27 / 43
第二章 王子様の家庭教師
第27話
しおりを挟む
魔法騎士団は国の要のため、セキュリティが厳重だ。
魔法省の入口は通るが、すぐに別棟に分かれる。別の建物とも言えるほど広くて大きい。精鋭少数なのに有り余るこの建物の敷地面積にほとんど割かれているのが、訓練場らしい。
らしい、というのは噂を聞くだけで実際に見たことが無いから。私は納品で入口までしか来たことがない。イリスも応接室まで通されるが、その先にあると言われる深淵には足を踏み入れたことは無いらしい。グレイ曰く、「すっげー広くて存分に魔法をぶっ放したり出来る!」場所らしい。
アドとイリスとは別れ、騎士団長様の後ろを付いていく。緊張で足が震えるが、グレイが一緒なのが心強い。それに――
『俺の家庭教師はスゴイんだってこと、魔法騎士団の連中にも見せつけてこい』
私はアドの言葉を反芻しながら、ネックレスの魔法石をギュッと握りしめた。
「こちらです」
随分と歩いた先に、扉が一つあった。騎士団長様がその扉を開けると、大きく開かれた空が見え、だだっ広い砂の地面が広がる。
「えっ!? 外!?」
魔法騎士団の建物内を移動していたはずなのに、いきなり開かれた外に私は驚く。
「ここ、開閉式の屋根があるんだよ。晴れの日はこうして屋根が開かれてるんだよ。気持ちいいからだなー」
私の隣でグレイが頭の後ろで手を組みながら説明する。
「魔法騎士団は外での戦闘になりますので、訓練時はだいたい開け放してあります。雨の日もね」
グレイの適当な説明に付け足すかのように騎士団長様がくすりと笑いながら教えてくれた。
「うわ~~」
研究棟の裏庭とも、騎士団の訓練場とも比較ならない広さと設備に圧倒される。
「入団試験もここでやるんだよなー」
「!?」
またしれっと情報を漏らすグレイに、瞬時に目で訴えるも、彼には通じない。
のほほん、と構えるグレイに対して、騎士団長様も聞いていないフリをしてくれていた。
「団長、その方ですか?」
「うわ、本当に緑のローブだ!」
「あれ? この人、納品でグレイの婚約者とよく一緒に来る人じゃない?」
そうこうしているうちに、ぞろぞろと金色のローブをまとった魔法騎士団員たちがやって来た。
「女の人はいないんだね」
魔法と剣術に優れた集団なのでいるはずがないが、つい独り言ちてしまう。
「危険な魔物討伐が多いから、前線にはなかなか、ね」
騎士団長様が眉尻を下げて困ったように笑う。
優秀な魔術師団の魔術師だって前には出ない。後方で援護するくらいだ。そんな彼らには魔法具が配られるのに、それよりも前に出る騎士団には配られない現状を思い、腹が立つが、今日はそんなことに腹を立てている場合ではない。
「魔法騎士団の中でも魔法に長けていて、ミュリエル嬢と手合わせをしたいという志願者を募った」
「多すぎてジャンケン選抜だったけどな」
騎士団長様の説明にグレイが付け足す。
「今日はよろしくお願いいたします!」
選抜されたらしい人が元気よく挨拶してくれた。
「それより、ギャラリー多くない?」
気付けば、多くの魔法騎士団員たちが訓練場に集まって来ていた。
「非番の奴ら皆来たみないだなあ」
「ええええ……」
一気に緊張が増す。
お忙しいはずの騎士団長様は最後まで立ち会ってくれるらしく、号令を出す。
だだっ広い訓練場の真ん中まで騎士団長様の魔法でヒュンッと連れて行ってもらう。瞬時の移動を顔色も変えずについてくる対戦相手も、相当な魔力量の持ち主で実力者だろう。
私はゴクリと喉を鳴らし、彼に向き合った。
「剣術は無し。魔法だけの手合わせだ」
「はい!」
団長様が前に手を出し、改めて説明をする。元気よく返事をする彼。その力強さに圧倒されそうになる。
「ミュリエル~! 俺、お前は魔法騎士団の中でも一番の魔法の使い手だと思うぞ~! 頑張れ~!」
グレイが遠くからとんでもないことを叫んだので、私は身体がピャッとなる。
ギャラリーの魔法騎士団員たちが一斉にグレイを見て、様々な表情をしていた。
嘘だろ? という驚きの顔。何言ってんだ、流石に……の呆れ顔。マジで? という好奇に満ちた顔。
(グ、グレイ~!)
