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第一章
05
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ユスティに教会へ行く許可をもらうために、リサに先導してもらう。ルナレイアはまだ道を覚えていないからだ。
部屋の前に着き、リサは扉をノックした。
「ユスティ様、ルナレイア様からお話があるそうで、ご案内いたしました」
ユスティは突然の訪問に驚いたようだ。
「えっ、……と、とりあえず、入っておいで」
リサはドアを開け、ルナレイアをエスコート……しようとし、ルナレイアの目を塞いだ。
「ユスティ様、服を着てください」
ユスティは上半身裸だったのだ。湯浴みを終えて、着替えていたのを忘れていた。リサは、淑女であるルナレイアには見せられないと思い、目を塞いだのだった。
「あ、ごめん、びっくりして忘れてた……。すぐに着てくるから、ちょっと待ってて」
ユスティは急いで服を着た。
「ごめんね、すっかり忘れてて……。とりあえず、座って」
ルナレイアは素直に従って座り、教会に行きたいと話すことにした。
「あの、ユスティさま」
「どうしたの?」
ルナレイアからの話に心当たりのないユスティは、首をかしげた。
「教会に行きたいのですが、よろしいでしょうか? リサに聞いたところ、ユスティさまの許可を、とのことで、聞きに参りましたの」
「ああ、教会ね。うーん。……ルナレイアの魔力は回復させたほうがいいけど、聖女に会いかねないしなあ……」
ユスティは考え込んだ。その様子をぼーっと見ていると、くぅ、と、お腹の音が鳴った。
「ん? ああ、そういえば今日はなんにも食べてないよね。僕としたことが失念してた。リサ、軽食を持ってきてもらってもいい?」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
リサはユスティの部屋を出て、急いで食堂の料理長のもとへ向かった。聖女であるルナレイアを、多くの人が使う食堂へ姿を晒してはならないからだ。
「申し訳ございません」
ルナレイアは恥ずかしそうに顔を伏せた。
「いいや、僕の方こそごめんね。起きてからなんにも食べてないし、お腹すいてたんじゃないの?」
「いえ、この世界のことを知るのに頭がいっぱいで。少し落ち着いたら突然空腹が……」
はあ、とため息をつくルナレイア。よくよく考えたら、魔王の城へ行く前に食べた以来、なにも食べていない。お腹が鳴るのも仕方のないことだ、と自分を納得させた。
そんなことを考えていると、コンコン、と部屋の扉がノックされた。リサが帰ってきたのだ。
「お待たせいたしました。料理長に言って、サンドイッチを作らせました。これなら手早くお召し上がりいただけるかと」
机の上に、サンドイッチが並べられる。野菜、チーズ、ハム、卵など、いろいろなものがパンに挟まれている。とてもおいしそうだ。
「リサ、ありがとう。料理長さんにも無理を言ってごめんなさいと伝えてください」
「かしこまりました」
「ユスティさまも、手配をありがとうございます」
「いいからいいから、食べなよ」
ユスティは苦笑した。ルナレイアのお腹が、またしても空腹を訴えていたのだ。
「申し訳ございません。いただきます」
ルナレイアは、美しい所作でサンドイッチを食べ始めた。ユスティが見惚れるほどに。
「本当に、君は所作が美しいね……。ああ、返事はしなくていいよ。そうだ、食べながらでいいから聞いてね」
ルナレイアは頷いた。
「教会に行くのはまあ、聖女である、レイに会わなければ問題ないよ。まあ、会ってしまってもそのときは仕方ないし、魔王を討伐する旅のことも話してしまおう。それから、教会に行くときは僕もついていく。僕も一緒なら大神官に話も通しやすいし、聖水も貰いやすい。なんてったって、宮廷魔術師だからね。あと、魔力も回復しやすいだろう」
聖水は、聖なる魔力を含んだ、光魔術師にのみ作用する水だ。ほかの魔術師が飲めば毒にもなりうる。だが、光の魔力を与えると、聖水の効果が倍増するのだ。
「君の魔力が膨大で、いくら回復が追いついていないとは言っても、聖水と僕の魔力で今日行くだけでも十分回復するんじゃないかな。もちろん、休暇は大事だから魔力が回復してからも休んでもらって構わないよ」
一般的な魔術師の魔力は、枯渇寸前まで使ったとしても、ひと晩寝るだけで回復してしまうが、聖女であるルナレイアはそうではない。魔力の器が大きすぎて、魔王との戦いで使い切ったその魔力は、あれからふた晩寝た今も、未だ回復していないのだ。
「ありがとうございます。魔力が回復したら早く魔王を倒しにいけと言われるんじゃないかと、心配しておりました」
ちっとも心配していなさそうに微笑むルナレイア。この国の王は、約束を反故にしないとわかっているのだろう。
「休暇は大切だからね。三日間……、今日は教会に行くとしてあと二日か。なにしてもらっても構わないよ。近衛の子……、ラナリーだったかな。あの子に会ってからだけどね。孤児院に行ってもいいし、城下町に行ってもいい。やりたいように楽しんでおいで」
「はい、ありがとうございます」
城下町……、と、ルナレイアはあまり散策はしたことのない場所へ心躍らせた。勇者たちと旅をしたが、あまり大きな街を楽しんだことはない。
さて、とユスティは言った。
