怜さんは何故か鈍い

麻生空

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「佐伯は居る?」

仕事場に戻ると私は怒鳴るように入って行く。
先週の火曜日からうちに配属になった彼奴あいつ
人事異動の時期でもなく、月末でもないのにおかしいと思っていたのだ。
 「あっ。近藤さん。佐伯さんは午後から早退していますよ」
そうだった。
午前中に早退する事を言われていたんだ。
あまりにも怒った為に忘れていたよ。
「室長。あまり怒るとシワが増えますよ」 
そう言って冷蔵庫から試作品のドリンクを取ると私へと手渡して来るのは、一緒に研究をしている田邊眞弓たなべまゆみ28歳。
「頂くわ」
そう言ってゴクゴクと125ミリを一気飲みする。
「室長。そういうむしゃくしゃする時はお酒を飲んでパァーっと騒ぎましょうよ」
そう言って私に飲み会を誘うのは早坂美幸はやさかみゆき25歳。
「それなら今日は丁度月末の花の金曜日だから、隣のビルの展望レストランで独身者の親睦会やっているわよ」
眞弓の提案に
「良いね。良い男漁りに行こうか」
美幸もノリノリで賛成する。
「えっ?行くって貴女達服は?」
何せ二人とも電車通勤なのだ。
着替えに戻るのも……と思う。
「そんなのいつもロッカーにスタンバイさせてますよ」
「室長常識ですって」
そう言って二人とも楽しそうに笑う。
「それに、ここの近くに友達がやって
いる店があるんでメイクも服も大丈夫ですよ」
眞弓はそう言うと善は急げと電話を入れる。
「室長。私達が作っているのは女性を綺麗にする食品です。恋をしたり男と駆け引きする女達を観察するのは大事なお仕事だと思いませんか?」
「物凄い説得力のあるお言葉ね」
「室長も言ってますよね。女性は中から綺麗にならなければならないと」
「確かに言いました」
「室長もう35なんですよ。マル高なんですよ」
「いや……言わないで」
「お産は早めの方が良いですよ」
「それも言わないで」
「取り敢えず相手を探さなくては」
「恋をすると女性ホルモン増えますよ」
二人のスタッフに半ば押される形になり、三人で親睦会は行く事に同意してしまった。
何故か、そのまま三人で早退して今夜の準備に街へ繰り出してしまう。

あれ?
何でこうなったのかしら?


そうも思ったが、2時間後見事に化けた35歳独身女が一人鏡の前で固まっていた。



それより更に一時間後、65階ラボにて一人の男がパソコンのデーターを見ていた。

今日誰もいなくなるのは知っていた。

自分の机に携帯を置いて通話状態にしていたからだ。

親睦会の始まる時間に戻って来て室長のパソコンを調べているのだ。

それと言うのも潜伏してからもう直ぐ二週間になろうと言うのに何も得るものがなかったからだ。

本当はここまでするつもりはなかったというのに……。
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