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第7話 我が家へようこそ
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ルシアンが髪の毛と目の色を変える練習を始めてからしばらく経った頃、わたしがいつものように魔法の練習をしようと森の中の川沿いに着くと、わたし達がいつも魔法の練習をしている場所で、見知らぬ髪色の男の子が魔法の練習をしていた。
「あっ、プラム。おはようー」
男の子がこちらに気付いて振り向き、わたしに挨拶してきた。もしかして、ルシアン!?
「ルシアンなの!?髪の毛の色が違う!」
「髪の毛だけじゃなくて目の色も変えてみたんだ」
「うわぁ、ほんとすごい。髪の毛は光に当たると緑に見えるけど、ベースは茶色なのかな?目の色も、普段の濃い青色じゃなくて、少し茶色がかった感じなんだね」
普段のルシアンは、すごく綺麗な金髪に濃い青色の瞳で The 王子様!って感じなんだけど、もとが良いからなのか色が変わってもかっこよさは変わらない。それにこの魔法、色を変えた感が全くなくて、変装だってわからない。
「ふふっ、惚れ直した?」
「うんっ!」
「えっ?」
ルシアンは自分で言って照れている。
「大分変装魔法の持続時間も延びてきたから、そろそろプラムの家にも行けるかもしれない」
「うわぁ、ルシアンがうちに遊びに来てくれるなら、りんごケーキとかりんご紅茶を用意するねっ!!」
闇魔法すごいなぁ…そういえば、光魔法と闇魔法の本は見たことがないけれど、ルシアンの住んでいるところにはあるのかな?
「ねぇ、ルシアン。光魔法と闇魔法にも魔法書や教本ってあるの?」
「もちろん、あるよ。プラムは見たことがない?」
「うん。高度な魔法の教本に光魔法と闇魔法のことは書かれていたけれど、属性魔法書は見たことないの」
「じゃあ、今度ぼくの本を貸してあげるよ。他の属性の魔法書よりちょっと高いからあげることはできないけれど、ぼくは何度も読んだから貸すのは問題ないよ」
「うれしいっ!!ありがとう、ルシアン。楽しみにしてるね!」
属性魔法書は、自分が使えない属性でもどんな魔法があるのかを見るのが楽しい。それに属性指輪があればランク1の魔法が使えるのだから、見ておいて損はないと思う。
その後もルシアンは闇魔法で色んな髪の色の姿を見せてくれた。ピンクとか紫とかもあったけれど、現実にそんな髪の色の人がいるのかしら?
「あっ、そろそろ帰らないと。プラム、またね」
「うん。ルシアン、またね」
ルシアンが闇魔法で帰ったので、わたしも魔法石を拾いながら家に帰った。
◇◇◇◇
数日後、ルシアンは約束通り闇魔法書を持ってきてくれた。
「はい、これ。闇魔法書だよ。光魔法書はプラムが闇魔法書を読み終えたら交換で持ってくるね」
と言ってわたしに渡してきた本は、この世界では見たこともない立派なハードカバータイプの高そうな装飾がされている本だった。
「こ、こんな高そうな本、汚したりするのが怖くて借りれない……」
わたしが受け取るのを躊躇っていると、「大丈夫。ぼくが昔付けたシミなどが結構残っているし、破いたりしなければ問題ないよ」と、本を私の手に持たせてきた。ハードカバーのせいなのか見た目よりもずっしりとした重さを感じる。
「ありがとう。おうちでじっくり読ませてもらうね」
「うん。そうだ!おうちと言えば、今度プラムの家に遊びに行ってもいいかな?だいぶ安定して変装魔法が使えるようになったんだ」
「もちろん!わぁ、お友達をおうちに招待するなんて初めてだから、ワクワクする」
「でも、ぼくの素性は隠す必要があるから、出会ったきっかけはぼくが森の中で迷子になっていたところに、魔法石を集めていたプラムがいたという感じにしたいんだけどいいかな?あと、住んでいるところはここから少し離れたところにある城下町ということにしたい」
ルシアンは城下町じゃないところに住んでいるということね。とことん素性を隠したがるあたり、ほんとに身分の高い人の可能性が高くなってきた。
「うん、わかった」
「ありがとう。ぼくのことを知っている人に出会いたくないし、家族にもここで魔法の練習をしていることなど、知られたくないんだ」
