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そりゃそうです
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カスガは次の日もタヌキ食堂に顔を出しました。
「タヌキ食堂へようこそー。いらっしゃい、カスガさん」
「ああ、こんにちは。又来ました」
カスガは、この間と同じ席に座りました。
すると、間もなくトガリネズミのトンガがやってきました。
「やあ、カスガ。二日ぶりですね」
「ええ。トンガは昨日も来ていましたか」
「私は子供たちが奥さんと遊びに行ったのを見計らってほぼ毎日ここに来てます。あ、おばちゃん。今日もコオロギの唐揚げをください」
トンガはクックッと笑いました。
「奥さんに怒られませんか?」
カスガが聞きます。
「奥さんは毎日旦那さんにいられるのも大変みたいでね。時々、私も気を使ってこうしてお茶を飲みに来ているんですよ」
トンガが答えると、カスガもほうと腕を組んで言いました。
「確かに毎日ふたりで顔を突き合わせていると、煮詰まってくる時がありますものね」
「そうですよ。いくら好きあって一緒になったとはいえ、毎日一緒では息が詰まります。だからこうして息抜きすることによって仲良く出来るのですよ」
トンガが細長い鼻をひくひくふるわせて笑います。
タヌキのおばちゃんがコオロギの唐揚げを持ってきました。
「まあまあ、何を話しているんですか」
「家族でいるのはそれは楽しいけれど、時にはお互いのために息抜きも必要だって話していたんですよ」
トンガがおばちゃんの顔を見上げます。
「それはそうですよ」
タヌキのおばちゃんはふむふむとうなずきました。
「私もずっとお父さんと一緒でしょう。時々あのタヌキおやじの頭かじってやりたいと思う時もありますよ」
おばちゃんがぼやくと、「そういう時はどうするのですか?」とカスガが体を乗り出しました。
「そういう時はまず深呼吸を三回して、心の中で「このタヌキおやじめ」と毒づきます。そのあと裏のお風呂に行ってお湯の中に顔をばしゃっとつけてですね。お湯の中に言いたいことを吐き出します」
そういってタヌキのおばちゃんは、アハハと笑いました。「そうすると、意外とそのあとは普通にしていられるんです」
「大声で叫ぶとそれだけでもスッとしますよね。水の中で叫ぶのは苦しそうですが」とカスガが言うと、「夫婦のケンカなんてほんとたわいもないものですから、誰かに聞かれて困ることなんてないんですけどね。なんとなくお店にいる人に聞こえないようにと水の中で、ね」とおばちゃんはアハハと笑いました。
トンガが「そうそう、夫婦喧嘩なんてどこでもありますからね。それにケンカするほど仲がいいって人間が良く言うじゃないですか」とトガリネズミは鼻をひくひくさせておばちゃんの方を見上げました。
「自慢じゃないけど、タヌキは結構夫婦円満なんですよ」
タヌキのおばちゃんは、「ね、父ちゃん!」と大きな声で呼びかけました。
「あいよ! 夫婦円満一丁あがり」
タヌキのおじちゃんがあうんの呼吸で返します。
「昔ながらのタヌキおやじですからね。自分の事を話されるのが恥ずかしいんですよ」
おばちゃんはくすくす笑ってカウンターから見える鉢巻き姿のおじちゃんを指差しました。
「実はうちの奥さん、身重なんです」
突然カスガが切り出したので、トガリネズミとおばちゃんは少し驚きました。
「まあ。それはそれは、おめでたい事ですね」
トガリネズミとおばちゃんは、カスガの顔を見て微笑みます。
「ありがとうございます。おめでたいのですが、今町は大変なことになっているでしょう。外にも今一つ出にくいですし、ここに来るときも私も周りに人がいないかきょろきょろしてしまうくらいです。まあ、みんなも家にいることが多いので、そんなに人と会わないんですけどね。奥さんの方は妊娠もしているから余計感染も気になるみたいで、外にもあまり出たがらないし、本当に通院とか僕と一緒に買い物に行く時とか外出しません。時々家にこもることが多いからいろいろ思い詰めているみたいで元気がなくなるんです」
