名もなき歌

んが

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エピローグ

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 犬のカズオを乗せたでかでかいもむしは、ハナレイアパートにつきました。
 アパートの前には、おばあさんの娘さんが立っていました。
「テレビの臨時ニュースで出ていたのよ。驚いたわ。ぬいぐるみの犬を乗せたいもむしが信号を渡っているんだもの」
 お嬢さんは、腕を組んでいもむしを見回しました。
「それにしても、大きないもむしね」
「まったく。自分のしたことをわかっていないんだな」
 いもむしは、はあっとため息をつくと肉角を出しました。
「このぬいぐるみの犬がそれはそれはおばあさんと離れて、寂しがっていたんだぞ。しかも、間違って捨てられたというじゃないか。責任は感じていないのか」
 黄色い角を出して臭いにおいを出します。
「臭いわ、腐ったレモンみたい。あれは事故よ。捨てたんじゃないもの。お母さんが落ち着くまで少し隠しておいて後でまた渡すつもりだったのよ」
 お嬢さんはそういうと、ぬいぐるみのカズオをつかみました。
「ありがとう。いもむしさん、わざわざここまで連れてきてくれて」
 お嬢さんは、そういうとぬいぐるみをつかんで階段を上ろうとしました。いもむしも後からついていきます。
「どうしてついてくるの?」
「あんたに任せると、また同じことの繰り返しになりそうだからね。ちゃんとおばあさんにカズオを渡すかどうか確かめてから帰らせてもらうよ」
 そういうと、いもむしはニヤリと笑いました。
「お好きなように」
 お嬢さんは、コツコツとパンプスの音をひびかせて階段を上りました。
「お母さん。私よ。ぬいぐるみが見つかったわよ」
 おばあさんは、ベッドに横になっていました。
「え? カズオかい。カズオ、カズオ! どこに行ってたんだい。探したんだよ」
 そういうと、おばあさんはぬいぐるみの犬を抱えておいおいと泣いて喜びました。
「このいもむしが、ぬいぐるみを乗せて連れてきてくれたのよ」
 ベッドのわきに立っているいもむしを見たおばあさんは、ひゃっと声をあげました。
「こんにちは。このカズオが一度は男の子に拾われたんですが、やっぱりおばあさんのところへ帰りたいというので連れてきました。ちゃんと見届けたので帰りたいのですが、おまわりさんに人目につかないように家に戻れと言われたので、ここにいさせてもらいたいと思うのですが……このアパートにみかんやサンショウの木はありますかね」
 おばあさんは、いもむしが礼儀正しいのでほっとして植木鉢を指さしました。
「ここにキンカンの鉢があるから、そこにすんだらどうだい」
 いもむしは、うなずくと小さくなって植木鉢の上まで歩いていきました。
「よし子や。カズオを連れてきてありがとうよ。私はボケちゃいないから安心しておくれ。もう隠したりしっこなしだよ」
 おばあさんは、ニヤリと笑っていもむしをキンカンの葉っぱの上に乗せてあげました。

 
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