疲れ果てた令嬢は護衛に死を請うた

しぎ

文字の大きさ
2 / 5

しおりを挟む
太陽の光で目が覚めた。
身体中がぽかぽかと温かくて、ひさしぶりにぐっすりと眠れた気がした。最近は近くにある物全てが怖くて、眠りが浅くなっていたから。
目が覚めたと言うことは。
「…私、生きてるのね」
もう一度目を瞑っても現実は変わらなかった。
「…んん」
声が聞こえた気がして、は、と目を開けて自分の胸の辺りを見る。
小さく縮こまった護衛が、私が抱きしめた時の姿勢のままで眠っていた。さっきの声は私の身じろぎに対する無自覚の抗議らしい。
「なんでこの子そのままなのかしら…」
私を殺さないにしてもとっくに逃げ出した後だと思ってた。
なんで私に抱きしめられたままでいたのだろう。
護衛の顔をじっと見つめる。
目を閉じていると、年相応の子供っぽい顔に見える。口元がモゴモゴと動いて何やらむにゃむにゃ言っている。
そして、その目がゆっくりと開いた。
夏の木の葉のような緑。
「あら。あなたの瞳、こうやって見ると、とっても綺麗ね」
護衛のお腹がぐー、と大きな音を立てた。

むしゃむしゃがつがつ、はふはふもぐもぐと護衛は一心不乱に朝食を詰め込んでいる。その光景だけでお腹いっぱいで私はカフェオレを啜っていた。銀のスプーンでかき混ぜながらぼんやり考える。
どうして護衛は私を殺さなかったのか。なぜ逃げ出さなかったのか。
彼の貴族を憎む瞳は本物だったし、私の部屋は1階にあるから窓からでも逃げられるし、こっそり出れば玄関からも出られるだろう。
食事だけを見つめていた護衛が私の視線に気づいたのかふとこちらを見る。両手にフォークとスプーンを掴み、口の中にも食べ物でいっぱいだ。
「…あ」
その姿を見て気づいた。
昨日は夕食をとらずに無理やり眠らせてしまった。
もしかして護衛は昨日の晩、とてもお腹が空いていたのではないかしら。
だから、逃げる事も私を殺そうと動く事もできなかったのかもしれない。

よし、そうと分かれば。
「満足したらいきましょうか」
パンを両手に持って護衛は首を傾げた。

「おや、お嬢さん。なんでこんな所まで?朝食は食べてくれましたか?」
「あんまりお腹が空かなくて。カフェオレをもらったわ。でも朝食は彼が全部食べてくれたから」
調理場で一休み中だったコック長に挨拶する。私が生まれる前からこの家にいる彼は私を親しげに「お嬢さん」と呼ぶ。
護衛はきょろきょろと調理場を見回している。昨日は包丁や肉叩きを見ているだけだったのに、今日は調理前の食材を興味深げに見つめているようだった。
「バスケットにご飯を詰めて欲しいの。大人の3日分ぐらい」
「ピクニックにでも行くんですか?」
「いいえ、私の部屋に置いておくの」
?が浮かんだような顔をしてそれでもコック長は大きめのバスケットにご飯をたくさん詰めてくれた。
ふかふかのパンと硬いパンの2種類。瓶詰めと水筒にスープ。長持ちする燻製のお肉に豆の缶詰。
これだけあれば、子供が外で何日か生き延びることができるだろう。
持ち上げようとしたバスケットが重くて顔を顰めていると、横から護衛がひょいと手を出してきた。バスケットを持ってくれるのかと見ていると、護衛が手を伸ばしたのはパン。
「ちょっと、まだ食べちゃだめよ!」
慌てる私とそれでもまだ手を伸ばそうとする護衛を見てコック長は笑っていた。

バスケットは机の上に置く。重くて嵩張るかと思って、中身は2つに分けた。少なくとも片方は持っていけると思う。
護衛はベッドに座ったまま、まだバスケットの中身を狙っている。昼食も夕食もしっかり食べたのに。
「もう遅いから、寝ましょうか」
呼びかけると、護衛はじっと私の顔を見た。
座ったままの護衛の体を押して寝転がらせる。ぎゅっと抱きしめてみると、一度強張った体がゆっくりと弛緩していった。
そのまま護衛は目を閉じてしまう。
まさかこのまま眠ったりしないわよね。ご飯もたくさん用意したのよ?
抱きしめた護衛の体がなんだか昨日よりも温かく感じて、私もうとうとしてしまう。
「おやすみなさい」
語尾が眠気に溶けていくのが分かる。

明日目が覚めませんように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に

ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。 幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。 だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。 特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。 余計に私が頑張らなければならない。 王妃となり国を支える。 そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。 学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。 なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。 何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。 なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。 はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか? まぁいいわ。 国外追放喜んでお受けいたします。 けれどどうかお忘れにならないでくださいな? 全ての責はあなたにあると言うことを。 後悔しても知りませんわよ。 そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。 ふふっ、これからが楽しみだわ。

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

処理中です...