ルシアンにはよっぽどの理由があるのだろう。わたしだってすでに魔法の練習を沢山していることを家族には内緒にしていたいもの。
そして数日後、いつもの場所にルシアンからの魔法メモが置かれていた。属性に関係のないランク1の魔法だけど、メモに登録した魔力の持ち主しか読めないようになっている。わたしは魔法メモに魔力を流して開封する。
『明日、プラムの家へ行きたい。待ち合わせはここで』
わたしは魔法メモをポケットにしまい、急いで魔法石を拾って家に帰ることにした。
「明日ルシアンがうちにくるっ!!お母さんにリンゴを切ってもらってりんごケーキを作らないと!」
わたしは家に着くなりお母さんに明日友達が遊びに来ることを伝え、一緒にりんごケーキを作ってほしいとお願いすると、「魔法書以外のお願いなんて珍しいわね」と言いながら笑っていた。
わたしは、お母さんとおしゃべりしながら一緒にりんごケーキを作り始める。
「そのお友達って男の子?」
「うん」
「どこで知り合ったの?」
「その子が森の中で迷子になっていたときに偶然会って、森を抜けるまで案内したの。それからもたまに会うようになった感じなのかな?」
「あの森は何故か魔法石が沢山見つかるからね。でも、迷いやすい森でもあるから、集落や近くの街に住んでいる人で森の奥まで入る人はほとんどいないわね」
わたし、あの森で迷ったことがないけどなぁ……でも、奥まで入り込む人がいないから、ルシアンとの魔法の練習も誰にも見つからないんだろうね。もしかしてルシアンはそれを知っていたのかしら?
そんなことを考えながら生地に細かく切ったりんごを入れて混ぜ合わせて、フライパンの底に薄く切ったりんごを並べてから生地を流し込み、弱火でじっくりと焼いていく。包丁や火はまだ使わせてもらえないので、お母さんが焼いてくれる。
「いい匂いがしてきた~」
「そろそろ大丈夫ね」
お母さんが焼けたりんごケーキをフライパンからお皿に移してしばらく冷ます。
「うわぁ、きれいに焼けた。お母さんありがとう」
「お友達に喜んでもらえるといいわね」
「うんっ!」
ケーキが出来上がった後は、明日になるのが待ち遠しくて仕方がなかった。
◇◇◇◇
翌日、わたしはいつもの場所でルシアンが来るのを待っていた。
「プラム、おはよう。待たせちゃったかな?」
「ううん、大丈夫だよ」
ルシアンと一緒に森を出て、私の家に向かう。ルシアンは先日と同じ髪色と目の色に変えているんだけど、すごく綺麗な色だなぁって思う。
ルシアンはわたしの手を握って、わたしの歩幅に合わせて歩いてくれている。何て紳士なんだろう、幼女じゃなければ惚れていたかもしれない。
「あっ、あれがプラムの家の果樹園かい?」
「うん、そうなの。果樹園があるからうちは集落の一番端っこなんだ」
「後でよく見せてね」
「うんっ!」
わたしの家の玄関前に着いたところで、お母さんが中から出てきた。
「いらっしゃい。どうぞ中へ入って」
「はい、お邪魔します」
ルシアンは家の中に入るとすぐに「ぼくはルシアンと言います。プラムとは森の中で出会って以来、仲良くしてもらっています」と言って、お土産のキャンディ詰め合わせをお母さんに渡すと、珍しいものをいただいたとビックリしている。奥の部屋からお兄ちゃんも出てきて、ルシアンとお互いに挨拶をした。
「みんなこっちに座って、プラムが作ったりんごケーキを食べましょう」
お母さんは早速りんごケーキを食べやすい大きさに切ってテーブルの上に置くと、ルシアンが「プラムが美味しいって言っていたので、食べてみたかったんです」と嬉しそうな顔で言ってくれた。
わたしがケーキを食べ始めると、ルシアンも食べ始めたと思ったら、あっという間に完食していた。
「このりんご、街に売られているりんごとは違う甘さや美味しさを感じるんですけど……」
わたしはうちのりんごしか食べたことがないけれど、街には品種の違うりんごが売られているのかな?と思っていると、お母さんが「お父さんが毎日りんごの木に声をかけて、愛情たっぷり込めて育てているからよ」と答えた。
「ちょうど今、お父さんが果樹園にいるから、良かったら見学しない?」
「是非。ぼくも近くで見たかったんです」
ということで、みんなで果樹園に向かう。お兄ちゃんも付いてきているけれど、何かちょっと機嫌が悪く見えるのは気のせいかなぁ…?
