落ちこぼれ魔術師なのに、王子殿下の家庭教師に任命されまして〜なぜ年下殿下から甘く口説かれているのでしょう?〜

海空里和

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第二章 王子様の家庭教師

第27話

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 魔法騎士団は国の要のため、セキュリティが厳重だ。

 魔法省の入口は通るが、すぐに別棟に分かれる。別の建物とも言えるほど広くて大きい。精鋭少数なのに有り余るこの建物の敷地面積にほとんど割かれているのが、訓練場らしい。

 らしい、というのは噂を聞くだけで実際に見たことが無いから。私は納品で入口までしか来たことがない。イリスも応接室まで通されるが、その先にあると言われる深淵には足を踏み入れたことは無いらしい。グレイ曰く、「すっげー広くて存分に魔法をぶっ放したり出来る!」場所らしい。

 アドとイリスとは別れ、騎士団長様の後ろを付いていく。緊張で足が震えるが、グレイが一緒なのが心強い。それに――

『俺の家庭教師はスゴイんだってこと、魔法騎士団の連中にも見せつけてこい』

 私はアドの言葉を反芻しながら、ネックレスの魔法石をギュッと握りしめた。

「こちらです」

 随分と歩いた先に、扉が一つあった。騎士団長様がその扉を開けると、大きく開かれた空が見え、だだっ広い砂の地面が広がる。

「えっ!? 外!?」

 魔法騎士団の建物内を移動していたはずなのに、いきなり開かれた外に私は驚く。

「ここ、開閉式の屋根があるんだよ。晴れの日はこうして屋根が開かれてるんだよ。気持ちいいからだなー」

 私の隣でグレイが頭の後ろで手を組みながら説明する。

「魔法騎士団は外での戦闘になりますので、訓練時はだいたい開け放してあります。雨の日もね」

 グレイの適当な説明に付け足すかのように騎士団長様がくすりと笑いながら教えてくれた。

「うわ~~」

 研究棟の裏庭とも、騎士団の訓練場とも比較ならない広さと設備に圧倒される。

「入団試験もここでやるんだよなー」
「!?」

 またしれっと情報を漏らすグレイに、瞬時に目で訴えるも、彼には通じない。

 のほほん、と構えるグレイに対して、騎士団長様も聞いていないフリをしてくれていた。

「団長、その方ですか?」
「うわ、本当に緑のローブだ!」
「あれ? この人、納品でグレイの婚約者とよく一緒に来る人じゃない?」

 そうこうしているうちに、ぞろぞろと金色のローブをまとった魔法騎士団員たちがやって来た。

「女の人はいないんだね」

 魔法と剣術に優れた集団なのでいるはずがないが、つい独り言ちてしまう。

「危険な魔物討伐が多いから、前線にはなかなか、ね」

 騎士団長様が眉尻を下げて困ったように笑う。

 優秀な魔術師団の魔術師だって前には出ない。後方で援護するくらいだ。そんな彼らには魔法具が配られるのに、それよりも前に出る騎士団には配られない現状を思い、腹が立つが、今日はそんなことに腹を立てている場合ではない。

「魔法騎士団の中でも魔法に長けていて、ミュリエル嬢と手合わせをしたいという志願者を募った」
「多すぎてジャンケン選抜だったけどな」

 騎士団長様の説明にグレイが付け足す。

「今日はよろしくお願いいたします!」

 選抜されたらしい人が元気よく挨拶してくれた。

「それより、ギャラリー多くない?」

 気付けば、多くの魔法騎士団員たちが訓練場に集まって来ていた。

「非番の奴ら皆来たみないだなあ」
「ええええ……」

 一気に緊張が増す。

 お忙しいはずの騎士団長様は最後まで立ち会ってくれるらしく、号令を出す。

 だだっ広い訓練場の真ん中まで騎士団長様の魔法でヒュンッと連れて行ってもらう。瞬時の移動を顔色も変えずについてくる対戦相手も、相当な魔力量の持ち主で実力者だろう。

 私はゴクリと喉を鳴らし、彼に向き合った。

「剣術は無し。魔法だけの手合わせだ」
「はい!」

 団長様が前に手を出し、改めて説明をする。元気よく返事をする彼。その力強さに圧倒されそうになる。

「ミュリエル~! 俺、お前は魔法騎士団の中でも一番の魔法の使い手だと思うぞ~! 頑張れ~!」

 グレイが遠くからとんでもないことを叫んだので、私は身体がピャッとなる。

 ギャラリーの魔法騎士団員たちが一斉にグレイを見て、様々な表情をしていた。

 嘘だろ? という驚きの顔。何言ってんだ、流石に……の呆れ顔。マジで? という好奇に満ちた顔。

(グ、グレイ~!)

 とんでもなくハードルを上げられ、心臓の音が煩くなる。

「……殿下は随分と魔法を扱えるようになったようだ。あなたの教えが良いんでしょうね」

 心臓の音に押しつぶされそうな私に騎士団長様がにっこりと微笑んで語りかけた。

 私は顔を上げる。

『俺の家庭教師はスゴイんだってこと、魔法騎士団の連中にも見せつけてこい』

(うん……)

 私はネックレスの魔法石を握りしめる。

(私はアドの家庭教師として無様な姿を見せるわけにはいかない。来月、ここに試験を受けに来る彼のためにも)

 私の表情を見た騎士団長様がふ、と口元を緩めて私を見た。

(あ――――)

 さすが魔法騎士団を率いる団長様。私の緊張を解いてくれたのだ。

「始めっ!」

 もう下を向かない。私は、自分が積み重ねて来たものを信じるだけだ。アドにもそうなって欲しい。

 団長様の号令に、目の前で詠唱を唱える対戦相手を真っ直ぐに見据えると、私もすぐに魔法陣の構築を始めた。
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