捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで

海空里和

文字の大きさ
21 / 42

20. 帝都到着

しおりを挟む
 六日目、やっと帝都に到着した。

 オルレアン帝国の中心に位置する帝都は大きく、お昼前には検問を通ったのに、中心部に辿り着く頃には日が沈みかけていた。

 帝都は今まで通ってきた土地とは違い、夜が近いのに、まだまだこれからだと言わんばかりに活気に満ちていた。

「帝都はアパタイト様が住んでいらっしゃるし、城壁で囲まれているので安全なんですよ。ただ、さすがに0時を過ぎると見回りの騎士しか街にはいませんが」

 馬車の窓から外を眺める私に、ユリスさんが説明してくれた。

「それに……アデリーナちゃんがいるから大丈夫、でしょ?」
「はい」

 眉を下げて笑うユリスさんに、私もはは、と笑った。

「魔物が出ないはずだよね」

 ぽつりと言ったユリスさんに、申し訳なく思った。

「すみません。まだ私の周りしか浄化できる状態じゃなくて……。でも帝都で一か月くらいかければオルレアンの瘴気は浄化できると思いますので……」
「そんな! 謝らないで! こちらこそ、アデリーナちゃんがオルレアンのために力を使ってくれるなんて、感謝しかないんだから! それなのに、何も返せなくて……」

 ユリスさんがしょぼ、とする。

「そんな! この国に受け入れてもらえて、住むところや仕事ももらえて、感謝しています!」

 ね? とオーウェンとミアに顔をやれば、二人ともうわの空で返事をしていた。

 帝都に入ってから、二人の口数が明らかに減っている。……ミアは元々喋らない方だったけども。

 何とも言えない二人の様子に、私も黙ってしまった。

「ねえ、仕事だけどさ、騎士団のことはいいから、アデリーナちゃんは浄化に専念できるように取り図ろうか?」

 ユリスさんの提案に、私は思慮する。

 ラヴァルでは寝ずに浄化にあたっていた日もあったことを思えば、その方が良いのかもしれない。

「でも……魔物の討伐をしなくて良くなるまでは、騎士に怪我人が出るかもしれませんよね。エクトルさんの体調も心配だし……。アパタイトに聖魔法をもらうことで、騎士団での役割もあると思うんです」
「アデリーナちゃん……。まったく、君って子は……」

 ユリスさんは溜息混じりに笑った。

「……お嬢は目の前の全部を助けようとしますからね」

 黙りこくっていたオーウェンが呆れたように言った。

「ちょっと、オーウェン?」

 いつもの彼らしさに安堵しつつも、彼を睨む。

「はは。アデリーナちゃんはやっぱり変わってないなあ。団長も驚くだろうな」
「エクトルさん?」
「……団長は女嫌いなんだ」
「えっ!?」

 少し言い辛そうに、ユリスさんが眉を下げて言った。

「……これは帝国内で有名な話だから、変に君に伝わる前に話しておきたいと思う」
「私も聞いていいんですか?」

 真剣な表情のユリスさんに、ミアが会話に入る。

「言っただろ? これは有名な話だって。ミアちゃんにも聞いて欲しい。オーウェン、お前もだ」

 二人に順番に目線を向けたユリスさんに、ミアはこくんと頷き、オーウェンはそっぽを向いた。

 オーウェンのその様子に苦笑いしつつも、ユリスさんはエクトルさんが女嫌いになった理由を話し始めた。

 ユリスさんの話に、私は心が痛んだ。

 国のためにその身を捧げてきたのに、婚約者に裏切られた姿が、自分と重なる。

「ねえ、アデリーナちゃんなら、団長の身体を治せるかな?」

 一通り話し終えたユリスさんが、縋るような目で私を見た。

 それは、私も考えていたことだった。

 私の浄化の力と、アパタイトから貰う聖魔法の力で、エクトルさんの足に溜まった瘴気を浄化できた。

 あの時、エクトルさんの襟の隙間から見えた、鎖骨の黒い染み。首に伸びかけていた。

 エクトルさんがどこまで瘴気に蝕まれているのかわからない。でも――。

「私の力がどこまで及ぶかわかりませんが、アパタイトに力を借りて、私もエクトルさんを助けたいと思っていました」
「アデリーナちゃん……!」

 ユリスさんの表情で、エクトルさんがどんなに慕われているのかがわかった。
 元婚約者からは酷い目にあったかもしれない。でも、ユリスさんのように理解してくれる人がエクトルさんの側にいて良かったと思う。私にオーウェンがいたように。

 オーウェンの方を見れば、彼はぶすっとして、そっぽを向いたままだった。

「あの、ユリスさん、私の呼び方、リーナでお願いします。ミアもそのままでね?」
「えっ、でも、もう君の正体は隠しておけないよ? もちろん、君を罪人として扱うことはない。君は皇弟殿下の命の恩人なんだから」

 困惑するユリスさんに、私は頷いて言った。

「はい、わかっています。もう正体を隠そうなんて思いません。ただ、アデリーナ・エルノーは国外追放されました。その名前は忘れて、この国で新しい生活をしていきたいんです」

 しっかりとユリスさんの目を見て私は言った。

 オルレアンを浄化したら、この国の田舎でひっそりと暮らしたい。その願いは変わっていない。

 この黒く染まっていく気味の悪い髪が、人目につくことなく、穏やかに。

 オーウェンにも、復讐なんて忘れて、ついてきて欲しい。

「……わかったよ、リーナちゃん」

 ユリスさんは息を吐くと、困ったように笑った。

 話が終わったところで、タイミングよく馬車が止まった。

 「ああ、騎士団本部に着いたね」

 そう言って先にユリスさんが馬車から降りた。

 私とミアは彼に補助してもらい、馬車から降りる。

 目の前には大きな建物。まるで一つのお城のような騎士団本部がそびえたっていた。

「はー、さすが帝国ね」
「……そうですね」

 建物を見上げる私の横でミアも返事をした。

「ここまで来たからには大丈夫だからね?」
「あなたって……いや、はい、そうですね」

 不安そうなミアに声をかければ、彼女は途中で言葉をやめてしまった。

 いまだ名前の無い赤ん坊をぎゅっと抱きしめるミアの肩に私はそっと触れて、何も言わなかった。

「……師匠、どうしてお嬢にあんな話をしたんですか?」
「言ったろ、団長は女嫌いだって。でも、リーナちゃんに対する態度が明らかに違った。……私は、団長に幸せになってもらいたいんだよ、オーウェン?」
「だからって……あんな話を聞いたらお嬢は……」
「団長を放っておけなくなるって? それこそ、私の狙いだよ。お前にはミアちゃんという真に守るべき相手がいる。この国でリーナちゃんを守るのに、団長ほど適した人物はいないだろ?」
「――――っ!」

 いつまでも馬車から降りてこないオーウェンを心配して振り返れば、後ろでユリスさんと何やら話をしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

どちらの王妃でも問題ありません【完】

mako
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。 そんな中、巨大化し過ぎた帝国は 王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。 争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。 両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。 しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。 長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。 兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。 この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。 生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。 そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが… 両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。 そして時が過ぎて… 私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが… レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。 これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。 私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。 私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが… そんな物は存在しないと言われました。 そうですか…それが答えなんですね? なら、後悔なさって下さいね。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~

岡暁舟
恋愛
 名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

処理中です...