果樹園でりんごの成長具合を見ているお父さんを見つけて、ルシアンが早速あいさつをする。
「プラムが友達を連れてきたのは初めてだからうれしいよ。ルシアンくんはいくつだい?」
「ぼくはプラムの3歳上で今年8歳になります」
「じゃあ、リカルドの1つ下だな。それにしてはすごくしっかりしているなぁ」
「ちょっと家が厳しいので……でも、ありがとうございます」
ルシアンはうちに来てからずっと言葉遣いや仕草などを砕けた感じにしようと頑張ってるんだけど、所々で素が出てしまっている。
「りんごは今ちょうど実がつき始めたところだから、食べられるようになるまであと数ヶ月かかるんだけど、こっちに風魔法で成長を早めている木があるんだよ」
お父さんが案内してくれた木には既に赤いりんごがいくつも実っている。お父さんは風魔法ランク1だけど、こんな一気に成長させられるんだとワクワクした。
「りんごは毎年とても美味しく実ってくれるんだが、向こうにある桃がなかなか実を付けてくれなくてね、未だに色々試してはやり直しているんだよ」
「桃の木の近くへ行ってみてもいいですか?」
「勿論。俺に付いてきてくれ」
お父さんに付いて、みんなで桃の木が植えられている区画に移動した。
「桃の木を植えてからもう7年経つんだけど、一度も実が成ったことがなくてな。桃の木の寿命は20年前後だから後5年以内には実らせたいところだが、まだまだ何かが足りないようで、日々勉強させられているよ」
「お父さんのそういう前向きなところ、本当にすごいと思う。わたしも早くお手伝いできるようになりたい」
わたし達がそんな話をしている横で、「何がダメなんだろう?」と言いながら、ルシアンが桃の木を色んな角度から見ている。
「もし、桃が美味しく実るようになったらルシアンくんにも分けてあげるから、またいつでも遊びに来てくれ」
「はい、ありがとうございます」
果樹園を見ているうちにルシアンの帰宅時間が近づいてきたので家に戻ると、お父さんが麻袋にりんごを入れてルシアンに渡した。
「これ、よかったらご家族で食べるといい。妻から聞いたが、うちのりんごのことを褒めてくれてありがとう」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます」
りんごをもらったルシアンは、王子様(っぽい)スマイルでお父さんとお母さんの心を鷲掴みにしているようだった。お兄ちゃんだけ何か不機嫌なのは、イケメンに嫉妬しているのかしら?
「じゃあ、ルシアンをそこまで送って行くね」
「えぇ、気をつけて」
「今日はありがとうございました。また遊びに来ます。お邪魔しました」
わたしとルシアンは家を出て一旦森の中まで歩いた。
「ここだったら誰にも見られずに瞬間移動魔法使えるかな」
「うん、大丈夫だと思う」
「プラム、今日は本当にありがとう。りんごケーキ、プラムの愛情が詰まってて美味しかったよ」
「わたしは材料をまぜまぜしたのと、薄く切ったリンゴを並べただけだけどね」
「でも、ぼくに美味しく食べてもらいたいという気持ちが伝わってきたよ」
「食物を育てたり、料理を作ったりする時に気持ちを込めると相手に伝わるって、お父さんやお母さんの教えを実践しているだけだけどね」
「その教え自体も素晴らしいよね。プラムのご家族に会えて本当に良かったよ」
「わたしも、ルシアンにわたしの家族を紹介出来て良かった。また遊びに来てね!」
「うん、また行くよ。それじゃ、またね」
「うん、バイバイ」
わたしはルシアンが瞬間移動魔法で帰るのを見送ってから、家へ帰った。うちのりんご、ルシアンのご家族も喜んでくれるといいな。
「あっ、プラム。おはようー」
男の子がこちらに気付いて振り向き、わたしに挨拶してきた。もしかして、ルシアン!?