カスガの肩がちょっと力なく下がりました。
「不安が強くなると元気がなくなるのはみんな同じですが……必要以上に感染症の事を心配するんです。赤ちゃんが生まれてくるとき感染症にかかっていたらどうしようとか。この間スーパーに行ったときも野菜を触ったけど、感染症をもらっていたらどうしようとか。ほかの人が触ったものを食べて大丈夫かしら、とか。心配する気持ちはよくわかるんですけど、あまり心配ばかりされると僕も不安になってきてしまってよくないんです。こんな時どうしたら良いのでしょう。一昨日も、お医者さんからあんまり心配になりすぎてもおなかの赤ちゃんによくないよ。ちゃんと感染対策をすればそんなに恐れなくて大丈夫と言われました。好きなことでもしてゆっくりのんびりするように、時々はお散歩も必要だよと言われてきたところでした」
カスガははあっと大きく息を吐きました。
「いただいたかごを持って帰ってきて、寝ている奥さんのベッドのところへかごを置いておいたんです。そうしたら起きたときにお菓子のかごがあってびっくりしたって。目をまん丸にして話していました」
「どうだった? おいしかったって?」
タヌキのおばちゃんが、身を乗り出してカスガに聞きました。
「もちろんです。サプライズだと思ったらしくて、内緒で結構食べてました。残りは次の日二人で一緒に食べましたよ」
カスガが報告すると、タヌキのおばちゃんは満足そうにうなずくのでした。
「ブルーベリーもどんぐりも栄養がありますからね! 妊婦さんも安心して食べられるんですよ」
タヌキのおばちゃんは胸を張ってポケットからどんぐりクッキーを出し、カスガとトンガに勧めました。
「どんぐりにはデトックス効果もあるんですって。あとイライラ防止も」
カスガは「そうだったんだ。それでか」と昨日の奥さんの様子を話しました。
「鎮静成分が効いたんですね。今日も持ってお行きなさい。こんな世の中では落ち着かなくて当然よ。ただでさえ、妊娠中はささいなことで不安になるものですよ。カスガさんもお父さんになるのだから、どっしりと構えてフォローしてさしあげなさいな」
」
タヌキのおばちゃんは、そういって厨房の方へ戻っていきました。
「タヌキ食堂へようこそー。いらっしゃい、カスガさん」
「ああ、こんにちは。又来ました」
カスガは、この間と同じ席に座りました。
すると、間もなくトガリネズミのトンガがやってきました。
「やあ、カスガ。二日ぶりですね」
「ええ。トンガは昨日も来ていましたか」
「私は子供たちが奥さんと遊びに行ったのを見計らってほぼ毎日ここに来てます。あ、おばちゃん。今日もコオロギの唐揚げをください」
トンガはクックッと笑いました。
「奥さんに怒られませんか?」
カスガが聞きます。
「奥さんは毎日旦那さんにいられるのも大変みたいでね。時々、私も気を使ってこうしてお茶を飲みに来ているんですよ」
トンガが答えると、カスガもほうと腕を組んで言いました。
「確かに毎日ふたりで顔を突き合わせていると、煮詰まってくる時がありますものね」
「そうですよ。いくら好きあって一緒になったとはいえ、毎日一緒では息が詰まります。だからこうして息抜きすることによって仲良く出来るのですよ」
トンガが細長い鼻をひくひくふるわせて笑います。
タヌキのおばちゃんがコオロギの唐揚げを持ってきました。
「まあまあ、何を話しているんですか」
「家族でいるのはそれは楽しいけれど、時にはお互いのために息抜きも必要だって話していたんですよ」
トンガがおばちゃんの顔を見上げます。
「それはそうですよ」
タヌキのおばちゃんはふむふむとうなずきました。
「私もずっとお父さんと一緒でしょう。時々あのタヌキおやじの頭かじってやりたいと思う時もありますよ」
おばちゃんがぼやくと、「そういう時はどうするのですか?」とカスガが体を乗り出しました。
「そういう時はまず深呼吸を三回して、心の中で「このタヌキおやじめ」と毒づきます。そのあと裏のお風呂に行ってお湯の中に顔をばしゃっとつけてですね。お湯の中に言いたいことを吐き出します」
そういってタヌキのおばちゃんは、アハハと笑いました。「そうすると、意外とそのあとは普通にしていられるんです」
