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第二章~勇者修行編~

7.ヴァニラvs勇者

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 「よし、ここなら勇者どのの実力を測ることができるかな?」
 ヴァニラが教会から出てたどり着いた場所は教会の隣の空き地だった。そして俺もたどり着いた。それと同時にヴァニラは下に落ちていた木の棒らしきものを構えた。
 
 「準備はいい?勇者どの。」
「ちょっと待ってくれ。」
「ぬ?」
 ヴァニラが疑問視を浮かべたので俺はフラニック・オブ・クライネスを鞘から引き抜いた。そして、ポイっと地面に投げ捨てることにした。

 「おっと...?」
「いや、あれだよ。女の子相手に一方的な剣の攻撃なんてしたくないし、俺自身の強さを図るのにちーとぶきはに会ってないかなって思って。だから、俺も棒で戦うことにするよ!」
「そうね!!なら、相手の棒が触れたら負けね!」
さっきまで無表情だったヴァニラが少し笑顔になったようだ。
 そして、俺とヴァニラの間にすぅ~と風が吹きかかった。

 「さあ!始めよう。」
「やってやろうじゃねえかヴァニラ!!!」
 面白くなってきたな!!こんなものただの戯れにすぎな...って。

 「うわわあぁ!?」
ヴァニラが俺に向って棒を投げてきた。今は戦いに集中しよう。ていうか、
「お前!そんなのありかよ!?投げるとか。」
「勇者どの。相手に棒を触れさせることが目的だからね。」
そうか。と納得した俺の目の前で棒を披露ヴァニラ。既に戦いは始まっていた。

 俺とヴァニラの距離はおおよそ十メートルほど。相手がどう出るかがまるで予想ができない。
帽をヴァニラに対し左から右へと勢いよく振ってみる。
 「ひょいっ。勇者どの。弱い弱い!!」
クソッ。かわされたか。二メートルくらいジャンプしてるぞ...。

 「とやっ!」
「うわっ!!危ない!!」
ジャンプの着地をすると同時にヴァニラを帽を振り下ろしてきた。俺はとっさの判断で頭上の棒から身をかわすことができた。やっぱりケモミミ少女の身体能力は高いものなのだな。

 「くらえ!!」
「なっ!?」
そう思っていたのも一瞬の出来事だった。ヴァニラは俺に考える魔すら与えないスピードで攻撃を繰り返してくる。
ヴァニラと距離が近くなった、ここで決め切ろうと汗まみれの手で棒を突き出してみたが、「弱すぎ。」という声と共にその棒はヴァニラにあたることはなかった。

 「見てみてこの技!」
「...えええ!?ええ!?」
ヴァニラは右手で木の棒をペン回しのようにくるくるとまわしている。強すぎ。逃げるしかない。と、思い俺ははぁはぁと息を切らしながらヴァニラから距離をとった。

 「おお、勇者どのが逃げおった。」
「...とみせかけて!!!オラァ!!」
さっきの二倍くらいの勢いで棒をつけつけてみる。そう、実は俺、逃げたように見せかけてぐるっと一周回り込んだのだ。この試合、もらった。

―しかし、ヴァニラには当たっていなかった。
 「なにィ!?当たってないのか?」
それどころかヴァニラは俺の視界から姿を消した。

 「ふふ、残像よ。」
「へぇ!?残像...!?」
 そして俺の目の前に、ヴァニラが姿を現した。

 「タッチ。」
「...」
 俺は確かに棒に触れた。ということは、俺は敗北したのか...?『最強勇者』が女の子に...?
「私の勝ちだよ?どうしたの?不満でもあるのかや?」
「いや、俺が最強なんじゃなくて...。」
そして俺は地面に転がっているフラニック・オブ・クライネスを手に取った。
「この剣が強いだけだってことが証明されちったな。」

 「もぉ~。何回も言っているけど『今のところ』だよ。最初から最強な人なんていない。今からでも努力すれば強くなれるって!!」
俺は気づかないうちに暗い顔をしていたらしく、ヴァニラがすかさずフォローを入れてくれた。

 「そうだな。俺も頑張るよ。」
「いいね!じゃあ、教会に戻るかや?」
 「そうだな。俺も頑張るよ。」
「いや、まったく同じ返答は困るよ。」
 「そうだな。俺も頑張るよ。」
「飽きたッ!!!!」
 「そうだな。教会へと帰りますかね。」
そして、俺たちは空き地を出て教会へと向かった。ヴァニラに負けていろいろと悔しいが、確かに最初から最強な人間などいないな。
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