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みんな待っていたよ
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次の日、カスガはまたタヌキ食堂に来ていました。
「こんにちは。タヌキ食堂にようこそー」
「こんにちは。だいぶ空気が秋めいてきましたね。あれ、トンガさんは来ていないんですか?」
カスガがいつもトンガが座っているあたりを見て言いました。
「ああ、トンガさんは秋になって昆虫がたくさん出てきているから、食料には困っていないのでしょう。子どもたちにも狩りの仕方を教えているのかもしれません。詳しくはわかりませんが……」
そう答えると、カスガに何か食べるか聞きました。
「今日は奥さんも連れてきました」
そういって扉を開けて手招きしました。
「うちの奥さんのマミです」
マミは大きなマスクにサングラス姿、加えてつばの広い帽子をかぶっていました。
緊張しているのか無言でぺこりと頭を下げます。
「マミ、挨拶ぐらいしようよ」
カスガに促されて、マミが小さな声であいさつします。
「この間はおいしいお菓子をたくさんいただいて本当においしかったです……」
白い綿の手袋をした手で、帽子をとりました。
「まあまあ、よく来てくれたわね。奥さんの事はみんな心配していたんですよ。今日は見えてないけどトガリネズミさんもモンキチョウさんも、もちろん私も!」
タヌキのおばちゃんは、いつものように元気におしゃべりを始めました。
「ブルーベリーパイ、おいしかったでしょう」
「はい、とっても。あんなにおいしいパイは初めてといってもいいほどで、カスガに黙って食べちゃいました」
マミはタヌキのおばちゃんにつられて、つい元気に答えてしまいます。
ふふふっと笑うと、タヌキのおばちゃんはちょうど焼けたというアップルパイを持ってきました。
「はい、熱々だからやけどに気をつけてね」
そういうと、消毒液と除菌ティッシュをマミのために置きました。
「ほら、タヌキのおばちゃんはいいひとだろう」
カスガがニコッと笑います。
「うん」
マミもマスクとサングラスを外して席に着きました。
「本当に勇気を出してきてよかった」と消毒液を手にしっかりなじませます。
「いただきます」
マミは一口食べると、「わー、おいしい! リンゴがとろけてる」とほっぺたに手を当てました。
「どれどれ、おなかの子もおいしいと言っているかな」
カスガがおなかに手を当てると、マミのおなかが動いているのがわかりました。
「赤ちゃんも喜びのあまり、よく動いているようだよ」
カスガが言うと、マミはすうっと息を吸って、「カスガったらこんなにいいところに一人でずっと来ていたなんてずるい」とむくれました。
「違うよ、マミと一緒にずっと来たかったんだよ」
カスガが慌てて手を握ります。
「そうよ。今日は本当に来てくれてありがとう。たくさん食べていってね」
タヌキのおばちゃんは、マミの背中にそっと手を当てました。
「奥さん、来てくれたのね」
モンキチョウさんが窓からひらりと顔を出しました。
窓辺に止まってからマミのフォークを持つ手に止まります。
「モンキチョウさん。モンキチョウさんにも会いたかったの。モンキチョウさんも命をつなぐのは大変って聞いて……モンキチョウさんも時々やってくるタヌキ食堂ってどんなところなんだろうって思ったの」
マミは右手を目の高さまで上げて蝶を眺めました。
「そんなたいそうなことじゃないわ。ここが居心地がいいから来てるだけ。えらそうなこと言っちゃったけど、本当は感染症の事なんてわからないわ。でも生きていればいいことも悪いことがあるのは蝶も人間も一緒よね」
マミは蝶の羽にそっと口づけしました。
「そうね。同じだわ」
モンキチョウはそっと羽を閉じました。なんだか羽が傷ついているように見えたのは気のせいか、カスガは首をかしげておばちゃんの方を見ました。
おばちゃんが、元気が出る梅ジュースを持ってきます。
「奥さんもどうぞ」
モンキチョウとマミの前にジュースを置きました。
「ああ、おいしい。おばちゃんのジュースは最高ね。ちょっと元気が出たわ。じゃあ、私はそろそろ行くわ。雨が降ってきそう。さようならありがとう」
モンシロチョウさんはそういって、傷ついている羽をゆっくり動かしながら外へ出ていきました。
「本当においしいわ。梅ジュース。私も毎年作るんだけど、今年はあまり梅仕事をする気が起きなくて作っていなかったんです」
マミは梅ジュースを一息に飲み干しました。
「いつでも差し上げますよ。今日もお持ちになってください」
マミは最近見た事が無いほどよくしゃべっていました。
お皿の上のアップルパイもあっという間に平らげてしまいました。
「こんにちは。もしかしてカスガの奥さんですか?」
いつの間にかトガリネズミのトンガがやってきていました。
「トンガ、さん?」
マミの顔がぱあっとはじける様に明るくなりました。
「はあい。トガリネズミのトンガです。いつも旦那さんと仲良くさせてもらっています」
トンガはタヌキのおばちゃんに促されて消毒液を恐る恐る使って手をこすり合わせます。マミの膝の上に駆け上ると、手を差し出しました。
「待っていたんですよ。みんなの出会いに乾杯」
カスガがトンガに梅ジュースを渡します。
「子カスガが生まれたら子供も一緒に連れてこよう! ね、カスガ。私なんだか元気をもらった気がする」
マミがトンガと乾杯し二人の周りを食堂のみんなが取り囲んでグラスを高くあげました。
「ここは癒しの喫茶店ですから。地球に住んでいるひといないひと、昆虫だって哺乳類だってだれでもウエルカムです。もちろん赤ちゃんも大歓迎ですよ。赤ちゃんが生まれたら、森のみんなでお祝いしましょう」
マミはうれしくて、涙を流していました。
床にこぼれたアップルパイのかすをねらってアリがやってきました。
アリたちもアップルパイのかすを手に持って乾杯しています。
コゲラが近くの木でコツコツ幹をつつく音が聞こえます。
森の中は静かに盛り上がっていました。
「こんにちは。タヌキ食堂にようこそー」
「こんにちは。だいぶ空気が秋めいてきましたね。あれ、トンガさんは来ていないんですか?」
カスガがいつもトンガが座っているあたりを見て言いました。
「ああ、トンガさんは秋になって昆虫がたくさん出てきているから、食料には困っていないのでしょう。子どもたちにも狩りの仕方を教えているのかもしれません。詳しくはわかりませんが……」
そう答えると、カスガに何か食べるか聞きました。
「今日は奥さんも連れてきました」
そういって扉を開けて手招きしました。
「うちの奥さんのマミです」
マミは大きなマスクにサングラス姿、加えてつばの広い帽子をかぶっていました。
緊張しているのか無言でぺこりと頭を下げます。
「マミ、挨拶ぐらいしようよ」
カスガに促されて、マミが小さな声であいさつします。
「この間はおいしいお菓子をたくさんいただいて本当においしかったです……」
白い綿の手袋をした手で、帽子をとりました。
「まあまあ、よく来てくれたわね。奥さんの事はみんな心配していたんですよ。今日は見えてないけどトガリネズミさんもモンキチョウさんも、もちろん私も!」
タヌキのおばちゃんは、いつものように元気におしゃべりを始めました。
「ブルーベリーパイ、おいしかったでしょう」
「はい、とっても。あんなにおいしいパイは初めてといってもいいほどで、カスガに黙って食べちゃいました」
マミはタヌキのおばちゃんにつられて、つい元気に答えてしまいます。
ふふふっと笑うと、タヌキのおばちゃんはちょうど焼けたというアップルパイを持ってきました。
「はい、熱々だからやけどに気をつけてね」
そういうと、消毒液と除菌ティッシュをマミのために置きました。
「ほら、タヌキのおばちゃんはいいひとだろう」
カスガがニコッと笑います。