「サンドイッチも食べ終わったみたいだし、そろそろ行こうか。リサ、先導してもらえるかい?」
「かしこまりました」
リサの先導に続き、三人は教会へ向かった。
部屋の前に着き、リサは扉をノックした。
「ユスティ様、ルナレイア様からお話があるそうで、ご案内いたしました」
ユスティは突然の訪問に驚いたようだ。
「えっ、……と、とりあえず、入っておいで」
リサはドアを開け、ルナレイアをエスコート……しようとし、ルナレイアの目を塞いだ。
「ユスティ様、服を着てください」
ユスティは上半身裸だったのだ。湯浴みを終えて、着替えていたのを忘れていた。リサは、淑女であるルナレイアには見せられないと思い、目を塞いだのだった。
「あ、ごめん、びっくりして忘れてた……。すぐに着てくるから、ちょっと待ってて」
ユスティは急いで服を着た。
「ごめんね、すっかり忘れてて……。とりあえず、座って」
ルナレイアは素直に従って座り、教会に行きたいと話すことにした。
「あの、ユスティさま」
「どうしたの?」
ルナレイアからの話に心当たりのないユスティは、首をかしげた。
「教会に行きたいのですが、よろしいでしょうか? リサに聞いたところ、ユスティさまの許可を、とのことで、聞きに参りましたの」
「ああ、教会ね。うーん。……ルナレイアの魔力は回復させたほうがいいけど、聖女に会いかねないしなあ……」
ユスティは考え込んだ。その様子をぼーっと見ていると、くぅ、と、お腹の音が鳴った。
「ん? ああ、そういえば今日はなんにも食べてないよね。僕としたことが失念してた。リサ、軽食を持ってきてもらってもいい?」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
リサはユスティの部屋を出て、急いで食堂の料理長のもとへ向かった。聖女であるルナレイアを、多くの人が使う食堂へ姿を晒してはならないからだ。
「申し訳ございません」
ルナレイアは恥ずかしそうに顔を伏せた。
「いいや、僕の方こそごめんね。起きてからなんにも食べてないし、お腹すいてたんじゃないの?」
「いえ、この世界のことを知るのに頭がいっぱいで。少し落ち着いたら突然空腹が……」
はあ、とため息をつくルナレイア。よくよく考えたら、魔王の城へ行く前に食べた以来、なにも食べていない。お腹が鳴るのも仕方のないことだ、と自分を納得させた。
そんなことを考えていると、コンコン、と部屋の扉がノックされた。リサが帰ってきたのだ。
「お待たせいたしました。料理長に言って、サンドイッチを作らせました。これなら手早くお召し上がりいただけるかと」
机の上に、サンドイッチが並べられる。野菜、チーズ、ハム、卵など、いろいろなものがパンに挟まれている。とてもおいしそうだ。
「リサ、ありがとう。料理長さんにも無理を言ってごめんなさいと伝えてください」
「かしこまりました」
「ユスティさまも、手配をありがとうございます」
「いいからいいから、食べなよ」
ユスティは苦笑した。ルナレイアのお腹が、またしても空腹を訴えていたのだ。
「申し訳ございません。いただきます」
ルナレイアは、美しい所作でサンドイッチを食べ始めた。ユスティが見惚れるほどに。
「本当に、君は所作が美しいね……。ああ、返事はしなくていいよ。そうだ、食べながらでいいから聞いてね」
ルナレイアは頷いた。
「教会に行くのはまあ、聖女である、レイに会わなければ問題ないよ。まあ、会ってしまってもそのときは仕方ないし、魔王を討伐する旅のことも話してしまおう。それから、教会に行くときは僕もついていく。僕も一緒なら大神官に話も通しやすいし、聖水も貰いやすい。なんてったって、宮廷魔術師だからね。あと、魔力も回復しやすいだろう」
聖水は、聖なる魔力を含んだ、光魔術師にのみ作用する水だ。ほかの魔術師が飲めば毒にもなりうる。だが、光の魔力を与えると、聖水の効果が倍増するのだ。
「君の魔力が膨大で、いくら回復が追いついていないとは言っても、聖水と僕の魔力で今日行くだけでも十分回復するんじゃないかな。もちろん、休暇は大事だから魔力が回復してからも休んでもらって構わないよ」
一般的な魔術師の魔力は、枯渇寸前まで使ったとしても、ひと晩寝るだけで回復してしまうが、聖女であるルナレイアはそうではない。魔力の器が大きすぎて、魔王との戦いで使い切ったその魔力は、あれからふた晩寝た今も、未だ回復していないのだ。
「ありがとうございます。魔力が回復したら早く魔王を倒しにいけと言われるんじゃないかと、心配しておりました」
ちっとも心配していなさそうに微笑むルナレイア。この国の王は、約束を反故にしないとわかっているのだろう。
「休暇は大切だからね。三日間……、今日は教会に行くとしてあと二日か。なにしてもらっても構わないよ。近衛の子……、ラナリーだったかな。あの子に会ってからだけどね。孤児院に行ってもいいし、城下町に行ってもいい。やりたいように楽しんでおいで」
「はい、ありがとうございます」
城下町……、と、ルナレイアはあまり散策はしたことのない場所へ心躍らせた。勇者たちと旅をしたが、あまり大きな街を楽しんだことはない。
さて、とユスティは言った。
「サンドイッチも食べ終わったみたいだし、そろそろ行こうか。リサ、先導してもらえるかい?」
「かしこまりました」
リサの先導に続き、三人は教会へ向かった。
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