「ルシアンなの!?髪の毛の色が違う!」
「髪の毛だけじゃなくて目の色も変えてみたんだ」
「うわぁ、ほんとすごい。髪の毛は光に当たると緑に見えるけど、ベースは茶色なのかな?目の色も、普段の濃い青色じゃなくて、少し茶色がかった感じなんだね」
普段のルシアンは、すごく綺麗な金髪に濃い青色の瞳で The 王子様!って感じなんだけど、もとが良いからなのか色が変わってもかっこよさは変わらない。それにこの魔法、色を変えた感が全くなくて、変装だってわからない。
「ふふっ、惚れ直した?」
「うんっ!」
「えっ?」
ルシアンは自分で言って照れている。
「大分変装魔法の持続時間も延びてきたから、そろそろプラムの家にも行けるかもしれない」
「うわぁ、ルシアンがうちに遊びに来てくれるなら、りんごケーキとかりんご紅茶を用意するねっ!!」
闇魔法すごいなぁ…そういえば、光魔法と闇魔法の本は見たことがないけれど、ルシアンの住んでいるところにはあるのかな?
「ねぇ、ルシアン。光魔法と闇魔法にも魔法書や教本ってあるの?」
「もちろん、あるよ。プラムは見たことがない?」
「うん。高度な魔法の教本に光魔法と闇魔法のことは書かれていたけれど、属性魔法書は見たことないの」
「じゃあ、今度ぼくの本を貸してあげるよ。他の属性の魔法書よりちょっと高いからあげることはできないけれど、ぼくは何度も読んだから貸すのは問題ないよ」
「うれしいっ!!ありがとう、ルシアン。楽しみにしてるね!」
属性魔法書は、自分が使えない属性でもどんな魔法があるのかを見るのが楽しい。それに属性指輪があればランク1の魔法が使えるのだから、見ておいて損はないと思う。
その後もルシアンは闇魔法で色んな髪の色の姿を見せてくれた。ピンクとか紫とかもあったけれど、現実にそんな髪の色の人がいるのかしら?
「あっ、そろそろ帰らないと。プラム、またね」
「うん。ルシアン、またね」
ルシアンが闇魔法で帰ったので、わたしも魔法石を拾いながら家に帰った。
◇◇◇◇
数日後、ルシアンは約束通り闇魔法書を持ってきてくれた。
「はい、これ。闇魔法書だよ。光魔法書はプラムが闇魔法書を読み終えたら交換で持ってくるね」
と言ってわたしに渡してきた本は、この世界では見たこともない立派なハードカバータイプの高そうな装飾がされている本だった。
「こ、こんな高そうな本、汚したりするのが怖くて借りれない……」
わたしが受け取るのを躊躇っていると、「大丈夫。ぼくが昔付けたシミなどが結構残っているし、破いたりしなければ問題ないよ」と、本を私の手に持たせてきた。ハードカバーのせいなのか見た目よりもずっしりとした重さを感じる。
「ありがとう。おうちでじっくり読ませてもらうね」
「うん。そうだ!おうちと言えば、今度プラムの家に遊びに行ってもいいかな?だいぶ安定して変装魔法が使えるようになったんだ」
「もちろん!わぁ、お友達をおうちに招待するなんて初めてだから、ワクワクする」
「でも、ぼくの素性は隠す必要があるから、出会ったきっかけはぼくが森の中で迷子になっていたところに、魔法石を集めていたプラムがいたという感じにしたいんだけどいいかな?あと、住んでいるところはここから少し離れたところにある城下町ということにしたい」
ルシアンは城下町じゃないところに住んでいるということね。とことん素性を隠したがるあたり、ほんとに身分の高い人の可能性が高くなってきた。
「うん、わかった」
「ありがとう。ぼくのことを知っている人に出会いたくないし、家族にもここで魔法の練習をしていることなど、知られたくないんだ」
ルシアンにはよっぽどの理由があるのだろう。わたしだってすでに魔法の練習を沢山していることを家族には内緒にしていたいもの。
そして数日後、いつもの場所にルシアンからの魔法メモが置かれていた。属性に関係のないランク1の魔法だけど、メモに登録した魔力の持ち主しか読めないようになっている。わたしは魔法メモに魔力を流して開封する。
