全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第二章

聖女の帰国と、結ばれた絆

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 里果が黒竜国へ来て、一週間が過ぎた。
 クリフさんは相変わらず里果を拒絶する姿勢を貫き続け、その態度が私を安心させた。
 また、里果は修道院巡りをするものの、そこでの態度は最悪であったようだ。

「こんなところ、はやく帰ろうよ」

「私、王城でのんびり過ごしたい」

 などと言い、すぐに修道院から帰ってきているようだ。そのため、私がクリフさんに頼み込み、里果が去った後に修道院で治療をした。



「エマ様、ありがとうございます」

「あの聖女様は最悪ですが、私たちにとってエマ様こそが聖女様です」

 人々は口々にそう言い、

「様だなんてやめてくださいよ。
 私は一般市民ですから、普通に接してください」

慌ててそう返した。

「必要だったらいつでも呼んでください。
 私でよければ、また来ます」



「それにしても、普段市民の前にお姿を現さない竜王陛下まで来てくださるなんて」

 シスターは恐れ多そうに頭を下げる。

「あの女が黒竜国で治療回りをすることを許したのは余だ。
 あの女が仕事をしなかったら、責任を取るのは余であろう」

 クリフさんはそう答え、私の髪をそっと撫でる。人前でそうやって接するのはやめて欲しい。人々から誤解されてしまうだろうに。
 ……いや、誤解も何もない。『好き』とか『愛してる』の類は言われたことがないが、クリフさんは私を『最愛』と表現してくれた。命を賭けたブレスレットまでくれた。だから、もはやその気持ちを疑ってはいけないのだろう。



 修道院を出ると、クリフさんは黒い光に包まれる。そして一瞬で黒竜へと変化する。その背中に登って体に手を回すと、黒竜は空へと舞い上がった。

「クリフさん……なんか、ごめんなさい」

 幸せを感じながら、私は呟く。

「私が治療回りをしたいなんてわがままを言って、クリフさんを振り回してしまって」

 すると、私を落とさないよう注意して飛びながら、彼は優しく答えた。

『エマが謝ることはない。
 国民が必要な治療を受け健康に過ごせることは、国王としても嬉しい』

 その言葉が嬉しくて、そっとその硬い背中に頬を付ける。そして思った。

 (好きだなぁ……)

 こうして、国民の幸せを第一に考えているクリフさんが好きだ。私の幸せを願ってくれるクリフさんが好きだ。私のわがままを聞いてくれるクリフさんが好きだ。

『エマも少しずつ覚悟し、自覚してきたんだな』

「えっ? 」

黒竜王の妻となることを』

 思わず言葉を呑んでしまった。

『じゃないと、黒竜王なんかと修道院に行きたいと言わないだろ?
 人々を治療したいとなど、言わないだろ? 』

 それは……遠く離れた修道院に行くには、クリフさんに連れて行ってもらうしかないと思ったから。
 里果と同じ異世界から来たものとして、里果が役割を果たせないのなら、私が代わりにするしかないと思ったから。

 だが、もはやクリフさんの気持ちを疑うこともしない今、クリフさんと一緒にいたいと思ってしまう。

「そうかもしれませんね」

 私はぽつりと呟いた。

「私は、ずっとこうしてクリフさんと一緒にいたいです」

 我ながら、なんてことを言っているのだと思う。だが、クリフさんの隣は心地よく、離れたくないと思ってしまう。

『エマ……俺は今、すごく幸せだ』

「私もです」

 再びその硬い背中に頬を付け、目を閉じた。
 この幸せがずっと続きますようにと祈りながら。




◆◆◆◆◆



「聖女としての仕事をしないことを理由に、聖女には国に帰ってもらった」

 夜、いつものようにクリフさんと食事をしていると、淡々と事実を告げられた。しかも、事後報告ときた。
 あまりにあっさりした結末に、目を丸くする私。すると、クリフさんは少し罰が悪そうに私に聞く。

「もしかして、エマは聖女と最後の別れをしたかったか? 」

「いえ、全然」

 きっぱり告げると、クリフさんは楽しそうに笑った。

 こうして、私の心配は杞憂に終わった。クリフさんは全く里果に流されることがなく、常に私の味方でいてくれたのだ。いまだかつてそんな人を見たことがなかった。だが、クリフさんは私の味方をしてくれた唯一の人となったのだ。


「それと……」

 クリフさんは少し間を置いて、言いにくそうに告げる。

「あのユウキって男……俺はあの男の能力に関しては問題視していなかったんだが……」

 勇輝は私の元彼だ。一般的に言われるような深い関係ではなかったものの、私は勇輝に恋愛感情を持っていた。だから、勇輝と聞くと、なんだか後ろめたい気持ちになる。

「あの男、シャーマンとしての能力が覚醒し、今はシャーマニアのトップ層に登り詰めたらしい」

「えっ!? 」

 予想外の言葉に驚きを隠せない。
 勇輝が……シャーマニアのトップ層に!? 数週間前に会った時はボロ布を纏った一般市民だったのに。

 クリフさんの話を聞いて、複雑な思いだった。もちろん勇輝を許したわけではないが、勇輝があの狂った国のトップ層にいるだなんて……
 
「エマ、なんだ、その顔は」

 拗ねるようにクリフさんが言う。

「もしかして、まだあの男に未練があるのか? 」

「い、いえ!……そんなことはないです!! 」

 そんなことはないが……
 勇輝がシャーマニアのトップ層にいる今、また勇輝と関わることがあるのではないかと不安に思う。そして、クリフさんが勇輝に対して強い嫌悪感を持っているのも分かる。

 もう恋愛騒ぎは懲り懲りである私は、これ以上問題が起こらないことを祈るばかりだ。



 いずれにせよ、私はクリフさんと生きていくことを決めた。そして、クリフさんへの感情を自覚し、クリフさんからの愛情も感じている。

 この幸せがずっと続きますように。クリフさんがずっと私を愛してくれますようにと願って止まない。


「エマ。食後に夜景でも見に行くか? 」

「はい!」

 

 いつもの広場に出ると、黒竜の姿に変化するクリフさん。その背中によじ登ると、彼はそっと宙を舞う。

 黒竜はぐんぐん高度を上げ、目下には眩いヴェールの街の夜景が広がっている。

「わぁ……きれい!! 」

 思わず声を上げると、彼は嬉しそうに笑う。

『一度エマに見せたかったんだ』

 頭の中に響く、その優しい声に顔が熱くなる。

『エマ。竜人族は最愛の人だけを背に乗せ、こうして美しい景色を見せるんだ。
 だから、俺の本気ももうそろそろ分かって欲しい。

 ……愛してるよ、エマ』


 その言葉に、頭の中が沸騰してしまいそうになった。

 私は幸せを噛み締め、この美しくて雄大な黒竜の背に、顔を埋めていた。
 
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