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第一章
07
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「ルナレイア、紅茶でも飲みながら話そうか。聖水で入れてもらった紅茶、まだあるはずだから、リサ、淹れてきてもらえる?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ユスティは、リサを待ってから口を開くことにした。少し待たないと、ルナレイアも頭が整理できないだろうと思ったからだ。
「お待たせいたしました。微力ですが、光の魔力を込めました」
「ありがとう、リサ。じゃあ僕も、光の魔力を込めよう」
ユスティは集中して、右手に光の魔力を集めた。幻想的な光が、ユスティの右手を照らした。そして、聖水で出来た紅茶に入れた。
「じゃあ、飲もうか。リサ、君も一緒に飲むかい?」
「いいえ、私はここで」
「わかった」
ルナレイアとユスティは、紅茶をひとくち飲んだ。
「聖水で淹れたお茶って、こんなに美味しいんだね。僕、初めて飲んだよ」
「そうなのですか? 旅をしていた頃はなかなか手に入りませんでしたが、教会にいた頃は毎日飲んでいました」
「まあ、聖水ってただの魔法使いにはそうそう手に入れられるものじゃないからね。さ、話を聞こうか」
ルナレイアの体がこわばった。責められると思ったのだ。
「君に、何が起きたの?」
「……わたくしにもよく分かりません。レイさまを見たとたん、この子はわたくしと同じ存在だ。ならば取り込んでしまおう、と思ったのです。わたくしと同じ、というのは、わたくしの知る勇者さまがふたりいるように、賢者さまがふたりいるように、こちらとあちらの世界はつながっていて、どこかに同じ人物がいるということでしょうか。そう、いわば……、魂が同じ、とでも言えるのでしょうか」
ユスティは、ふむ、と考え込んだ。そんな話、聞いたこともない。だが、先ほどルナレイアは取り乱し、同じ存在であるレイを取り込もうとした。そして、自分にも、フォルカにも、同じ存在がいるという。好奇心が疼いた。
「魂が同じ存在、ね。そういえばさっき、レイに二度と取り込もうとしない、って行ったけど、その衝動? は抑えられるの?」
「可能だと思います。先程は、レイさまを拝見したのは初めてでした。我に返ってからはそのようなこと思いませんでしたし、大丈夫です」
「そっか、それならいいや。魂が同じっていうのは気になるけど、調べるのはまた今度にする。まあ、君と一緒に旅に出るから、しばらくは調べられないけど。あ、行った先で調べてみればいいのか……」
それでも、王宮の図書館より詳しく調べられそうなところはないけどね、と、ユスティは苦笑した。
「もしかしたら、魔王に聞けばなにかわかるかもしれません。わたくしがここに来たのは、きっと魔王のせいですから」
「ん? もしかして、こっちに来た時について、なにか思い出したの?」
「すこしだけ。わたくしは、勇者さまを庇って、魔王の魔法を受けてここに来たのだと思います」
こちらへ来た日は、記憶を探ると頭が痛くなったが、今はもうそれもない。ルナレイアは、どうしてここに来たのか、ほとんど思い出していた。思い出すと同時に、勇者への恋情が蘇り、消える。
そして、勇者がこちらに来ていたとしたら、こちらの勇者であり王であるフォルカに取り込まれていたのかもしれない、そう考えると、ぞっとした。
魔王を倒すまでは、むこうへ戻れない。そう思った。そして、事情も聞かなくては。
「魔王がこちらにも存在している。そう聞いたときはなんとしてでも倒さなければ、なんて思いませんでしたが、今は話を聞いてみなければ、と思います。人間を混沌に陥れない存在だとしたら、魔王は倒さなくても良いのでしょう?」
「それもそう……かもしれないけど、君がここにいることによって、混乱は生じているんじゃないの? 君自身が混沌に陥れられている、なんてね」
「あら、でしたらやはり、魔王を倒さなければなりません。協力してください。賢者さま」
「喜んで。聖女様。君のことは頼りにしているよ。レイにも明日、事情を説明してみよう」
ふたりして、くすくすと笑いながら話をする。
「お願いいたします。レイ様には、嫌われてしまったでしょう。頑張って、信用を築くことにしますわ。そういえば、レイ様の瞳は、死んでいなかった。この神殿でよい扱いを受けているのでしょう。こちらの神殿も、あちらと同じようなものだと思い込んでしまっていました」
「君が気になっていたことって、それ?」
「ええ、ですからわたくしは、早いうちにレイ様にお会いしたかったのです。ひどい扱いを受けているようなら、わたくしがなんとしてでも神殿から引き離そうと思っておりました。もうひとりのわたくしを、傷つけたくはなかったから」