『明日、プラムの家へ行きたい。待ち合わせはここで』
わたしは魔法メモをポケットにしまい、急いで魔法石を拾って家に帰ることにした。
「明日ルシアンがうちにくるっ!!お母さんにリンゴを切ってもらってりんごケーキを作らないと!」
わたしは家に着くなりお母さんに明日友達が遊びに来ることを伝え、一緒にりんごケーキを作ってほしいとお願いすると、「魔法書以外のお願いなんて珍しいわね」と言いながら笑っていた。
わたしは、お母さんとおしゃべりしながら一緒にりんごケーキを作り始める。
「そのお友達って男の子?」
「うん」
「どこで知り合ったの?」
「その子が森の中で迷子になっていたときに偶然会って、森を抜けるまで案内したの。それからもたまに会うようになった感じなのかな?」
「あの森は何故か魔法石が沢山見つかるからね。でも、迷いやすい森でもあるから、集落や近くの街に住んでいる人で森の奥まで入る人はほとんどいないわね」
わたし、あの森で迷ったことがないけどなぁ……でも、奥まで入り込む人がいないから、ルシアンとの魔法の練習も誰にも見つからないんだろうね。もしかしてルシアンはそれを知っていたのかしら?
そんなことを考えながら生地に細かく切ったりんごを入れて混ぜ合わせて、フライパンの底に薄く切ったりんごを並べてから生地を流し込み、弱火でじっくりと焼いていく。包丁や火はまだ使わせてもらえないので、お母さんが焼いてくれる。
「いい匂いがしてきた~」
「そろそろ大丈夫ね」
お母さんが焼けたりんごケーキをフライパンからお皿に移してしばらく冷ます。
「うわぁ、きれいに焼けた。お母さんありがとう」
「お友達に喜んでもらえるといいわね」
「うんっ!」
ケーキが出来上がった後は、明日になるのが待ち遠しくて仕方がなかった。
◇◇◇◇
翌日、わたしはいつもの場所でルシアンが来るのを待っていた。
「プラム、おはよう。待たせちゃったかな?」
「ううん、大丈夫だよ」
ルシアンと一緒に森を出て、私の家に向かう。ルシアンは先日と同じ髪色と目の色に変えているんだけど、すごく綺麗な色だなぁって思う。
ルシアンはわたしの手を握って、わたしの歩幅に合わせて歩いてくれている。何て紳士なんだろう、幼女じゃなければ惚れていたかもしれない。
「あっ、あれがプラムの家の果樹園かい?」
「うん、そうなの。果樹園があるからうちは集落の一番端っこなんだ」
「後でよく見せてね」
「うんっ!」
わたしの家の玄関前に着いたところで、お母さんが中から出てきた。
「いらっしゃい。どうぞ中へ入って」
「はい、お邪魔します」
ルシアンは家の中に入るとすぐに「ぼくはルシアンと言います。プラムとは森の中で出会って以来、仲良くしてもらっています」と言って、お土産のキャンディ詰め合わせをお母さんに渡すと、珍しいものをいただいたとビックリしている。奥の部屋からお兄ちゃんも出てきて、ルシアンとお互いに挨拶をした。
「みんなこっちに座って、プラムが作ったりんごケーキを食べましょう」
お母さんは早速りんごケーキを食べやすい大きさに切ってテーブルの上に置くと、ルシアンが「プラムが美味しいって言っていたので、食べてみたかったんです」と嬉しそうな顔で言ってくれた。
わたしがケーキを食べ始めると、ルシアンも食べ始めたと思ったら、あっという間に完食していた。
「このりんご、街に売られているりんごとは違う甘さや美味しさを感じるんですけど……」
わたしはうちのりんごしか食べたことがないけれど、街には品種の違うりんごが売られているのかな?と思っていると、お母さんが「お父さんが毎日りんごの木に声をかけて、愛情たっぷり込めて育てているからよ」と答えた。
「ちょうど今、お父さんが果樹園にいるから、良かったら見学しない?」
「是非。ぼくも近くで見たかったんです」
ということで、みんなで果樹園に向かう。お兄ちゃんも付いてきているけれど、何かちょっと機嫌が悪く見えるのは気のせいかなぁ…?
