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太陽の光で目が覚めた。
身体中がぽかぽかと温かくて、ひさしぶりにぐっすりと眠れた気がした。最近は近くにある物全てが怖くて、眠りが浅くなっていたから。
目が覚めたと言うことは。
「…私、生きてるのね」
もう一度目を瞑っても現実は変わらなかった。
「…んん」
声が聞こえた気がして、は、と目を開けて自分の胸の辺りを見る。
小さく縮こまった護衛が、私が抱きしめた時の姿勢のままで眠っていた。さっきの声は私の身じろぎに対する無自覚の抗議らしい。
「なんでこの子そのままなのかしら…」
私を殺さないにしてもとっくに逃げ出した後だと思ってた。
なんで私に抱きしめられたままでいたのだろう。
護衛の顔をじっと見つめる。
目を閉じていると、年相応の子供っぽい顔に見える。口元がモゴモゴと動いて何やらむにゃむにゃ言っている。
そして、その目がゆっくりと開いた。
夏の木の葉のような緑。
「あら。あなたの瞳、こうやって見ると、とっても綺麗ね」
護衛のお腹がぐー、と大きな音を立てた。

むしゃむしゃがつがつ、はふはふもぐもぐと護衛は一心不乱に朝食を詰め込んでいる。その光景だけでお腹いっぱいで私はカフェオレを啜っていた。銀のスプーンでかき混ぜながらぼんやり考える。
どうして護衛は私を殺さなかったのか。なぜ逃げ出さなかったのか。
彼の貴族を憎む瞳は本物だったし、私の部屋は1階にあるから窓からでも逃げられるし、こっそり出れば玄関からも出られるだろう。
食事だけを見つめていた護衛が私の視線に気づいたのかふとこちらを見る。両手にフォークとスプーンを掴み、口の中にも食べ物でいっぱいだ。
「…あ」
その姿を見て気づいた。
昨日は夕食をとらずに無理やり眠らせてしまった。
もしかして護衛は昨日の晩、とてもお腹が空いていたのではないかしら。
だから、逃げる事も私を殺そうと動く事もできなかったのかもしれない。

よし、そうと分かれば。
「満足したらいきましょうか」
パンを両手に持って護衛は首を傾げた。

「おや、お嬢さん。なんでこんな所まで?朝食は食べてくれましたか?」
「あんまりお腹が空かなくて。カフェオレをもらったわ。でも朝食は彼が全部食べてくれたから」
調理場で一休み中だったコック長に挨拶する。私が生まれる前からこの家にいる彼は私を親しげに「お嬢さん」と呼ぶ。
護衛はきょろきょろと調理場を見回している。昨日は包丁や肉叩きを見ているだけだったのに、今日は調理前の食材を興味深げに見つめているようだった。
「バスケットにご飯を詰めて欲しいの。大人の3日分ぐらい」
「ピクニックにでも行くんですか?」
「いいえ、私の部屋に置いておくの」
?が浮かんだような顔をしてそれでもコック長は大きめのバスケットにご飯をたくさん詰めてくれた。
ふかふかのパンと硬いパンの2種類。瓶詰めと水筒にスープ。長持ちする燻製のお肉に豆の缶詰。
これだけあれば、子供が外で何日か生き延びることができるだろう。
持ち上げようとしたバスケットが重くて顔を顰めていると、横から護衛がひょいと手を出してきた。バスケットを持ってくれるのかと見ていると、護衛が手を伸ばしたのはパン。
「ちょっと、まだ食べちゃだめよ!」
慌てる私とそれでもまだ手を伸ばそうとする護衛を見てコック長は笑っていた。

バスケットは机の上に置く。重くて嵩張るかと思って、中身は2つに分けた。少なくとも片方は持っていけると思う。
護衛はベッドに座ったまま、まだバスケットの中身を狙っている。昼食も夕食もしっかり食べたのに。
「もう遅いから、寝ましょうか」
呼びかけると、護衛はじっと私の顔を見た。
座ったままの護衛の体を押して寝転がらせる。ぎゅっと抱きしめてみると、一度強張った体がゆっくりと弛緩していった。
そのまま護衛は目を閉じてしまう。
まさかこのまま眠ったりしないわよね。ご飯もたくさん用意したのよ?
抱きしめた護衛の体がなんだか昨日よりも温かく感じて、私もうとうとしてしまう。
「おやすみなさい」
語尾が眠気に溶けていくのが分かる。

明日目が覚めませんように。
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