当て馬国王候補だと思っていたら何か違う

麻生空

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「おう、ユキ、おはよう。今日も朝から精がでるな」

畑で働いてもらっている幼い頃から顔馴染みのおじさんが声をかけて来る。

少し小太りで頭のてっぺんが少々寂しい今日この頃、そんな額の延長線から良い感じに汗を流すおじさん。

「おはようございますベンさん。今日も良い天気で助かります」

泥だらけになりながら落花生を掘り起こす俺にベンさんはいつも通りに声をかけて来る。

「で、今日の収穫物はなんだい?」

これを見つけたのは本当に偶然だった。

山で薬草の採取をしていた時にたまたま見つけたのがこの落花生ことピーナッツだ。

「塩茹ですると美味しいし、栄養価も高いのでとても重宝しますよ。それに、秋の夜長に酒の肴に丁度良いです」

「あの夏に食べた枝豆って言うの位か?」

枝豆はだいぶ昔に山で見つけて栽培している。
夏のヒット商品だ。

「ん~それ以上かな?枝豆は淡白な感じだけど、これは油が乗っているからね。干し肉もいらないかも」

ただ、カロリーが気になる所かな?

最近枝豆も知名度が上がり皆栽培し始めた。

前程の売上にはならなかったので加工品を作って売って貰った。

勿論初めての味で高評価だったのは言うまでもない。

「また何時ものように賄いで出してもらうから期待していて」

俺の言葉にベンさんは「おう。期待しているぜ」と笑顔で応えた。


元々は父と二人で開拓していた畑が、気付いたら山1個分開拓してしまっており、これは手に余ると言う話になり、丁度仕事を探していた父の昔馴染みのベンさんにここの農場の管理を頼む事にしたのだ。

さすがに店と畑の二足のわらじではいつか父も俺も体を壊してしまうと母が父にお願いしたのと、店が繁盛してお金に余裕が出来た事も後押しになったからだが、ベンさんはとても勤勉な人なので、俺としては良い人材に巡り会えたと感謝しているくらいだ。

「そう言えば今日だったか?新しい王様候補が選定される日は」

ベンさんが野菜を収穫する道具を取りながら俺に問い掛ける。

「あぁ、確か正午過ぎから儀式が始まるんだっけ?」

俺はあまり興味はないが、お店に来る女性客が聞いてもいないのに楽しそうに教えてくれたっけ。

「滅多にない儀式だから今日は早めに作業を切り上げて見に行って頂いても大丈夫ですよ」

俺は行かないけど。


そう思ってベンさんに笑いかける。

ただ、この時は本当にそう思っていたんだ。
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