果樹園でりんごの成長具合を見ているお父さんを見つけて、ルシアンが早速あいさつをする。
「プラムが友達を連れてきたのは初めてだからうれしいよ。ルシアンくんはいくつだい?」
「ぼくはプラムの3歳上で今年8歳になります」
「じゃあ、リカルドの1つ下だな。それにしてはすごくしっかりしているなぁ」
「ちょっと家が厳しいので……でも、ありがとうございます」
ルシアンはうちに来てからずっと言葉遣いや仕草などを砕けた感じにしようと頑張ってるんだけど、所々で素が出てしまっている。
「りんごは今ちょうど実がつき始めたところだから、食べられるようになるまであと数ヶ月かかるんだけど、こっちに風魔法で成長を早めている木があるんだよ」
お父さんが案内してくれた木には既に赤いりんごがいくつも実っている。お父さんは風魔法ランク1だけど、こんな一気に成長させられるんだとワクワクした。
「りんごは毎年とても美味しく実ってくれるんだが、向こうにある桃がなかなか実を付けてくれなくてね、未だに色々試してはやり直しているんだよ」
「桃の木の近くへ行ってみてもいいですか?」
「勿論。俺に付いてきてくれ」
お父さんに付いて、みんなで桃の木が植えられている区画に移動した。
「桃の木を植えてからもう7年経つんだけど、一度も実が成ったことがなくてな。桃の木の寿命は20年前後だから後5年以内には実らせたいところだが、まだまだ何かが足りないようで、日々勉強させられているよ」
「お父さんのそういう前向きなところ、本当にすごいと思う。わたしも早くお手伝いできるようになりたい」
わたし達がそんな話をしている横で、「何がダメなんだろう?」と言いながら、ルシアンが桃の木を色んな角度から見ている。
「もし、桃が美味しく実るようになったらルシアンくんにも分けてあげるから、またいつでも遊びに来てくれ」
「はい、ありがとうございます」
果樹園を見ているうちにルシアンの帰宅時間が近づいてきたので家に戻ると、お父さんが麻袋にりんごを入れてルシアンに渡した。
「これ、よかったらご家族で食べるといい。妻から聞いたが、うちのりんごのことを褒めてくれてありがとう」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます」
りんごをもらったルシアンは、王子様(っぽい)スマイルでお父さんとお母さんの心を鷲掴みにしているようだった。お兄ちゃんだけ何か不機嫌なのは、イケメンに嫉妬しているのかしら?
「じゃあ、ルシアンをそこまで送って行くね」
「えぇ、気をつけて」
「今日はありがとうございました。また遊びに来ます。お邪魔しました」
わたしとルシアンは家を出て一旦森の中まで歩いた。
「ここだったら誰にも見られずに瞬間移動魔法使えるかな」
「うん、大丈夫だと思う」
「プラム、今日は本当にありがとう。りんごケーキ、プラムの愛情が詰まってて美味しかったよ」
「わたしは材料をまぜまぜしたのと、薄く切ったリンゴを並べただけだけどね」
「でも、ぼくに美味しく食べてもらいたいという気持ちが伝わってきたよ」
「食物を育てたり、料理を作ったりする時に気持ちを込めると相手に伝わるって、お父さんやお母さんの教えを実践しているだけだけどね」
「その教え自体も素晴らしいよね。プラムのご家族に会えて本当に良かったよ」
「わたしも、ルシアンにわたしの家族を紹介出来て良かった。また遊びに来てね!」
「うん、また行くよ。それじゃ、またね」
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