「大声で叫ぶとそれだけでもスッとしますよね。水の中で叫ぶのは苦しそうですが」とカスガが言うと、「夫婦のケンカなんてほんとたわいもないものですから、誰かに聞かれて困ることなんてないんですけどね。なんとなくお店にいる人に聞こえないようにと水の中で、ね」とおばちゃんはアハハと笑いました。
トンガが「そうそう、夫婦喧嘩なんてどこでもありますからね。それにケンカするほど仲がいいって人間が良く言うじゃないですか」とトガリネズミは鼻をひくひくさせておばちゃんの方を見上げました。
「自慢じゃないけど、タヌキは結構夫婦円満なんですよ」
タヌキのおばちゃんは、「ね、父ちゃん!」と大きな声で呼びかけました。
「あいよ! 夫婦円満一丁あがり」
タヌキのおじちゃんがあうんの呼吸で返します。
「昔ながらのタヌキおやじですからね。自分の事を話されるのが恥ずかしいんですよ」
おばちゃんはくすくす笑ってカウンターから見える鉢巻き姿のおじちゃんを指差しました。
「実はうちの奥さん、身重なんです」
突然カスガが切り出したので、トガリネズミとおばちゃんは少し驚きました。
「まあ。それはそれは、おめでたい事ですね」
トガリネズミとおばちゃんは、カスガの顔を見て微笑みます。
「ありがとうございます。おめでたいのですが、今町は大変なことになっているでしょう。外にも今一つ出にくいですし、ここに来るときも私も周りに人がいないかきょろきょろしてしまうくらいです。まあ、みんなも家にいることが多いので、そんなに人と会わないんですけどね。奥さんの方は妊娠もしているから余計感染も気になるみたいで、外にもあまり出たがらないし、本当に通院とか僕と一緒に買い物に行く時とか外出しません。時々家にこもることが多いからいろいろ思い詰めているみたいで元気がなくなるんです」
カスガの肩がちょっと力なく下がりました。
「不安が強くなると元気がなくなるのはみんな同じですが……必要以上に感染症の事を心配するんです。赤ちゃんが生まれてくるとき感染症にかかっていたらどうしようとか。この間スーパーに行ったときも野菜を触ったけど、感染症をもらっていたらどうしようとか。ほかの人が触ったものを食べて大丈夫かしら、とか。心配する気持ちはよくわかるんですけど、あまり心配ばかりされると僕も不安になってきてしまってよくないんです。こんな時どうしたら良いのでしょう。一昨日も、お医者さんからあんまり心配になりすぎてもおなかの赤ちゃんによくないよ。ちゃんと感染対策をすればそんなに恐れなくて大丈夫と言われました。好きなことでもしてゆっくりのんびりするように、時々はお散歩も必要だよと言われてきたところでした」
カスガははあっと大きく息を吐きました。
「いただいたかごを持って帰ってきて、寝ている奥さんのベッドのところへかごを置いておいたんです。そうしたら起きたときにお菓子のかごがあってびっくりしたって。目をまん丸にして話していました」
「どうだった? おいしかったって?」
タヌキのおばちゃんが、身を乗り出してカスガに聞きました。
「もちろんです。サプライズだと思ったらしくて、内緒で結構食べてました。残りは次の日二人で一緒に食べましたよ」
カスガが報告すると、タヌキのおばちゃんは満足そうにうなずくのでした。
「ブルーベリーもどんぐりも栄養がありますからね! 妊婦さんも安心して食べられるんですよ」
タヌキのおばちゃんは胸を張ってポケットからどんぐりクッキーを出し、カスガとトンガに勧めました。
「どんぐりにはデトックス効果もあるんですって。あとイライラ防止も」
カスガは「そうだったんだ。それでか」と昨日の奥さんの様子を話しました。
「鎮静成分が効いたんですね。今日も持ってお行きなさい。こんな世の中では落ち着かなくて当然よ。ただでさえ、妊娠中はささいなことで不安になるものですよ。カスガさんもお父さんになるのだから、どっしりと構えてフォローしてさしあげなさいな」
」
タヌキのおばちゃんは、そういって厨房の方へ戻っていきました。
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