法騎士と組んで二対二でやる実技、どっちもやるんだ」
グレイの説明に、私もアドも口をポカンと開ける。
「……聞いてねえぞ」
「私、てっきり実力を見るための一対一だとばかり……」
「魔法騎士団は連携して戦うからな! 一緒に戦える奴かってのも重要なんだ。だからこっちの方は試験内容、開示されてないけどな~」
あっけらかんと笑ってグレイが言った。
「ちょ、ちょ、それ、私たちに教えて良いの!?」
「えー? 現役の魔法騎士団に聞けば誰でも知りうる内容だろ? 俺も兄貴から聞いたし。それに、聞いた所で簡単に対策出来る奴なんていないだろ? ミュリエル以外はなっ!」
焦る私に、グレイがさらっと凄いことを言った。
そもそも、魔法騎士団に聞ける環境なんて、グレイくらいだ。お兄様が騎士団長なのだから。
「う……確かに、グレイから魔法騎士団の戦い方を聞いてから考えてはいたけど、試験を突破してからのことだと……」
うぐっ、となる私にグレイは呑気に笑う。
「大丈夫、だいじょーぶ! 殿下とミュリエルなら出来るってー!」
「当然だ。聞かれないと答えられないことを教えてくれたお前のためにもやってみせるさ」
グレイの言葉にアドが不敵に笑って言った。
聞かれないと答えちゃいけない――――?
心配になった私がグレイを見ると、いつもの調子でニコニコ笑う彼が言った。
「俺、殿下とミュリエルには試験を突破して欲しいから」
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