でもそれも、間違っていた。と、ルナレイアは思った。あの子は傷ついてもいなかったし、助けも求めていなかった。年齢よりも少し幼く見えるけれど、良い教育をされているようだ。
「レイのことは心配しなくても大丈夫だよ。僕を慕ってくれているみたいだし、僕も旅に出るから一緒に来てくれと言ったらついてきてくれるはずだ。旅の間に仲良くなればいい」
「そうなのですね。ありがとうございます。よろしくお願いいたします。こんなことを言うと不謹慎になるかもしれませんが……、ユスティさまと共に旅をするのは、楽しみです」
ルナレイアはそう言って微笑んだ。勇者たちと旅をするのは大変だったが、楽しくもあった。今度の旅も、楽しいものになってくれるだろう。
「ああ、僕も楽しみだ。そうそう、旅の仲間といえば、ラナリーって名前に聞き覚えはある? 最年少で近衛まで上り詰めた天才と呼ばれる女の子なんだ。その子も旅の仲間だよ」
ルナレイアは、桃色の髪のライバルを思い出した。
「ええ、もちろんです。一番はじめにお話した時に、剣姫のラナリーと、申し上げましたでしょう? きっと、その子と同じ人だと思いますわ」
ユスティは驚いた。ラナリーのことは記憶になかったからだ。
「え? そうだっけ、覚えてないや。でも知ってるなら話は早い。今15歳なんだけどね。フォルカに惚れているのか、王妃の座を狙っているらしい」
「ラナリーらしいです。あの子も、勇者さまのことが大好きで、取り合っていたんですよ」
ユスティは、少しムッとした。というより、4人で旅をしているのに、そのうちの3人が三角関係だなんて、居心地が悪そうだ。それでも僕は、ルナレイアのことが好きだったんだろうか。
「そうなんだ。でもいま、フォルカは妃を娶りたくないらしくてね、少しだけ引き離して、頭を冷やそうって魂胆もあるみたいだよ。ラナリーは旅から帰ってきてからでも、近衛隊の隊長か、軍の元帥の養女になったら王妃になれる可能性もある。どのくらい旅を続けるかはわからないけど、王妃云々は旅が終わったあとに考えたいらしい。問題を先送りしているとも言えるけど」
ユスティは苦笑した。
「まあ、そうなんですね。フォルカさまも大変ですね……。王となると、いろいろあるのでしょう」
ルナレイアとユスティは、紅茶を飲み終えた。聖水を飲んだルナレイアの魔力は、最大の3分の2くらいまで回復していた。
「紅茶も飲んだことだし、そろそろ教会からお暇しよう。一緒に夕食でもいかがかな?」
「そう、ですね。魔力も全快とはいきませんが、回復いたしました。ご一緒させていただきたいです」
ルナレイアたちは、夕食を取りに行くことにした。
大神官に先程は迷惑をかけた、と謝ってから。
「かしこまりました。少々お待ちください」
ユスティは、リサを待ってから口を開くことにした。少し待たないと、ルナレイアも頭が整理できないだろうと思ったからだ。
「お待たせいたしました。微力ですが、光の魔力を込めました」
「ありがとう、リサ。じゃあ僕も、光の魔力を込めよう」
ユスティは集中して、右手に光の魔力を集めた。幻想的な光が、ユスティの右手を照らした。そして、聖水で出来た紅茶に入れた。
「じゃあ、飲もうか。リサ、君も一緒に飲むかい?」
「いいえ、私はここで」
「わかった」
ルナレイアとユスティは、紅茶をひとくち飲んだ。
「聖水で淹れたお茶って、こんなに美味しいんだね。僕、初めて飲んだよ」
「そうなのですか? 旅をしていた頃はなかなか手に入りませんでしたが、教会にいた頃は毎日飲んでいました」
「まあ、聖水ってただの魔法使いにはそうそう手に入れられるものじゃないからね。さ、話を聞こうか」
ルナレイアの体がこわばった。責められると思ったのだ。
「君に、何が起きたの?」
「……わたくしにもよく分かりません。レイさまを見たとたん、この子はわたくしと同じ存在だ。ならば取り込んでしまおう、と思ったのです。わたくしと同じ、というのは、わたくしの知る勇者さまがふたりいるように、賢者さまがふたりいるように、こちらとあちらの世界はつながっていて、どこかに同じ人物がいるということでしょうか。そう、いわば……、魂が同じ、とでも言えるのでしょうか」
ユスティは、ふむ、と考え込んだ。そんな話、聞いたこともない。だが、先ほどルナレイアは取り乱し、同じ存在であるレイを取り込もうとした。そして、自分にも、フォルカにも、同じ存在がいるという。好奇心が疼いた。
「魂が同じ存在、ね。そういえばさっき、レイに二度と取り込もうとしない、って行ったけど、その衝動? は抑えられるの?」
「可能だと思います。先程は、レイさまを拝見したのは初めてでした。我に返ってからはそのようなこと思いませんでしたし、大丈夫です」
「そっか、それならいいや。魂が同じっていうのは気になるけど、調べるのはまた今度にする。まあ、君と一緒に旅に出るから、しばらくは調べられないけど。あ、行った先で調べてみればいいのか……」