とんでもなくハードルを上げられ、心臓の音が煩くなる。
「……殿下は随分と魔法を扱えるようになったようだ。あなたの教えが良いんでしょうね」
心臓の音に押しつぶされそうな私に騎士団長様がにっこりと微笑んで語りかけた。
私は顔を上げる。
『俺の家庭教師はスゴイんだってこと、魔法騎士団の連中にも見せつけてこい』
(うん……)
私はネックレスの魔法石を握りしめる。
(私はアドの家庭教師として無様な姿を見せるわけにはいかない。来月、ここに試験を受けに来る彼のためにも)
私の表情を見た騎士団長様がふ、と口元を緩めて私を見た。
(あ――――)
さすが魔法騎士団を率いる団長様。私の緊張を解いてくれたのだ。
「始めっ!」
もう下を向かない。私は、自分が積み重ねて来たものを信じるだけだ。アドにもそうなって欲しい。
団長様の号令に、目の前で詠唱を唱える対戦相手を真っ直ぐに見据えると、私もすぐに魔法陣の構築を始めた。
魔法省の入口は通るが、すぐに別棟に分かれる。別の建物とも言えるほど広くて大きい。精鋭少数なのに有り余るこの建物の敷地面積にほとんど割かれているのが、訓練場らしい。
らしい、というのは噂を聞くだけで実際に見たことが無いから。私は納品で入口までしか来たことがない。イリスも応接室まで通されるが、その先にあると言われる深淵には足を踏み入れたことは無いらしい。グレイ曰く、「すっげー広くて存分に魔法をぶっ放したり出来る!」場所らしい。
アドとイリスとは別れ、騎士団長様の後ろを付いていく。緊張で足が震えるが、グレイが一緒なのが心強い。それに――
『俺の家庭教師はスゴイんだってこと、魔法騎士団の連中にも見せつけてこい』
私はアドの言葉を反芻しながら、ネックレスの魔法石をギュッと握りしめた。
「こちらです」
随分と歩いた先に、扉が一つあった。騎士団長様がその扉を開けると、大きく開かれた空が見え、だだっ広い砂の地面が広がる。
「えっ!? 外!?」
魔法騎士団の建物内を移動していたはずなのに、いきなり開かれた外に私は驚く。
「ここ、開閉式の屋根があるんだよ。晴れの日はこうして屋根が開かれてるんだよ。気持ちいいからだなー」
私の隣でグレイが頭の後ろで手を組みながら説明する。
「魔法騎士団は外での戦闘になりますので、訓練時はだいたい開け放してあります。雨の日もね」
グレイの適当な説明に付け足すかのように騎士団長様がくすりと笑いながら教えてくれた。
「うわ~~」
研究棟の裏庭とも、騎士団の訓練場とも比較ならない広さと設備に圧倒される。
「入団試験もここでやるんだよなー」
「!?」
またしれっと情報を漏らすグレイに、瞬時に目で訴えるも、彼には通じない。
のほほん、と構えるグレイに対して、騎士団長様も聞いていないフリをしてくれていた。
「団長、その方ですか?」
「うわ、本当に緑のローブだ!」
「あれ? この人、納品でグレイの婚約者とよく一緒に来る人じゃない?」
そうこうしているうちに、ぞろぞろと金色のローブをまとった魔法騎士団員たちがやって来た。
「女の人はいないんだね」
魔法と剣術に優れた集団なのでいるはずがないが、つい独り言ちてしまう。
「危険な魔物討伐が多いから、前線にはなかなか、ね」
騎士団長様が眉尻を下げて困ったように笑う。
優秀な魔術師団の魔術師だって前には出ない。後方で援護するくらいだ。そんな彼らには魔法具が配られるのに、それよりも前に出る騎士団には配られない現状を思い、腹が立つが、今日はそんなことに腹を立てている場合ではない。
「魔法騎士団の中でも魔法に長けていて、ミュリエル嬢と手合わせをしたいという志願者を募った」
「多すぎてジャンケン選抜だったけどな」
騎士団長様の説明にグレイが付け足す。
「今日はよろしくお願いいたします!」
選抜されたらしい人が元気よく挨拶してくれた。
「それより、ギャラリー多くない?」
気付けば、多くの魔法騎士団員たちが訓練場に集まって来ていた。
「非番の奴ら皆来たみないだなあ」
「ええええ……」
一気に緊張が増す。
お忙しいはずの騎士団長様は最後まで立ち会ってくれるらしく、号令を出す。
だだっ広い訓練場の真ん中まで騎士団長様の魔法でヒュンッと連れて行ってもらう。瞬時の移動を顔色も変えずについてくる対戦相手も、相当な魔力量の持ち主で実力者だろう。
私はゴクリと喉を鳴らし、彼に向き合った。
「剣術は無し。魔法だけの手合わせだ」
「はい!」
団長様が前に手を出し、改めて説明をする。元気よく返事をする彼。その力強さに圧倒されそうになる。
「ミュリエル~! 俺、お前は魔法騎士団の中でも一番の魔法の使い手だと思うぞ~! 頑張れ~!」
グレイが遠くからとんでもないことを叫んだので、私は身体がピャッとなる。
ギャラリーの魔法騎士団員たちが一斉にグレイを見て、様々な表情をしていた。
嘘だろ? という驚きの顔。何言ってんだ、流石に……の呆れ顔。マジで? という好奇に満ちた顔。
(グ、グレイ~!)
とんでもなくハードルを上げられ、心臓の音が煩くなる。
「……殿下は随分と魔法を扱えるようになったようだ。あなたの教えが良いんでしょうね」
心臓の音に押しつぶされそうな私に騎士団長様がにっこりと微笑んで語りかけた。
私は顔を上げる。
『俺の家庭教師はスゴイんだってこと、魔法騎士団の連中にも見せつけてこい』
(うん……)
私はネックレスの魔法石を握りしめる。
(私はアドの家庭教師として無様な姿を見せるわけにはいかない。来月、ここに試験を受けに来る彼のためにも)
私の表情を見た騎士団長様がふ、と口元を緩めて私を見た。
(あ――――)
さすが魔法騎士団を率いる団長様。私の緊張を解いてくれたのだ。
「始めっ!」
もう下を向かない。私は、自分が積み重ねて来たものを信じるだけだ。アドにもそうなって欲しい。
団長様の号令に、目の前で詠唱を唱える対戦相手を真っ直ぐに見据えると、私もすぐに魔法陣の構築を始めた。
77
あなたにおすすめの小説
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜
禅
恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。
だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。
自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。
しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で……
※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています
※完結まで毎日投稿します
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
阿里
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる