タヌキ食堂へようこそ

んが

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モンキチョウさん

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 もうすぐお彼岸だというので、タヌキのおばちゃんのおはぎを買いに来る町の人も増えてきました。
 普段は静かな森の中はいつもよりも少しだけにぎやかになっていました。
 といっても、必要最低限の用事を済ますとみんなさっさと家に帰っていくので、いつまでも食堂に残っているカスガは少しだけ目立ちました。時々、残っているカスガに「あなた、そんなにゆっくりしているけど、大丈夫なの?」と知らない人から声をかけられることもあるのでした。カスガは「ありがとうございます。お気にかけて頂いて」と答えてテーブルの下でぎゅっと手に力をこめるのでした。

 今日もカスガはどんぐりクッキーとハーブティーを飲み、トガリネズミのトンガはコオロギの唐揚げを食べながらおしゃべりをしていました。
「うちの奥さんにおばちゃんの食堂に行こうよって誘ったんですけど、やっぱり行かないっていうんですよ」
 カスガがカップをかちゃりと置きました。
「町の方は感染症が広がっているみたいですものね」
 トンガはおばちゃんにミックスジュースを一つ頼みました。
「そうなんです。だけど、おばちゃんが言うには森の中は感染症にかかった動物はだれひとりいないらしいし、森の中はそういう悪いものを追い出す不思議な力があるんだっていうので伝えたんですけどね」
 カスガはそういって、おばちゃんのいる方を見つめます。
「奥さんは何が心配なんですかね」
 トガリネズミのトンガは、鼻をひくひくさせてカスガの顔を見上げました。
「やはり、自分が感染源になって森のみんなが感染症にかかるのではと心配しているようです。うわさが広まったら町に住めくなるともいていました」
 カスガはそういって額にうっすらとにじんだ汗をぬぐいました。
「カスガは気にならない?」
 トンガが聞くと、「気にならないと言ったらうそになりますが、感染の心配のないところでの息抜きは必要だと思います」
「森ではそんな心配はなく毎日過ごしているので、この間町に子どもたちと遊びに行った時もそんな風になっているとは気が付きませんでした。ただ、少し町を歩く人が少ないと感じたくらいです」
 トンガは気の毒そうにカスガの顔をゆっくりと見つめました。
「嫌な世の中になったものです」
 カスガの言葉にトンガも小さくうなずきます。
「早く普通に出歩けるようになるといいですね」
 トンガが言うとカスガは静かに首を振りました。
「今のままだとあと数年はかかりそうですよ」
「えー。あと数年ですか?」
 トンガは驚いて小さな椅子から転げ落ちそうになりました。
 カスガが慌ててトンガの背中を支えます。
「隣町が普通になっているころには私はこの世にいないかもしれないですね……」
 トンガはくすっと笑いました。
 カスガは黙って瞳を閉じました。
 おばちゃんのお皿をしまう音がかちゃりとしました。
「そんな先のわからないこと考えたって仕方ないでしょ」
 蚊の鳴くような声がして目を開けると、目の前にモンキチョウが羽を広げて止まっていました。
「モンキチョウさん」
 カスガがモンキチョウに手を差し伸べると、カスガの手の甲にちょんと飛び移りました。
「昆虫もトガリネズミさんも寿命は短いけれど、一生懸命に命を懸けて生きているわ。私も時々町の蝶から話を聞いているけど、町の方は本当に大変そう。でも、大丈夫。生きていればいいことも悪いこともあるわ。今は悪い時期が来ているだけ。いいことも悪いこともいつまでも続くわけはないと思わない?」
 モンシロチョウが触角を震わせてカスガに言いました。
「時期が来ればきっと落ち着くと思うわ。蝶の勘は結構当たるのよ。根拠はないけど……こんな大変な時期に子どもを産むのは大変なこと。蝶も命をつなぐのは命がけよ、奥さんの気持ちはよくわかるわ」
 そうささやくようにつぶやくと、ふわふわと飛び立って窓から出ていきました。
 
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