それでも、王宮の図書館より詳しく調べられそうなところはないけどね、と、ユスティは苦笑した。
「もしかしたら、魔王に聞けばなにかわかるかもしれません。わたくしがここに来たのは、きっと魔王のせいですから」
「ん? もしかして、こっちに来た時について、なにか思い出したの?」
「すこしだけ。わたくしは、勇者さまを庇って、魔王の魔法を受けてここに来たのだと思います」
こちらへ来た日は、記憶を探ると頭が痛くなったが、今はもうそれもない。ルナレイアは、どうしてここに来たのか、ほとんど思い出していた。思い出すと同時に、勇者への恋情が蘇り、消える。
そして、勇者がこちらに来ていたとしたら、こちらの勇者であり王であるフォルカに取り込まれていたのかもしれない、そう考えると、ぞっとした。
魔王を倒すまでは、むこうへ戻れない。そう思った。そして、事情も聞かなくては。
「魔王がこちらにも存在している。そう聞いたときはなんとしてでも倒さなければ、なんて思いませんでしたが、今は話を聞いてみなければ、と思います。人間を混沌に陥れない存在だとしたら、魔王は倒さなくても良いのでしょう?」
「それもそう……かもしれないけど、君がここにいることによって、混乱は生じているんじゃないの? 君自身が混沌に陥れられている、なんてね」
「あら、でしたらやはり、魔王を倒さなければなりません。協力してください。賢者さま」
「喜んで。聖女様。君のことは頼りにしているよ。レイにも明日、事情を説明してみよう」
ふたりして、くすくすと笑いながら話をする。
「お願いいたします。レイ様には、嫌われてしまったでしょう。頑張って、信用を築くことにしますわ。そういえば、レイ様の瞳は、死んでいなかった。この神殿でよい扱いを受けているのでしょう。こちらの神殿も、あちらと同じようなものだと思い込んでしまっていました」
「君が気になっていたことって、それ?」
「ええ、ですからわたくしは、早いうちにレイ様にお会いしたかったのです。ひどい扱いを受けているようなら、わたくしがなんとしてでも神殿から引き離そうと思っておりました。もうひとりのわたくしを、傷つけたくはなかったから」
でもそれも、間違っていた。と、ルナレイアは思った。あの子は傷ついてもいなかったし、助けも求めていなかった。年齢よりも少し幼く見えるけれど、良い教育をされているようだ。
「レイのことは心配しなくても大丈夫だよ。僕を慕ってくれているみたいだし、僕も旅に出るから一緒に来てくれと言ったらついてきてくれるはずだ。旅の間に仲良くなればいい」
「そうなのですね。ありがとうございます。よろしくお願いいたします。こんなことを言うと不謹慎になるかもしれませんが……、ユスティさまと共に旅をするのは、楽しみです」
ルナレイアはそう言って微笑んだ。勇者たちと旅をするのは大変だったが、楽しくもあった。今度の旅も、楽しいものになってくれるだろう。
「ああ、僕も楽しみだ。そうそう、旅の仲間といえば、ラナリーって名前に聞き覚えはある? 最年少で近衛まで上り詰めた天才と呼ばれる女の子なんだ。その子も旅の仲間だよ」
ルナレイアは、桃色の髪のライバルを思い出した。
「ええ、もちろんです。一番はじめにお話した時に、剣姫のラナリーと、申し上げましたでしょう? きっと、その子と同じ人だと思いますわ」
ユスティは驚いた。ラナリーのことは記憶になかったからだ。
「え? そうだっけ、覚えてないや。でも知ってるなら話は早い。今15歳なんだけどね。フォルカに惚れているのか、王妃の座を狙っているらしい」
「ラナリーらしいです。あの子も、勇者さまのことが大好きで、取り合っていたんですよ」
ユスティは、少しムッとした。というより、4人で旅をしているのに、そのうちの3人が三角関係だなんて、居心地が悪そうだ。それでも僕は、ルナレイアのことが好きだったんだろうか。
「そうなんだ。でもいま、フォルカは妃を娶りたくないらしくてね、少しだけ引き離して、頭を冷やそうって魂胆もあるみたいだよ。ラナリーは旅から帰ってきてからでも、近衛隊の隊長か、軍の元帥の養女になったら王妃になれる可能性もある。どのくらい旅を続けるかはわからないけど、王妃云々は旅が終わったあとに考えたいらしい。問題を先送りしているとも言えるけど」
ユスティは苦笑した。
「まあ、そうなんですね。フォルカさまも大変ですね……。王となると、いろいろあるのでしょう」
ルナレイアとユスティは、紅茶を飲み終えた。聖水を飲んだルナレイアの魔力は、最大の3分の2くらいまで回復していた。
「紅茶も飲んだことだし、そろそろ教会からお暇しよう。一緒に夕食でもいかがかな?」
「そう、ですね。魔力も全快とはいきませんが、回復いたしました。ご一緒させていただきたいです」
ルナレイアたちは、夕食を取りに行くことにした。
大神官に先程は迷惑をかけた、と謝ってから。
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