「うん」
マミもマスクとサングラスを外して席に着きました。
「本当に勇気を出してきてよかった」と消毒液を手にしっかりなじませます。
「いただきます」
マミは一口食べると、「わー、おいしい! リンゴがとろけてる」とほっぺたに手を当てました。
「どれどれ、おなかの子もおいしいと言っているかな」
カスガがおなかに手を当てると、マミのおなかが動いているのがわかりました。
「赤ちゃんも喜びのあまり、よく動いているようだよ」
カスガが言うと、マミはすうっと息を吸って、「カスガったらこんなにいいところに一人でずっと来ていたなんてずるい」とむくれました。
「違うよ、マミと一緒にずっと来たかったんだよ」
カスガが慌てて手を握ります。
「そうよ。今日は本当に来てくれてありがとう。たくさん食べていってね」
タヌキのおばちゃんは、マミの背中にそっと手を当てました。
「奥さん、来てくれたのね」
モンキチョウさんが窓からひらりと顔を出しました。
窓辺に止まってからマミのフォークを持つ手に止まります。
「モンキチョウさん。モンキチョウさんにも会いたかったの。モンキチョウさんも命をつなぐのは大変って聞いて……モンキチョウさんも時々やってくるタヌキ食堂ってどんなところなんだろうって思ったの」
マミは右手を目の高さまで上げて蝶を眺めました。
「そんなたいそうなことじゃないわ。ここが居心地がいいから来てるだけ。えらそうなこと言っちゃったけど、本当は感染症の事なんてわからないわ。でも生きていればいいことも悪いことがあるのは蝶も人間も一緒よね」
マミは蝶の羽にそっと口づけしました。
「そうね。同じだわ」
モンキチョウはそっと羽を閉じました。なんだか羽が傷ついているように見えたのは気のせいか、カスガは首をかしげておばちゃんの方を見ました。
おばちゃんが、元気が出る梅ジュースを持ってきます。
「奥さんもどうぞ」
モンキチョウとマミの前にジュースを置きました。
「ああ、おいしい。おばちゃんのジュースは最高ね。ちょっと元気が出たわ。じゃあ、私はそろそろ行くわ。雨が降ってきそう。さようならありがとう」
モンシロチョウさんはそういって、傷ついている羽をゆっくり動かしながら外へ出ていきました。
「本当においしいわ。梅ジュース。私も毎年作るんだけど、今年はあまり梅仕事をする気が起きなくて作っていなかったんです」
マミは梅ジュースを一息に飲み干しました。
「いつでも差し上げますよ。今日もお持ちになってください」
マミは最近見た事が無いほどよくしゃべっていました。
お皿の上のアップルパイもあっという間に平らげてしまいました。
「こんにちは。もしかしてカスガの奥さんですか?」
いつの間にかトガリネズミのトンガがやってきていました。
「トンガ、さん?」
マミの顔がぱあっとはじける様に明るくなりました。
「はあい。トガリネズミのトンガです。いつも旦那さんと仲良くさせてもらっています」
トンガはタヌキのおばちゃんに促されて消毒液を恐る恐る使って手をこすり合わせます。マミの膝の上に駆け上ると、手を差し出しました。
「待っていたんですよ。みんなの出会いに乾杯」
カスガがトンガに梅ジュースを渡します。
「子カスガが生まれたら子供も一緒に連れてこよう! ね、カスガ。私なんだか元気をもらった気がする」
マミがトンガと乾杯し二人の周りを食堂のみんなが取り囲んでグラスを高くあげました。
「ここは癒しの喫茶店ですから。地球に住んでいるひといないひと、昆虫だって哺乳類だってだれでもウエルカムです。もちろん赤ちゃんも大歓迎ですよ。赤ちゃんが生まれたら、森のみんなでお祝いしましょう」
マミはうれしくて、涙を流していました。
床にこぼれたアップルパイのかすをねらってアリがやってきました。
アリたちもアップルパイのかすを手に持って乾杯しています。
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